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――第三章 森に蠢く影――


「と、言う話らしいぜ」
 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は携帯をしまい、アジトを目指す全員に伝達した。
 暗く深い森の中を進む一行は、一言で言えばかなり難航していた。
 ただでさえ足場が悪く、前に進みづらいのに、それらしきものが一向に見えないからだ。
 よほど巧妙に隠してあるのだろう。竜斗は目線を前に向け、先行しているリゼルヴィアの方を見た。

「だってさー。ボクたちが早く見つけてあげないと、病気の女の子が大変だ!」
「そうですね、頑張れるだけ、頑張りましょう!」
 そういって意気込む二人は、竜斗のパートナーのリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)と、ゼーリンス家のメイドの雛菊 真(ひなぎく・まこと)である。
 リゼルヴィアが超感覚で道を進み、その後ろで真が引っかかりそうな蔦や木の枝を折って、後続を通りやすいように配慮している。
「あ、危ないよ! キミ!」
 言われて真が足場を見ると、足元には小さな蛇が歩いていた。
 真は少しびっくりしながらも避け、リゼルヴィアに感謝の言葉を伝えた。
「ありがとう! あ、ボクの事は真と呼んでください」
「わかった! よろしくね、真! ボクはリゼルヴィア! 悪い狐じゃないよ!」
「あはは。わかってますよ!」
 二人の会話は弾んでいた。年齢が近いからかもしれないし、相性が良かったからかもしれない。竜斗や黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)は微笑ましく見守りつつ、周囲を警戒していた。

「でもすごいよねー、あの人!」
「ああ、うん。すごいですよねぇ……」
 彼らの前、このアジトへ向かう班の中で、一番先頭にいるのがこの女性、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だった。
 彼女は「自分が先行します!」と言ったっきり、野生の勘で黙々と前を進み、時々リゼルヴィアの超感覚のアドバイスを聞いて方向を変えながら、襲い来る野犬や野獣の首の骨をボキリボキリと軽々折っている。
「ああいう女性には憧れるねー」
「そうですねぇー」
 そのたくましい様子には、二人も羨望のまなざしで見ざるを得なかった。
「は、恥ずかしいのであまり褒めないで欲しいでありますっ!」
 後ろを振り返り、照れながら頭を描く吹雪だが、空いている手でちゃっかり襲い来るイノシシを半回転させて地面に叩き落としていた。片手で野獣を倒す彼女は一体どれだけの強さを内包しているんだろうか……。

 そんな彼女が前を向いて数分、突然歩みを止める。
 一同は素早く近寄り、彼女の向いている方を見た。
「あれに見えるは、悪名高きダインなんちゃらのアジトでありますな」
 そこには、蔦が垂れ幕のように下がっていて上手くカモフラージュされた、大きな大きな洞穴が存在していた。
 それだけなら良かったのだが、よく見ると隠れている黒マントの男や、迷彩柄のペイントを顔に施している黒マントの男などが十人以上、周囲に隠れていることがわかった。
「これだけ大掛かりとなると……ますますなぜ小さな村を襲ったのかがわからないな」
 竜斗は言いつつ、ユリナに狙撃できそうな場所に移動するように促す。
 そのすぐ後に、どうやら勘の良い敵が気付いたらしい、こちらを見て、何やら指を指し、仲間と会話しているのが見える。
「これは……敵の不意を突くために共闘は無し、とは言っていられ無さそうだ、行くぞ!」
 相手に動かれるより先にこちらから先手を打った結果、奇襲の形になったらしい。指を指していた男以外は意表を突かれ、各々動揺しながら武器を構えたため反応がずいぶん遅れたようだった。
 それを隙だと言わんばかりに、竜斗が巨大なグレートソードで斬りかかった。
「な、何者、うわああああっ!」
「遅いッ!」
 龍をも殺す威力のあるその大剣を、人間が食らって耐えられるべくもない。腕が銃になっている一般団員は、その銃を撃つまもなく大きな傷を負わされ、その場に倒れ伏した。
「貴様、よくも仲間をッ!」
「戦う……!」
 その竜斗の腰に差してあった剣が変形し、言語を発したことによって驚いた団員は、見事にその剣……彼のパートナーであるロザリエッタ・ディル・リオグリア(ろざりえった・りおぐりあ)の奇襲に会い、刺し貫かれた。
「マスターが危険……ワタシ、守る、戦う!」
「良くやった! そのままアジトの敵を全部引っ張り出すぞ!」
「頑張る……!」
 ロザリエッタはそう言って、竜斗の背後を守る。敵は五体。少なくともそれだけの数を、二人で相手しないといけないほど、数が多かった。

「こっちだよ、黒マントー!」
「な、こら待て!」
 一人の団員が、リゼルヴィアの挑発に乗って後を追う。
「こ、こっちです、ダインスレイヴさん!」
 更にもう一人の団員が、真の声におびき出されて開けた場所に躍り出る。
 その様子を見ながら、冷静にトリガーを引く影があることを、ダインスレイヴは知らなかった。
「撃ちますっ!」
 ユリナはスナイパーライフルを構え、そうやっておびき出されて男たちを華麗に打ち抜いていく。
「これがチームワークの力です、ね、竜斗さん!」
「ああ、助かる、ユリナ!」
 リゼルヴィアや真の引き付けた敵を淡々と狙撃しつつ、竜斗とロザリエッタに攻めあぐねている男たちも次々に打ち抜いていく。
 ……足場が悪いこの森の中は、狙撃場所さえ選んでしまえば、究極の狩場になる。そのことに気付いているのかいないのが、普段の120%の実力で狙撃を繰り返すユリナは、誰から見ても頼もしい存在だった。
「よし、今です、みなさん!」
「ここは俺たちでやる! 手の空いたやつは洞穴に走れ!!」
 中でも敵に脅威と判断された竜斗や吹雪に注意が集まる。ユリナと竜斗はその隙に声で促し、全員で奮起して数人の契約者たちがアジトの中に進撃できるように活路を開いた。
「安心しろ、ダグザが出てきたら俺たちで倒してやる、頼んだぞ」
 洞窟へと進む人々は、その声を背中に聞きながら、ダグザの元へと急ぎ走ったのだった。