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――第四章 いざアジトへ!――


 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、細心の注意を払って先頭を進んでいた。
 セレアナの女王の加護で第六感を高め、殺気看破で周囲を警戒しつつ歩く。手には銃型HC弐式のサーモグラフィ。もはや何の余念も無く、付け入る隙もない、完璧な探索活動だ。
「! 熱源が目の前の角を曲がってくるわ」
 そう言ってから二秒後、何やら眠そうな顔をした黒いマントの男が角を曲がって現れる。その様子を見る前から動き出していたセレンは、簡単にその男を壁に押し付け、無力化させることが出来た。
「!? な、なんだ!?」
「あなたたちのボスの居場所と、薬の在処、盗んだ作物の場所を教えなさい」
 淡々と聞くセレン。その後方では別の脅威が迫ってきてはいないか、しっかりと索敵しているセレアナがいる。
 状況が呑み込めない団員は、薄ら笑いを浮かべて、首から上を動かしてセレンの体を見回した。
「っへへ、なんだ女か。ダグザ親分が連れてきたのかな? 強情な女だ、そういうの嫌いじゃねぇぜ……」
「……そう」
 さも興味なさげに答えると、セレンはショットガンの銃口を彼の手に当てた。
 突然、黒いマントの男の体が跳ね上がる。手に強い痛みが走り、視界が一瞬赤く揺らいだ。
「あぁッ!! ああああああああ!!!?」
「質問に答えて。親分の場所と、薬の場所、作物の場所よ」
 彼女たちには油断が無い。それは要するに、手加減も容赦も無いということだ。
 男は電撃か痛みかわからないがとにかく痛む左手をガタガタとふるわせながら、たどたどしく答え、痛みのあまり気絶してしまった。
「やりすぎじゃないの?」
 セレアナが聞く。ゆっくりと立ち上がりながら、セレンは答えた。
「やりすぎも何も、やってすらいないわ。その身を蝕む妄執を見せただけ」
 確かに良く団員の手を見てみると、手に穴どころか傷すら負っていなかった。良く思い出してみれば、引き金を引いた音もしていなかったことがわかるだろう。

「さて、場所はわかったけど……農作物の隠し場所と、ダグザのいる拷問部屋は正反対ね。ちなみに薬はダグザが持っているみたい」
「っと、叫び声で感付かれた。私たちはここで団員を迎撃するわ。あなたたちは先に行きなさい」
 その言葉を聞いて、後続は二手に分かれる。迫りくる大量の手練れたち。その危機的状況を目の前にして、彼女たちはいつものように冷静だった。

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)、エースのパートナーのエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)、この三人は作物を取り返すため、大きく長い道を進んでいた。
 下り坂からの上り坂、ランプが次第に少なくなっていき、両開きの扉を開けると……そこには、太陽の光が差し込んでいた。
 周りを木々に囲まれた、森のどこかの場所。獣の鳴き声の聞こえない静かな楽園に、彼らは出たのだった。

「アジト内部ではなく、外に隠したのか。あるいは、運び出す所かな?」
 エースはそう言って、目の前にある雑に積まれた農作物の荷車と、散らばっているいくつかの麻袋を見る。
「一応、ペットのピーピング・ビーで上空から索敵させておきますね」
「ああ、頼むよ」
 エオリアの言葉を受けて、エースはニッコリとほほ笑み、少し考えを巡らせた。
 目の前にある荷車には、確かに農作物が積まれている。しかし、よく見るとトウモロコシが一つとしてなかった。
「エオリア、サイコメトリでこれを」
 エースは地面に落ちている麻袋を手に取り、エオリアに渡す。エオリアが読んでみると……どうやら、そこにトウモロコシが入っていたらしかった。
「一足先に運んだようですね」
「なるほど。なぜ先に運んだのか……は、後で考えることにしようか」
「はい」
 彼らは納得し、周囲を見回す。荷車と麻袋、その他にあるのは……

「これー、何だろ?」
 ルカルカが見つけた、巨大な台車に積まれた大きな箱だった。
 どうやら安い木造りの箱らしく、鍵がかかっていて中に何が入っているかわからないが、ルカルカの壁抜けの術があればそんな小細工は関係なかった。
 ルカルカは静かにその箱の内部へすり抜けて、中身の物を確認する。
「こ、これは……何だろう?」
 結局見てもわからなかった。ぱっと見は大きな鉄の釜であり、大人数の炊き出しにでも使えそうだった。
 しかし、自身のトレジャーセンスはこの鉄の塊を、凄まじい宝だとしきりに訴えかけていた。
「なんだったんだい?」
「なんか釜だった!」
「か、釜、ですか……」
 木箱の内側から帰ってくるルカルカに、他の二人が話を聞くもさっぱりわからない。
「ひょっとしたら……村から盗まれたものなのかな?」
 と、ルカルカが言ったその時だった。

「まったく、よそ者は信頼されないのぉ……」
 アジト側から、一人の女性が現れた。辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)である。
「雇うと言うから雇われてみれば、宝物庫の警備とは。ダグザめ、有用と無用すら見て取れないと見える」
 ため息交じりにそう言って三人の目の前に現れた刹那は、明らかに自分たちに敵意を持っていた。
「仲間……ではないようだね」
「ああ、悪く思わんでくれ、こちらも仕事なんじゃ」
 彼女はそう言ってふらりと後方へ下がる。すると無数の毒虫たちが地を這い、空中にはしびれ粉が散布された。
「な、何なに!?」
「これからそちらを殺すのじゃ。恨むのならばダインを恨むのじゃな」
「ダイン!? 誰ですか、それは……うっ!」
 口元を抑えているとはいえ、しびれ粉は多少なりとも吸い込まれる。体中に浴び、身動きは出来るものの何倍にも体は重い。
 それを見て、刹那は「さて……」といい、袖から暗器を展開する。
「ちと早いが、これで終わりに……!?」
 刹那が武器を投擲しようとしたその時、後方から発砲音がした。
「マスター刹那、後方ヨリ敵デス」
 刹那のパートナーであり、今まで隠れていたイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が姿を現す。彼女の銃の先には
「うおおおおおお!!」
 一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)と、土方 歳三(ひじかた・としぞう)が全力で走り来ていた。

 彼らは銃弾に臆することなく接近し、刀で二人に斬りかかる。
 刹那は剣で、イブは銃でいなし、四人は視線を交えた。
「行う悪に、手伝う悪、つくづく悪は消えないな、嘆かわしいことこの上ない」
「流石新選組! 僕悪じゃないけど謝りそうになったよ」
「申シ訳アリマセン、マスター刹那。仕留メ損ナイマシタ」
「よい。しかし刀か。なかなかになじみの深い武器を使いよる」

「さて、じゃあここは俺たちに任せて、農作物とそのよくわからない箱は片づけてもらおうか、良いよね、歳兄ぃ」
「元よりそのつもりだ」
「ふむ……よかろう。わらわも興味がわいた。わらわの任務は『宝物庫の警備』であって、宝物の保全ではない。宝物庫を守っているのだから、ダグザも文句は言うまいよ」
 刹那はそう言ったっきり、エースたちの方を向かなかった。三人はその雰囲気を察してから荷車を押し、弱った体で必死に帰路を目指して進み始めたのだった。
 刹那とイブの、それこそ上から目線な強者の余裕を目の当たりにし、刀を強く握り直す二人。傭兵に雇われた傭兵と、悪事を断罪する正義。全く立場の異なる二組の戦いが今、始まろうとしていた―――