空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

リアクション公開中!

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
「時代劇、非常に興味深かったですね。他にも武士の風習を知れる見世物などあるのでしょうか?」
「そうですねぇ……ちょっと歩いて回ってみましょうか」
 時代劇に見入っていたルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が歩いて行くと、再びなにやら人の壁が出来上がっていた。喧騒に耳を傾けてみれば、大捕物劇が展開されているらしい。
「ルーシェリア、行ってみましょう」
 アルトリアがルーシェリアを誘い、人並みを掻き分けて通りが見える位置につく。すると、通りの向こうから複数の人影が姿を現し、口々に何かを叫びながら通りを駆け去っていく。
「凄い迫力でしたね……後を追ってみましょうか」
 事の顛末を知るため、二人は一行が駆けていった後を追い始める。
 
「のう千歳、いつまでこうしておるつもりじゃ? 妾は退屈でつまらぬぞ」
「いいだろ。折角の修学旅行くらい、のんびりさせてくれ」
「おぬしはいつでものんびりしとるじゃろうが! ……まったく、何かこう、妾が乗れる祭りごとなど起きぬかのう」
「そうそう起きてもらっても困るんだけど――」
 茶屋でのんびりとくつろいでいた陵 千歳(みささぎ・ちとせ)と、何も起きないのを退屈そうにしていたナコト・ナイトレイン(なこと・ないとれいん)の直ぐ傍を、複数の人影が喚きながら通りをあちらからこちらへと駆け去っていく。
「おぉ!? 千歳、言っとる傍から祭りごとじゃぞ!」
「祭りごと……というよりは、騒動の気がするな。……はぁ、面倒事は嫌いだが、見ちまった以上見逃すのも後味が悪い。仕方ない、真相を確かめに行くか」
「よしきた! 早速出発じゃ!」
 すっかりやる気満々のナコトを連れて、千歳が人影の後を追う。
 
 
(どうしてこんなことになったー!?)
 
 必死で走りながら、クロイス・シド(くろいす・しど)は今にも叫び出したい気分であった。
「待てぇ! 待たないと角材ぶつけるよぉ!」
「待ったってぶつけるつもりだろぉ!? だいたいチビのくせになんでそんな体力あんだよ!!」
「またチビって言ったなー! もう絶対許さないんだからぁ!」
 刀の代わりに、立てかけてあった角材を振り上げてユイ・マルグリット(ゆい・まるぐりっと)がシドを追う。
(ミシェルを傷つける者は、誰であれ許さない……!)
 その隣を駆ける影月 銀(かげつき・しろがね)は、連れ添っていたミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)がユイに追いかけられるシドにぶつかられたのを根に持ち、こちらは鉤爪装備で殺る気満々であった。
「わー、みんな楽しそうだねー。……あれ? なんか後ろにも人が来たよ? きっとあの人達も鬼ごっこがしたかったんだね!」
「えっと、多分違うと思う……」(うぅ、騒ぎが大きくなってきちゃったよ。あの人達だけは絶対に怒らせないようにしよう……)
「……私、よく分かんないんだけど、一体どういう流れでこうなったの?」
 三人の後ろを、ミシェルが無邪気に楽しそうな様子で見つめ、そして呆然とした様子のケイ・フリグ(けい・ふりぐ)に、既にユイと銀に一種の恐怖を抱いているアトマ・リグレット(あとま・りぐれっと)が説明する。
「……ふんふん、シドがユイさんのことを背が低い、と言ったのがきっかけなんだね。それはシドが悪いね! シド、さっさと謝るか捕まっちゃうかした方がいいと思うよ〜。ユイさんも銀さんもと〜っても怖いよ〜」
「て、てめぇ! パートナーなんだから少しは助けろよなっ!」
 しばらく逃走劇が続き、やがて息の切れたシドの前に、ユイと銀が立ち塞がる。
「……覚悟は出来ているだろうな」
「いっそ10センチくらい小さくなってもらおうか? そしたら私と一緒になるもんね♪」
 鉤爪を光らせて銀が、角材を振り上げてユイがシドに断罪を下そうとする――。
 
「ひとつ、人の世の生き血を啜り」
 
 衝撃音が響き、角材と鉤爪が一本の刀に受け止められる。
 
「ふたつ、不埒な悪行三昧」
 
「だ、誰よ、邪魔するの!?」
「…………」
 
 攻撃を受け止められたユイと銀が身構える中、刀を中段に構えた山田 桃太郎(やまだ・ももたろう)が口上を言い終える。
 
「みっつ、醜い浮き世の鬼を、退治てくれよう、桃太郎――」
 
「暑苦しい!」
「うざったい!」
「どうでもいい!」
 
 直後、桃太郎の眼前に滑り込んだアンナ・ドローニン(あんな・どろーにん)が手にした刀で三撃を打ち込み、地面に伏せさせる。
「ったく、他人様に迷惑かけてんじゃねぇ! せっかくみょんまげと握手とか考えてたのにさ……
 ズルズルと引き摺られていく桃太郎を、何があったとばかりにシド、ユイと銀、それにミシェルとケイ、アトマが呆然と見つめる。
「……なんか、バカバカしくなっちまったな。……チビっつったのは悪かった、謝るぜ」
「……そうね、私も大人気なかったわ。ごめんなさい」
 冷静になったシドとユイが、互いに謝罪の言葉を口にする。
「あれ、鬼ごっこはもうおしまい?」
 いまいち状況が分かっていない様子のミシェルが傍にいるため、銀もそれ以上手を出すことは出来なかった。
「えーと、仲直りしたところで? お腹すいたよね? どこか食事出来る所にでも行こうよ!」
「そうだね! シド、おごっておごって〜」
 アトマが場を収め、ケイが無邪気な様子で食事処へスキップしながら歩いて行く――。
 
「うーん、みたらし団子も饅頭も天ぷらも美味し〜! でもカレーうどんがないのは残念かな〜」
「……うむ、このおはぎは絶品だ。……ところでカレーうどんは和食なのか?」
 食事処で、岬 蓮(みさき・れん)アイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)がそれぞれ、運ばれてきた料理に舌鼓を打っていた。ちなみに大江戸村で展示されていた内容によると、かつて江戸は水が綺麗であったことから、うどんより蕎麦の方が広く伝わっていたこと、うどんは主に、水が水運という形で利用されていた大阪で広まっていった、とあった。
「ねーね、他に美味しい和菓子のお店とかないかな?」
「そうだな……しかし蓮、あまり食べ過ぎるとまた余計な肉がつくぞ」
「うっ……そ、それはなし! 今は考えちゃダメ!」
「……ま、蓮がそう言うなら、俺はとやかく言わんが」
 目を輝かせてメニューを選ぶ蓮を見遣って、彼女に彼氏が出来るのは相当先のことだろうな……とアインがため息をつく。
「いやぁ、いいねぇ、こののんびりとした雰囲気。旅行に来てるって感じがするねぇ……おっ、あれがここでマスコットしてるってヤツか。なあ、あれも実はゆる族だったりするのかな?」
「私は全てのゆる族を知っているわけではありませんが、その可能性は否定出来ませんね。後で写真を撮る時にでも聞いてみましょうか。りゅーき、飛びつく時はちゃんと一声かけてからですよ」
「わあってるって、まずはこいつを平らげてから……げえっ!?」
 同じく食事処から、観光客に飛びつかれたり頭をなでられたりしているマスコット『みょんまげ』の様子を微笑ましそうに見守っていた曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が、突然素っ頓狂な声をあげる。
「りゅーき、お行儀悪いですよ」
「そそそそんなことよりアレを見ろ、アレを」
 瑠樹にそそのかされるようにして、マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が示された方角に視線を向ける――。
 
「鋭峰さん、あの、楽しいですねっ」
「う、うむ……」
 
 今頃『戦場ヶ原』で訓練を指揮しているはずの金 鋭峰(じん・るいふぉん)が、可愛らしい女の子と連れ立って歩いているのを二人は目撃してしまう。
(うんうん、いい感じじゃない。あたいが化粧とか服装とか、言葉遣いとか教えてあげただけのことはあるね)
 鋭峰と女の子の後ろを、光学迷彩を張った熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が感動した様子で後をつける。彼女だけが、女の子の正体が実は大岡 永谷(おおおか・とと)であることを知っていた。
「あああああ忘れてましたどうしよう!?」
「あはは……はは……説教と正座だけじゃ済まないよなあ……」
 そして、彼らを見たことで教導団が今何をしているかを思い出した瑠樹とマティエが、顔を揃えて慌てた様子を浮かべる。
「……こうなったら、イチかバチかだ」
 何かを閃いたらしい瑠樹が、カメラを手に立ち上がる。
「な、何をするつもりですかりゅーき」
「何があったか知らないけど、団長が可愛い子と一緒にいるんだ。あの「リア充は爆発しろ!」とリアルで言ってそうな団長がだぞ!?」
「りゅーき、それはいくらなんでも言い過ぎじゃあ……」
「とにかく! この決定的瞬間を写真に収めて、それを盾に譲歩を図る以外に、オレたちが罰則を免れる手段はない! というわけで、行くぞ、マティエ」
「だ、大丈夫なんでしょうか……」
 心配そうなマティエを背後に、瑠樹が光学迷彩で姿を消す――。
 
 九条 風天(くじょう・ふうてん)のかざした刀で、投げられた手裏剣が弾かれる。
「何奴!」
 短く声を発した風天には答えず、なお2つの手裏剣が投げつけられる。風天はそれも刀で弾き、背後で身を寄せる坂崎 今宵(さかざき・こよい)に告げる。
「姫、某が必ずお守りいたします。ご安心を」
「はい、殿……いえ、名も無き武士の方」
 そうこうしている間にも、気配は少しずつ近づいてくる。遠距離からでは仕留め切れないと踏んだか、同時攻撃を仕掛けようという算段に感じられた。
(敵は二人……)
 気配を二つと悟った風天が、刀をチン、と鞘に収め、左右どちらから来ても対処できるようにしておく。
「……覚悟!」
 一つの気配が動く。一つは左、もう一つが遅れて右から。
「……ハッ!」
 まずは左手で刀を抜き、風天が一つの影に斬りつける。
「うっ!」
 影が呻き倒れるのと入れ違いに、もう一つの影が右から背後の姫を亡き者にせんと迫る。
「させるか!」
 左手から右手に持ち替え、影の背中辺りに一撃を見舞う。
「ぐはっ!」
 姫の目前で、影が地面に倒れ動かなくなる。
「姫! ご無事ですか」
「ええ、ありがとう……」
 風天と今宵が抱き合い、互いの温もりを交換し合う――。
 
「うぅ、勝てなかったよ……ていうか、相手役の武士、すっごく強くなかった? ここのエキストラが務めるって話じゃなかったかな?」
「そうですね……ですが、技のキレ、動き、どれをとっても一流のそれでした。見ているこちらとしては失礼ながら、楽しめましたよ」
「ふぅん、ま、僕も楽しめたし、いっか。じゃ次どこ行こっかな」
 影の一人、月崎 秀(つきざき・しゅう)がパートナーの蘇我 空(そが・くう)と共に次の観覧先へと向かっていく。
「むぅ、拙者、未だ忍者の境地に至らず……! こうなればここで、忍者の極意を会得するでござる!」
「お、おい、ジョニー!?」(やれやれ、まだジョニーは本物の忍者がおると思うているのか。……しかし、先程見たマスコット、確か『みょんまげ』と言ったか。意外と可愛いではないか……これはもしや、わらわに引けを取らぬのではないだろうな)
 そしてもう一人の影、ジョニー・リックマン(じょにー・りっくまん)が忍者修行のために駆け出していき、残された園村 ハーティ(そのむら・はーてぃ)はここのマスコット、『みょんまげ』にライバル心を抱いていた。
 
「HAっHAっHA! アメリカ人ならまずステイツだぜ!」
「HAHAHAー! テキサスはまだまだこんなもんじゃあなかったぜ」
「肉だ、肉をたっぷり食わねえと強くなれんぞ、ん?」
 
 大江戸村の一角に、何故かアメリカの西部時代を模した建物が出来上がっていた。その中ではアレックス・ノース(あれっくす・のーす)ガルム・コンスタブル(がるむ・こんすたぶる)が馬に跨り、ガンや投げ縄を手に当時のスタイルといった様子で振る舞い、ザッカリー・テイラー(ざっかりー・ていらー)が豪快に肉を焼いていた。
「ああ、何ということだ……いくら彼らが『ハイナのため』と言っても、これはやり過ぎだ……このような事態、責任を持てる保証がない……」
 ギコギコと音を立てる扉の向こう、カウンターの一つに腰を下ろしたエイブラハム・リンカーン(えいぶらはむ・りんかーん)が頭を抱え、テーブルに置かれていた覆面に手を伸ばしかけた所で、外から聞こえてきた陽気な音楽が一転、時代劇のテーマソングに使われそうな音楽に変わる。
「OH、ハイナ、どうだ、感じないか! この広大なステイツのスピリッツを――」
 次の瞬間、何かに斬りつけるような音と、斬りつけられた者の悲鳴が三回セットで聞こえてくる。
「な、何が起きている……?」
 とりあえず覆面を被り外に出たエイブラハムは、そこに広がる光景に唖然とする。アレックスとガルム、ザッカリーが刀傷と思わしき傷を残して倒れていたのだ。
「だ、誰がこんなことを――」
 呟いたエイブラハムは、次の瞬間この光景を作り出した張本人を目の当たりにする――。
 
「こなたの桜吹雪、散らせるものなら散らしてみなんし!」
 
 飛び込んできたのは、鮮やかな桜吹雪、豊満に揺れる胸、そして刀の軌跡。
(ああ……よかった、無様な顔は見せずに済む……)
 
 江戸の平和を乱す不届き者を成敗したハイナが、お供に従えたショウとフェルに見回りを続行する旨を伝える。どうやら、壮太に教わったのをハイナは、『お奉行様とは、桜吹雪を見せつけてから斬りつける』と曲解してしまったようである。
(トホホ、どうしてこんなことに……)
 本気でなかったとはいえハイナの首を狙ったが為に、ハイナに付き合わされるハメになったショウとフェルは、揃ってため息をつくのであった――。