空京

校長室

建国の絆第2部 第1回/全4回

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建国の絆第2部 第1回/全4回
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「石原校長を救出せよ」

 ナラカ城攻略が始まる前の事。
「改造科所属の景山悪徒(かげやま・あくと)と言う……今回の通達について三つほど伺いたい」
 パラ実生の悪徒は、金剛に生徒会を訪ねた。
 驚いた事に生徒会副会長鷹山 剛次みずからが対応に出た。悪徒は猫をかぶった口調で聞く。
「石原肥満とは、それほどパラ実にとって重要な人物なのですか?
 ドージェの乱以降、ずっと放置していたではないですか。なぜ今になって急に?」
 剛次は口の端で笑った。
「放置とは心外だな。我々生徒会としても探してはいた。
 だがシャンバラ大荒野だけで自称石原肥満が何十人いる事か。金目当ての愚か者のせいで、捜索がはかどらなかったのだ。
 だが、パラ実生徒会は肥満校長によって任命され組織されている。つまり、校長は現段階においてもパラ実最重要人物である。
 その本物の消息をようやく掴んだ以上、保護するのは当然だろう」
 悪徒は少し芝居気がかった調子で首をひねる。
「本物、ですか。聞けば校長から救助を依頼する手紙があったとの事ですが……それだけで本物と断定できる物だったのですか?」
 剛次は傍らの机の上にあったビンを、悪徒に投げ渡した。中に手紙が入っている。
「ほう……これが現物の手紙ですか」
 手紙を確かめる悪徒。特にあやしい点は無い。
「カツアゲ団が、鏖殺寺院のアジトを潰した直後の他校生から奪った戦利品だ。この筆跡は、鑑定したところ石原校長本人の物だと断定された」
 剛次はいつものように轟然としているように見える。だが悪徒には、彼が妙に焦っているようにも感じた。
「それは副会長としての御言葉ですか? それとも鷹山様個人の御言葉ですか?」
「どちらでも同じだ。石原校長は俺たちが押さえなければならぬ人物だ」
 悪徒はそれ以上、追及せずに、納得した旨と回答の礼を行って退去しようとする。
「おい」
 剛次が止めた。
「はい?」
「忘れ物だ」
 剛次は、悪徒の携帯電話、実は小型大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)を彼に渡す。
「ありがとうございます。校長捜索に頭が行っておりました」
 悪徒は大首領様を受け取って、大事にしまった。
 今の会話はすべて大首領様に記録してある。密かに残していくつもりだったが、剛次には見咎められてしまった。
 悪徒は平静を装いつつ、帰っていく。
 幸い剛次は何か別の事に気を向けてイラついているようで、大首領様に関する追求は無かった。


石原校長との会談

「イリヤ分校生徒会長の姫宮さん達ね? 用件は伺ってるわ。ついてきて」
 教導団員の女生徒に、そう声をかけられ姫宮 和希(ひめみや・かずき)は戸惑った。しかしガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)が落ち着いた様子で聞く。
「すると伝言は届いたのだな?」
 彼女は声を潜めた。
「ラングレイ様は、見せしめの為の生贄に反対してるわ。儀式の成功に生贄は関係ないって。校長がここに連れ込まれた経緯もあやふやで、何者かの工作かもしれないわ」
「やはり、か」
 ガイウスは唸った。
 パラ実生徒会に石原肥満(いしはら・こえみつ)校長を渡せば、彼らの都合のいいように利用される。
 そう考えた彼は、ミツエに習って砕音の留守電に協力を求めるメッセージを吹き込んだのだ。
 事態を把握した和希が表情を輝かせる。
「じゃあ、校長救出に力を貸してくれるんだな」
 偽教導団員は、ラングレイの部下で、名前を「リージェ」だと名乗る。
「案内だけよ。儀式に校長が引きずりだされる時間が迫ってるわ。急いで」
 和希達は同じような考えのパラ実生数人と共に、リージェについてナラカ城の隠し通路に入っていった。


 パラ実校長の石原肥満らしき老人は、牢屋で瞑想するように座禅を組んでいた。腰には個人用結界装置が巻きつけられ、一般人である彼をパラミタから守っている。
 リージェが鍵を開け、パラ実生達が牢に飛びこんだ。
「校長先生!」
「おおぅ、あなた方は誰ですかの?」
「パラ実の生徒だ。助けに来たぜ」
 和希が言うが、老人はおびえたように後ずさる。
「そ、そんな事言うて実は鏖殺寺院なんじゃろ。生贄は嫌じゃぁー!」
「しーっ、大声出すなって」
 どうやら、まずは校長をなだめる必要があるようだ。
 湯島 茜(ゆしま・あかね)が校長に諭すように言う。
ミツエの為にも大人しくしてよ。ミツエの事、心配じゃない?」
「……ミツエって誰じゃ?」
「校長の娘だよ」
「な、なんじゃってー!! もごもご」
 大声をあげた校長の口を、和希とガイウスがあわててふさぐ。目をぱちくりさせている彼に、茜がさらに説明する。
「いい? 肥満→こえみつ→みつえこ→ミツエ子。
 つまり! 肥満はミツエの父なんだよ!!」
「な、なん……もごー」
「生徒会が肥満を探しているのもミツエがらみだろう。ミツエのことをどう思っているのか聞かせてよ」
 大声を出しても口をふさがれるので、老人は声をひそめて茜に反論した。
「わしの大勢いる娘息子の中に、ミツエなんて娘はおらん。
 そもそも肥満の名は、肥沃であれ、満ち足りよ、という願いを込めて父祖に付けられたもの。どこの誰とも分からん娘っ子の名なぞ知った事か」
「なぁんだ、違うのか」
 茜は肩を落とす。その肩に乗ったエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)が、触手とも足ともつかない鼻で、励ますようにポンポンと軽く叩く。
「いやいや、君のおかげで校長も記憶が戻ってきているようでありますよ」
 石原校長がうなずく。
「ううむ、ワシは生徒会に苦しめられて記憶をなくしておったようじゃ」
 それを受けて和希が、校長に迫った。
「やっぱり、そうだったのか。石原校長がドージェの乱でいなくなってから、生徒会の奴らはやりたい放題なんだ。乱を利用して、バズラ・キマクがドージェ信仰者をパラ実生扱いにして勢力を拡大させてる。
 でも校長は、シャンバラ開発機構の創始者なんだろう?
 校長がパラ実に戻れば、現生徒会の暴走を食い止め、本来の更生・職業訓練所としてやり直すきっかけができるかもしれない。
 それに開発機構の技術があれば、多くの病や呪いに苦しむ人も救えるようになるかもしれない」
 肥満はいつになく考え深い表情で、和希の話を聞いていた。
「ふうむ……おぬしはよく調べ、考えておるようじゃな。うむ……もはや生徒会に任せてはおけぬようじゃのう」
 校長の言葉に、その場のパラ実生達に喜びが広がる。
「だったら、とっとと脱出だ!」

 校長を助け出した一行は、急いでナラカ城の外を目指す。
 しかし少々、急ぎすぎたのだろうか。
 石原肥満が階段で足をすべらせた。

「うーわーあーッ!!」
 ガンガラガッシャーン!!!

 派手な悲鳴と大音響を立てて石原校長は階段を転がり落ち、突き当りの隠し扉を破壊して、鏖殺寺院の兵士が警備する真ん中に飛び出してしまったのだ。
 校長はあっという間に押さえ込まれ、パラ実生達にも追手がかかる。
 幸いリージェの案内で兵士をまくことはできたが、石原校長はそのまま儀式場へと連行されていった。こうなってはパラ実の部隊が、他校生と共に突入するのを待つしかないだろう。
 リージェはいぶかしげだ。
「あんな所で足をすべらせるなんて出来すぎだわ。石原校長を生贄にしようとしている誰かが、呪いでも使ったのかもしれない。あなた達も校長を助けるなら、気をつけた方がいいわね」