空京

校長室

建国の絆第2部 第1回/全4回

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城門〜中庭
 
 押し開かれた城門へと、学生たちの流れが出来る。
 一刻も早く求めるもの……ある者にとっては校長、またある者にとっては鏖殺寺院の者、儀式阻止とさまざまだが、皆この場に来ることとなった目的へと近づこうと、学生たちは足を急がせた。
 皆川 陽(みなかわ・よう)も実際以上に重く感じられるショットガンを震える腕で支えながら走った。戦闘や死への恐怖に涙目になっているが、陽にとって薔薇の学舎校長の言うことは絶対だ。学舎の一員として従わなければと、悲壮な決意で臨んでいる。
 そんな陽を横目で見、パートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は古王国時代のことを思い起こしていた。
 テディはあの戦いの際、剣を捧げた主の命令により、駒として戦場で死んだ。人生二度目の死が訪れるのなら、今度は上からの命令でではなく、好きな人を守って死ねればと思う。
「ルドルフさん……」
 陽は隣で駆けるルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)に呼びかけた。竦んでいる自分と反対に、彼は揺るぎなく見えたから。
「こんなボクでも、戦って死んだら、立派な生徒だったって校長先生やみんなに認めてもらえるでしょうか」
「何を言うかと思えば」
 ふ、とルドルフの口元が笑った。
「熟考した上で校長の命に賛同し、己の生命を以てそれを成せば誰もがその功績を認めるだろう。だが、ただ妄信的に従って犬死にするのは美しくない。校長とて、間違わぬものでは無い故にな」
 その語尾に被さるように、前方で悲鳴と怒号が挙がった。
 城門を抜けた中庭では鏖殺寺院兵士とモンスターが、今や遅しと待ちかまえていたのだ。
 兵士たちは門を抜けてくる者へと周囲から攻撃を浴びせかける。その攻撃に、先陣を切って突入した葦原明倫館の侍部隊は動揺した。怯む心は恐怖を呼び、足並みを乱した侍部隊はあれよという間に崩れてゆく。
「葦原の底力、期待しとるで〜!」
 葦原明倫館の侍部隊と共に突入した日下部 社(くさかべ・やしろ)が、深刻にならぬようにと努めて明るく声を掛ける。
「はい、我ら葦原、皆々様の足を引っ張らぬよう精一杯頑張る所存で参りましょう」
 中庭を突っ切って儀式場を目指そうとしていた結城 幸子(ゆうき・さちこ)が、社に応えて声を挙げた。
「そうそう、これしきで負けとったら、お前らのとこの校長、総奉行っちゅうの? あのべっぴんさんに顔向けできへんで〜」
「はぅ〜! 社、まずは口より手を動かすですぅ〜!」
 望月 寺美(もちづき・てらみ)がツッコミを入れながら援護する処に、社は解っていると言わんばかりに雷を呼び寄せた。嵐の空を切り裂く稲妻が今まさに弓を射掛けようとしていたゴブリンの脳天に命中する。
 城内へと侵入する学生たちの背後を守る為にも、退路を確保する為にも、ここでの戦いは負けられない。葦原明倫館を中心とした部隊は、気力を奮い立たせて鏖殺寺院兵士とモンスターの連合に立ち向かうのだった。