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リアクション
ゴアドー出撃前・密会
長谷川 真琴(はせがわ・まこと)と
パートナーのクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)は、
天御柱学院整備科の整備士として、ゴアドーに出撃するイコンの整備を行っていた。
東西シャンバラが連携しての戦いとなるため、
イコンは普段のイーグリットやコームラントだけでなく、
東シャンバラのゴーストイコンを元にした西洋の鎧のような外見の機体センチネル、
西シャンバラのイーグリットなどを簡略化した機体クェイルも、
実戦投入される。
これら量産型の機体については、実戦での運用が初めてと言うことで、
パイロットはもちろん整備士も緊張していた。
また、真琴は、武装の増えた天御柱学院のイコンについても、
パイロットの要望に合わせて機体の調整を丁寧に行った。
「私には前線で戦う力はないけど
こうやって縁の下で支えることはできます。
皆さんが乗る機体が無事に帰れるように準備は任せてくださいね」
眼鏡の奥の優しげな目を細めて、真琴はパイロット達に答える。
「みな先日のことですごく後悔している。だから今回は気合がすごく違うな」
クリスチーナに、真琴はうなずく。
「ええ、ですから、最高の状態で皆さんを送り出したいですね」
「ああ、武装が増えた分、整備は難しくなったが、
あたいら整備科の人間がやらなきゃならないのは、
いつものようにちゃんと整備した機体を用意することだけだ」
先日のゴーストイコンとの戦闘では、圧倒的な物量の差に、
出撃可能な機体の数が足りず、劣勢を強いられた。
それでも善戦したものの、復活したゴーストイコンを全滅させることはできず、
シャンバラ各地に散らばらせてしまったのである。
そのことを、天学生達は悔しく思っており、
今回こそは作戦を成功させたいと、士気が高まっていた。
「皆さん、無事に戻ってきてくださいね」
「しっかりやってきなよ!」
真琴とクリスチーナは、あえて、いつも通りの口調でパイロット達を送り出すのだった。
■
小雨降る薄暗い路地。
出撃の時間が近かった。
しかし、それでもイアン・サールは“彼女”に会うべきだと判断した。
「こちらですよ」と伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)が言う。
彼女は漆黒のドレスと部分装甲で構成される魔鎧、オルガナート・グリューエント(おるがなーと・ぐりゅーえんと)を纏い、気配を押し殺しながらイアンを街の裏へ裏へと導いていった。
彼女の足先が地面に溜まった小さな水溜りをスルリと避けていく。
この小雨は、じきに止むらしい。
こちらがイコンに乗り込んでゴアドーへ向かう頃には、もう晴れるだろう。
「この先は、どうぞお一人で」
藤乃が立ち止まり、緩やかな手つきでイアンを促した先には暗い路地裏の細道が伸びていた。
細道へと潜り込もうとして、足を止める。
そして、イアンは藤乃の方へ、
「名前は?」
「伊吹、伊吹藤乃と申します」
「覚えておこう」
言って残し、イアンは細道に潜り込んだ。
そこを抜けるとあったのは朽ち掛けた家。
見渡すが、誰も居ない。
軒先に立ち、しばらくの間、細い霧のような雨が空中を舞っているのを無為に眺める。
と――
「ご足労いただき、ありがとうございます」
ふいに声が聞こえ、イアンはそちらの方へ振り返った。
分厚いフードを被った二つの人影が立っており、片方が恭しく頭を下げる。
「お初にお目にかかります」
「お前が、ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)か。すると、こちらが――」
イアンは、フードの奥から覗く口元を舐るように見やり、口調を和らげながら続けた。
「メニエス・レイン(めにえす・れいん)」
「知って貰っていたとは光栄だわ。イアン・サール」
「あなた方は有名人ですからね。色々と」
「おかげで落ち着いた場所で話すこともできない」
どうでも良さそうにメニエスが言って、フードを避けた。
傲慢そうな表情が晒される。
「そろそろ、そういう生活にも飽きてきたところよ」
「私もあなたのような方が、影に身をひそめて惨めに過ごすというのは、どうにも忍びなく思います」
「早死にするタイプね、あなたは」
嘲笑混じりに言ったメニエスの方へ、イアンは片眉を跳ね、
「そう思われるのでしたら、用件はお早めに」
「私を東シャンバラのロイヤルガードに推挙なさい」
言われて、イアンは彼女の目を見つめたまま動きを止めていた。
彼女の提案の意味は理解出来た。
自分たちにどんな利があるのか、ということも十分に。
そして、彼はじわりと笑んで、彼女の提案を受け入れた。
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