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リアクション
焔の剣とスマックダウン(1)
イコン数機で、いや数十機でインテグラル・ビショップを囲んでしまえば、それはもう楽に戦える事だろう。そんな事は誰もが分かっている。誰もがそうしたいと思っているのにそれが、出来ないでいた。
もちろんそれはインテグラルナイトの軍勢に人とイコンを割いているからである。
「なんて、いつまでも手を拱いている訳にもいかないですよね」
むんっ、と気合いを入れてコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が言った。直接彼女に非があるわけではもちろんないが、そう捉えがちな辺りが実に彼女らしい。
「ハーポ・マルクス号、戻られてますか?」
通信を入れて呼びかける。相手はハーポ・マルクス号船長のジョン・オーク(じょん・おーく)だ。
「貴船を前方に確認。間もなく合流します」
ハーポ・マルクス号の役割は有志のメンバーを前線に輸送する事だったが、大型機であるがゆえに常にナイトらの標的とされてきた。直衛のエスパーダの奮闘もあってようやく前線に合流できるという。
こうした傾向はハーポ・マルクス号だけに限ったことではない。ビショップを討とうと集った者たちも戦場を行こうとすればナイトとの戦いは避けられずにいた。イコン数機がナイトの群壁を抜けて既にビショップに挑んでいるようだが、コルセアたちの有志メンバーは誰一人としてそこに至れてはいないのが現状だった。
しかし今のタイミングならば―――
「援護します。突破して下さい」
オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)らによって換えのイコン部品が届けられた事で、損傷した味方機の修復が可能となった。
再び戦力は集まりつつある。今ならば「切り札」を最前線に届けられる。
「統制射撃用意、システムリンク開始」
コルセアの隣で葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がジェファルコン特務仕様に通信を入れた。こちらは伊勢と直接連携を図る機体だ。
「ええよ。てゆーか待ちくたびれたわ」
今し方までナイトと戦い詰めていたというのに、よく聞けば息も上がっているに、シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)は「何でもない」と言わんばかりの明るい声でそう言った。
「行くで! 生駒!」
「もちろん!」
パートナーの笠置 生駒(かさぎ・いこま)も意気込みを合わせる。「ここが正念場、踏み止まらないとね」
こんな所で、目的も達成せずに倒れるなんて到底できない。そんな想いも込めてナイトの群壁めがけて『多弾頭ミサイルランチャー』を掃射した。
一体を狙うのではなく広域数体に向けて掃射する。ダメージを与えられないことは承知している、しかし一瞬でも動きを止められるなら―――
「行くでありますよっ!!」
ここで間髪入れずに伊勢が『艦載用大型荷電粒子砲』を放つ。対要塞用大型兵砲は数体のナイトに直撃し、まとめて吹き飛ばしていった。
見事、荷電粒子砲は群壁を貫き、そこにぽっかりと穴を空けてみせたのだった。
「よっしゃ! このまま一気にフィナーレや!!」
ジェファルコン特務仕様の次なる役目は開けたばかりの穴を守ること。
―――味方機が通るまで死守してみせる、そのために。迷わず『覚醒』を発動して『デュランダル』を構え立った。
「さぁ、今度は私たちの番ネ」
ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)とアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)の愛機、エスパーダがハーポ・マルクス号の護衛につく。ここまでの戦中も直衛に就いていたが、ここからの意味合いは少し変わってくる。
主武装である『ウィッチクラフトライフル』でナイトを狙い撃つ! 改良が加えられた魔力弾は被弾したナイトに確かな衝撃を与えていた。
こちらも決定的なダメージにはならないが、突進してくるのを止める事は十分に可能なようだ。
それでも強引に突破してくる敵もいるが―――
「……やらせないわよ!」
こちらはアリアンナの領分だ。一対の大刀『氷獣双角刀』でナイトの巨斧を受けては弾いて返してゆく。
「ガツガツ行くだけじゃあ、嫌われるわよ♪」
一面はアリアンナらが、そして別面は生駒らが立ちはだかってハーポ・マルクス号を護衛してゆく。
「いっ、今っ! 突破するなら今だにょ……今だよっ!!」
顔を真っ赤にしてカル・カルカー(かる・かるかー)が言い直していた。パイロットはヘタレでもハーポ・マルクス号は真っ直ぐに開口へと進んでゆく。
ビショップに対抗しうるだけの力を持つ涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)らを乗せて、また打倒ビショップを掲げる数機のイコンを引き連れて最前線最端の群壁を抜けて行ったのだった。