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リアクション
焔の剣とスマックダウン(2)
一行がインテグラルナイトの群壁を抜けた時―――インテグラル・ビショップはただ佇んでいた。
「焔の剣」を持つ手にも腕にもまったく力が込められていない。目を閉じて瞑想に耽っているような……ただ左肩の辺りが光っている事以外は特に変わった所は無い―――
「いやいや、あれはアカンで、止めなアカンで」
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)がそれに気付いて『アサルトライフル』を掃射した。搭乗するバンデリジェーロは近接型の機体だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「何?!! 一体どうしたのよ」
ペアを組むキャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)が問いた。彼女は全くのようだが、パートナーのトーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)は既にそれに気付いていた。
「回復してる」
「えぇっ?!! それは面倒ね!」
………………その通り、実に面倒だ。左上腕部の光りは徐々に小さくなってゆき、傷は今にも塞がりそうである。ただ立ちつくしているように見えるが確かに猫井 又吉(ねこい・またきち)から受けた傷を治しているようだ。
「それなら、とりあえずっ!!」
断りも入れずにキャロラインが『ナパームランチャー』を掃射していた。しかもアウクトール・ブラキウムをジェイセル形態に変形までさせていた。
「ん? 何かマズかった?」
「いいえ、グッジョブよ」
嬉しそうに笑んでジェファーソンもこれに続く。『ウィッチクラフトキャノン』をビショップに向け放った。
被弾はもちろん、周囲も激しく燃え盛ったことでビショップは完全に彼女らに気付いたようだ。
トンっと小さく跳ねたかと思うと、弾丸のような速さで飛び向かってきた。
対するはバンデリジェーロとアウクトール・ジェイセル(アウクトール・ブラキウム)の二機。キャロラインと讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)がレーダーセンサーと空間制御を意識してビショップと接近戦を演じないよう距離をはかってゆく。
バンデリジェーロは『ソウルブレード』での接近戦も演じられるが、
「「誰」が問題ではない……「誰か」が仕留めればよい。」
顕仁は『アサルトライフル』や『ハンドガン』での中距離攻撃に徹して戦った。それがチームの狙いであり自分たちの役目でもあるのだから。
「さぁて、そろそろ行くぜ」
ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)がウィンダムの『試験型パワーブースター』を一気に噴かせた。
「時間! 気をつけて下さいねっ!」ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が注意する。彼女は味方機の『覚醒』稼働時間の管理と指揮を執っている。
「分かってるよ、そのためにおまえが居るんだろ?」
「それは……そうですけど」
なぜかローザマリアがモジっている。人から頼られることなど慣れっこのはずだが……。
「死なないで下さいね」
「もちろんだ。きちんと生きて帰ってこその任務完了だぜ?」
「はいはい、行くわよ」
メインパイロットの高崎 朋美(たかさき・ともみ)がウィンダムを『覚醒』状態にした。ビショップにダメージを与えるなら『覚醒』は必須だ。
「援護します」
これに富永 佐那(とみなが・さな)のザーヴィスチも続く。『覚醒』は確かにイコンの性能を格段に上げるが、時間制限があるのが難点。連続して攻撃を仕掛けられるよう常にウィンダムについて援護してゆくつもりだ。
バンデリジェーロとアウクトール・ジェイセル(アウクトール・ブラキウム)の二機がビショップの飛道を制限、そこをウィンダムが攻める。
「左肩を痛めてるのよね」
そう言った高崎 朋美(たかさき・ともみ)の笑みに僅かながらの「Sっ気」が滲んでいた。戦闘時には少なからず必要な要素だが、いよいよ新境地を開拓してしまったのだろうか。朋美は『氷獣双角刀』の一刀をビショップの傷口に突き刺すと、すぐにもう一刀で先の一刀めがけて打ち下ろした。
氷結属性を帯びた長大な角がビショップの左上腕部に突き刺さる。
「同じ所を攻められるなんて、実は大したことないんじゃないかな?」
佐那が狙うのも同じ箇所、すなわちビショップの左上腕部、しかもそこに突き立っている『氷獣双角刀』を狙う!
反撃を避けるべくウィンダムはすぐに離れて間合いを取ったが、そうなると再び接近するのは容易ではない。しかし注意がそちらに向くのであればむしろザーヴィスチが間合いに飛び込むのはそう難しいことではなかった。
「佐那さん、そろそろお時間です」エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が進言する。彼女は自機の操縦だけでなく『覚醒状態入ってからの時間』も計っていた。この場合は自機ではなく朋美のウィンダムのだが、間もなく開始から15分を過ぎるという。
となれば今度は彼女たちの番だ。
『※ヴィサルガ・プラナヴァハ』の力でザーヴィスチの力を解放。光りに包まれたザーヴィスチの背には3枚の光の翼が顕現した。
「行っくよっ!!」
覚醒機ウィンダムと覚醒状態のザーヴィスチがビショップの視界で激しく入れ替わる。一方の機体を身代わりにして特攻するという方法も考えてはいたが、二機で連携すればスピード面でも十分ビショップを翻弄できていた。これなら―――
「はぁああああああ!!!」
ビショップの左上腕部に刺さったままの『氷獣双角刀』を狙い打つ。懐に飛び込んだザーヴィスチが『新式ダブルビームサーベル』で連続降打を繰り出した。
より強く激しく打ち込まれた『氷獣双角刀』は二度目の降打の衝撃に耐えきれずに砕けてしまったが、同時にビショップの厚い肩部も砕き爆ぜる事に成功した。
「まだまだ行きますよ」
「……了解」
ビショップの呻声が響く中、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)と柊 真司(ひいらぎ・しんじ)がゴスホークを駆った。
チームの戦略もいよいよ大詰め。真司は迷いなく『覚醒』を発動した。
ビショップは左腕部を失っている。攻めるなら左半身側から。セオリー通りに飛び込もうとしたが、直前で炎壁を発生させられて阻まれてしまった。
「なるほど、腐っても騎士ですね」
「……腐ってないけどな」
片腕を失っただけでは取り乱さないか。やはり戦い慣れている。
「援護する!!」
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)の{ICN0003800#グレイゴースト?}が炎壁を避けて『ウィッチクラフトライフル』を放った。メインパイロットのローザマリアが『スナイプ』や『シャープシューター』を修得している事もあって、それらの弾頭は確実にビショップの頭部を捉えて衝した。
「行きましょう」
「分かってる」
勝負は一瞬。
ヴェルリアが『ディメンションサイト』を駆使してはじき出した「ビショップの斬撃の軌道予測」を信じて飛び込んだ。
焔剣の切っ先がゴスホークの右頬部を砕いたが、それでも機体はビショップの左身側に入り込む事に成功し―――
「切り札を切らせて貰う」
真司は『G.C.S』を展開! 周囲の空間が歪み始めると同時に彼らの切り札がここで動いた。
「行くよ、グレイ」
ローザマリアが『※ヴィサルガ・プラナヴァハ』を発動、直後、{ICN0003800#グレイゴースト?}が超スピードでビショップの間合いに飛び込んだ。
「これがラストパスだ、涼介よ」
左腕部が無い事に加えて周囲の空間を歪められていては焔剣を振ることも退くことも叶わない。時間にすれば一瞬であろうが、その隙に涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)とクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の2人がビショップの前に降り立った。
「さぁ」
「始めましょう」
天に祈りを捧げて。2人は『古代の力・熾』と『※セラフィックフォース』を唱えた。
「聖なる天使よ、我らに闇の獣を切り裂く力を与えたまえ」
「私の中にある熾天使の力よ、我らに邪悪なる者を滅する光りと力を与えよ」
まばゆい光に包まれて2人の姿が隠れた時、光の中から「光の大天使」と「光の分身」が顕現した。
永きに渡る戦い、数々の犠牲もあった、新たなる出会いも経験した。そして今のこの瞬間のためにその身を投げ出して連撃を行ってきた仲間たちの想いも込めて。
2体の大天使が広げた手のひらから「聖なる焔」が放たれる。
とても直視できない程の光だというのに、また雷鳴よりも大きな轟音が鳴り響いているにも関わらず、その光景は実に穏やかなものに見えた。
インテグラル・ビショップの身体は左半身からゆっくりと光の中に消えていった。