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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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ゾディアック・ゼロ攻略 ♯2



 気が付いた時、白波 理沙(しらなみ・りさ)カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)の周囲には仲間の姿は無かった。気色悪い床と、ただっぴろい空間、そして白い犬の姿があるだけだった。
(ようこそ……招いても居ないのに、勝手に上がりこんできたみたいだね)
 ゲルバッキーは二人を見下ろしていた。そう、見下ろしていた。
 普段の姿より、二まわりほど身体が大きくなっている。あるいは、そう見えたのかもしれない。
「ゲルバッキー……」
 気迫に気圧されそうになった理沙は、ぐっと堪えると、びしっとその顔に向けて指を向けた。
「大切な人を殺されたからって何をしてもいい訳じゃないでしょ! こんな事して、お仕置きしてやる!」
(帰ってと言っても、帰ってくれないだろうね)
 この場に居るのは、彼女達二人とゲルバッキーだけだ。
 テレポートで飛ばされた際に、運よくゲルバッキーの目の前に飛ばされてきたようだ。
 ゲルバッキーは目を細め、僅かに考えているようだった。何を考えているかは、読み取れない。だが、そうして開かれた目は赤い光が宿っていた。
(誰にも……邪魔はさせない)
 唸り声がゲルバッキーがもらす。
 ゲルバッキーが咥えていた二振りの光条の剣、それぞれに赤と紫の光を強くする。
 先に動いたのは、ゲルバッキーの方だ。俊敏な動作で二人に飛び掛ると、首を大きく振って剣できりつける。不思議な材質の床が、大きく抉れた。二人はすんでのところで攻撃を回避し、それぞれに臨戦態勢を取る。

「声が聞こえるの」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)樹月 刀真(きづき・とうま)に抱えられながら、迷宮を進んでいた。
「月夜はその声が信頼できると思っている。ならその声に従おう」
 覚醒光条兵器を抜いてすぐに、月夜はその声を感じる事ができた。優しく、そして懐かしい声は、二人以外の誰も近くにいなかった彼女らにとって、唯一の道しるべとなった。
 普通に切っても魔法を撃っても、傷一つつかない壁を、覚醒光条兵器は切り裂き、二人はひたすらに前へと進む。覚醒光条兵器を抜いた結果、月夜は一人で満足に歩くこともできない様子だったが、刀真に支えられて二人で歩くのはまんざら悪くは無い様子だったし、声の導きのおかげか、迷宮に潜む敵意ある存在に出くわす事もなかった。
「……どうした?」
「気をつけて、って」
 刀真は頷き、目の前の壁を切り裂いた。
 その瞬間、目の前にこちらに向かって飛び掛るゲルバッキーが飛び出してきた。
(なにっ!)
「くっ」
 月夜を守りながら、刀真はゲルバッキーの剣を迎え撃つ。ゲルバッキーも突然割り込んできた二人に驚き、剣の冴えは失われていた。
 光条の光がぶつかり、互いに弾けるように距離を取る。
「……一体どこから」
 驚いたのは、カイルも同じだ。突然何もないところから、二人が飛び出してきたのだ。だが、この突然の乱入に助けられた。
 ゲルバッキーは想像以上に、手ごわかった。カイルは理沙がゲルバッキーを殺してしまわぬように、と考えていたがその考えは甘かった事を実感していた。むしろ自分達こそ、この戦いを生き残れるかどうか、その方が遥かに問題だった。
 刀真はカイルと、彼が抱えている既に気を失った様子の理沙を一瞥すると、
「月夜、二人を頼む。ここは俺が引き受けよう」
 すぐにゲルバッキーに向き直った。
 百戦錬磨の経験が告げる。あれは、間違う事無き強敵である、と。
「うん」
 月夜は頷き、自分も決して万全ではないながらも、二人を少しでも遠くへ離れさせようと手を貸す。
(…………)
 ゲルバッキーは赤い目で、じっと刀真を見つめた。
「ニビル、君の復讐心の強さは、死んだファーストクイーンへの想いの強さだ…何も知らない俺がそれを否定する事は出来ない。間違っている、なんて言わない……ただ、俺はパラミタとニルヴァーナを救う為にここに居る、だから意地でも通させてもらう! 顕現せよ、黒の剣!」
 ゲルバッキーと同じく、刀真も二振りの光条の剣を構えた。
(例え世界全てが敵に回ろうと、僕は、引かないっ!)
 四つの事なる光が舞い、重なり、弾けた。



 影人間が繰り出した刃は、セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)を捉えることなくただ空気を切り裂く。
「あまり、心配させるわけにはいきませんので」
 落ち着いた物腰と口調と相反する鋭い眼光でセスは影人間を捉えると、バランスを崩している影人間を蹴り飛ばした。威力なんてほとんど無かったが、蹴られた影人間はたたらを踏み、その後ろに控えていた二体にぶつかってしまう。
「我は射す光の閃刃」
 威光の刃が、その三体をまとめて貫く。光に溶けるようにして、影人間は消滅した。
「……あまり上ばかり見るのは危ないですよ」
 セスはヤジロ アイリ(やじろ・あいり)に近づきながらそう声をかける。彼女の周囲には光の輪が舞い、近づく影人間を蹴散らしている。
「わかってるけど、これは一体何なんだ?」
 見上げた先にあるのは、ゲルバッキーと刀真が戦う映像だった。
「録画なのか生放送なのかが問題ですね」
「……いや、確かにそれは大事だけどさ」
 ゲルバッキーとの激しい戦いが見えるのは、ここだけではなくあちこちでも同じようだ。
「誰が何のためにこんな事しているんだ?」
「さぁ?」
「さぁって、まぁ、わかるわけねーけどさ……っ」
 会話を中断して、二人が同時に振り返る。
 影人間は気配がかなり希薄で、丁寧に周囲の警戒をしていても驚くほど近くに接近される事が多い。
 今度は先ほどの四倍近い数が二人の間合いまで近づいてきていた。だが、それらは飛び掛る事なく、横から突進してきたペガサス、ミルディアーナとその背に乗る桜月 舞香(さくらづき・まいか)によって一掃された。
 ミルディアーナは止まらず、そのまま影人間への群れへと突っ込んでいく。
 そして、その背中を追うようにしてラスタートレインが汽笛をあげながら突っ込んでいく。
「ぼーっとしてたら、獲物を全部取られちまうな」
「活躍しないと、来た意味がありませんね」
 本隊の前方で、影人間の集団を受け止めるのに志願したのは、彼女達だけではない。ここで、派手に暴れれば自然と敵の注意もこちらに向いて、本隊の進軍の助けになるだろう。
 その為には、ゲルバッキーとの戦いの様子は気になるがお預けだ。
「遅いわね。そんな愚鈍な動きじゃ、あたしを捕えられないわよ!」
 影人間の集団に躍り出た舞香は、ミルディアーナの上で槍を振りながら、影人間を翻弄する。
 挑発が届いているのか否か、それはわからないがペガサスから彼女を引き摺り下ろそうと影人間が殺到したところで、ひらりと彼女は彼らから離れた。
 そこを、ラスタートレインが爆走する。
 跳ね飛ばされる影人間の群れ、その様子は激しい戦闘というよりは、どこか冗談めいた風景に映る。最たる原因は、跳ね飛ばされた彼らがダメージを受けつつも、立ち上がろうとしている事だろう。
「そのまま、寝ていてください!」
 半ばやけくそな感じに、綾乃が稲妻の札を撒く。これがトドメになって、倒れた影人間は次々と消えていった。
「やっぱり、見掛け倒しは伊達じゃないわね。派手だけど」
「本物だったら、ううん、本物をこんな事に使っちゃだめだけど……」
 綾乃は複雑な感情を抱きながら、ラスタートレインの雄姿を見る。破壊力は少し残念だが、通路の半分以上を戦友する二階建新幹線Maxの制圧力そのものは心強い。
 影人間は血とかそういったものを撒き散らさないので、見た目もホラーな事にはならない。ラスタートレインが切り開いた道に、契約者達も続々と続いていく。
「グオオオオオ!」
 突然、敵陣の奥深くから咆哮が響いた。影人間はとても静かな存在なので、それ以外の何かだ。
「ああ!」
 綾乃がまず異変に気づく、ラスタートレインが動かなくなった。もちろん、止めたりなどしていない。そして次の瞬間、先頭から順々に、横転していく。
 列車を掴んでいた腕を放し、影人間とは全く違った、巨体で威圧感のある人型のモンスターがもう一度、自身の力を示すかのように咆哮を上げた。
「力比べか、面白い!」
 横転したラスタートレインが前に飛び出す。もちろん横転した列車に自走する力は無い。最後尾を掴んだ、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が押したのだ。
 パワードスーツベルリヒンゲンのパワーを持って押し出されたラスタートレインは、咆哮を上げていた化け物の胴体を突き飛ばした。
「あぁ、私のMaxが……」
 あまり丈夫でないラスタートレインがどんどんボロボロになっていく。
「パフォーマンスはお互いこれぐらいでいいだろう。かかってこい!」
 最後尾から、その上を駆け抜けて一気に最前線に飛び出してきたケーニッヒが、インテグラルの化け物に飛び掛った。強烈なとび蹴りを繰り出すが、硬い防御を打ち破る事ができずに、蹴り足を掴まれ、地面に叩きつけられた。
「ぐっ、だが!」
 身体を捻って手から逃れ、その勢いで踵を側頭部に叩き込み、化け物をよろめかせる。確かな手ごたえを感じたが、化け物はしっかりと踏みとどまった。ケーニッヒも立ち上がり、適度な間合いを持って互いににらみ合う。
 ラスタートレインの上で。
(気をつけて、かなり厄介な相手みたい)
 他の部隊の仲間と情報をやりとりしている野部 美悠(のべ・みゆう)が、テレパシーで伝える。
(了解した。こちらもそれを確かめたところだ)
 周囲では影人間が心強い援軍を得たため、一層激しく前進する。
 ラスタートレインの上では、激しい戦闘の最中でありながら、静かなにらみ合いが続いてた。
 その様子を、綾乃はハラハラしながら見守っていた。