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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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ゾディアック・ゼロ攻略 ♯3



 地面が揺れる。
 その瞬間、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は狐月の真の力を解放した。
 揺れを起こしたクコ・赤嶺(くこ・あかみね)は、自分の向かってくるゲルバッキーを見据えていた。
 二人がここに至ったのは、恐らく偶然だ。飛ばされた先が、偶然ゲルバッキーの近くだったに過ぎない。
 目を赤く光らせ、低く唸るゲルバッキーからはまともな返事は帰ってこず、戦って決着を付けるしかないと二人は判断した。
 先にたどり着き、既に戦いを行っていた刀真はゲルバッキーから離れた場所で倒れていた。トドメを刺すつもりはゲルバッキーには無かったようで、ボロボロではあったが命に別状は無いようだった。
「一瞬で、決めさせてもらいます!」
 クコに注意を向けたゲルバッキーの意識の外から、霜月は切りかかった。羅刹解刀により、力を引き出された狐月は、本来の間合いより遠く、速く、剣戟を煌かせる。
 既にゲルバッキーが咥えている二振りの剣が、やわな代物でないと見極めていた霜月は、狙いをその機動力の要である足に絞っていた。
 光が、ゲルバッキーの後ろ足を通り抜けていく。白く逞しい二つの足は離れ、きらきらとした粒子をまたたかせると、元あったようにくっついた。
(僕の身体が、何でできているのか忘れたみたいだね)
「ナノマシン……っ!」
 ゲルバッキーの突進は止まらず、クコの額にゲルバッキーは額を叩き付けた。
「くあっ」
 そのままゲルバッキーはクコを押し倒すと、顔に足を乗せたまま霜月へと振り返る。
「……どうりで」
 もはやナマクラと化してしまった愛刀を強く握り締めながら、霜月は駆け出した。
 既にゲルバッキーは契約者を振り払っていながら、ほぼ無傷の状態を保っていた。ナノマシンで構成された身体を、組み替え入れ替え、ゲルバッキーは完全な状態を保っているのだ。
(僕は誰にも負けない。絶対に!)
 ゲルバッキーが駆ける。
 次々と繰り出される剣を、霜月はできうる限りいなした。ただ、小さな傷が次々と増えていく。出血が体温と体力を奪っていく。
「戦いというものは、戦うべきやつがやるべきものだ。とはいえ、見過ごすわけにはいかないな」
 ゲルバッキーは自らに向かってくる不可視の衝撃波を感じ取り、大きく飛びのいた。
「まだ手に馴染んだとは言い切れないが、仕方ない」
 白砂 司(しらすな・つかさ)は斧槍タイムラプスを確かめるように振るうと、ゲルバッキーと霜月の間にゆっくりと歩いて現れた。
「……時間を稼ごう。できるのはそれぐらいだ」
 霜月に向かって、小声でそう伝える。
 実際問題、ナノマシン集合体であるゲルバッキーに対して効果的な手段は手元になく、思いつかない。それに、本来戦うべきは自分ではなく、剣の花嫁達だろうという想いもある。
「好きだった女の子のためにって言うと、やっぱり男の子ですよね」
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は軽いステップを踏みながら、ゲルバッキーとの間合いを広めに取っておく。
「どれぐらい稼げるかは、ちょっと判断しかねますね」
 頭上での戦いを見ているサクラコと司は、ゲルバッキーがどれだけ厄介なのかをよく理解している。通信によれば、長曽禰中佐率いる大軍も行動しているようだが、こことの距離関係はわからない。
「できる限りやるしかないな」
 赤い目と視線を交差させる。
 駆け出すゲルバッキーを衝撃波で目くらましし、円を描くように動いて間合いを詰めさせないように動く。
 その動きを、ゲルバッキーはしっかりと目で追う。サクラコも、迂闊に飛び掛ったりせず、慎重に間合いを計る。
 ひたすらに時間を稼ぐために、地味な戦いだ。



 普通の武器ではびくともしない壁に、覚醒光条兵器の光だけは吸い込まれるようにして道を切り開いていく。
 その光景を間近に見ながら、シェザーレ・ブラウン(しぇざーれ・ぶらうん)は心の中で数を数える。ゼロになったところで、シュザーレは滑り込むようにして切り開かれた壁の中へと身体を滑り込ませた。
 それと全く同じタイミングで、セレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)も壁の向こう側に飛び出す。
「クリア」
「クリア」
 二人で視野を補って周囲の確認をする。敵影は無い。
 彼女達の背後には、先ほど切り裂いたはずの壁の向こう側は無く、がらんとした空間になっている。そこに切り目があり、仲間達の姿が見える。
 二人のあとに続いて、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)と彼女の部隊が突入してくる。警戒は怠らず、周囲に広がり裂け目付近の安全を確かなものにする。
「敵は……近くには潜んでは無いで御座る」
 音羽 逢(おとわ・あい)が入念に最後の確認をして、後続の部隊に続くように合図を送った。
 細い裂け目であるため、人も物資もまとめて送り込む事はできない。一つの壁を突破するのに、大所帯である本隊はそれなりの時間をかけてしまう。
「ニルヴァーナについた頃を思い出すね」
 セレスが小さな隙間から仲間が少しずつ入ってくる様子を眺めながら言う。
「前はイコンの搬入もできないぐらい、回廊も小さかったものね」
 話しをしている間にも裂け目の通過は続く。
「足元、気をつけろよ」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)に肩を貸りているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、ああ、と普段の彼を知れば驚くような弱々しい声で返事を返した。
「よっと……さて、相変わらずだなこの場所は」
 ここまでに何枚か壁をぶち抜いてきたが、本当に前に進んでいるのか疑いたくなる似たような光景ばかりが続いていた。
「つっかえるので、早く道を開けてください」
 ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)は呆れ顔で裂け目を潜る。潜り終わったところで、にわかに周囲が慌しくなった。
 敵襲、敵襲といくつかの声が響く。
「また似たようなタイミングね」
 ナナは光る箒に腰掛け、敵が来ている方向を見る。
「今回は、小手調べのような戦力では御座らん」
 逢が言った言葉を確かなものにするように、足音と咆哮が届く。影人間は、こんな目立ったりはしない。
 慌しく迎撃準備を整える最中、ウォーレンは周囲を見渡した。敵襲とあらば、迎撃に回る必要がある。だが、覚醒光条兵器を使用し続けているためにだいぶ衰弱したダリルをその辺りに転がすわけにもいかない。
 誰か頼めそうな仲間はいないかと探すが、まだ隊のほとんどは裂け目の向こう側だ。
「構わない、自力でなんとかする」
 ダリルがウォーレンの心中を察して、そう声をかけた。
「おいおい、普段のお前ならまだしも、今の状態で放っておけるほど、俺は薄情じゃないぜ?」
「いや、大丈夫だ……もうそんなに遠くない、そう言ってる。少しぐらいなら……」
 自分達を導く声を聞くことができるのは、覚醒光条兵器を抜いた剣の花嫁だけだ。彼ら彼女達が同行しなければ、本隊は進むべき道を失う可能性がある。ゾディアック・ゼロにはテレポートして乗り込んだので、安全な場所なんてものが無いという事情もある。
 そういう事情があるため、彼ら彼女らをどこかに隠したりはできないのだ。その為、道をこじ開け通路をナビゲートする剣の花嫁達は誰もがその代償に多くの力を使っており、戦闘はおろかまともな進軍にも支障をきたす状態だ。
「なぁ、少し気になるんだが。何でそこまで無茶するんだ? 相手が、ゲルバッキーだからか?」
「……無茶など、してはいないさ」
「いいや、無茶してるぜ。俺の目を誤魔化せると、本気で考えてんのか?」
「……無茶などしているつもりはない」
「おいおい」
「つもりはない、が、責任がある。ヤツは俺の、俺達の製造者だ。ヤツに作られた存在として止める責任が俺にはある」
「責任、ねぇ」
 丁度裂け目を通り抜けてきた同じ部隊の仲間に、ウォーレンはダリルを預けた。既に戦闘は始まっており、猫の手も借りたい状況のようだ。
「なら、ちゃんと”おとうさん”って呼んでやらないといけないぜ」
 ダリルにそう伝えると、彼はなんとも複雑な表情をした。返事は待たず、駆け足で部下の元へ向かう。各自準備を整えて、命令待っている。
「よし、これから、冷てぇ!」
 指示を口にしようとしたところで、額につめた〜い感触が伝わり、思わず声に出してしまう。犯人は、ジュノで凶器はレインボージュースだ。
「全軍突撃でもするつもりですか?」
「しねぇよ、なんだよ、いきなり」
「そんな感じの顔してましたよ。全く。さぁ、頭を冷やして、まずはこちらの状況報告を耳にして、それから命令を下してください」