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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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ゾディアック・ゼロ攻略 ♯1


 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)は気が付くと、すぐ目の前にメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)の姿を見つけ、慌てて立ち上がった。
「気が付いたか」
「ここは……?」
「ゾディアック・ゼロ内部と思われる。どうやら、本隊とはぐれてしまったようだ」
 周囲を見渡すと、目に悪い色合いの壁や床が飛び込んでくる。通路自体はそれなりに広いが、生活するにはそぐわない滅茶苦茶な配置だ。
「迷宮とは聞いてましたが、本当に迷路みたいですね」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)は、少し呆れている様子だ。見通しが悪い上に、配色も滅茶苦茶で通路を覚えていくのには適さないだろう。
 ここに飛ばされた仲間の中には、長曽禰中佐の姿はない。どうやら、メルヴィア少佐の周囲に居た部隊が集まっているようだ。
 大きな混乱こそないが、奇妙な風景と本隊から切り離された事で、少し浮き足立っているのが見てとれる。
「少佐、二、三人お借りしていいすか?」
「構わないが、どうするつもりだ?」
「周囲の状況を確認してきます。もしかしたら、本隊も近くに居るかもですしね」
 シャウラの提案に、メルヴィアは僅かに思考をし、頷いて答えた。
「いいだろう。だが、無理はするな」
「わかってますよ。何かあったらすぐに……あの」
 シャウラは、メルヴィアの視線がシャウラの持つミニたいむちゃんタワーに向けられているのに気づいた。
「いや、これ、結構強力なんすよ。魔法ダメージだもんで物理防御関係なく通りますし」
 思わずシャウラは言い訳を口にする。
「……そう、か」
「終わったらお貸ししましょうか?」
「い、今は作戦の集中しろ。とにかくだ。周囲の偵察は任せる。何かあれば逐一報告し、現状の把握を優先しろ」
「という事ですし、あまりお喋りしていては時間が勿体無いのでそろそろ行きましょうか」
 既に偵察に向いていそうな兵を見繕っていたユーシスが、シャウラの肩を叩く。
 少し名残惜しそうなシャウラを引っ張るようにして、偵察に出る仲間を見送った。
 彼らと入れ替わるようにして、綺羅 瑠璃(きら・るー)がメルヴィアに話しかけた。
「本隊との通信、確保できました」
「早かったな」
「通信妨害といったものは、現状では無いようです。今後の確約はできませんが」
「わかった。中佐とは離せるか」
「可能です」
 瑠璃について、メルヴィアは通信機に向かう。瑠璃の言うように、思った以上にクリアな音声で、中佐との音声会話ができた。
 部隊が段々と本来のあり方を取り戻しつつある一方、一人沙 鈴(しゃ・りん)はどぎつい配色の壁をじっと見つめ、あるいは叩き、持ってきたスプレー缶で色をつけたりと実験を行ってみていた。
「これはまた厄介ですわね」
 スプレー缶はいくつか持ち込んでいたが、どの色を使っても、もともとある壁の模様と混ざりこんで、いまいち目立たない。消えたりするわけではないので、目印としての役割を果たせないわけではないが、この部隊に居なければ存在に気づくのは難しいだろう。
 壁を触ったり叩いたりした感触では、大理石に近しいものを感じる事ができる。だが、刃物で傷をつけようとしても傷一つ入らないどころか、僅かに刃が浮かんでおり、破壊するのは不可能だろうという結論に落ち着いた。
 メルヴィアの通信が終わるのを待ち、鈴がこれらの報告を終えたところで、周囲の偵察をしていたシャウラ達が一度戻ってきた。彼らも集まり、簡単な作戦会議を行う。
「先ほど中佐の隊と連絡が取れた。あちらも無事のようだが、我々と同じようにいくつかの隊が分断されているようだ。我々は、迷宮の情報を集めつつ、散り散りになっている仲間を捜索し、本隊との合流を目指す」
「それで、本隊はどこにいるのでしょうか?」
 鈴の言葉に、メルヴィアは
「正確は位置はわからない。だが、本隊も同じようにこの迷宮をマッピングしている。地図が重なる地点をマッピングできれば、合流も可能なはずだ」
 偵察に出ていた、シャウラ達にメルヴィアが視線を向ける。
「何か気になるものや、危険などはあったか?」
「罠の類は、今のところありません。しかし」
 ユーシスは、少し怪訝な表情を浮かべる。
「どうした?」
「影人間が、襲い掛かってきました。咄嗟のことでしたので、手榴弾を使用して緊急回避しましたが……どうやら、実体があるようです」
 今まで、何度か目撃されてきた影人間は、ただその辺りをうろうろしていたり、ぼーっとしていたり、不気味ではあるがそれだけだった。
「影人間が、か。気になるな」
 何故、ここに来て彼らが襲い掛かってくるのか。答えはわからないが、とにかくメルヴィアは影人間の危険を仲間達に伝えるように指示を出し、間もなく彼女達の部隊は迷宮踏破に向けて進軍を開始した。



「……未知の世界って、来てみればそんなにドキドキするもんじゃないわね」
 不思議な材質の壁、目に痛い配色。遠い昔に見た、四次元世界を彷彿とさせる何か。物珍しくはあるかもしれないが、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の胸を高鳴らせるようなものではなかった。
(あんまり、愚痴を零すものじゃないわよ)
 テレパシーでセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がセレンフィリティを注意する。
「聞こえてた?」
「ええ、静かだもの」
 周囲に音を立てるものがなく、壁や床もあまり音を吸い込まないので、声はよく響く。足音も同じで、布擦れの音も注意力があればちゃんと聞き取れるだろう。
「否応なしに、あたし達の居場所はばれちゃうか」
「でも、監視されてる気配は無いわね」
 敵の気配だけではなく、罠のような設置物も見当たらない。
 方向感覚と記憶力を阻害する、センスの無い模様が罠かと問われれば、そうかもしれない。だがそれだけでどうにかなるほど、教導団はやわではない。
 そのまま気を抜かずに偵察を進めたところで、まずセレンフィリティが足ととめた。後方を進む、セレアナも習うように足を止める。
(回り道する?)
 彼女達の前方に、影人間の集団があった。気配はかなり薄いが、感じ取れないというほどでもない。
 セレアナの問いに、セレンフィリティはすぐに返答せずに様子を見守っていた。
(どうしたの?)
 何度か影人間は確認されているが、それらはその場所にただ居るだけだ。だが、このゾディアック・ゼロにおいては、その通例がどうやら通じないらしい。
 彼らは二人の気配を感じ取ると、一斉にこちらに向き直り、そして走り出した。
(なんかよくわからないけど、危険ね)
 今までの影人間の知識があれば、例え奇妙な動きをしていても、そんな事もあるだろうと無視する可能性もあっただろう。だが、セレンフィリティは自分の感覚と経験を頼りに、この状態を危険と判断した。
(どう?)
 最低限の質問を返すのは、テレパシーが交互に情報を送信するシステムの都合というものだ。一時が惜しいのはセレアナも理解しているので、最低限の言葉を飛ばす。
(影人間が盛ってるわ。最悪襲ってくるかも。本隊にすぐに連絡を取れるようにして)
 足音のしない大集団が、どんどん迫り来る。
 二人ははじけるようにして走り出した。

 二人は撤退しつつ、状況を本隊に連絡した。
 情報は簡潔なもので、影人間に追われている事と、彼らに実体があり互いに攻撃が届く事。そして、とにかく数が多い。というものだった。
 本隊はこの情報を受けてすぐ、彼女達が戻ってくる道に部隊を配置した。
「はわわ……」
 敵の姿を見つけて、サオリ・ナガオ(さおり・ながお)が思わずそうもらす。
 影の軍団という見た目のインパクトもさるものながら、聞こえてくるのは撤退しつつ応戦する二人の足音と声、戦闘音だけで、通路を埋め尽くすような大集団でありながら、とても静かなのだ。
 常識を揺さぶるような奇妙な光景に、思わず声が漏れるのは仕方ないといえるだろう。
「万事抜かりなく準備を整えたのでしょう。であれば、問題はありますまい」
 サオリに藤原 時平(ふじわらの・ときひら)がそう声をかける。
 既に彼らを待ち構えるために、部隊の陣形を整え要塞化を施している。そう易々と突破できはしないだろう。たぶん。
 若干の不安を残しつつ、契約者達と影人間の軍団が激突した。

 影人間と戦闘を繰り広げる後方、本隊にも間をすり抜けてきたのか、あるいは別の地点からやってきたのか影人間が襲撃を行っていた。
 だが、大群となっている防衛地点と比べれば、仲間と逸れたかのような僅かな数だ。彼らは気配も音もなく本隊に忍び寄ったが、間合いに入るいくらか前で周囲を警戒していたエミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)に捕捉された。
 不意打ちは不可能と判断した黒い影が、跳躍し襲い掛かる。手には刃物か爪かは一瞥で判断できないが、とにかく鋭くて刺さったり切れたりしそうな獲物がある。
「そんな単調な動きで、どうにかできると思っているのかしら」
 エミリアが迫り来る影を、ヴァーチャーシールドで受ける。
「このぐらいなら、問題ありませんわ!」
 シールドを押す影は三つあったが、エミリアはその三つの影を力で押し返す。武器が弾かれ、がら空きになった胴体に白の剣を次々に叩き込んだ。
 死体は残らず、影は霧散して消えていく。
「さて……ひとまずこれで、おしまいでよろしいのかしら」
 突然襲い掛かってきた影人間の小隊ではあったが、見回す限りこれといった被害も見当たらない。いま打ち倒したのが全部だったようだ。
「ただ打ち合うだけでは、そこまで脅威ではないというわけだな」
 いつでも動き出せる姿勢を解き、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は少し髪をかきながら、先ほどの戦闘から影人間をそう判断したようだ。
「とはいえ、呼吸の様子もなく、足音もなく、気配もほとんどない。強襲や不意打ちでは、性能以上の効果を示す事もありそうだ。斥候班やここに居ない部隊に注意するように伝えておくべきだな」
「はい」
 コンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)が、言われた通りに各部隊に影人間についての情報や、お互いの状況の交換を行った。
「メルヴィア少佐の隊ともはぐれてしまいましたのね。しかし、こちらを分断しようとしているには、少々雑にも感じますわ」
 連絡を終えたところで、エミリアがコンラートに声をかける。
「意図的なものではないのかもしれませんね」
 エミリアがそう答えると、それに続いて
「テレポートの座標の問題だろう。恣意的なものとはあまり思えないな」
 長曽禰がそう付け加えた。
「座標ですか」
「もともと、多少の無茶は織り込み済みではあるが……今にして思えば、壁の中にテレポートしなかっただけ良かったと考えるべきだな」
「それは、あまり想像したくはありませんわね」
「幸いにも既にほとんどの逸れた隊とは連絡がついている。いずれ合流もできるだろう。普段通りに、この迷宮も攻略していくだけだ」