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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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ゾディアック・ゼロ攻略 ♯5



「おかしいですわね、わたくしはニルヴァーナ最初のころは夏來香菜さんの容態や正体を気にしていたはずでしたが、どうして貴方のような本音を見せたがらない天邪鬼さんを気にするようになったのでしょうか?とんだ野次馬根性?いえレディとして殿方のされることは気になりますの―――」
 倒れた人を前にして、マリー・ランチェスター(まりー・らんちぇすたー)は滔々と述べていた。
 倒れているのは、白い髪を持つ小柄な青年で、名前をウゲン・カイラス(うげん・かいらす)という。
「この、この、生意気」
 その頭をローリー・スポルティーフ(ろーりー・すぽるてぃーふ)は遠慮なく足蹴にしていた。普段のウゲンの行動や言動を省みれば、あるいはこれは当然の仕打ちなのかもしれない。さらに付け加えれば、こんな機会は滅多に無い。
 その様子を見て、匿名 某(とくな・なにがし)はそれを止めようともせず、うんうんと頷く。一発殴ってやろうとは思っていたが、この光景は本人にとって殴られるより不快で傷つく事だろう。惜しむべきは、本人はすっかり意識を失っているようで、この光景を見ても感じてもいないようだ。
「あー、そろそろ勘弁してやってくれ」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が困ったように、そう声をかけた。
「一応、今は怪我人なんだから、な?」
「はーい」
 まだ踏み足りない様子のローリーは渋々返事を返し、ウゲンから離れた。
「某、ちょっと手伝ってくれ」
「ああ、わかった」
 シリウスと某の二人が、倒れているウゲンの治療を行う。命のうねりや、プロフィラクセスなどが施されるが、ウゲンは一向に目を覚ます事はない。
「……はぁっ、だめだ。こいつ元々の体力が底なし過ぎて、これ以上やったらうちらの方が先にバテちまう」
 治療の効果はちゃんとあるため、先ほどの瀕死の状態からはだいぶ持ち直している。それでも、普通の人間で言えば重傷ぐらいで落ち着いているようなものだ。
「どうやって、こいつをここまで追い詰めたんだか」
 某も、ため息をつく。
 そんな二人をするりと抜けて、ニル子はウゲンまで近づくと、つんつんと頬をつっついた。
「寝てる」
「……そうだな。ここでできる事もそんなにないし、運ぶか」
 パートナーであるニル子の様子から、とりあえず危険な状態ではないのだろうと思えた。
「ロリちゃん思うんだけど、どこに運べがいいのかな?」
 四分の三死人を足蹴にしていたローリーが鋭い疑問を口にする。
「そうですわね。わたくしたちは、入り口からお邪魔したわけではありませんから、どうやってここを出ればいいのかさっぱりですわ」
 それぞれ、顔を見合わせて考える。
 本隊はがんがん動いているし、仲間との合流は難しいだろう。スタート地点に戻るといっても、そこに何かがあるわけではない。
「……でも、運ぶ必要はありそうよ」
 リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が険しい表情を通路に向ける。その通路では、影人間が逃げるように移動するのが見えた。その影は、あっという間に見えなくなる。
「見つかってしまったみたいですね」
 結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が不安そうに虚空を見つめる。
「こっそり私達のあとをつけてきてたようね。どうしても、ウゲンを帰したくはないみたい」
 影人間が逃げたのは、仲間を呼ぶために違いない。
「仲間に連絡を、あとは他に治療できる奴にウゲンを預ける必要があるな。とりあえず目を覚ましてもらわないと、この状況でお荷物一個はきつ過ぎる」
 シリウスがてきぱきと指示を飛ばし、リーブラと共に影人間が逃げた方に足を向ける。
「付き合うぜ」
「わ、わたしも」
 某と綾耶もそれにならう。
「お前らなぁ……まぁ、一応言っておくが、敵を倒すのは目的じゃないぞ」
「わかってるよ」
「なら、よし」
 その後ろでは、ウゲンをどちらが担ぐかを決めるジャンケンの決着がついていた。決着がついたので、ウゲンは運ばれていく。
 前方では、既に先遣部隊らしき影人間の集団が集まってきていた。
「オレの生徒に、手を出すなァーッ!」
 シリウスは一番最初に飛び出していった。

 セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)が飛ぶ、舞う。
「オラオラ、退け退け! それでも邪魔する奴は地獄に落ちろやぁ! クククッ、アハハハハッ!」
 影人間を相手に、セイルは次々と敵を切り裂き、貫き、駆け抜けていく。
 彼女の勢いは止まらない。止まらないが、その活躍を差し引いても、敵の数が多すぎた。
「本気で、ウゲンくんを仕留める腹積もりなんだね」
 もはや狙いを定める必要はなく、無限 大吾(むげん・だいご)のインフィニットヴァリスタが咆哮をあげれば、影人間をまとめて何体も食い散らかしていく。
 それでも、背景の色のような状態の影人間は止められない。損害の損傷も無視して、ただひたすらに前進してくる。
「飲み込まれたら、終わりね。下がりましょう」
 鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)の言葉に、皆頷く。
 影人間の襲来を防ぐために、ウゲン捜索に出た多くが集まり、影人間を相手に立ち回っていた。おかげで手数もだいぶ増えたが、それらを足してもまだまだ足りない。
「いつまで笑ってんのよ、バカ」
 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、この状況で堪えきれない様子で、口元を押さえていた。断っておけば、別に絶望的な状況にさらされて精神が参ってしまったわけではない。
「米俵みたいにかつがれとったで」
 途中ですれ違ったウゲンを運ぶ一行が、どうやら彼の心のツボにダイレクトアタックを決めたらしい。あれはあれで、大変な場面だったように他の人には見えたが、彼にとっては面白シーンだったらしい。
「あかん。写真とっとけばよかったわ。そんで、あとで見せてやる。きっとおもろいで」
「あー、それはきっと、うん」
 大吾が苦笑する。
「どうでもいいけど、これ以上戦線を維持するのは無理よ。手遅れになる前に下がりましょう」
「そうですね」



 光条の光と光がぶつかる。
 ゲルバッキーと小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は互いに退かずに押し合っていた。
「こん、のっ!」
 力勝負では美羽が勝っていたが、四つの足で大地を掴むゲルバッキーも負けてはいない。ゲルバッキーが三歩後ろにさがったところで、互いに弾けるように距離を取った。
「お父さん……」
 戦いは停滞する事なく、再度一人と一頭はぶつかる。その光景を、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は見守る事しかできなかった。
 覚醒光条兵器を持つ事で、美羽はゲルバッキーと互角に渡り合う事ができていた。これまでも、彼女と同じようゲルバッキーと渡り合ってきた者は多いが、しかしどうしても最後の一手を決めきれないでいた。
 ナノマシンの集合体であるゲルバッキーは、身体のあらゆる部分を別の部位に代替が可能だ。この時の為に、戦うためだけにチューンされたゲルバッキーの身体は、全ての性能が高水準であるだけではなく、損傷に対しても事前の対策を整えている。
 損壊部位を即座に交換し、戦い続けるゲルバッキーの姿は、その緻密なナノマシン管理を知らない人にとっては、不死身の狂犬のように映るだろう。
(…………っ!)
 美羽は大型剣の腹を持って、ゲルバッキーを叩きつける。思いのほか軽い手ごたえに、美羽は僅かに驚いた。
 理屈を知っていれば、ゲルバッキーは不死身でもなんでもない。単に無茶をしているだけだ。かなり危険な無茶を、意思の力でねじ伏せているだけである。限界はもちろん存在する。
「ああもう!」
 立ち上がり、唸るゲルバッキーを見つめていた姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が我慢できないといった様子で声をあげた。
「ええい頭を下げてお願いするぐらいなさい。思い込みだけで暴走する癖が強すぎます!」
 突然の荒々しい様子に、坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)は思わず雪の顔を見る。雪はそんなものに一切構わず続けた。
「わたくしでしたらお願いされれば世界滅亡の一つや二つお手伝いして差上げますわよ!」
「そ、それはさすがに」
 鹿次郎の言葉は、しかし雪には聞き入れられない。
 雪には詳しい原理などはわからなかったが、ゲルバッキーが無茶をしているのだけは見ていて痛い程に感じ取っていた。
 世界の滅びと復讐を天秤にかけたゲルバッキーが、今更自分の命を惜しいとは思わないかもしれない。だからこの無茶と無謀は、当然の対価なのかもしれない。
「そこまでの決意があるのでしたら、なんで一言相談してくださらなかったのですか? 私でしたら―――」
 言葉は、続かない。
 狂犬の赤い瞳は雪を捉えると、その言葉を耳にする事無く、ただの障害と認識し、襲い掛かってきたからだ。
「あっ」
 美羽が声を漏らす。間に合わない。
 雪も鹿次郎も、ゲルバッキーの攻撃に対して無防備だった。なんとか、間に入ろうと全力で駆けるものの、その距離はあまりにも遠すぎた。
 ゲルバッキーは二人をまとめて一振りで切り捨てようと大きく顎を持ち上げる。その下あごを、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が掴んで持ち上げるた。
「哀れね」
 リカインはゲルバッキーを放り投げた。空中でバランスを取り直して、ゲルバッキーは足から着地する。
 真っ赤な瞳の狂犬は、感じた違和感からか置き去りにしていた理性を僅かに取り戻す。
(……僕がかい?)
「他に誰が居るのかしら?」
 リカインは髪をかきあげると、緊迫した様子なくつかつかとゲルバッキーの前に立ち、そしてくるりと背を向けた。
「え?」
 ベアトリーチェに限らず、ごく自然にそうした彼女に驚きや戸惑いの声が漏れる。
(君は、何をしているんだい?)
 ゲルバッキーの狂気を揺らした違和感は、先ほどのリカインに掴まれた時に、一切敵意を感じなかったからだ。
「我がままで、嘘つきで、正直あんまりいいところ見つからないんだけど」
(………)
「一人ぼっちで誰も味方してくれないんなんて、ね。不憫な貴方に、私が味方になってあげる」
(僕は、哀れで不憫かい?)
「自覚してないなら、ちゃんと今自覚しておくべきよ」
 リカインは視線を、美羽に向ける。この状況に呆然としている彼女に駆け寄った。
 繰り出された一撃を、咄嗟に美羽は受け止める。
「なんで?」
 冗談でも振りでもなく、自分を倒そうとした攻撃だった。
「理由? さっき言ったので全部よ」
「っ! でも、ゲルバッキーは涼司を」
 ゲルバッキーの突然の裏切りに遭い、山葉 涼司は重傷を負ってしまっており、今なお意識も戻ってはいない。
「だったら、あとで本人に戦わせればいいじゃない」
「そんなの!」
 美羽はリカインを払う。だが、その次が出ない。
 覚醒光条兵器の力を借りている美羽には、今ここで目の前のリカインを切り伏せるのは十分可能だった。だが、まだ手にしたばかりのこの強大な力は、そのまま取り返しのつかない事態を用意に彼女に想像させた。
「そういうのは」
 リカインの髪が、まるで別の生き物のように広がる。それは間違いではなく、彼女の髪に擬態しているシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)が触手を広げたのだ。
 振り下ろされるギフト用装着ブレードを咄嗟に受けようとし、その空いたボディにリカインが拳を合わせた。
「少し失礼よね」
 対ギフト戦闘に用いる事すら可能なレゾナント・アームズの力を引き出していたリカインの一撃は、美羽の意識を刈り取るには十分な威力となった。
「まぁ、私も人の事を言えたものじゃないけど」
 美羽をベアトリーチェに預け、それが当然の事であるようにリカインはゲルバッキーの傍らに立った。