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リアクション
第5章 巣窟
「騒がしくなってきたな。そろそろショーが始まる時間か」
ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)は劇場を見上げて軽く口元に笑みを浮かべる。
一通り周辺を巡ってみたが、爆発物や過激な戦闘行為を行なおうとしている者の存在はないように思えた。
盗撮犯と思われる人物の出入りも見かけたが、干渉はせず――事態を見守ることにする。
一足早く、ルイス・オルゴン(るいす・おるごん)はロリコン達が集う喫茶店に入り込んでいた。
あまり時間は残されていないため、手早く作業を終えるとテラスにいた人物のうち一番裕福そうな男性を、喫茶店の外へ誘い出した。
そして、自分が携帯で撮った写真を見せる。
そこには呼び出した男性がよだれを拭いながら百合園女学院にカメラを向けている姿が映っている。
「もうすぐ私の仲間達がここに突入をします。貴方も言い逃れできませんよ? それともこの写真買い取ってここから1人逃げますか?」
「い、幾らだ……」
男は簡単に交渉に乗り、ルイスが指定する金額――所持金全てをルイスに渡し、ルイスは約束どおり男の写真のみ消去した。
その場から逃げ去る男を見送った後、ルイス自身も早々に撤収することにする。
「あとは、残りの写真を百合園に送りつけて、お礼として……困った時に手でも貸してもらいましょうかね」
軽く笑みを浮かべて、ルイスは劇場から姿を消した。
「シロぽん陛下大変です! 百合園女学院の生徒や協力者達に、同志が次々に捕まっています!」
満身創痍の状態で、喫茶店のVIPルームに少年が駆け込んできた。
「な、なにぃ? 何故同志達を? 我等が何か悪いことをしたか?」
超真面目な顔で、シロぽんは言い立ち上がる。
「ここはボルト先生にお任せするしか!」
シロぽんが目を向けた先には、全身に騎士の重厚な鎧を纏ったセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)の姿があった。
「任せてもらおう」
セオボルトはVIPルームから飛び出す。
この喫茶店は極めて健全である! 風呂や更衣室を覗いているわけではない。あくまで水着を纏った女子を見ているだけだ! だけなんだ!
百合園女学院に協力者が集っているという話を知り、セオボルト自身も百合園に顔を出し、写真を見せてもらった。
そして疑問を持ち、鎧を纏いこの男達の憩いの場に用心棒としてやってきたのだ。
何故写真が百合園女学院の校舎前に落ちていたのか。
写真にはプールが写っていただけで、人物が映っていなかったのは何故なのか!
そう、これは……。
「陰謀だ!」
軍人として、セオボルトはそこに気づいていた。決して自らの欲望を正当化しようとしてではなく! 多分ッ!
「未沙から連絡があった。乱闘になるかもしれない急ぐぞ」
「ああ」
先に喫茶店にウェイトレスとして潜入している朝野未沙(あさの・みさ)からの連絡を受け、劇場近くで張り込み様子を伺っていたクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は村雨焔(むらさめ・ほむら)と合流をし、劇場へと走る。
「あそこみたいヨ!」
2人に駆け寄ったレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)が指差した先には、風になびく垂れ幕があった。
『其は誇り高き変態紳士。百合学のスク水が好物で候』
極太毛筆書きだ。なかなか達筆である。
「なんだあれは……? いや、潜入した仲間からの目印か!」
それは、永夷零(ながい・ぜろ)が喫茶店のテラスから下ろした垂れ幕であった。
「有難い、あの部屋へと急ぐぞ」
「スク水好物の盗撮犯? ハンティングしがいのある獲物だネ。存分にやるヨ!」
「ええ」
クルードと焔が劇場へと駆け込み、レベッカとパートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)もその後に続いた。
喫茶店では、逃げようとする男性達と、有志で乗り込んだ百合園女学院の生徒、協力者達で小競り合いが起きていた。
「戦闘もメイドの教養だもん!」
朝野未沙(あさの・みさ)は、箒を振り回して自己防衛に努める。
「未沙!」
「こっちだ!」
男達が殺到している入り口の方から聞き慣れた男性の声が聞こえる。
「焔さん、クルードさん!」
未沙は無我夢中で箒を叩きつけて道を開き、焔とクルードはカルスノウトを振り上げて男達を牽制しながら、未沙に手を伸ばす。
未沙は箒を投げ出して、2人の手の中に飛び込んだ。
「大丈夫か?」
「怪我は無い?」
「うん、大丈夫」
焔とクルードは未沙を背に庇う。
「大人しくしろ」
焔が店から飛び出そうとした男に剣を向けると、男は小さく悲鳴を上げて腰を抜かした。
「逃げようとしなければ、危害は加えない!」
クルードは未沙を気にかけながら、喫茶店に入り入り口に立ちふさがる。
「うっ」
「ぎゃっ!」
もう一方の入り口から逃げようとした男達の足に、ゴム弾が打ち込まれた。柱の影から林田樹(はやしだ・いつき)が狙っていた。
「未沙は、ここから動かないで」
「うん、ありがとっ」
焔は未沙にクルードの後にいるよう指示を出した後、もう一方の入り口に走り寄り倒れた男達を縄で捕縛していく。
「小物だけじゃないみたいネ」
レベッカは樹のゴム弾を受け付けない装いをした、男――セオボルトに狙いを定め、銃を撃つ。
セオボルトは瞬時に喫茶店の中に身を隠し、集めておいたフォークや食器を投げつけて、レベッカの行動を阻害する。
「面白くなってきたネ。容赦はしないヨ!」
レベッカはセオボルトに限らす、飛び出す男性達に銃を乱射していく。
「ぎゃー」
「うわーっ」
「くっ、ここは女生徒達もバイトに志願している健全な喫茶店だ。しかもこれは陰謀の可能性がある!」
身を銃弾が掠めていく。臆せずセオボルトはドラゴンアーツを使いレベッカの側に飛び込み、槍を繰り出した。
「バイト、志願? 陰謀? なにそれ? 私はここの連中の身ぐるみ剥ぎに来た波羅蜜多生だヨ! ヒャッハー!」
「おのれ、パラ実め! 健全な男達の憩いの場での残虐行為、許すまじ!」
「させません!」
レベッカの前にパートナーのアリシアが飛び出す。
肢体に槍の一撃を受けるが、ヒールで即座に回復をし、セオボルトの前に立ちふさがる。
「敵はあなた1人のようですわね?」
にっこりとアリシアはセオボルトに銃を向ける。
他の男達は呻く、倒れる、逃げるばかりであり、戦おうとする者はいない。
「尚更、武器を持たぬ弱者を守るために、退くわけにはいかん!」
槍を振り上げ、セオボルトは2人に向けて振り下ろし牽制しようとする。
「人の趣味思考はどうあれ。覗きは犯罪では?」
小型飛空挺でそれとなく、ロリ男性達の撮影の邪魔をしていた出水紘(いずみ・ひろし)が、テラスから店内に入り、セオボルトの背後に近付く。
セオボルトは低く唸りながら、槍を振り回し、アリシアと紘を退ける。
レベッカの放つ弾が、彼の体を傷つけていき流石に分が悪すぎると判断し、セオボルトは断腸の思いで槍を収めその場から退くことにする。
最後に「これは何者かの陰謀だ!」との言葉を残して。
「ボスはあっちの奥の部屋にいるの!」
アルバイトとして潜入していた峰谷恵(みねたに・けい)がシロぽん達が逃走準備をしているVIPルームを指差した。
「ここまでかッ。翔の奴どこ行きやがった」
応戦していたソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は歯軋りをしてテラスへ飛び出、用意してあった小型飛空艇に乗り、脱出する。
「わ、我等は犯罪行為はしていない。だから攻められる謂れはない。無いはずなのにーっ」
「ホントよねー」
うふふと笑い、VIPルームのもう1人の主であるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が立ち上がる。
ブローチ型のカメラを持って学校に向かったパートナーの桐生円(きりゅう・まどか)はまだ戻っていない。
「それじゃまたいい店が出来た時には呼んでちょーだい」
オリヴィアはテラスに出ると、シロぽんの肩を叩いてテラスから飛び降り、近くの非常階段に無事着地を果たしシロぽんに敬礼してみせた。
「あでぅー♪」
「置いていくなー!」
叫ぶも、シロぽんの体格では非常階段への飛び下りは無理である。
シロぽんはVIPルームからテラスに出て、1人ぐるぐる歩き回っていた。
策士と呼ばれる彼だが、策も金の力で買っていたに過ぎない。今回も最終的には金の力でどうにでもなるはずだった。
――が。
「ほほう……」
ウェイトレスとして雇われていた小鳥遊美羽(たかなし・みわ)が、パタンと携帯電話を閉じる。
続いて、バケツを持ち上げ、バシャッとテラスに洗剤入りの水を撒き散らす。
「おお、麗しの姫君! 潔白を証明し、私を守っておくれ〜!」
つるん☆
「ぶへっ」
「スケベ人間は万死に値する!」
狙い通り、派手にすっ転んだシロぽんの元に美羽は降り立つと、おもむろに足を振り上げ……。
「オラオラオラオラオラオラ!」
ストンピングの雨を降らす!
「ぎゅわ、ふぎゅ、あぐぅ、ぼへぇ……!」
そして数分後――。
ぴくりとも動かなくなった彼を前に、美羽は「ふん」と鼻を鳴らし最後の蹴りを入れる。
「ボロ雑巾より醜いわ」
「そこまでよっ!」
「百合園女学院の者です」
真崎加奈(まざき・かな)と、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)が喫茶店に駆けつけた。
「まさか、こんなにいるとはな」
「組織立っての犯罪でしたか」
彼女達の後ろから、他校生のヘイダ・リューカス(へいだ・りゅーかす)と水神樹(みなかみ・いつき)も現れる。
「うわああああっ」
逃げようと太めの男が1人、加奈に飛び掛ってきた。
「いい加減にしてーっ!」
ビターーーーーン!
加奈は男に思い切りビンタを食らわした。
「逃げられませんよ」
フィルはゴム弾でテラスの方へ逃げようとする男の足を撃っていく。
「証拠は戴くぜ!」
ヘイダは倒れた男の手からカメラを奪い取った。
「調べたところ、この一角は最近売りに出されていたようで、購入したのは中年の男性とのことでしたが……」
周囲を見回した樹は、テラスに在る物体に目を止めた。
そこに在った。ただ1人中年と思われる男の無残な姿が。
恍惚とした笑みを浮かべたまま、白目を向き、口から泡を吐いている。
「これがボスであった物体だよっ」
ツインテールの美少女が、窓辺でにっこり微笑んでいた。
何故黒幕の彼がテラスで死にかけていたのかは誰も知らないが、とりあえず話を聞こうということで、気付け薬……もとい、レベッカの銃弾での一撃を浴びせて目を覚まさせ、集った者達で取り囲んだ。
仲間に守られながらやってきた、山田晃代(やまだ・あきよ)はシロぽんの前でしゃがみ、真正面からそのオヤジ顔を覗きこんだ。
ズタボロのシロぽんだが、晃代の可愛らしさにごくりと唾を飲み込んだ。
「もうこんなことしないって約束してくれる? してくれるなら、今回は校長先生にも内緒にしててあげるよ」
「しません! 寧ろ私は何もしていません!」
シロぽんは勢い良く即答した。
「いやいやいや」
レベッカが銃を乱射する。
「ひぃっ」
シロぽんは悲鳴を上げて晃代に飛びついた。
「その子はともかく。私はただの強盗。盗撮の首魁なら百合園に売ろうと思ったけど、そうでないのなら身ぐるみ剥いで魚の餌にするだけヨ! ヒャッハー!」
再び銃を乱射すると、シロぽんは悲鳴を上げながら両手を上げて降参のポーズをとった。
「私が首魁だ! だが、私は健全な男子の為に店を開こうと決意しただけで、犯罪の指揮をとるつもりはこれっぽっちも!」
「本当に? でもこの場所は、百合園のプールを覗けちゃう場所だって知ってるよね? 本当に、健全な人たちの為に店を開こうとしていたのなら、また悪いことを考える人がいるといけないから、この場所を僕たちに任せて欲しいんだ♪」
にこっと晃代は微笑んだ。
その可愛らしさに、シロぽんは思わずこくこくと頷くも――。
「秘密にするのは難しいんじゃないかな」
「出来ませんよね、学校に指示を仰がないと……」
加奈とフィルが言う。
「それに、俺等のパートナー達が百合園に先に向かってるみたいでなー」
クルードは焔、美沙、林田樹と顔を合わせて苦笑し合った。
「私もさっき、百合園に証拠写真おくっちゃった」
にこっとかわゆく笑った美羽の姿を見て、シロぽんは「うひぃ」と変な悲鳴を上げた。
「そっか……残念だなあ。でも、僕も校長に提案してみるよ」
晃代はその場を皆に任せて、学院に戻ることにした。
シロぽんはズタボロのまま縄でぐるぐる巻きにされ。
その他の健全な男性諸君はあまりに人数が多い為、また怪我をしている者もいたため、重罪と思われる者を除いてカメラを処分させた後解放した。
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