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グリフォンパピーを救え!

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グリフォンパピーを救え!

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 ロットの顔を思わず優希が見つめる。
「俺は、たぶん、ずっと求めていたんだ。シャンバラ教導団でなにをすべきかを。そのほんとうの理由が、このパピーを敵機から守り通すことではっきりするんじゃないかと思うんだ」
「ロット、それはおそらく、お前が目指す、戦士とは何かという答えにも通じるはずだ」
 ロットのパートナー、アーヴィン・ノックス(あーう゛ぃん・のっくす)も言う。
「だったら信じてもらおうよ」
周藤 鈴花(すどう・れいか)は、ポニーテールをなびかせて、立ち上がった。
人間ってさ、人間って、信じていいんだって、この子に思ってもらおうよ!
 流れる涙を振り払うように、鈴花と彼女のパートナー、ルーツィンデ・クラウジウス(るーつぃんで・くらうじうす)の2本のマジックロープがパピーの肢に巻きつく。黎は、ロープを握り、純白の愛馬イフィイの馬上にある。
「因果なものだな」
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が燃料の切れた軍用バイクを捨てて、歩いてくる。
「信じられないかもしれないが、私は、かつて医師への夢を抱いていたのだ。だが、軍人の家系がそれを許さなかった。私は横道にそれていく自分の運命をどこかで呪っていたのかもしれない。そんな想いはとっくに超克していたと思っていた。だが、このパピーを見ていると、いのちの限り飛び続けたこの子を見ていると、そういう自分がとてつもなくちいさく感じられる。私の覚えた医学は中途半端なものだ。それでもいい。今は、全力をこの子のために尽くしたい」
 華麗なる狙撃手と恐れられる射手のものとは思えないほど白く美しいクレアの手が、パピーの背中にそえられる。
「わたくしはパラミタ人、あなたもパラミタに生まれました。ゆっくりでいいのです。ともだちになりましょう」
 クレアのパートナー、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)のホーリーロープも意思あるもののようにパピーの肢に巻きつく。
「ともだちはね、はじめからあるもんじゃない。いちから築き上げていくから嬉しいんだ」
 巽のパートナー、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)のホーリーロープもパピーのからだに絡まる。鈴花のパートナー、ルーツィンデ・クラウジウスも、
「みんな、キミのこと怖いって言った。でも、ボク、キミのことちっとも怖くない。グリフォンは、ボクのあこがれなんだ。ボク、キミが大人になって、悠々とこのパラミタの空を飛ぶところを見たいんだ。絶対、見たいんだ!」
と言い、マジックロープでパピーのからだを固定する。
「みんな早く! もうパピーは限界よ!」
 すでに空飛ぶ箒に乗り、自分のマジックロープでパピーの肢を縛った水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)の顔は血の気を失っている。銃弾の雨が降り注いだのはそのときだった。敵機の射程内からの銃撃である。睡蓮は、目をつぶった。 
 が、その眼は、
「早く行けッ!」
というパートナーの鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)の絶叫と彼の奮うカルスノウトが引き起こす斬撃の旋風によって驚きのかたちに見開かれた。彼女には傷ひとつついてはいない。
 睡蓮は、九頭切丸の絶叫をはじめて聞いた。それは、熱せられた巌のような声であった。
「守り方にもいろいろあるからネ」
 パピー運搬隊の前に立ちふさがるようにあらわれ、同じく大量の銃弾を防ぎきったサミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)がわずかに振り返り、クレアを見る。
「俺は獅子小隊にいて、ずっと前衛で戦ってきタ。でも、見たくなっタ」
 種の壁を越えた友情というやつをネ。
「おっと左から敵機! でも、小市民のみなさん、俺が来たからにはもう大丈夫だ、安心してまかせなさい!」
 誰が小市民カ! とアメリカ訛りでツッコミをいれるサミュエルの罵声は耳に入らない。
 そういう都合のいい耳を持つクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、そのセリフを言うためにわざわざ空飛ぶ箒から飛び降りると、昔懐かしい特撮ヒーローの変身のマネをし、慌しく箒にまたがり、急速度で上昇を開始する。
「ヒーローとは古今、このように颯爽と空を飛び」
 クロセルは、さらに加速しながらランスの尖端から敵機の胴体下部に突入し、上部へと突き抜ける。高度を落とした機体は、一瞬遅れて、大地に衝突し、回転しながら盛大な衝撃音をあげる。
「決して敵から逃げることなく、哀れな民間人どもをこのように鮮やかに助けてやることができるのだ。どうだい諸君、今の技の名、聞きたいだろう?」
 聞きたくなーい、という全員の無気力な返事もなんのその。
「あらゆる悪を貫き破壊する! そう、これこそ伝説の秘槍、名づけてジェット・ストライク・ランシングだ! そして、これらからが俺の神技、傷ついたグリフォンパピーを助けられる唯一の技、ドラゴンアーツ! この技は…」
 説明を続けようとするクロセルは、箒の後ろからいつの間にか優梨子にデリンジャーを突きつけられていることに気付いた。
「これは、ゆ、優梨子ちゃん、いつの間に、いえ、あいかわらず美人で…」
 正義のヒーローの背筋を冷や汗が流れる。
「悪いんだけど、話うざいから。さっさとドラゴンアーツで手伝いな」
 財閥令嬢にして温厚な性格の持ち主ではあるが、波羅蜜多実業での生活は、彼女の大胆さに冷ややかな殺気も与えているようだ。
「よ、良い子のみんな、危ないから、お、オニーサンのマネをしちゃだめだぞ!」
と震える声で言うと、逃げるようにパピー運搬隊に合流する。
 華麗な空転をしながら飛び降りた優梨子は、いちど、パピーを撫でた。
 弱っているからだろうか、パピーは、はじめて触れられる人間たちの手をこばむことがない。むしろ、その感触に癒されるように、その手に寄り添い、歯を見せ、かすかに笑みさえ浮かべる。
「あなたはいい子ね」
 頭を抱き、守護の呪文のようにすばやくそう呟くと、優梨子は立ち上がった。
「さあみんな、はじめよう! くれぐれもパピーの状態に気をつけて」
 その声を合図に、空飛ぶ箒と馬力と人力がロープをつうじてパピーに伝わり、パピーの700キロの体重が少しずつ動き始める。痛みがパピーを苛み、鳴き声があがる。
「みんな、急げ!」
 黎がそう叫んだときだった。回りこんできた飛行艇が真正面から突っ込んできたのだ。
ここは、私が食い止めますッ!
 パートナー、柊 カナン(ひいらぎ・かなん)が駆る小型飛行艇の乗り、パピーの上空を警戒していた日奈森 優菜が、長い髪を風に舞わせて宙に飛ぶ。彼女の持つ竹箒が鮮烈な光とともに仕込み刀を抜き放った瞬間、異変は生じた。