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関帝誕とお嬢様を守れ!

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第一章 関帝誕

「持ち合わせが無いでござる!」
 朝の光の中で、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)のパートナーうんちょう タン(うんちょう・たん)が、声を張り上げた。


──この暑い時期になると、シャンバラ教導団では神格化され崇拝の対象となっている【関帝聖君】関羽・雲長(かんう・うんちょう)の誕生日を祝う【関帝誕】が開催される。
 神格化され崇拝の対象となっている関羽。
 その関羽を祀る場所の関帝廟は、普段ならシャンバラ教導団の校内で十分事足りるのだが。
 今回は大元の関帝廟が大々的に開かれ、それが目当てでやって来る客も少なくない。
 朝から賑やかな催しものが開催され屋台が立ち並び、夜には関羽像がライトアップされ誕生を盛り上げる。

 しかし今回は、脅迫状なるものが──


「持ち合わせが無い故、一日の労役を以て関聖帝君に捧げると致す!」
「……それもいいかもねぇ」
 皇甫は頷いて、うんちょうを見上げながらぼんやりと答えた。
(もし脅迫状が鏖殺寺院だとしたら……幽霊病棟は陽動で、本命は団長と帝君狙い?)
 更に顎に手を当てて皇甫は考える。
(……ありえなくは無いわね。護衛はいるけど、一応ここは私も気を配っておいた方がいいかも)
 朝一番に、シャンバラ校内で型通りの参拝──中華線香をあげ、金紙を焼き、皇甫の手作り饅頭(マントウ)を供え、関帝廟の管理責任者に一日無料奉仕を申し出た。
「さてと……」
 皇甫はチャイナドレスに着替えて、うんちょうと共に、奉仕活動を開始した。

「──酒を探すぞ! 少しでも品質の高い中国酒だ」
 レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)は、真っ直ぐ前を見据えながら言った。
「関帝聖君への献上品は最上の物を用意しなければっ!」
「……教導団の憲兵科へ行けば、街の地図や有名無名問わず酒店の位置を教えて貰えるかと思います」
 パートナーのシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)の言葉に、レオンハルトは、満面の笑みを浮かべた。
「ヒラニプラ中の酒店を回ってやる──よし、行くぞ!」
 街中の酒店を本当に探し回る勢いで、前をずんずん歩くレオンハルトの背中を見ながら、シルヴァは小さくため息をついた。
「全く無茶過ぎるんですよ、このライオンは……。檻にでも入れて飼っとくが吉です、全く……」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ〜」
 シルヴァは、レオンハルトに極上の笑み向けた。

 加賀見 はるな(かがみ・はるな)とパートナーのアンレフィン・ムーンフィルシア(あんれふぃん・むーんふぃるしあ)が、大きな花束を抱えながら関帝廟に向かって歩いてた。
「道はこっちで合ってるのかな?」
「わかんない」
 はっきり言って遭難中。
「そもそも、私達みたいなのが行って関羽様に会えるのかな?」
 はるなの問いに、アンレフィンの表情が曇る。
「むぅ〜、それは難しいかもしれないよね。何せ世界的にも超有名人だものね、それはそれでしょうがないか」
「折角のお招きでも、花束ぐらいしか用意できないのが残念、花輪のが良かったかな?」
「確かに商売の神様にもあたるけどそれはちょっと、気持ちがこもっていればいいのだ。光の花束、特大1週間限定品」
「禁猟区でも気持ちが無ければそれは作れないよね」
 二人はのんびりとした声を出した。
「会えたらいいなぁ〜」
「ほんとだね」
 くすりと笑って、花束を抱えなおした。

 月餅を大事そうに持ちながら、比島 真紀(ひしま・まき)はパートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)の発した言葉に驚いていた。
「関帝誕とは言え、神事には違いない。祈りがあっても然りだろう?」
「それはそうだけど……相談して決めたわけでもないのに」
「教導団の今後の発展とパラミタの安寧とシャンバラ王国の復活と……そして、真紀の健康」
 自分と全く同じ祈りを捧げるつもりだったサイモン。
 顔が赤くなるのを悟られないように、真紀は視線を外して話題を変えた。
「あ、ああぁ、月餅、気に入ってくれると良いであります。時期はちょっと早いけど、日持ちがするし、固形物だし」
「いきなり何言い出すんだ? 急に話変えるなよ」
「中の餡がの種類で色々と楽しめるし、月見の時期以外でもごく普通に、また安価で入手できるので」
「……ははぁ〜、照れてるな」
「なななな、何を言い出すんでありましょうか、この人は!」
「はいはい、照れない照れない」
 サイモンにからかわれて、余計に顔が赤くなっていく真紀だった。
 熱を冷ますために周囲に視線を巡らせてみると。
「──怖い〜この人怖い〜〜!!」
「?」
 子供が数人泣き叫んでいた。子供特有の泣き出し連鎖だ。
 側には、うんちょうと皇甫の姿が。
 風船を持ったままのうんちょうが、おろおろしている。
「あぁ、ごめんね〜怖かったねぇ〜」 
 チャイナ服姿の皇甫が子供を抱きかかえ、うんちょうを片手で追い払うような仕草を見せた。
 うんちょうは少し離れた場所に身を隠すと、物陰から子供達がいなくなるのをじっと待っていた。
……うんちょうは少し、泣いているようだった。
「ここは黙って去ろう……」
「うん」
 うんちょう自身の、教導団『正式公認』ゆるキャラに! という野望は、難しいかも?しれない……。

 夏野 夢見(なつの・ゆめみ)は辺りをきょろきょろと眺めていた。
 誰もいない……
 関帝廟には入りたいけど足が踏み出せない、というような人を見つけて、一緒に行こうと思っていたのに。
 皆カップルだったり連れがいたりして、声をかけることが出来ない。
「ざ〜んねん」
 夢見は手近な場所にあったベンチに腰を降ろすと、関羽の捧げ物として用意したプレゼントを取り出してため息をついた。
 自分で選んだおいしい日本酒……純米酒。
 何にしようかあれこれ考えた末に、お腹に入って消えて無くなる物が良いと思った。
 だが、今はその重さが身にしみる。
「──あれぇ?」
 素っ頓狂な声に顔を上げると、レオンハルトとシルヴァの二人が、夢見の手にしている酒をじっと見つめていた。
「???」
「あの、それ! どこで手に入れたんですか!? お酒ですよね」
「……うん」
「包装が凄く綺麗だ。どこの店のだろう? 今までの行った店の物では無さそうだな」
「えっと、これはヒラニプラの一番端にある店で手に入れたんだけど?」
「もしかして──それ日本酒か? 俺は中国酒を探しているんだが」
「日本酒」
「そっか……日本酒か……」
 あっさり否定されて、レオンハルトは落胆の色を隠せなかった。
「え、あ、で、でも、種類が豊富だったし、確か中国酒も置いてあったよ。えっと──お店、案内しようか?」
 目の前の二人の顔が、花を咲かせたように明るくなった。
 夢見もなんだか嬉しくなって、手に入れたお酒が運んできた仲間との出会いに感謝した。

 鄭 紅龍(てい・こうりゅう)は、心の中の思いが声になって溢れ出そうになるのを堪えていた。
 団長と剣を打ち合いたい。
 関羽に守られて校長室でふんぞり返るだけしか能のない団長に、自分の剣を向けてみたい!
 服にじゃらじゃらついた勲章みたいなのは落としてやる!
 鄭の思いは留まる所を知らなかった。
 が、その横で。
 パンダの着ぐるみ姿のパートナー楊 熊猫(やん・しぇんまお)が、緊張感の抜けていく鼻歌を歌いながら、はしゃいでいた。
「楽しいアルね〜、色んなお店が並んでるアルよ。でも目的は一つ! 関帝廟へ行くアル〜♪ 楽しみアル〜」
「あぁ……そうだな」
 緊張とも期待ともつかない表情を楊に見せて、鄭は頷いた。
──本当に、楽しみだ。

 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)のコスプレ姿が目を引いた。
 二人は中国武将の格好に扮している。
「思ったより、動きにくいのかもしれない」
 真一郎がそう言うと、サミュエルは小さく笑った。
「でも、似合ってるヨ」
「あ……ありがとう」
 真一郎は頭をかいて、恥ずかしそうにした。
「会えるよネ、関羽……きっと」
 サミュエルは持ってきた捧げ物を握り締めた。
 保護並びに美しさを保ち、攻撃や返り血などから守る袋──チャームポイントでもある長い美髭を包む【髭袋】を手作りした。
 家庭科が1なので、昇り龍の刺繍に挑戦したが不細工なカバっぽくなってしまい上手く作れなかったが、不器用なりに心を込めて、何度も失敗を重ねて完成させた。
 だからこそ絶対本人に直接手渡ししたい!
「きっと渡せると思うぞ。丹精込めて作ったんだもんな」
 絆創膏だらけの手を見ながら、真一郎は言った。
 会わせてやってほしい。いやきっと会える──
「真一郎は何ヲ?」
「俺は剣舞を納めるつもりだが、その時……」
「……?」
「いや、それは関羽に会えてからの話だな」
「どうしたの? 何かあるノ?」
 真一郎は微笑んで首を振った。
 剣舞には、サミュエルを誘おうかと思っている。
 一緒に舞ってくれるだろうか……?