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湖中に消えた百合達

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第5章 幸せの行方


 海の妖精であるオケアニデスがこの地にいるのは、恋に落ちたヴァイシャリー家の娘が、こっそりとヴァイシャリー湖へと、連れて来たからだった。オケアニデスは、ある意味でこの地に縛り続けられたまま、動けなくなり、そのまま時も止まっていた。…いや、本当は柚子の言った通り、薄々気が付いてはいたのだろう。たとえ妖精は時間の感覚が違うと言っても、ヴァイシャリー湖に訪れる人たちを見守ってきたのだから。
「これでは、話しになりませんわね」
「そうじゃな」
 相討ちにでもならなければ、オケアニデスを手に入れることは出来ないだろう。
「つまらん落ちじゃ…」
 エリスはここにはもう用はないとばかりに、身を翻して、後ろを振り返ることはなかった。
 
 攫われた少女たちは、ショーニーに運ばれて、岸へと帰ってきた。少女たちは湖底で水泡に閉じ込められていただけで、梨穂子と先輩には多少の憔悴が見られるもののケガはない様子だった。一日の不在は、長い時に感じられたが、実際には寮長にも先生にも気付かれない程度の…、そんな短い時間であったのだ。しかし、オケアニデスにとっては、確実に長い時間の一つが、終わった。永遠と思われた苦しみから、やっと解放されたのだった。
 恋をするには、時に苦しみを伴うことも多くある。梨穂子と先輩が、あんな時間にこっそりと逢引をしたいたのも、それぞれにパラミタ人のパートナーがいるからであった。学校でもそんなそぶりを見せた様子のなかった2人の恋には、きっと深い罪悪感や後悔の念もあったことだろう。誰しも軽々しく、恋をしているわけではないのだ。梨穂子と先輩が、今後自分のパートナーと、どのように話し合うのかはわからない。
 しかし、オケアニデスのように、なんの説明もなくある日突然恋人を失うような、そんな悲しみだけは味あわせてはいけないのだ。恋人に対して最後まで誠実であることが出来る人にこそ、恋をする資格があるのだから。

「オケアニデスは、明日にも海へと帰りますわ」
 ジュリエットは自分の部屋で、告白を邪魔されてむくれているロザリィヌに紅茶を淹れて差し出した。
「柚子さんがオケアニデスを説得することが出来たのも、あなたが話すきっかけを作ってくれたおかげですわよ」
「そうおっしゃられても、わたくしの恋も終わりましたわ…」
「またすぐに、良い人が見つかりますわ。明日はラズィーヤ様にお願いして、オケアニデスを海に帰すことにしましたの。少しはオケアニデスの気持ちが報われるとよろしいのですけれど」
 ジュリエットは、ジュスティーヌに向かって、軽くウィンクしてみせた。

 次の日は快晴であった。新しい旅立ちに相応しい陽気に、昨日の事件に関わった人たちの気持ちも晴れやかだった。
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は、シャンバラ教導団の軍服に朝からきちんとアイロンをかけて、昨夕わざわざ買いに行った、ヒラニプラ有名店「香巴拉菜館」のマンゴープリン6個セットを小脇に抱え、白百合女学院の学生寮を訪れていた。昨日のうちに、寮長に面会の申し込みをお願いしていたのだった。イレブンは、攫われた2人の不在をどうやって隠し通すか考えた末“勉強のため教導団に体験入団をすることになったらしい”、や“親族が危篤のため地球に戻ったらしい”などの理由を適当にでっち上げて、その場の雰囲気でなんとか理由をつけて2人の理由を説明しようと思っていた。
 「香巴拉菜館」のマンゴープリン6個セットに笑みを見せる寮長に向かって「実は、梨穂子さんたちの件なのですが…」と切り出した途端、
「あぁ、海の妖精なら、今日ヴァイシャリー湖から海に帰る予定ですから、せっかくだから見に行くと良いですよ」
 と言われて、慌ててしまった。自分なりに対策を立てていた間に、2人はちゃんと戻ってきたらしい。イレブンはもごもごとよくわからないお礼を言って席を立った。事情はわからないけれど、ともかく2人は戻ってきたのだ。
「ここまで来たのだから、せっかくだから、見に行ってみますか」
 イレブンは、ヴァイシャリー湖へ向けて足を向けた。その道には、オケアニデスの未来を祝福する多数の少女たちの姿があった。

 その後、ラズィーヤ・ヴァイシャリーを見たオケアニデスが恋に落ちたかどうか、それはまた別のお話し…。

担当マスターより

▼担当マスター

藤森あず

▼マスターコメント

 マスターを担当しました藤森あずです。
 今回は“湖中に消えた百合達”へのシナリオにご参加いただき、ありがとうございました。
 
 今回は百合園にはあまりない、バトル要素の多いシナリオでしたが、百合園らしい女の子同士ならではのリアクションを多数いただき、ありがとうございました。
 それぞれの女の子の可愛らしさを描くことが出来ていたら幸いです。
 百合園のカップルがどの程度深い仲なのか…、どきどきしながら読んでくださると嬉しいです。 
 
 それではまた、別のシナリオでお会いいたしましょう。