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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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第1章

 生徒たちはヒラニプラ郊外、訓練対象区各地に到着した。
 表だった行動ができない葉 剣英(イェ・ジェンイン)はいないが、葉が派遣した女性士官候補生やサポートとしての士官候補生が数名付いてきている。
 女性士官候補生が丁寧な口調で生徒たちの前で説明を行う。
「フラッグの場所は明かせませんが、この説明図を配布します。そこに書いてある緯度と経度、そのほかの説明で場所を特定して下さい。シャンバラ教導団の生徒なら、簡単にできるはず。また、フラッグと言ってもバルーンタイプのもので、赤色のペインティングがされているため、目視は充分可能です。出発前には各時、無線を装着して下さい。これで連絡を取り合います。さて、ここからはドラゴン棲息地やワーム、ゴブリンの森があり、そこを抜けていかなければフラッグには到達できません。各自、気を引き締めてかかるように」
 そこに、某花博のマスコットキャラクターをやっていたというトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)が女性士官候補生に駆け寄る。
「質問があるのですが」
「そこのチューリップ、どんな質問なのですか?」
「失礼しちゃうな…いえ、例の不穏分子、入れ墨の件なのですがどのような形でありましょうか。情報が少なすぎて分かりづらいのです」
「ふっ。宜しい。なかなか的確な意見です。今の段階で把握しているのは『首の後ろか前に入れ墨』『二人は象形文字、一人はコインのマーク』だと言うことです。また、不穏分子たちも自分たちが探索されていることに、薄々気がついているはず。気をつけなさい」
「ありがとうございます! …ですが、この情報は、もっと早くに知らせるべきではなかったのでしょうか。それだけの情報が分かっているなら、もっと他の特徴も判るのでは?」
私のような若輩ものの言うことではありませんが」
「チューリップ、確かにその通りだが、つい先ほど入手できた情報なのです。しかも情報元とは現在、連絡が取れません」
 トゥルペの花の色がその言葉に恐怖を感じたのか、さっと青く染まった。
「すみません、私も質問があるのですが」
 表情と同様、金色の明るい髪をしたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が女性士官候補生の側にやってくる。
「どういう内容でしょうか」
「葉士官は目玉焼きには何をかけていらっしゃいましたか」
「はい?」
「これも作戦の一つです! 教えて下さい!」
「…確か、豆板醤をたっぷりと掛けていたのをお見かけしたことがありますが。これでいいのかしら?」
「ありがとうございます!」
 ルカルカは凄まじい勢いで走り去り、仲間のもとに戻ってくる。
「豆板醤だって!! ルカルカは絶対に七味!」
「ええ!? 葉士官もルカルカも味覚がおかしいんじゃないんですか!」
 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が声を上げる。
「そうかしら、私は『XO醤』が最高だと思うですぅ。…え? なに、この雰囲気はですぅ」
 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)がシャレのつもりで発した言葉に、周囲はしーんとなってしまう。
「義姉者(あねじゃ)に仇なすおつもりか!」
 うんちょう タン(うんちょう・たん)がその空気に、怒り心頭とばかりに立ち上がる。
「私は片目、蒸し焼き、胡椒派」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が冷たく間髪入れず発言したため、うんちょう タンは黙るしかなかった。
「目玉焼きには何も付けずに食べるもん。味付けは卵本来の味が分からなくなるからずぇーったいダメ!!」
 エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)も言い放つ。
「私は、両目・黄身半熟・醤油。昔、日本で食べたあの組み合わせが一番だぜ!」
 カワイイ顔をして男口調のイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)がにっと笑う。
「おいおい、そんな話は良いからとっとと出発しようぜ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が話に割ってはいる。
「目玉焼きの食べ方論争に本気になってどうする。わざと不穏分子を引き出す目的で、もめてるように見せるんじゃなかったのか?」
 小声でかしましい女性連中を制する。
「そうだぜ。どちらにせよ、早く出発しよう。この説明図だとなんとなくだけど、フラッグの場所もイメージ出来る。俺が無線で指示するから、その通り進んでくれ」
 佐野 亮司(さの・りょうじ)が眠そうな顔をしたまま、話を続けた。自称パラミタ一の商人の亮司は地理にも明るい。
 トゥルペ、ダリル、セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)、光学迷彩を使っている亮司たちが罵倒しあうイリーナ達を背後から追いかけ、不審人物を探すことになっている。
「みなさん、本気になってはいけませんよ」
 セリエが忠告したが、既に【目玉焼きの食べ方論争】はすでに本気モードにシフトチェンジしてしまっているようだった。
 特に一人だけパートナーのレジーヌ・ベルナディスからこの作戦を聞かされていないエリーズ・バスティードはすっかり頭に来ていて
「目玉焼きにはなんにもつけないっつの! ばっかじゃないの、ばーかばーか!」を繰り返している。
 レジーヌは自分から仕掛けた作戦なのに、おどおどとしたふりをして
「エリーズ、もうそのぐらいで止めましょう?」となだめていた。
 それを見かねたセリエが提案する。
「フラッグを取った人の食べ方が一番正しいってことにしませんか?」
「そうしよう!!」
 満場一致でそれが決まると、みんな少しずつ目の色が変わってきた。
「絶対にフラッグをとってやる!」
「XO醤が最高なのですぅ!」
「これって本当に演技なんだろうか…」
 亮司が場の雰囲気の剣呑さにぞっと体を震わせる。
「まあ、大げさに振る舞えば振る舞うほど、敵も近づいてくるだろう。敵の油断を誘う無邪気さってのも必要だ」
 ダリルは冷静に言い放った。