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狙われた学園~蒼空学園編~2話/全2話

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狙われた学園~蒼空学園編~2話/全2話

リアクション

「なんと、沼地に誘い込むというのはリリーの怪力、地震攻撃を防ぐためでもあったのですね。確実な戦法です。しかし、リリーはそれだけではありません。身体能力に優れ、素早い動作ができるのです。そして、私の爆破能力。これは秘密にしていて良かったですね…ただの間抜けではありませんよ、私もリリーも」
「それならこれでどう!?」
 白いリボンをたなびかせた黒髪の美少女マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が、身軽な身体を活かして、その華奢な腕から繰り出された大鎌をリリーに振り下ろす。
「べっぴんさんがそないなことしたら、あかんなぁ!」
 リリーは腕にはめてある手甲でマナの一刀両断を受け止めた。
「なんて怪力なの!?」
「マナ、焦っちゃダメだ!」
 ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)はディフェンスシフトを使い、マナの防衛力をあげると、再びマナはリリーに突撃する。ベアはマナの後方から専守専衛し、紀や部下たちから守った。
「これでどう!?」
 マナは再度、上から攻撃すると見せかけて、リリーの横っ腹を大鎌でなぎ払う。
「ぐあ!」
 さすがのリリーもこの攻撃には耐えきれなかったのか、横っぱらを抱えて吹き飛ばされてしまう。
「リリー!」
「まだまだ…」
 リリーが、立ち上がろうとしたその時だった。
 わざと敵に気取られぬよう、遅れて到着し、ドラゴニュートの赤ちゃんの居場所を確認していた閃崎 静麻(せんざき・しずま)がバーストダッシュで速攻をかけ、沼地なら微妙に角度を変えながら突っ込んできたのだ。銃で牽制射撃をおこない、リリーの体を撃つと、リリーが握りしめていた麻袋の帯を銃で上手く断ち切ってしまった。
「貰った!」
 そして、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)がドラゴニュートの赤ちゃんが入った麻袋をピックアップし、確保した。
「ドラゴニュートの赤ちゃんを確保しました!」
「おお!」
 生徒たちから、一斉に歓喜の声が上がる。しかし、リリーも紀も動揺した様子を見せず、そのままするすると退却の姿勢を見せ始める。それに気がついた青がレイナの手にある麻袋を「失礼! お嬢さん」と開けてみると愕然とした表情を浮かべた。
「…やられましたな…」
「何だ、どうした」
 他の面々も、麻袋をのぞき込むが、そこにはドラゴニュートの赤ちゃんの姿はなく、袋をそれらしく見せるための詰め物がしてあるだけだった。
「我輩たちをたぶらかすために、あらかじめリリーにもたせてあったのじゃな?策士、紀 君祥よ…」
「その通り。こうなることを予想していましたので、リリーにも防弾チョッキを着せていました」
 紀がニヤリ、と笑った。
「ドラゴニュートの赤ちゃんは、そのマントの下ですかな!?」
 そこにマーゼン・クロッシュナーやうんちょう タンが現れる。
「さすがですね、マーゼン・クロッシュナー」
 紀は覚悟を決めたのか、マーゼンに正面から向かい合う。さっとうんちょう タンがマーゼンの前に出て、シャープシューターを紀の足元に打ち込むが、それを紀は素早く交わしてしまう。と、不意に一陣の風が舞った。
「君の相手はこの俺です! 天才策士、紀 君祥!」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)パートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)にバーストダッシュで切り込みをかけさせて場を攪乱し、弓で紀の両の手を射貫いてしまった。
「ぐあ!」
「音も小さい弓の一撃は不意打ちにもってこいですから。これで君も両手が使えず、爆弾を使えまい。状況によっては弓での不意打ちというものは有効なんですよ」
 そういうと、更に真人は弓を紀に放った。
 しかし、紀はとっさにマントで自分の身体を包み込み、その弓をはねのけてしまう。
「私のこのマントは、特殊なマントです。この程度の弓ならこのマントがよけてくれるでしょう…それにこの程度の怪我、我々、鏖殺寺院、そして『鬼太刀会』には何のデメリットにはなりませんよ…」
 紀は苦しい息の下、それでも強気な姿勢を崩さない。
「それならば…!」
 真人は火術を使い、紀を追い詰め、セルファが紀にフェザースピアで襲いかかる。
「赤ちゃんを返しなさい…!」
「く、くそう!」
 セルファはフェザースピアを器用に操り、紀の身体から麻袋の帯を絡め取り、自分の手元に引き寄せる。
「ドラゴニュートの赤ちゃんを取り戻したわ!」
「そうはいかへんで! べっぴんさん!」
「きゃあ!」
 喜んだのもつかの間、セルファの手からリリーがすぐ、麻袋を奪い返してしまう。 
そこに隠れ身でずっとチャンスをうかがっていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)がリリーから麻袋を奪取する。ルカルカはドラゴニュートの赤ちゃんを絶対に助ける! そう心に強く決めていたのだ。
「早く! ルカルカさん!」
 じっと様子を伺っていた北都がルカルカを禁猟区で守り、紀たちが気がつかないようにしていたのだ。
「ありがとう、北都!」
「な、なに!」
 ルカルカは麻袋を通してドラゴニュートの赤ちゃんの体温を感じ、その命の鼓動に安心すると共に泣きたいような気持ちになるが、それをぐっと抑え、麻袋をドラゴンアーツで思い切りカルキノス・シュトロエンデに放り投げる。
「あと、お願いっ!」
「任しとけ!」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が運転する軍用バイクが急接近し、サイドカーに乗っていたカルキノスがその麻袋を受け取った。沼地にもかかわらず、ダリルのドライビングテクニックでバイクは凄まじい勢いで駆け抜けていく。
「大丈夫か!? おちびちゃん!」
 カルキノスが慌てて麻袋を開けると、中にはつぶらな瞳のドラゴニュートの赤ちゃんがおびえたように、体をすくめているのが見えた。
「なんてこった…こんなにおびえて…」
「カルキ、このまま縁に渡すぞ、準備しろ」
 冷静にダリルがカルキノスを促す。
「ああ」
 カルキノスは冷静沈着なダリルに反し、ドラゴニュートの赤ちゃんが気になって仕方ないようで、ぎゅっと麻袋ごと、赤ちゃんを抱き締めた。


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