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夜をこじらせた機晶姫

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夜をこじらせた機晶姫

リアクション


chapter.11 2019/11/12 


 空に浮かんでいるのは、見事なまでの満月。
 ヒラニプラの外れで、生徒たちはグレイプが外に出てくるのを待った。そしてその場所には、瀬蓮たちと共にヴィネが辿り着いていた。
「グレイプ様は、出てくるでしょうか」
 エレーネが施設の入口を見て言った。
「出てきてくれるよ、だって、ヴィネがわざわざ会いに来てくれたんだもん。ね? ヴィネ」
 瀬蓮がエレーネの言葉に返事し、ヴィネの方を見る。そこには夜にも関わらず、ちゃんと動いているヴィネの姿があった。昼間よりもややぎこちない動きだが、それは紛れもなく夜でも機能することを証明していた。
「……なんだか、不思議な気持ちです」
 胸を押さえるヴィネ。その仕草は、心臓という器官がなくてもドクンドクンと脈を打つ音が聞こえてきそうな雰囲気を持っていた。
「後は、ヴィネが頑張るんだよ」
 ヴィネから離れ、少し遠くからそっと見守る瀬蓮、そしてエレーネと他の生徒たち。

 そして、辺りが静かになった頃、ゆっくりと施設の扉が開いた。
 中から、グレイプが姿を現す。その足取りはおぼつかず、杖をつきながら月の下へと出てきた。グレイプは目の前に立っている機晶姫を見る。その機晶姫は自らの足で動き、グレイプの下へやって来た。
「ヴィネ……」
 その機晶姫の名を、グレイプはゆっくりと呼んだ。
「あなたが、グレイプさんですか?」
 ヴィネが、目の前の老いた男性に問いかける。
「……あぁ、そうじゃ、わしがグレイプじゃ……」
 何から話せばいいのか分からず、グレイプはただ短く答えることしか出来なかった。そんな彼の耳に、音声が流れた。
「名前と外見を記録、照合しました。人物把握完了。グレイプ」
 そう、これは、ヴィネの意思とは無関係で、人物を記録する際自動で流れてしまう音声。それが流れ終わると、ヴィネは再びグレイプに質問をした。
「ひとつ……聞いてもよろしいですか」
「何じゃ、何でも聞いておくれ」
「……グレイプさんが記憶を初期化し、施設から出したのは、私がシステム的に問題のある、エラーを起こす機晶姫だったからでしょうか?」
 グレイプは一瞬驚いたが、即座に首を横に振った。
「そんなことっ……そんなことはない……!」
 ヴィネは、娘はそんなことを思っていたのか。私が自由を与えようと身勝手な親切心で行ったことを、この子はそんな風に捉えていたのか。グレイプの杖を持つ手から、力が抜ける。
「そうですか……なら、もし私がここでエラーを起こしてしまっても、嫌いにはなりませんか?」
「あぁ、お前を嫌いになんてなるものか……」
「では……先程照合を完了したばかりですが、今回だけ認証外の呼称をさせていただきます」
 グレイプの返事を聞くと、ヴィネはそう前置きしてから、はっきりとその言葉を口にした。
「……おとうさん」
 それを聞いた途端、グレイプの目から涙がこぼれた。杖を落とし、思わずヴィネを抱きしめるグレイプ。
 何から話して良いのか分からない。何を、どれだけ謝ったらいいのかも分からない。ヴィネに、何を聞いて良いのか分からない。グレイプの頭はしかし、ヴィネのその一言で真っ白になった。残ったのは、たったひとつの言葉だけだった。
「ありがとう。ありがとう、ヴィネ……」
 自らの体に涙が落ちるのをヴィネは感じた。自分に、それを流す機能はない。しかし彼女は、それがどういう時に流れるものかを過去のメモリから彼女なりに理解していた。過去のメモリ。それは、あの親子が映っていた映像。ヴィネは、あの時親がしていたように、グレイプをそっと撫でた。
「ははは、許してくれるのかヴィネ……ありがとう……ありがとうしか言葉が出ない……」
 涙は止まらないが、グレイプの口の端が上がったことで感情が変わったのだと認識した。ヴィネはそのまま、グレイプに抱かれながら頭を撫で続けていた。

「あの絵とほとんど同じ結末になったな。違うのは、ヴィネがちゃんと笑ってるってとこか」
 静麻が離れたところからふたりを見てそう漏らした。
「でも、本当に良かったぁ。ヴィネがグレイプさんに会う前に、もうひとつのメモリを見つけ出せて」
 瀬蓮がほっとした様子で言う。話は昼間に遡る。



 ヴィネに光を当てていた瀬蓮や他の生徒たちのところに、連絡が入った。それは、エレーネたちが聞き出したヴィネとグレイプの関係、そしてグレイプの告白についてだった。
 連絡を受け取った生徒たちは、全ての事実をヴィネに伝えるべきかどうか迷っていた。その時、凱の携帯に孫娘の未沙からメールが届いた。
『あたしの勝手な想像だけど……ヴィネさんのメモリって、本当にあれだけかな? メモリのパーツがそういう機能を持ってるかどうか分からないけど、もしかしたら、隠されたメモリとかが入ってたりしないかな、って思って』
 凱はすぐさま電話をかけ、未沙に詳細を尋ねた。
「うん、たとえば機械でよくあるパターンだと、何かパスワードを入力するとロックされてたデータが見れるようになったり。メモリ機能が外部のものだったら、そういうこともあるのかもしれないよ」
「ふむ……そのパスワードとは?」
 聞かれて、未沙は考える。簡単に口に出せるような単語じゃ、パスワードの意味がない。なら、あまりグレイプとかの名前関係じゃないはず……。そこで、未沙は気付いた。朝方、他の生徒が口にしていた言葉に。
「……エレウテリア。そう、言ってみて」
 そして、凱たちはヴィネの前に集まり、ある確認をした。
「もし、今まで隠されていたデータがあったとして……それが見つかったら、ご覧になりますか?」
 何の躊躇いもなく頷いたヴィネに、生徒たちは未沙から教えられた言葉を告げた。瞬間、機械音が聞こえる。
「ロックを解除しました」
「わあっ、ほんとにその通りだったね!」
 瀬蓮が驚く。そしてメモリ機能を確認した瀬蓮たちが新しく見つけたのは、今から5年以上も前に残されていたデータだった。

「これで……動くことは出来なくても、物事を記憶させることは出来るようになっておると良いんじゃが……」
「とりあえず、メモリ機能の搭載は上手くいったようじゃな。おお、こんなくだらないものを残しておいても仕方ない。もっと何か……ヴィネのためになるようなことを記憶させたいのう。せっかく機晶石部分以外は修理出来たんじゃからな」

 そんな老人の声が映像と共に流れ、ヴィネはそこでグレイプが自らの修理人……親であることを知った。同時に、なぜこの人物に嫌悪感を感じなかったかも。ヴィネはデータの奥底という無意識の場所で、グレイプを既に認識していたのだ。



 どれだけの間抱き合い、どんな会話をしていたのかはふたりにしか分からないが、ヴィネとグレイプはもう、親子としての空気をまとっていた。生徒たちの前にやって来て、改めてお礼を言うふたり。
「皆さん、本当にありがとうございました。私は今……幸せです」
 そんなヴィネの笑顔を見て、社、周、エルたち賑やかしの者たちが拍手と笑顔でヴィネを包む。
「うん、ヴィネぽん今、めっちゃいい笑顔で笑ってるで!」
「俺やっぱり、そういう顔してるヴィネちゃんが一番好きだぜ!」
「また光を浴びたくなったら、いつでもボクのところに来るんだよ、ヴィネさん!」
 一方のグレイプのところにはエレーネがやって来て、どこか安心したような口ぶりで告げた。
「あなたが機晶姫を大切にする方で、良かったです。これからも、私たち機晶姫を大事に扱ってください」
「あぁ、本当に今回はここの皆に助けられた。ありがとう」

 心からの笑みを浮かべるヴィネに近付き、話しかけたのは同じ機晶姫のイビーだった。
「私たちは作られた存在ですが、記憶はそうではありません。私たちの記憶は、私たちのものなのです」
 ヴィネはイビーの伝えたいことをしっかりと受け取った。記憶をつくって増やしていくのは、他の誰でもない、自分なのだと。生まれつき夜に動けなかったり、昼に動けなかったり。それは確かに大変なことで、そんな境遇に頭を抱える時もあるかもしれない。嫌な思いをすることもあるだろう。けれど、だからと言って楽しい思い出が増えないわけじゃない。自分で望めば、そんな記憶を増やしていけるのだ。
「皆さん、良ければ、一箇所に集まっていただけませんか?」
 ヴィネは生徒たちに、最後のお願いをした。その一言でヴィネが何をしたいか悟った生徒たちは、ヴィネの準備が整ったことを確認すると、声を揃えてある言葉を言った。皆の顔をメモリに収めようとしていたヴィネは、音声というオプションも追加されたことに目を丸くして驚いた。



 ずらっと並んだ生徒たち。彼らが声を響かせる。
「おめでとう、ヴィネ」
 生徒たちの笑った顔が映し出される。
「えっ……」
 小さくこぼれた自らの声。その数秒後、光のように明るいヴィネの音声が流れる。
「ありがとうございます! このメモリが自分の中にある、それだけで、動けない夜だって動けちゃう気がします!」
 メモリ作成日時:2019/11/12


担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加していただきありがとうございました。
〆切日を何時間か過ぎてる状態で今これを書いているため、おそらく公開予定日の時間通りには公開されていないものと思われます。
申し訳ございません。次回からはこのようなことにならないよう、スケジュール管理をしっかりしたいと思います。

今回シリアス系ということで(普通にコメディも入れてますけども)、判定についてちょこちょこ書かせて頂こうと思います。
他のマスターさんの全部は読んでないので断定は出来ませんが、おそらく私の場合判定は結構緩めだと思います。
今回ので言うと「MCは空京で聞き込み、LCは図書館で調査」なども目的が同じでLCの行動がMCの補助になっていれば採用しています。
ただ、採用はしますがこの場合キャラの絡みがMC-LCにほぼ固定されるので、MC同士の絡みが見たいという方には推奨出来ません。
今回サンプルで「空京で聞き込み」「個別で調査」などと分けたのは、プレーヤーさん同士で掲示板なりメールなりでやり取りして、
MC同士の絡みに使ってもらえればという考えがあったからです。とはいえMC-LCで絡ませたい方もいると思うので、
どちらが良い、悪いとかではなく、キャラを誰と絡ませたいかによって上手く使い分けて頂ければと思います。

調査系アクションは、前に「吸血鬼〜」を書いた時もそうでしたが、人数が多いと私の場合コメディパートを作って分ける傾向にあるようです。
面白くいじれそうな設定やアクションだと、そっち方面に振り分けられる可能性が高いです。
説得(質問)アクションも、シリアス系だと全員のを全採用するのは厳しいです。その他の場面で活かせそうな方はそちらで登場させています。
蛮族関係は、すいません私がサンプルを軽いノリにしたせいか予想以上にはっちゃけたアクションが多かったため、ああいうことになりました。
書いてて超楽しかったです。ただ蛮族シーンを何ページも書くわけには行かなかったため、
蛮族絡みのアクションの中に雑談要素が入っていたキャラは戦闘前の会話パートに割り振らせて頂きました。
序盤〜中盤の他に終盤でもセリフとかでちょこちょこ入ってきてたキャラは、良い感じにアクションがハマった方々です。

そして今回の称号は、LC含め全部で14人のキャラに送らせて頂きました。一定回数連続参加者やリアクション内の活躍者が主な対象です。
あと称号は付与してなくても、アクションに対する意見などを個別コメントでちょこちょこ送らせて頂きました。全員には無理でしたが。

最後に、今回も次回シナリオの告知させてください。
もうガイドが出て参加者も決まってますが、空賊関係のシリーズものをやることになりました。
しかも連動シナリオという試みに挑戦してみました。梅村マスターこれからよろしくお願いします。
それ以外のシナリオは、スケジュールに余裕があれば空賊シリーズの合間に出すかもしれません。
もし単発で何か出す場合は次回マスコメもしくはブログの方で告知したいと思います。ブログは「萩に地鶏身」で検索していただければ。
今回のリアクションの裏話とかも書くことがあれば後で載せるので、もし興味のある方がいましたら覗いてやってください。
そんな感じで、長文に付き合っていただきありがとうございました。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。