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学生たちの休日

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学生たちの休日

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    ☆    ☆    ☆
 
「きゃっ、きゃっ。ナンパ、ナンパ、ナンパされ〜」
 メインストリートをスキップしながら、川村 まりあ(かわむら・ )はうきうきと進んでいた。
「どっこかぁに暗い道はなぁいかな〜。いい男はいないかなぁ〜」
 大きなひまわりの髪飾りにも負けずに明るい小麦色の髪をゆらしながら、川村まりあはキョロキョロと周囲を見回しながら鼻歌交じりに言った。
 がたん。
 裏路地の方で何か音がした。
「なになになに?」
 川村まりあが確かめに行くと、積みあげられた段ボールの山を崩すようにして一人の男が倒れていた。何をされたらこうなるのか、結構ぼろぼろだ。
「どうしたん?」
 とりあえず、ハウスキーパーで、段ボールの山の中から救い出す。
「や、やあ。助かったよ」
 立ちあがった坂下小川麻呂が礼を言った。
「お礼と言ってはなんだけど、オレとデートなんかどうかな」
 状況など顧みず、坂下小川麻呂が初志貫徹する。
「えっ。あら。もちろん、喜んでいくしぃ〜」
「そうか、それは残念……えっ!?」
 どうせまた断られると思いこんでいた坂下小川麻呂が、思いっきり戸惑う。
「じゃあ、デパートでも行こうじゃん」
 すかさず坂下小川麻呂の腕をとると、川村まりあはうきうきして言った。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「みなさあん、元気ですかぁ」
 大きな胸をゆらしながら、大谷文美(おおや ふみ)が、空京デパート屋上ステージに集まった子供たちにむかって叫んだ。空京旅行社に勤める彼女は、今日は母校の蒼空学園の飛空艇ガイドではなく、空京デパートで行われているヒーローショーで司会のお姉さんをしている。まったく、仕事が選べないつらい立場だ。
「まさか、こんなショーがやっているとは思わなかったですね」
 やっと食事にありつけた緋桜遙遠は、そばのステージで繰り広げられるショーに、ちょっと戸惑いながら言った。デパートの屋上のジャンクフードで食事を済ますのも大概だが、女の子連れとしては、あまりほめられたシチュエーションではないだろう。
「別に、一緒に居られるだけで楽しいですよ」
 だが、紫桜遥遠の方は、あまり気にしてはいないようだった。
 
「そんなに落ち込まなくても。また、買えるチャンスはいくらでもありますよ」
「でも、限定復刻版の変身ベルトは、生産数が……いや、なんでもない」
 大神 愛(おおかみ・あい)に慰められつつも、神代 正義(かみしろ・まさよし)はまだ完全には気持ちを吹っ切れないでいるようだった。彼にとって激レアのグッズを買いにわざわざ空京デパートまでやってきたまではよかったのだが、売り場は子供たちの大群に埋め尽くされていたのだ。マニアだったら、そんなガキは蹴散らしてでもお宝グッズを手に入れるところだが、正義の味方としてはとうていそんなことはできない。
「将来のヒーローとなるべき子供たちの夢は奪えないぜ。きっと、彼らの中から、いつかオレの跡を継ぐ者が出てくるに違いないしな」
 いや、それはないだろうという言葉を、大神愛はあえて口にしなかった。
「さあ、みんなで正義の味方パラミたんを、大声で呼びましょぉー」
 司会のお姉さんが大きな声で叫んだ。わずかに遅れて、子供たちが唱和する。
「そこまでよ。これ以上の非道は、この機動機晶姫パラミたんが許さないわ」
 全身黒タイツの戦闘員にむかって、突然現れた仮面の少女がポーズをつけながら言った。
「うーん、台詞やポーズのキレが今一つ……」
 神代正義は、何かいろいろ言いたくてうずうずしているようであった。
「どうどうどう。今は、正義さんのショーじゃありませんからね」
 大神愛が、なんとか神代正義をなだめる。
「なんだー、マジカルホイップちゃんじゃないじゃん」
 ショーを見ていた川村まりあが、ちょっと残念そうに言った。
「ふっ、悪の手先だろうがパラ実の不良だろうが、このシャンバラ教導団にその人ありと言われたこのオレがいれば簡単にけしらしちまうんだぜ」
 自慢げに坂下小川麻呂が言った。だが、それが取り返しのつかない失言となる。
「なによ、あなたシャンバラ教導団だったの」
「ああ、そうだ」
 まだまだ自慢げに、坂下小川麻呂は胸を張った。
「じゃあ、敵じゃん」
 指で拳銃の形を作って、川村まりあが坂下小川麻呂をパーンと撃ち殺すまねをする。
「へ?」
 予想しなかった展開に、坂下小川麻呂の目が点になる。
「だって、私パラ実生だしぃ。じゃあね、今度会ったらシメるから」
「ちょっちょっと」
 さっさと帰ろうとする川村まりあを、坂下小川麻呂は、あわてて追いかけた。
「くるんじゃねえ」
 川村まりあが走って逃げる。
「トランスパラミたん!」
 ステージでは、仮面の少女役の俳優がついたての陰に台詞とともに飛び込んだところだった。段取りとしては、入れ替わるようにして変身後の正義の味方が現れるはずであった。
「機動機晶……ああ!」
 変身後の俳優さんがステージに飛び込もうとしたところで急に突き飛ばされて転倒する。
「もう、ついてこないでよ」
「そんな、急に、それはないだろ」
 おいかけっこの末にいつの間にかステージの上にあがってしまった坂下小川麻呂が、川村まりあの腕をちょっと乱暴につかんだ。
「嫌ぁ。放せよー!」
 川村まりあが、抵抗して身をよじった。
「ああ、悪い人が、美少女を襲っていますぅ。パラミたんはどうしたのでしょーかー」
 司会のお姉さんが、おろおろしながらも、なんとか適当に間をつなごうと努力する。
「そこまでだ!」
 不意に、ステージ全体に、張りのある声が響いた。
「あっ、いない……」
 大神愛は、いつの間にか姿を消したパートナーに頭をかかえた。
「着装! パラミタ刑事シャンバラン!!」
 叫び声とともに、神代正義がシャンバランの仮面をかぶる。
 解説しよう。パラミタ刑事シャンバランは0.01秒で、場の空気を自分の世界に引きずり込むことができるのだ。
「おいおい、お前、神代だろう」
 さすがにシャンバラ教導団の有名人、坂下小川麻呂が神代正義のことを名指しする。
「違う。オレはシャンバランだ。貴様、いたいけな少女に対して何をしている。さあ、早くその手を放したまえ」
 赤いマフラーをビル風になびかせながら神代正義、いや、パラミタ刑事シャンバランは言った。
「いや、これはだなあ……」
「悪、認定!」
「お、おい」
 そんな一方的なと、川村まりあの手を放した坂下小川麻呂が身構える。
「シャンバランダイナミィィィック!! 悪は滅びろ!!」
「ぐわぁぁぁぁ!」
 すでに、ステージは機動機晶姫パラミたんショーから、完全にパラミタ刑事シャンバランショーに様変わりしていた。
「珍しい物が見られましたね」
「うん、楽しいからオッケーですよ」
 焼きソバをほおばりながら、緋桜遙遠と紫桜遥遠は楽しそうに言った。