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リアクション
第4章 虫達との激闘
第三階層は、第一や第二と違い薄暗い場所だった。
森と言うよりは、ジャングルといった雰囲気だった。
その中を、ガサガサと草木を掻き分けている、赤羽 美央(あかばね・みお)。
いつもの、ボーっとした雰囲気は無く、必死に木や葉っぱをジロジロと見ている。
「毛虫はどこですか? 可愛い毛虫はどこですか?」
ブツブツと呟きながら、毛虫を探す美央。
そこに、巨大なダンゴムシの『スパイクボール』が現れる。
身体に無数の硬いトゲをもつ巨大なスパイクボールが、美央に向かって転がってくる。
「邪魔ですよ」
美央は高周波ブレードで、回転するスパイクボールの触覚を切り落とす。
スパイクボールは、パタリと倒れて、気絶してしまう。
「毛虫はどこですか? 可愛い毛虫はどこですか?」
再び捜索を開始する、美央。
そこに、大きいカマドウマの『オオカマドウマ』が現れる。
「邪魔ですよ」
美央は高周波ブレードで、一刀両断にする。
「毛虫はどこですか? 可愛い毛虫はどこですか?」
そこに……。
……。
美央はふう、と一息つく。
振り返ると、虫達の残骸が累々と転がっている。
「まずは、ボスを殺りますか……」
美央は、ボーっとした表情になり、ボスを探しに進み始める。
「今からでも遅くないと思いますわ」
ポソリと呟いたのは、メアリー・ブラッドソーン(めありー・ぶらっどそーん)だった。
「あかん。ヒーローが怪人と戦うなんて、普通やん」
そう答えたのは、ソラ・ウィンディリア(そら・うぃんでぃりあ)だ。
「俺の意見は聞いてくれないのか?」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)が言う。
「でも、お姉さま。ここは私たちには、レベル的にはキツイと思いますわ」
「そんなことをいうたら、四階層なんて、もっと無理ちゃう?」
「それは、そうでけど……」
「……俺は、空気なんだろうか」
「それにまあ、ここだと色々都合ええやろ」
「なんですか? 教えて欲しいですわ」
「……。色々や」
「ん? ちょっと、二人とも止まれ」
陽一がそう言うと、メアリーとソラがピタリと動きを止める。
「どうしたん?」
「……お客だ」
すると突然目の前に、蟷螂の『カマキリッパー』が現れる。
「……なんや。強そうやん」
「お姉さま!」
「わかっとる!」
二人は大きく息を吸う。
二人は『召着』という音声コード入力によって、青と白を基調にした戦闘用ミニスカートウェディングドレスを召喚し身に纏った【魔法戦士ブルーブライド】に変身するのだ。
「召着変身ブルーブラ……ミギャー!」
カマキリッパーの鎌が、ソラの頭を直撃する。
「名乗りポージング中に攻撃すなー!」
しかし、カマキリッパーはさらに攻撃を続けてくる。ソラは攻撃を避けながら、叫ぶ。
「コラー! 虫だけに無視すなー!! ……なんちゃって☆」
「ま、まさか……。お、お姉さまはそれが言いたくて、ここに……?」
ビクリと体を震わせるソラ。
「そ、そんな、わ、訳、な、……ないやん」
「そうですわよね? いくら、お姉さまでも、そんなこと言いませんわよね?」
「ううぅ……」
なぜか、涙目のソラ。
「そ、それよりもヤバイですわよ。お姉さま」
「わ、わかっとる」
カマキリッパーの攻撃は素早く、また連続で繰り出されるので、二人はなかなか変身ができずにいた。
その時、ソラが足を滑らせる。
「ヤバっ」
転んだソラに、カマキリッパーが迫る。
「お、お姉さま〜!」
メアリーが駆け付けようとするが、間に合う距離ではない。
ソラは覚悟して、ギュッと目をつぶる。
だが、いつまでたっても、衝撃が来ない。恐る恐る目を開けるソラ。
グラリとよろめき、倒れるカマキリッパー。
陽一がカマキリッパーの堅い外骨殻の隙間を縫うようにして、スナイパーライフルを打ち込んだのだ。
「まあ、相手がどんなに強かろうが、戦い方を工夫すればなんてことは……」
「お姉さま。もう気が済みましたわよね? 怪人たちと戦いに行きましょう」
「いやや」
口を尖らせ、プイっと横を向くソラ。
「まさか、さっきの発言を怒ってんですか?」
「……ふん」
「あー、えーと、お礼もなしなのか?」
陽一の呟きが、空しく響く。
「ふん!」
鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)の繰り出す一撃が、トカシグモを粉砕する。
「どうやら、ボスの居場所が近いようだな」
真一郎が前を見ると、ワラワラと虫たちが現れる。
「まあ、間違いないでしょうね」
斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)が、『アトラスパララアント』に銃弾を打ち込みながら言う。
「相手も必死なのですね」
ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が薙刀で、『アトラスパララアント』を蹴散らす。
「ボス戦を前に、消耗するのはうまくないな」
「……ですね」
真一郎の言葉に、コクリと頷く、邦彦。
「ふふ。それでは、私たちに任せてください」
含みのある、妖しい笑みを浮かべて前に出てきたのは、明智 珠輝(あけち・たまき)だった。
「みなさんは先に進んでください。それでは行きましょうリアさん」
「え? ぼ、僕もなのか?」
顔を引きつらせているのは、リア・ヴェリー(りあ・べりー)だ。
「何ですか、リアさん。まさか虫が嫌いなのですか? 可愛らしいですね」
「そ、そんなことあるわけないだろうがっ」
「それなら行きましょう。ふふ」
「く、くそ……」
珠輝とリアが、『アトラスパララアント』を蹴散らし、道を作っていく。
「ふ、ふふ。楽しくなりそうですね、リアさん…!」
「珠輝っ、あんま先に行くな馬鹿っ!」
「く、ふふ、ふはははあははああ!!」
「うわ、何かついた。変なのついた!」
珠輝が次々と蹴散らし、道を作り、ボス戦に温存している生徒たちがその道を通り抜けていく。
涙目で虫を蹴散らす、リア。
「終わったら洗おう、物凄く洗おう…」
「周りの虫など視界に入れず、私だけを見ていてくださいね、リアさん。ふふ」
「珠輝…わざと3層選んだだろう!」
「ふふ、ふはははあははああああ!!」
「もぉ無理もぉヤダホント無理。気が遠くなる……」
その時、リアの周りにいる虫たちがバタバタと倒れていく。
攻撃したのは、邦彦とネルだった。
「え? 君たちは先に行かないのか?」
リアがそう言うと、邦彦がニヤリと笑う。
「ええ。ここを食い止めるのも、この任務の要ですからね」
そこで、気が抜けたのか、リアはヘナヘナと腰がくだけて座り込む。
「良い、彼をお持ちですね」
ネルが微笑む。
「え? べ、別に珠輝とは、そんなんじゃ……」
顔が真っ赤になるリア。
「ああやって、異常者を装っているが、一番地味で大変な任務を引き受けるなんて、なかなかできるもんじゃありません」
邦彦が虫たちを撃ちながら、言う。
「そう。珠輝はいつも、損な役割を自分で買ってでるんだ」
「そうですか。素敵だと思いますよ」
「なあ、本当にボスを倒しに行かなくていいのか?」
「私たちの目的は、『シャーウッドの森』空賊団の知名度を上げることですからね」
「それなら、なおさらボスを倒した方がいいんじゃないか?」
「そうでもありませんよ。信頼がない100人より、信頼できる2人の方がずっと有益になりますからね」
「え?」
「何かあった時には、『シャーウッドの森』空賊団まで」
ニヤっと笑う邦彦。
「ああ。わかった」
笑顔で応えるリア。
先に進んでいる真一郎たち。
そこに、立ちはだかったのは巨大なカブトムシだった。
体には赤いラインが入っている。
ピタリと立ち止まる真一郎。
「どうしたんですかぁ?」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が間延びしたのんびりとした口調で言う。
「ここは俺に任せてくれ」
「分りましたですぅ」
メイベルたちが、カブトムシの横を通り抜けていく。
カブトムシも、彼女達を攻撃する意思はないようだった。
真一郎がカブトムシを見あげる。
「おまえ……ナガンだろ?」
角を天高く持ち上げるナガン。
ナガンには数ある古傷があり、角が改造により歪な形になっている。体はプロテクターに覆われフルアーマーナガンとなっていた。
「お前、あの時のこと気にしてるのか?」
真一郎は以前、『公式ムシバトル』でナガンと共に出場したのだ。
クワガタとの因縁の対決。しかし、結果はナガンの負けであった。
そして、ムシバトル敗北以後、来年の大会の為に強くなる!と武者修行に出たはずのナガン。
そのナガンが、ここにいると言うことは、意味することは一つしかない。
「すまないな。お前をここまで追い詰めちまった。俺も飼い主の責任を果たそう」
真一郎は笑みを浮かべる。上着を脱ぎ、そして胸の前で両拳をぶつける。
「修行の成果、見せてもらおうか」
真一郎とナガンが地を蹴ったのは、ほぼ同時だった。
ナガンの角をかわし、真一郎はアーマーの隙を狙って、拳を打ち抜く。
ガクンと体勢を崩すが、すぐに反撃してくるナガン。
素早く、するどいナガンの角を避けることができず、真一郎は右腕でガードする。
だが、その攻撃は重く、真一郎は後方に飛ばされる。
空中で回転し、着地する真一郎。そこに、ナガンが迫る。
「……ナガン。確かにお前は強くなったよ。けどな」
真一郎がナガンの後方へと回りこむ。アーマーの死角に真一郎が入り込んだため、ナガンからは見えない。
その隙をついて、拳を打ち込む真一郎。
倒れるナガン。
動かないナガン。そのナガンを見下ろすように立つ真一郎。
「お前はアーマーを着込むことと、改造したことで、それに頼りきっているんだ」
ナガンの体がビクリと震える。
「お前の求める強さっていうのは、そんなものなのか? 何かに頼ることが強さになるのか?」
真一郎が吠える。
「お前の強さは、こんなものじゃない! 本当の強さを俺に見せてみろ!」
起き上がるナガン。そして、ナガンは思い切り木に体当たりする。
すると、体を覆っていたアーマーが剥がれ落ちる。次に角を木に当て、改造した部分を破壊する。
「よし、そうだ! 来い! ナガン」
ナガンが全力で真一郎に向かって突進してくる。
それを受け止める真一郎。
倒れている真一郎。
ナガンが見下ろすように佇んでいる。
「強くなったな、ナガン。これで来年は優勝だ」
ナガンは咆哮をあげるように、角を高く掲げた。
「うーん。結局私たちだけになってしまいましたねぇ」
緊迫感ゼロの、のんびり口調でつぶやくメイベル。
「みんな頑張ってくれてるんだもん。僕たちだってがんばろうよ」
気合十分のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)。
「そうですわ。皆さんのためにも、わたくしたちがボスをやっつけましょう」
やや、ほんわかな感じのフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)。
「別に頑張らないと言ってるわけじゃないですよぉ」
「あ、メイベルちゃん、ストップ」
「ええ? なあにぃ?」
突然上から、悪夢のような巨大クモ『グランチュラ』が現れる。
その巨大な体躯はメイベルたちの5倍はありそうだった。
「ボスは、クモなんですねぇ」
「うん。そうみたいだね」
グランチュラは獰猛な牙をカチカチと鳴らしている。
「メイベルちゃん。どうするの?」
「はい。私、ちゃんと考えてきましたよぉ」
そう言って、取り出したのは大き目のひょうたんだった。
「この中にガソリンが入ってるんですよぉ。これで火を起こせば一コロですぅ」
「うん。早くした方がいいと思うよ」
「……そうですわね」
今にも攻撃してきそうなグランチュラ。
「んん〜。フタが取れないですぅ」
メイベルが、真っ赤な顔をしながらひょうたんのフタを取ろうと必死になっている。
「きつく締めすぎだよ」
セシリアがそう言うと同時に、グランチュラが足の爪で襲ってくる。
「わぁ〜、大変ですぅ」
だが、メイベルはその爪をヒョイと避ける。
グランチュラがセシリアやフィリッパにも爪で攻撃してくる。
「ちょっと、メイベルちゃん、早くしてよ」
「そうですわ」
グランチュラの攻撃を避けながら、叫ぶセシリアとフィリッパ。
「ちょっと、待ってくださいですぅ」
フタが取れなくて、涙目になるメイベル。
その戦いの様子を、木陰でジッと見ているヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)。
「なんなの。あれ?」
顔をしかめながら、ヴェルチェが呟く。
「あれが戦いなの? どうして、あんなポワってしてそうなのに、攻撃を喰らわないのよ」
グランチュラの攻撃が遅いわけではない。ヴェルチェですら、ギリギリ目で追えるほどの速さなのだ。
それなのにメイベルたちは、まるで攻撃を見切っているかのように、避けている。
「ちょっと、どういうことよ?」
ヴェルチェが後ろを振り返る。そこには、薄茶色の奇麗な髪を梳かすクレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)の姿がある。
「わらわに聞かれてものう」
「……どうしようか? 手、貸したほうがいいかな?」
「ヴェルチェは、手を貸すのが嫌みたいじゃな?」
「まあ……ね。だって、報酬も出ないみたいだしさ。正直、もう帰りたいって思ってるのよね」
「わらわもじゃ、ヴェルチェ。さっさと調査を済ませて戻ろうぞ? 段々、気持ち悪ぅなってきたわ……」
「同感。ムシの体液とかキッタナイしさ、報酬出ないなんて、マジやってらんないわ」
「帰ろうかの」
「……そうね」
「メイベル様、そろそろわたくし、疲れてきましたわ」
「うん。僕も」
肩で息をしているセシリアとフィリッパ。
そう言いながらも、危なげなく攻撃をかわす二人。
「ううぅ。この、フタが……」
攻撃が当らないグランチュラがイラついたように、全身を覆う紫の刺激毛を飛ばしてくる。
「これはちょっと、危ないですわ」
避け方に、余裕がなくなってくるセシリアとフィリッパ。
そして、唐突に、再び爪で襲い掛かる。
「わ、危ない!」
フィリッパに襲い掛かる、グランチュラの爪。
だが、その爪はフィリッパに届くことはなかった。
鈍い金属音が響き、グランチュラの足が宙にまう。
「もう、危なくて見てられないわ」
近距離ドラゴンアーツを装備したヴェルチェが、グランチュラの前に立つ。
「ビックリしましたわ。ありがとうございます」
「これで一つ貸しってことでいいわよね?」
「はい。いいですわ」
「……なんか、調子狂うわね」
「フィリッパちゃん、大丈夫?」
セシリアがフィリッパに駆け寄ってくる。
「なんじゃ、ヴェルチェ。結局手伝うのか?」
「うるさいわね」
「まあ、わらわも早く帰りたいからの。協力してやろう」
クレオは氷術を放ち、グランチュラの足を全て凍りつかせる。
さらに、雷術で本体を攻撃する。だが、グランチュラはびくともしていない。
「ほう。固いのう……」
「感心してる場合じゃないわ。ちょっと、そこの可愛子ちゃん」
「え? わたしですかぁ?」
不意に声をかけられ、僅かにだけ目を大きくさせるメイベル。
「そのひょうたんを、あいつのところまで投げて」
「え? はい。分りました」
メイベルは言われたまま、ひょうたんをグランチュラの頭上に投げつける。
ヴェルチェは、そのひょうたんを遠距離ドラゴンアーツ・光条の鎖で割る。
中のガソリンがグランチュラにかかる。
「なるほどですねぇ」
メイベルは感心すると同時に、火術をグランチュラにおみまいする。
一気に燃えさかる、グランチュラ。
炎を見ながら、ヴェルチェが息を吐き、座り込む。
「なんか、ドッと疲れたわ」
「わらわもじゃ」
こうして、第三階層の制圧が完了した。
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