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リアクション
第5章 改造人間の街
「来たっス、来たっスよぉ」
サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は拳をブルブルと震わせている。
第四階層は、街のような空間だった。だが、人が住んでいるような様子はなく、ゴーストタウンのようだ。
「なんだか燃えてきたッスよー!!」
サレンは拳を振り上げながら、誰もいない道路をズンズンと進む。
通りを曲がろうとした瞬間だった。急にビルの壁が壊れる。
「ムッ、なんスか」
壊れた壁の方を向くサレン。ビルの穴から出てきたのは、『ラリギンチャク男』だった。
上半身が巨大なイソギンチャクの男。ブーツ、タイツにパラ実校章入りバックル付きベルトを装備している。
「これは、まさしく怪人っスね。さっそくこれの出番っス!」
サレンは通信販売で買った変身セット取り出して、腰に巻く。
「とあぁ〜っス」
サレンが決めポーズをすると、変形が始まる。そして、ラヴピースに変身する。
「愛と正義のヒロイン・ラブピース、ここに参上ッス!」
さらに、決めのポーズをすると、サレン……ラブピースの背後がドーンと爆発する。
「き、決まったっス」
感無量のラブピース。
「それでは、さっそく怪人を倒すっスよ」
ラブピースはラリギンチャク男に向かって走り、必殺のアクセルパンチを放つ。
だが、サッと避けられ、逆に触手で反撃される。
「くっ、やるっスね……。けど、まだまだっス!」
ラブピースは、何度もラリギンチャク男に突っ込む。
だが、攻撃はなかなか当らず、触手で反撃されてしまう。
ラリギンチャク男の攻撃力は弱いため、ラブピースは何とか倒されないといった状況だった。
「くそっス。こんな、中ボスっぽいヤツのくせに強いっス。けど、諦めないっス!」
再び、ラリギンチャク男に向かって走ろうとした時だった。急に膝がガクンと落ちる。
「な、何スか?」
ラリギンチャク男の触手には毒があり、刺胞に刺されると気持ちよくなるのだ。
変身していたおかげで、今まで毒の耐久性があったが、何度も喰らったため、効いてきたのだ。
ラリギンチャク男がジワジワとラブピースに近づいてくる。
「や、ヤバイっス」
その時、物陰から人影が飛び出だしてくる。
その人影はラリギンチャク男を掴み、背負い投げで投げ飛ばす。
ラリギンチャク男はコンクリートに叩きつけられ、動かなくなる。
投げ飛ばした人影は、弐識 太郎(にしき・たろう)だった。
「……大丈夫か?」
太郎はラブピースに手を差し伸べる。
しかし、ラブピースはその手を取らず、ブルブルと肩を震わせている。
「なんなんスか! そのヒーローみたいな登場の仕方は!」
「……?」
「ずるいっス! それは私の役目っスぅ〜」
バタバタと暴れだす、ラブピース。
「……いや、その、……すまん」
「謝って済むなら、ヒーローはいらないっス〜」
「……まいったな」
太郎が気まずそうに頬を掻く。
ラブピースの悔しがる声はしばらく続いたのだった。
「あぁ、全くつまんねぇぜ。誰も見つかんね」
吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)はイライラしながら、町を闊歩していた。
同じ層の参加者に「誰が一番モンスターを倒せるか勝負だ」と競おうとしたが、誰も見つからないのだ。
そもそも、この階に来た人数は少ない。さらに、この第四階層は入り組んだ街のため、なかなか人にも会いづらいのだ。
「ちっ、こりゃ、怪人を倒しまくって、ストレス発散するしかねーな」
しばらく歩いていると、目の前に『トロールモドキ』が現れる。
「あん? なんだてめぇ?」
トロールモドキの姿は、力士が緑色に変色したような感じだった。
トロールモドキは、有無を言わさずに、持っていた棍棒で殴りかかってくる。
「ほう。オレさまに楯突こうってのか?」
竜司は、血煙爪で応戦する。すると、棍棒と血煙爪が絡みついて、飛んでいってしまう。
お互い素手同士になる。
「へへ、おもしれぇ。男は拳で勝負だぜ」
素手で、殴りあう竜司とトロールモドキ。
勝負はまさに互角だった。交互に拳を交換する。
無限に続くと思われた勝負だったが、不意に竜司の拳がトロールモドキの顎にヒットする。
崩れ落ちるトロールモドキ。
そんなトロールモドキに竜司にはニヤッと笑みを浮かべる。
「良い勝負だったぜ」
竜司は止めを刺すことなく、歩き出す。
そして、通りを曲がった瞬間、竜司の膝が笑い出し、地面に四つん這いになる。
「ほんと、危なかったぜ」
竜司はビルの壁によしかかり、空を見上げる。
「少し、休憩だ」
ゆっくりと目を閉じる竜司。
「はい、ダメですわ。こちらもダメ。問題外ですわ」
次々と怪人たちをダークネスウィップで蹴散らす崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)。
「なかなか、可愛い子がいないですわね」
積みあげられた怪人たちの残骸に腰をかけて、ふう、と息を吐く亜璃珠。
残骸の中には、『怪人スケコマシ』や『苦路羅(クジラ)』、『チャンバラン』などが埋まっている。
亜璃珠はペットになりそうな改造生物を探しているのだ。かわいい女の子タイプを狙っている。
「まあ、しょせんは怪人ですからね。高望みなんですかね……ん?」
亜璃珠は建物の影に隠れている、女の子を見つける。
「あら、可愛らしいですわね」
亜璃珠は、怪人たちの山から降り、女の子の方へと奔る。
すると、女の子は「キャッ」と声をあげて逃げてしまう。
それを見て、亜璃珠は体をゾクゾクと振るわせる。
「良いですわ」
女の子の後を追う亜璃珠。すると女の子は、袋小路に佇んでいた。
「来ないでぇ〜」
十歳くらいの女の子だった。翡翠色のロングウェーブヘアと瞳。そして褐色の肌。
つぶらな瞳に涙を溜めた姿は、亜璃珠の心を打ち抜いた。
「大丈夫ですわ」
ゆっくりと近づいていく亜璃珠。
すると女の子は、突然、『召着』と叫んだ。すると、闇属性エネルギーでできた強化ミニスカートウェディングドレスを瞬時に纏った。
女の子は、光条兵器と対の闇条兵器を操る【闇の花嫁】。施設で生れた人造人間、『ダークブライド・クロエ』だった。
「こ、こわいよ〜〜〜」
体を震わせて、涙声で叫ぶクロエ。
そんなクロエに、亜璃珠はニコリと微笑む。
「怖がることはないの。ちゃあんと、優しくしてあげる」
「……え? ほ、ほんと?」
クロエが涙を拭きながら、問いかけてくる。
「もちろんですわ。私の所に来れば、こんな瓦礫の中よりずっと幸せな生活が出来ますわ……」
「クロエのこと、いじめない?」
不安げに見あげるクロエに、笑顔で応える亜璃珠。
するとクロエは変身を解いて、亜璃珠に抱きついてくる。
亜璃珠はクロエの頭を撫でながら、ポソリとつぶやく。
「うまく、いきましたわ」
亜璃珠の笑顔が、少しだけ悪い人のものになっていた。
「42……、43……、44……」
景山 悪徒(かげやま・あくと)が数を数えるたびに、怪人の屍が増えていく。
『ミスクリエーション』その姿は体毛のない人間で、悪の組織の戦闘員のような、簡単な仮面を付けている。
一体一体は強くないが、とにかく数が多い。
「48……、49……、50……」
黙々と怪人たちを屠っていく悪徒。
その姿をただ、ジッと見ている小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)。
小型大首領様は、悪の秘密結社「ダイアーク」の大首領に直通電話を繋げる事が出来る携帯端末型機晶姫なのだ。
しかし、電話がつながっていない時は、特に何も声を発することはない。
パラ実改造科調査の情報を聞きつけ、急いで景山に指令を与える大首領様。
その内容は「合成したのはいいが見事に失敗して、廃棄した我らの組織の怪人がいてな。組織の存在が明るみに出ない内に、我らの手で処分してくるのだ」というものだった。
しかし、悪徒は肝心の怪人の特徴を聞くのを忘れていたので、こうして出会った怪人を全て狩っているのだ。
「61……、62……、65……。むぅ、間違えた。63か? だが、今狩ったから……。もういい、面倒くさい。数えるのは止めだ」
さらに黙々と狩り続ける悪徒。
ジッとそれを見つめる小型大首領様。
そこに、またミスクリエーションの追加が現れる。
「ええい。まだいるのか! 一体どうなっているのだ」
黙々と怪人を狩っていく悪徒。
ただ、それを見ているだけの小型大首領様。
そして、時間だけが過ぎていく。
地下に続く階段を降りていく、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)。
「懐かしい感じがするぜ」
ナガンは改造科所属【改造人間】なのだ。
改造科では目と髪の色変えた程度で他は自己改造しているので、ここにいる怪人とは本質的には違う。
だが、ナガンはこの研究所の探索聞いた瞬間、体の中の改造人間の血が騒いだ。
どちらが優れているのか。ただ、それだが知りたかった。
階段を降りると、大きな扉が佇んでいる。
扉の向こうからは、ビリビリと殺気を感じる。
「おもしれえ」
ナガンはドアを蹴り破る。
扉の向こうの部屋は、どこか闘技場を彷彿させるようなつくりになっていた。
丸い部屋で、中央に同じく丸い石作りの闘技場が置いてある。
その中央にいるピエロのような怪人がペコリと頭を下げる。
「いよう兄弟共!久しぶりだなァ!」
ナガンは、そう言って闘技場へと飛び乗る。
「さあて、派手にやろうや」
ナガンがそう言うと、ピエロがゆっくりと顔を上げる。
姿はピエロのようだが、顔はのっぺらとしている。だが、そのピエロはナガンをじっと見ていた。
すると、のっぺらとした顔にナガンの顔が浮かび上がってくる。
「ちっ、シェイプシフターかよ」
『シェイプシフター』は対峙した相手に合わせてレベル、タイプ、スキルが変化する怪人だ。
「やっかいな相手だぜ」
ナガンの顔をしたシェイプシフターが、獰猛な笑みを浮かべる。
「いいぜ。やってやるよ」
ナガンが拳を繰り出す。だがシェイプシフターは寸前で避けて、カウンターを放つ。
「ちっ」
そのカウンターの拳を寸前でかわすナガン。
今度は連続で拳をくりだしていくナガン。シェイプシフターも同じく拳を出してくる。
十分が過ぎた頃。先に膝を落としたのは、ナガンだった。
膝を落としたナガンに、シェイプシフターは無表情で見下ろしている。
ナガンは口元を流れる血を拭い、立ち上がる。
「久々に堪能したぜ」
ニカッと笑うナガン。
「なあ、ナガンとシェイプシフターの違いってわかるか?」
何も答えないシェイプシフター。
「感情があるか、ないかだ。感情は戦いには不要というヤツがいるがそうじゃねえ」
シェイプシフターは止めの一撃をナガンの顔面に放つ。
だが、ナガンはその拳が届く前に、シェイプシフターの顔面に拳を打ち込む。
倒れたまま、動かなくなるシェイプシフター。
「感情の高ぶりってヤツは、潜在能力を超えるんだよ」
不敵に笑う、ナガン。
「うぉおおおナガンが一番だぁああああ!」
勝利の雄叫びを上げる。
ナガンがボスと戦っている頃、棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)は図書館の中の本棚の前に佇んでいた。
本棚には、扉がついていて、どうやっても開かない。
「うーむ。ここだと思うんじゃけんのう」
瓦礫下食糧問題の秘密を知ってそうなボスを倒して、農業科に技術を持ち帰るんじゃ、と意気込んできた亞狗理。
だが、ボスを見つけるよりも先に、技術が載っていそうな図書館を見つけ、何とかこじ開けようとしていた。
他の生徒は怪人と戦いを繰り広げていたが、亞狗理は亞狗理で、独自の戦いをくりひろげていたのだ。
「ここは爆薬を使うしかないかのう? じゃが、それで中の書物も吹き飛んだらまずいしのう」
そんなことを考えている時だった。突然、そのドアが開く。
ナガンがボスを倒したのだ。
「なんだか、知らんがラッキーじゃのう」
さっそく、本を手にとって開く。
「……」
亞狗理はがっくりと、両手と両膝をついて、うな垂れる。
本の中身は、怪人たちの日記だった。
こうして、様々な戦いが終わり、第四階層は制圧された。
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