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【2020ひなまつり】雅なお祭りのひととき

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【2020ひなまつり】雅なお祭りのひととき

リアクション



●こちらも負けじと盛り上げちゃいます

(ひな祭りねぇ……来てはみたけど、女の子ばかりで落ち着かないなぁ……)
 長机の前に腰を降ろしたアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が、華やかな雰囲気の中落ち着かなさげに辺りに視線をさ迷わせる。アンドリューを誘ったフィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)葛城 沙耶(かつらぎ・さや)は、早々に料理と飲物を持ってくると言って一緒に行ってしまった。
「お待たせしました、アンドリューさん! 見てください、どれも美味しそうな料理ですね」
「飲み物ももらってきたわ。ええと……『魔性の一品』? 変わった名前ね。ま、とりあえずいただきましょ」
 両手に料理と飲物を携えて、フィオナと沙耶が戻ってくる。机に料理が並べられ、そして三人、賑やかな時間が流れていく。
(まぁ、二人が楽しんでくれるなら良いかなぁ。……それにしてもこの飲み物、何だろう? 葡萄酒の味がするけど見た目は違うし。美味しいからいいけどね)
 杯を空けたアンドリューがお代わりをもらおうと手を伸ばす。その手が瓶を掴む前に、フィオナに絡め取られる。
「えへへ〜、アンドリューさんっ」
「ど、どうしたんだい、フィオ」
 腕に腕を絡ませるように身体を寄せてきたフィオナは、『魔性の一品』に取り込まれたらしく顔を真っ赤にしていた。
「ん〜、アンドリューさんは、私のことどう思ってますか〜?」
「ど、どうって……」
 アンドリューが答えられずにいると、フィオナがあからさまに機嫌を損ねて愚痴を漏らす。
「もう! アンドリューさんはいつもそうやってはぐらかすんです! 今日こそはっきり聞かせてもらいますよ!」
「そ、そんなこと言われても……あれ、沙耶は?」
 助けを求めるように視線を向けた先に、沙耶の姿はない。
「沙耶ちゃんのことなんていいんです! さあ、アンドリューさん、答えちゃってください!」
「……聞き捨てならないわね。フィオナさん、いつまで兄様にくっついていますの? 離れてください!」
 アンドリューとフィオナの間に強引に割り込むように沙耶が、アンドリューに身を寄せて口を開く。
「兄様♪ やはり兄様の傍が一番落ち着きますわ」
「さ、沙耶……沙耶もなの?」
 アンドリューの腰に腕を絡ませる沙耶もまた、『魔性の一品』の虜になったようである。
「あたしは兄様の傍にいますわ。ですからもっと構ってくださいね、兄様」
 安住の地を得たように安心しきった顔で、沙耶が上気した顔で微笑む。
「沙耶ちゃん! いいです、じゃあ私はこっちに行きますから!」
 沙耶に妨害されたフィオナが、ならばと反対側に回り、アンドリューを挟んで沙耶と向かい合う形になる。
「何ですのフィオナさん、兄様は渡しませんわよ」
「そ、そんなことしなくたって、私はアンドリューさんのこ、こ……」
「恋人、と言いたいのかしら?」
「そう、それです! 私はアンドリューさんの恋人なんです!」
「そんなの、兄様がお認めになるはずがありませんわ。仮に万が一お認めになったとしても、あたしは兄様のお傍にいるだけですわ」
「〜〜〜!!」
「〜〜〜!!」
 そのまま二人、火花の散るような視線のぶつけ合いを演じる。
(……ハァ。結局いつも通りになるのかぁ……二人とも酔い癖悪そうだし、後が大変だなぁ……)
 二人に挟まれて、アンドリューは溜息をつくのであった。

「これを飲んだ皆さん、幸せそうにしてますっ! これはきっと凄い魔法薬に違いないですっっ!」
「んなわけないだろ! 宇佐木、試しに飲んでみようとか思うなよ!?」
 興味津々な眼差しで『魔性の一品』を試してみようとした宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)が、飲み物の正体を既に感づいていたセイ・グランドル(せい・ぐらんどる)に制される。
「ねえセイ、向こうで校長が呼んでたよ? 何か急いでる感じだったから、早く行った方がいいんじゃない?」
 雛霰を持って二人の隣に座った宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)が、セイに呼びかける。
「校長が!? 特にアテはねぇんだけどな……ま、無視するわけにもいかねぇし、行ってくっか」
 渋々席を立つセイが小さくなったのを見計らって、煌星の書がにひひ、と笑みを浮かべながらみらびに詰め寄る。
「ねえねえ、コレに興味あるんでしょ? だったら飲んでみればいいじゃん」
「で、でもぉ、セイくんがダメって言うし……」
「大丈夫だって、セイが何とかしてくれるからさ」
「……うん、それなら、ちょっとだけ……」
 杯に注がれた薄桃色の液体を、みらびが恐る恐る口にする――。
「どういうことだよ煌星、校長に覚えがないって言われちまったぞ――」
「セイく〜んうきゅきゅきゅきゅ」
 文句を言いながら戻ってきたセイに、すっかり豹変したみらびが顔を寄せてくる。
「うわっ、な、何だぁ!? ていうか宇佐木、何だよその奇怪な笑い声――あっ! あれ飲んだな!」
「だってさ、みらびが飲みたそうにしてたんだもん。孫は可愛がりたくなるものよねー」
「煌星、てめえ、何てことしやがる――」
「いつもありがとおれすよおおおお〜〜〜」
 なおもみらびに接近され、赤くなりながらセイが視線を逸らす。
「煌おばあちゃんもいつもありがとれすよ〜〜〜」
 みらびが煌星の書に顔を向けたことに、セイが安堵の溜息をついた矢先。
「みらび、ボクはいいからセイにしてあげな。セイにだけしてあげたらもっと喜ぶからさ」
「なっ――」
 今度は顔を青くしたセイが振り向いたその直後、みらびが飛びつくようにセイに絡む。
「うさぎ、わかってるんれす〜〜〜。セイくん、いつも怖いけど、本当は優しいんれす〜〜〜」
「宇佐木、離れろ、離れろって! おい煌星、笑ってないで助けろよ!」
「にひひ♪ じゃあ後はお若いお二人さんで楽しんでらっしゃいな」
 実に楽しげに言い放ち、煌星の書が席を立つ。
(後でちゃんと介抱してあげなくちゃね。孫の面倒は最後まで見ないと♪)
 みらびが明日頭を抱えないようにと薬を貰いに行く煌星の書の背後では、みらびが半ば押し倒すようにセイに迫っていた。
「うさぎ、このお薬作れるようになって、セイくんのお店においてもらうんれす〜〜〜。セイくんの役に立ちたいんれす〜〜〜」
「だーーー!」
 セイの叫びは、周りの喧騒に掻き消えていった――。

(ああ……うっかりしていたわ。気を付けていたのだけれど、香りがあまりによかったものだから……)
 焦点の定まらない瞳で、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が先程自ら口をつけた杯を見つめる。『飲むとだんだん気持ち良くなってくる飲み物』などという怪しい代物、千歳も警戒はしていたものの、広がる香りに惹かれた結果であった。『魔性の一品』、味だけでなく香りまで変幻自在のようである。
「イルマ、私少し気分が……イルマ?」
 ふわふわとした心地の中、助けを求めるように千歳がイルマ・レスト(いるま・れすと)に声をかけるが、そのイルマから返ってくる声はない。代わりに振り向いたイルマの瞳は、まるで獲物を狙う猛禽類のそれであった。
「ああ、千歳……その慎ましい胸に大いなる可能性を秘めたあなたこそ、私の心のフロンティアですわ〜」
 千歳に柄違いの着物を着付けてもらったイルマが、身体の自由の利かない千歳にすっ、と詰め寄る。
「そんな、イルマもなの? って、どこ触ってるのイルマ」
 『魔性の一品』に犯されたイルマが、千歳の着物の帯に手をかける。
「嫌よ嫌よも好きのうち、良いではないか、ですわ。着物姿の千歳を初めて見た時から、一度やってみたかったですわ〜」
「イルマ、気を確かに持って――ちょ、や、やめ……」
 抵抗の鈍い千歳に対して、イルマの手つきは普段以上に素早く、あれよあれよと帯を解かれ、その解いた部分をイルマがしっかりと掴む。
「さあ千歳、あ〜れ〜とお回りくださいませ〜」
「やめ……やめるニャ〜〜〜〜〜!!」
 どこにそのような力があるのかと疑いたくなるほどに勢いよく回され、千歳が『猫語で会話するほど猫好き』な一面を晒してくるくると回り、回転が収まると同時にぱたり、と地面に伏せる。
「あら〜、ここで倒れるようでは、一緒にシャンバラ王国を復興するなど夢のまた夢ですわ〜。さあ、今度はしっかり、あ〜れ〜と回るのですわ〜」
(あは、あはは……そうね、これは夢よ、夢だわ……)
 イルマに為すがままにされる千歳、彼女が次に意識を取り戻す時には、おそらくこれらの記憶は綺麗さっぱり抜け落ちていることだろう。


「本日は雛祭り。
 そのメインを担うのは雛人形、これに異論はありません」

 
 雛壇が据えられた場所の手前、開けたその場所をステージに見立て、キーボードを用意したクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)のマイクを通した声に、生徒が興味を惹かれ次々と集まってくる。

「ですが!
 その雛人形の主役がお内裏様とお雛様だなんて、誰が決めたのでしょう!?」


 声が響くと同時に、ギターを携えた音井 博季(おとい・ひろき)、ハーモニカつきのドラムを前にスティックを持つ赤羽 美央(あかばね・みお)の姿が露になり、そして頭上からソリに乗ったマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が雛霰を振りまく。

「今日の主役は我ら『GONIN☆囃』です!」

 美央の叩いたシンバルが、ライブの開始を告げる。博季のギターとクロセルのキーボードが前奏を響かせる中、ステージの中央に立ったのは、ベースを携えたレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)。着物姿でメンバーに視線を送りながら演奏する姿は、彼女の無表情なところも相まってミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
(……こうして人前に出るのはあまり得意ではありませんが……引き受けてしまったからにはやりきってみせましょう)
 注がれる視線を極力意識しないようにして、レイナがスタンドに据えられたマイクに口を近付ける。
「〜〜〜〜〜〜〜♪」
 軽快なサウンドに乗せて紡がれるレイナの歌声は、普段彼女が無口であることが嘘であるかのように、芯の通ったそして透き通るようなものだった。既に『魔性の一品』で気分をよくしていた生徒たちは、レイナの歌声に聞き惚れ、一部にはコールを斉唱する者までいた。
「歌、上手いんですね。驚きましたよ!」
 間奏に入り、パフォーマンスを見せながら背中越しに声を飛ばした博季に、レイナが無言のまま、それでもどこか嬉しげに頷いて答える。一曲を歌い切り、汗で張り付いた髪を梳かす仕草を見せるレイナに、惜しみない拍手と歓声が送られる。
「僕たちだけが演奏してるのも勿体無い、誰か一緒にやりませんか?」
 リズムを取りながら、博季が部屋にいる生徒たちに呼びかける。ややあって、アマリリス・クレマチス(あまりりす・くれまちす)フリージア・ヴァルトハイト(ふりーじあ・ばるとはいと)のもたらす力で自らを5歳の姿に変えたリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)をお姫様抱っこしながらステージに進み出る。
「おろしてよーはずかしいよー」
「ダメどす、このような場を歩けば、服が汚れてしまいます」
「そんなこと言って、本当はただ抱っこしてたいだけアル」
 三味線を携えたフリージアの皮肉に答えず、アマリリスが腕に伝わる柔らかでふにふにな感触に悶えながら、あくまで外面は凛々しくリアトリスをステージへ導く。
「よろしくおねがいしますっ」
 ぺこり、と頭を下げたリアトリスが、舞い上がる花弁の描かれた扇子を開いて、日本舞踊を彷彿とさせる踊りを舞う。彼女の右奥辺りに位置したフリージアが三味線で童謡を演奏し、リズムを理解した者から順に演奏が加えられていく。
「聞いたことはなくとも、どこか親しみやすい曲調ですね」
 クロセルのキーボードが音色を奏でる横で、着物姿の美央がハーモニカを紡ぐ。まさに今日という日に相応しい音楽と踊りに、部屋の生徒たちも色とりどりの料理を前に『魔性の一品』を飲み干していく。
「ああ、いいどすなぁ……あぁ、もう少しで見えそうでしたなぁ」
 くるりと舞ったリアトリスのドレスがふわりと舞い上がり、ステージの傍でカメラを構えたフリージアが連写する。
「ここからが見せどころアルよ!」
 一際大きくフリージアが音を響かせれば、それまでのゆったりとした曲調から激しいものへと変わり、合わせるようにリアトリスもツーテールの髪をぴょんぴょんと揺らして、ダイナミックな動きでフラメンコを踏む。
「雰囲気が一気に変わりましたね。では僕たちも、合わせてみましょうか」
 博季にレイナが頷いて、二人がギターの音色を被せていく。打ち込まれるビートに乗って、リアトリスのステップが躍動感を増していく。当然のようにフリージアがシャッターを切るスピードも上がっていき、そして部屋の雰囲気は最高潮へと導かれていく。
 激しい動きを繰り広げていたリアトリスが、まるで散り行く桜の花のように動きを狭め、最後に一音鳴らされた三味線の音色に合わせて決めのポーズを取る。次いで湧き起こる盛大な拍手と歓声に、リアトリスが手を振って答える。
「ありがとー! みんなありがとー!」
 歓声に混じる何やら荒い息の中をアマリリスが、行きと同じようにリアトリスをお姫様抱っこして連れ帰る。
「さあ、次の参加者はいらっしゃますか?」
 再び生徒に呼びかけるメンバーの前に、篠笛を手にした各務 竜花(かがみ・りゅうか)が進み出る。
「気に入ってもらえる保証はないけど――」
 袖を翻して、少し上気した頬鮮やかに、口元に篠笛をあてがい、竜花が音色を奏でる。その様子を斗羽 神山(とば・かみやま)は興味津々とばかりに眺めていた。
(何とかこいつを飲ませることに成功したぜ! さて、どうなるか見ものだな)
 神山の視界には、竜花が空けた『魔性の一品』の満たされた杯が映る。竜花の頬が赤いのはこれが原因だった。
(……ふぅん、何だよ、普通に上手いじゃないか。それに何だか、色っぽいっつうか……)
 篠笛の優雅な音色が部屋を満たしていくに従って、神山の目に映る竜花が段々魅力的に見えてくる。
(……んなわけないだろ! あいつに色気なんてあるはずが……)
 意識ではそう思っていても、目はすっかり篠笛を吹く竜花に釘付けになっていた。そしてそれは、この場にいる生徒たちにも共通していることだった。皆、何かに取り憑かれたように、恍惚とした表情で竜花を見つめている。楽器を演奏していたクロセルや博季も顔を緩ませ、マナは雛霰を一心に食い漁っていた。
 『魔性の一品』の魅了効果が、音色を通じて生徒たちに伝播してしまったような、そんな異常な光景に、しかし演奏を続ける竜花だけはまったく気付かない。
「……えっと、もしかして気に入らなかったかな?」
 一曲吹き終わり、口を離した竜花が視線を周りに向け、反応の乏しい観客に不安げな表情を見せた直後――。

「破壊こそ音楽よーーー!!」

 それまで沈黙していた美央が、何やら不思議回路に繋がってしまったかのように叫んで、スティックに雷を纏わせる。
「美央さん、どうしました――ぶっ!!」
 その声に正気に戻ったクロセルが美央を止めようとして、飛んできたシンバルを顔面に受けあえなく床に倒れる。髪を振り乱し、狂気に染まったかのような演奏は、誰がどう見ても破壊行為にしか見えないような気がした。
「大変だ、止めなきゃ――ぐはっ!」
 今度は博季が、飛んできたタムを立て続けに受ける。レイナはいつの間にか、マナを抱えて端に避難していた。
 
「あたしの演奏に酔いしれな!!」

 もはや口調まで変わり果てた美央のスティックさばきは、誰の目にも追えない。やがてスネアドラム、フロアータムまで吹き飛んでいき、直撃を受けた博季が膝から床に崩れ落ちる。

「ロッキューーー!!」

 最後の一振りで、一番大きなバスドラムが光と爆発で宙を舞う。決まったとばかりにポーズを取る美央、しかし落ちてきたバスドラムを頭に受けて床に伏せる。
「神山、私の演奏、どうだった? 少しは楽しんでくれた?」
 前方で惨状が展開されている中、戻ってきた竜花が何の悪ぶれもなく神山に微笑む。
「…………ああ、面白いものを見せてもらったぜ」
 とりあえず後ろの光景を竜花に見せないよう、そそくさとその場を後にする神山であった。

 突然の幕切れを迎えたライブ、まるで残骸のように打ち捨てられた楽器その他の類は、皆が再び喧騒に塗れる間に、いつの間にか片付けられ綺麗になっていた。
 それは、本郷 翔(ほんごう・かける)の働きあってこそ、であった。
(このままにして、後で面倒事が本人にいっても、かわいそうですからね。……壊れた楽器は戻ってきませんけど)
 そんな思いで、ちょうど雛人形で言う稚児の恰好をした翔が、吹き飛んだ楽器を回収して人目の付かない場所へ運んでいく。一通り終わり、息をついた翔が、傷を負うことなくそびえ立つ雛壇を見上げていると、環菜が歩み寄ってくる。
「見させてもらったわ、随分と頼もしい稚児ね」
「見られてましたか。……いえ、言うほどでもありませんよ」
 環菜の言葉に謙遜しつつ、心の内では校長という地位にある環菜に自分を見てもらえたことに嬉しさを感じているのも事実であった。
「後のことは私に任せておいて。……こんなことしなくてもいいはずなのに、何をやってるのかしらね、私は」
 自嘲気味に呟いて、環菜が携帯を操作する。壊れた楽器の手配などを済ませ携帯を閉じ、翔に振り返る。
「酔いを覚まさないといけないかしらね。……あなた、お茶をいれるのは得意かしら?」
「え、ええ、一通りは心得ておりますが……」
 環菜の意図が分からず、翔が戸惑いを露に答える。
「そう。なら、お茶をいれてきて頂戴。……私が満足出来るお茶を、お願いするわ」
 それだけ言って振り返り、環菜がその場を後にする。
「……お任せください」
 微笑みを内に隠して、翔が一歩下がって礼をし、準備のためにその場を後にしていった。