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【2020ひなまつり】雅なお祭りのひととき

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【2020ひなまつり】雅なお祭りのひととき

リアクション



●雛祭りならぬ『ひなま釣り』!? 釣るのはもちろん、ロリ校長!

「おぉ〜! 久しぶりやなぁ〜! 一緒に盛り上がっていこか〜!」
 部屋の前で、通りかかった生徒に日下部 社(くさかべ・やしろ)が声をかける。だが、相手は誰あれ? といった様子で足早に中へと入っていく。
(かぁ〜! 案外ノリ悪いな〜。……しっかし参ったわ〜、これじゃ中へと入れへんやないか)
 『男性のみの参加禁止』と書かれた張り紙の前で、社が腕を組んでこれからの対策を考えていると、その肩を叩く者が現れる。
「もし、そこな殿方。せっs……わらわと一緒に祭を楽しもうではござらn……ありませぬか」
「おぉ〜! 感謝感激や〜、ほんなら一緒に盛り上げていきまっしょ……うえぇぇぇ!?」
 振り向いた社は、目の前に立つ一見美人な、着物を纏い両脇にテールを伸ばした女性が、ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)の女装した姿であることを即座に見抜く。
「おぉ、社殿であったか。どうでござるか、この完璧な変装!」
「いや、どうって言われても、返しに困るわぁ。……しっかし、なんでそんなけったいな真似しとんのや。普通に入ればええんとちゃうか?」
 社の問いに、ナーシュがうつむいて身体を震わせ、そして社の両肩を掴んでガクガクと揺すりながら叫ぶ。
「どうせ拙者には一緒に来てくれる女の子なぞいないでござるよ〜!」
「わわわ分かった、分かったからそんな揺するなって」
 解放された社がふぅ、と息をついて、気を取り直して呟く。
「とにかく、こうなったら手近な女の子でも男の娘でもいいから捕まえて、中に入るしかあらへんな」
「……? 社殿、一つお忘れではござらんか?」
「何や?」
 首を傾げた社に、ナーシュが自らを指して告げる。
「拙者、女の子でござる♪」
「……………………」
「…………沈黙が身に染みるでござる。何か話してくれないと心が痛いでござる」
 身を震わせるナーシュに、社がはぁ、と溜息をつく。
「しゃあないわ〜。女の子捕まるかどうかも分からんし、一緒に行ったるわ〜」
「……本当でござるか? 社殿、感謝するでござる!」
「って、くっつくなっちゅうの! ……はぁ、どこに同じ背恰好の女の子がおるっちゅうねん……」
 また溜息をつきながら、ついに社とナーシュが部屋の中に入ることに成功する。雛祭りだから当然でもあるが、やはり華やかな部屋は『魔性の一品』の所為でさらに華やかになっていた。漂う匂いは鼻につくような、頭をボーッとさせるような誘惑に満ちた香りだった。
「うわ、こら凄いことになっとんな〜。さて、何か面白そうなことやっとらんかな?」
 社が辺りを見回すと、何やら大掛かりな仕掛けを用意している一行を見かける。
「ちわーっす! 何しとるんや?」
「今ね、『ひなま釣り』の準備をしてるのよ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に、ナーシュが首を傾げる。
「拙者の聞き間違いでござるか? 何やら『雛祭り』ではなく“ひなま”“つり”に聞こえたでござるが……」
「いや、聞き間違いじゃねえ。始まりはルカルカの間違いだったんだが、面白そうなんで俺も乗ってみた」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が言うには、

 ・幻の魚『ひなま』を釣る祭があったらしい
 ・それに敬意を表して、色々な物を釣る祭ができた(例……『春のパンま釣り』『マンガま釣り』)

「なるほど、そのような祭が……」
「ないない、そんな祭」
 カルキノスの言葉にナーシュが納得するように頷き、社が手を振って否定する。
「この『ま釣り』には二つのタイプが存在するんですよ。自分たちはその内、射的タイプを再現しようとしています」
 射的で使うような銃を改造したものを手に、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が『ま釣り』の補足を説明する。

 ・『ま釣り』は釣り竿タイプと射的タイプに分かれており、それぞれ唯一のプロである釣竿の『参平』、射的の『ゴルド13』が特に有名である
 ・熱狂的に釣りが好きな人のことを良く『釣りキチ』と証するが、これは1年に1度の『ま釣り』に全てを賭けていた彼等に由来する

「ネタと知ってのことと思っていたが、まさか信じていたとはな」
 やって来たダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、ルカルカの色々な意味での『最終兵器』ぶりに苦笑しつつ、仕掛けの準備を進めていた夏侯 淵(かこう・えん)に呼びかける。
「具合はどうだ?」
「ここをこうして……よし、出来たぞ。ザカコ、試してみてくれ」
「分かった」
 夏侯 淵の呼びかけに答え、ザカコが銃を構え、提げられた小袋を狙って引き金を引く。飛んだコルク弾の先端に取り付けられた返しつきの針が袋に刺さると、今度は銃に備え付けられたリールを引き、袋を文字通り『釣る』。
「……とまあ、こんな感じでしょうか」
 雛霰の入った小袋を手に、ザカコが一通りの実演を終える。提げられた景品は小袋の他、各自が用意した箱もあった。
「よっしゃ! ほんなら一回やってええか?」
「どうぞ」
 ザカコから銃を受け取り、社が狙いをつけて、引き金を引く。コルク弾が箱を捉え、リールに引かれて社の手元へ導く。
「……なんじゃこりゃあ!」
「お、俺の入れたハズレだ。さあ、この場で一気飲みしてもらうぞ」
 箱から出てきたのは、カルキノスが用意した『青汁飲料1L』。
「社殿が飲み干している間に、拙者が行こう」
 ナーシュが狙いをつけて、引き金を引く。コルク弾が小袋を捉え、リールに引かれてナーシュの手元へ導く。
「小当たりといったところでござるか。……社殿、大丈夫でござるか?」
「……あかん、トイレはどこや〜」
 顔まで緑色に染めて、社がふらつきながら部屋を後にし、ナーシュが付き添う。
「さあ、みんな楽しんじゃってね☆」

「アレクさん……いつも私の事を大切にしてくれているのは嬉しいのですが……たまには、私をもっと激しく愛して欲しいです……」
「お、おい止めろユーキ、こんなところで脱ぐな」
 雛祭りを、パートナーで恋人のアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)と一緒に楽しんでいた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、『魔性の一品』に頬を染め、着ていた着物をはだけさせてアレクセイに迫る。
(いかんな……このままではこの本をあの二人に渡す機会がない。何かないか……)
 アレクセイが、懐に抱えた本を気にしながら周囲を見渡せば、ルカルカの主催する催しにエリザベートと環菜が参加していた。
「そんなのいらないですぅ。これで十分ですぅ」
 言ってエリザベートが、雛霰を氷の魔法で固めたものを、火の魔法で爆発させるように飛ばす。飛んだ霰が小袋を提げていた紐を撃ち抜き、小袋を床に落とす。
「エリザベート、もうそのハイブリッドなアレは付き合わないわよ」
 言って環菜が、受け取った銃の引き金を引く。コルク弾が小袋を捉え、リールに引かれて環菜の手元へ導く。
「ま、生徒の長がいい物取っても、仕方ないものね」
「青汁でも当たっておけばよかったですぅ」
 言い合いながら去っていく環菜とエリザベートを見遣って、アレクセイが思いついたように頷き、くっついてくる優希を『ひなま釣り』改め『ハイブリッドひなま釣り』に誘う。
「ユーキ、ハイブリッドな何かをやりたがってただろ。俺様も力を貸す、行こうぜ」
「そう、ですね……私のとっておき『優希式アステロイド雛あられ』で、アレクさんも撃ち抜いちゃいますから♪」
 気分よく頷く優希に苦笑しつつ、アレクセイがルカルカのところへ向かい、銃の代わりに二人の氷の魔法で固めた雛霰を優希に渡す。
「行きます! 優希式アステロイド雛あられ!」
 着物が乱れるのも気にせず、優希が雛霰を見舞う……が、酩酊しているせいか当たらない。一応、一つ当たるまで何度でも続けられるルールなので、二発目、三発目と優希が雛霰を見舞うが、やはり当たらない。
(この隙に……)
 アレクセイが優希にバレないように抜け出し、アーデルハイトとルミーナの姿を探す。そして、ルミーナに組み敷かれているアーデルハイトを目撃して、アレクセイが『魔性の一品』とは関係なしに顔を赤くする。
「なんじゃおまえ、私は見ての通りじゃ、まったく動けん……こりゃ抜けるまで我慢するしかないのぉ」
「アーデルハイトさぁん……」
 二人に出来る限り視線を合わせぬようにして、アレクセイが事情を話す。
「なるほどな。まずはその本とやらを見せてみい」
 アレクセイから受け取った本を、杖を駆使して器用に読み進めていく。
「……なんじゃ、ただ女王器の名前が書いてあるだけじゃぞ。詳細には一切触れとらん」
 言い捨て、まぁよいかと呟き、アーデルハイトが本を閉じて表紙に杖を当てると、そっくり同じ本がもう一冊、アーデルハイトの手元に収まる。
「複製を作るのは得意でな。大した情報にならん気もするが、一応受け取っておくぞ。もしも何か分かったなら、その時は伝えてやろう。……まったく、どうして私がこのような目に――っておまえ、どこを触っておる、やめんか!」
 雰囲気があやしくなる前に、アレクセイが本を仕舞い、二人に背を向け優希のところへ戻る。
「アレクさ〜ん……こんなのもらっちゃいました〜……」
 困った顔をした優希が差し出したのは、『冬休みの魔法学科ドリル』。蒼空学園の優希には少々関係ない代物のようである。

「豆撒きの時はひどい目に遭いましたが、今日はゆっくり過ごせそうですね、アヤ」
 初めての雛祭りを楽しんでいる様子のクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が、目の前の料理を神和 瀬織(かんなぎ・せお)に取り分ける。
「……クリス、またわたくしを妹扱いしていますね。違うと何度言えば分かるのですか」
「そんなこと言っても、ね? アヤ」
「僕に振るの? うーん……」
 クリスに話を振られた神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、ちょこん、と床に座る瀬織に視線を向けて、口を開く。
「クリスのしたいように任せるよ」
「心得ました!」
「何ということ……綺人もクリスもわたくしを何だと思っているのですか?」
 憤慨する瀬織をクリスがよしよしと宥め、その対応にやっぱり瀬織が憤慨する。そんな様子を微笑ましく見守っていた綺人が、何やら賑やかな催しが行われているのを目にする。
「それー! リンネちゃん特製、カチカチひなあられー!」
 リンネの放った、氷漬けの雛霰が、小袋を撃ち抜く。
「うーん、まだまだ精度がいまいちかなー? カヤノちゃんに教えてもらおーっと」
「次はボクの番なんだな」
 モップスが狙いをつけて、引き金を引く。コルク弾が小袋を捉え、リールに引かれてモップスの手元へ導く。
「モップス、銃の扱いヘタになったんじゃない?」
「最近バットを使い過ぎたかもなんだな。考えてみるんだな」
「えっと、次は私ですね」
 ミーミルが銃を取る……かと思いきや、リンネに頼んで作ってもらった氷漬けの雛霰を、えい、と投げる。風が巻き起こるかと思うくらいの速度で飛んだ雛霰が、小袋を撃ち落とす。
「やりました!」
「…………銃の扱い、考え直そうかなんだな」
「あはは……気にしない方がいいんじゃないかな?」
 楽しげに会話を交わしながら、リンネとモップス、ミーミルがその場を去っていく。
「何だか楽しそうだね。あれなら危なくなさそうだし、どうしようか?」
 瀬織がいることに配慮しながら、何かあったらクリスが綺人と瀬織を守ることを確認した上で、綺人たちがゲームに挑戦する。
「まずは僕から行くね」
 綺人が狙いをつけて、引き金を引く。コルク弾が箱を捉え、リールに引かれて綺人の手元へ導く。
「それは俺の当たりだな。渾身の作だ」
 ダリルが用意した箱、その中身はダリル手製のキャラメルナッツタルト。直径24cmとかなりの大きさである。
「アヤ、やりましたね! では私も続きます!」
 クリスが狙いをつけて、引き金を引く。コルク弾が箱を捉え、リールに引かれてクリスの手元へ導く。
「私の当たりですね」
 ザカコが用意した箱、その中には桃の花の模様が美しいブーケが入っていた。
「綺麗です……!」
 それを大事そうに抱えるクリス、最後は瀬織の番。
「はい、こうして持って……」
「綺人、わざとやってますね?」
 綺人の助けを不本意ながら借りて、瀬織が引き金を引く。コルク弾が箱を捉え、リールに引かれて瀬織の手元へ導く。
「ゴメンねー、ハズレなの」
 ルカルカが用意した箱、その中には教導団団長の訓話本が入っていた。ルカルカ曰く『でかい重い団員は捨てれない』だそうであるが、おいそれと景品に出してしまっていいのだろうか。
「というより、魔導書であるわたくしが本というのは、何かの皮肉ですか……」
 色々とひどい目に遭わされたような気がして、瀬織が溜息をついた。

「盛り上がってんなぁ〜! ここでさらに俺が盛り上げて、そして今度こそエリザベートを攫って拉致ってやるぜぇ〜!」
 盛り上がりを見せる部屋に、南 鮪(みなみ・まぐろ)織田 信長(おだ・のぶなが)土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)を連れてやって来た。
「しっかし馬鹿じゃのう、一応娘っ子の身内もおんのに野郎だけで小細工とは、ホンマ阿呆なお調子モンじゃぁ。……つうかわしらどうやって入ってこれたんかのう?」
「こまけぇこたぁいいんだよ!」
「わしは右大臣であるぞ。従二位右大臣織田信長。雛祭りに席が用意されておると聞き馳せ参じたり」
 無理矢理に結論付け、鮪がはにわ茸と信長に指示を飛ばす。
「おいはにわ茸、手伝え。オッサンはアイツらに声かけときな、また邪魔されちゃたまんねぇからなぁ」
「おうおう、働いた以上は一番ええ席座らせてもらうでぇ。雛壇の玉座は天皇じゃけぇ、こいつは豊美に譲るかのう。んでわしはその隣に座らせてもらうんじゃぁ。こう見えても高貴じゃけんのうわしはぁ――」
「グダグダうっせえんだよ! いいからとっとと来やがれ!」
 鮪がズルズルとはにわ茸を引っ張っていく。そして、まるで一夜城の如く、鮪とはにわ茸による雛壇が建設されていく。
「うむ、流石よの。ではわしも、参るとしようぞ」
 その出来栄えに頷き、信長が豊美ちゃんと馬宿のところへ向かう。都合よく二人で『魔性の一品』を嗜んでいたところに、信長が声をかける。
「わしも末席に加わらせてもらってよいかの?」
「あ、はい、どうぞー」
 信長の素顔を知らない豊美ちゃんが、豆撒きで会ったとは知らずに、杯を満たしてやる。
「本日は豊美殿が為、雛祭りに相応なる余興を一つ用意しておってな」
 信長が視線で指し示した先には、既にほぼ完成を迎えつつある雛壇の姿があった。
「わー、綺麗ですねー。それに随分と大きいですねー」
「最壇上はミカドが席と、古来より決まっておりまするぞ」
「わ、私ですかー? な、何だか緊張しちゃいますねー」
 そう言いつつも、豊美ちゃんの目はキラキラと輝いていた。
「傍に控えし馬宿殿は倣って隣の……雪洞よな、がっはっは」
「ふっ……ここまで言われてしまうとは、おば上の私に対する接し方が知れますね」
「な、何を言っているんですかー? ちゃんとウマヤドは私の隣って決めてましたよー」
 取って付けたかのように言っているのは、バレバレであった。

 そして、雛壇は無事完成し、そのきらびやかな装飾に部屋にいた大勢の生徒が惹きつけられる。
「ふふ、帝に戻った気分ですー」
「うむ……悪くないな、久々にあの頃に返ったようだ」
 その天辺で、豊美ちゃんと馬宿がかつての身分を彷彿とさせる佇まいで座り、それがまた似合っているがために生徒の視線が釘付けになる。
「くやしいのうくやしいのう、なんでわしがボンボリなんじゃ。野郎の隣のボンボリなんじゃ」
「決まってんだろぉ! ……さぁて、こうすりゃきっとやって来るぜぇ。もうとっくにいい気分だろうからなぁ」
 馬宿の隣で雪洞をやらされたはにわ茸の呟きを聞き流し、鮪が獲物を狙う目つきで辺りを見回していれば。
「ちょっとぉ、これはどういうことれすかぁ! どうして私が一番上じゃないんれすかぁ!!」
 鮪の予想通り、自分が関係していないところで盛り上がっていることに、不機嫌を露にしてエリザベートがやって来る。既に『魔性の一品』が全身に回ったか、ろれつは回らず足元もおぼつかない。
「待てって、お前は特別だ、デコピ環菜より上の美津婦専用嗚妃那様席を用意してるぜ」
「本当ですかぁ〜! では早速案内しなさぁい〜……」
 とん、と足をもつれさせたエリザベートが、鮪の胸元に飛び込む恰好になる。そのまますー、すーと寝息を立てるエリザベートを見遣って、鮪がニヤリ、と口の端を歪ませる――。