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灯台に光をともせ!

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灯台に光をともせ!

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第一章 灯台を目指せ 1

 ザンスカールの東部にあるパラミタ内海。
 潮の匂いが混じった、穏やかな風が吹きぬけていく。
 押し寄せる波が、海に浮かぶ船をゆりかごのように揺らしていた。
 上空に広がる雲一つ無い海では、ウミネコが優雅に泳ぎ、挨拶するように鳴いている。
 にゃーにゃーと緊迫感のない鳴き声の中で、しがれているが妙に通る声が響く。
「よう、集まってくれたのう」
 褐色の肌に、腕にトライバルの入れ墨がある、小柄な老人が目を細めて言った。
 背まで伸びた長髪と、同様に長く伸びたヒゲは、雲のように澄んだ白色だった。
 その老人を見て、カイル アモール(かいる・あもーる)が呟く
「へえ……、結構な大物が出てきたものだな」
 カイルは、イーハブの情報を素早く脳内で検索する。
 イーハブ・ド・メルヴィール。年は64。
 今は地元の船乗り組合の組合長を名乗っているが、元はパラミタ内海で有名な船乗りで、猛威をふるっていた数々の海の魔物を退治してきた凄腕のハンターだった。
「10年前にハンター家業を引退したと聞いたが……。今回はどんな依頼なんだ?」
 カイルはイーハブの情報を思い出しながら、今回の依頼に付いて話している言葉に耳を傾ける。
「あー、今回はあの灯台に、ワシを連れて行ってくれりゃいい」
 イーハブが指を指したのは、内海浮かぶ小さな島だった。
 港に集まった生徒たちが、イーハブの指の方向に視線を向ける。
 確かに、遠くに島のような丸いものが見え、その中心から細い筒のようなものが真っ直ぐ伸びていた。
「灯台島(とうだいじま)じゃ。まぁ、名前の通り灯台しかない。そこに行って、帰ってくりゃいいんじゃよ」
 そんなイーハブの言葉に、「んー」と顎に人差し指を当てて首を捻ったのは、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)だった。
「ねえ、ねえ。たったそれだけのことをするのに、こんなに人数いらないんだと思うんだけど」
 リアトリスは、周りをザッと見回す。今、みなとにいるのは五十余人ほど。
「お♪ いい質問だね〜」
 大きな胸をグンと張り、リアトリスにVサインを送ったのは、イーハブの隣にいる、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)だった。
「じゃあ、リンネちゃんが、ジジイの補足説明をするね。知ってる人もいると思うんだけど、灯台の光が、一週間前から消えちゃってるのね」
「うむ、うむ」
 イーハブが満足そうにうなづき、リンネの身体をジロジロと見ている。
「あの灯台の光は、船の道しるべだけじゃなくて、魔物も寄ってこさせないようにする役目も持ってるんだよね」
「ええの、若い娘は、本当にええの!」
「ってわけで、今は光が消えてるから、魔物がウヨウヨしてると思うんだ。だから、その護衛もかねてってわけ」
「じゃあ、観光とかはできないのかな?」
 残念そうに言うリアトリス。
「観光? ……ああ、湖が見たいの? 灯台島の『魔修湖』は有名だもんね。リンネちゃんも、ついでに撮ってくるかな」
 リンネがポケットからデジカム出して、エヘヘと笑う。
「ああ。アトリ、前から見たがってたもんね」
 そう言ったのは、リアトリスの隣にいるベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)だった。
「うん。そうなんだ」
 ベアトリスの言葉に、笑顔で答えるリアトリス。
「うん、うん。若い子が会話するのを見るだけで、若返る気分じゃ。ええの。実にええの」
 サスサスとリンネのお尻を触るイーハブ。
「……イラッ!」
 リンネがイーハブの手を掴む。妙に渇いた音が響くと同時に、イーハブの手首が、本来曲がってはいけない方角に曲がる。
「ぬおおぉぉ!」
 イーハブが手首を押さえて、地を転がる。
「なー、なー。さっさと行こうぜ!じーさん!リンネの尻ばっかみてんじゃねーよ! リンネの尻なんてどうせ大したことないって!」
 面倒くさいのか、やる気満々なのか、よく解らない元気な声を出したのは、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)だった。
「……うん。そうだね。じゃあ、みんな行こうか」
 リンネが船の方に、生徒たちを誘導する。
「あ、そうそう。ウィルネストちゃんだっけ? あとで話があるから、倉庫のところまで来てね」
 満面の笑みを浮かべるリンネ。額には大きく血管が浮き出ていた。