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春のお花見in葦原明倫館♪

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第5章 花見at隠密科棟中庭北側


「ちょっと、なに〜? この小ぶりな桜……なんであっちの豪勢な方に場所とらないのよ!」

 黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)の案内で、中庭へと辿り着いたリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)
 だが速攻で、場所にケチをつけ始める。
 まだこの周辺に、他の参加者がいなくてよかった。

「いや、あっち道端だし……知ってるのはここくらいで……」
「ホント、何やらせてもだめ! だめ! だめ! だめ! 役立たず!」

 にゃん丸は、誰よりも早く葦原明倫館を訪れていた。
 両手にお菓子とペットボトルを持ったうえ、ジャンボ七輪と空鍋を背負っての登場。
 震えつつも場所を確保しておいたというのに、ひどい仕打ちだ。

「で、鍋と七輪持ってきたけど食材は?」
「ないよ〜」
「お前、バーベキューと鍋するって言ってたじゃん!」
「うん! めんどくさいからやめた」
「……」
「壮太! 長門! 早く来てくれ〜っ!」

 辺りに食材が見当たらず、首をかしげるリリィ。
 何の深刻さも感じられぬ返答に、怒りがこみ上げる。
 身の危険を感じ、助けを求めるにゃん丸。

「手ぶらというのもためらわれたんでな」
「オレも『種モミ袋』を持ってきたけんのぅ、つこうてくれ」

 そこへ、瀬島 壮太(せじま・そうた)赤城 長門(あかぎ・ながと)が現れる。
 壮太から渡された袋には、『餅』と『石油肉』に『日本酒』が入っていた。
 しかしリリィからすれば食材はまったく足りておらず、調理中の家庭科室へと行ってしまう。

「……なんで裸、つか寒くねえの?
 おまえもおまえんところの総奉行ってやつも全部あれか、露出狂か」
「いや、これはオレの趣味じゃけん、総奉行とは無関係じゃ」

 上半身裸な長門に対して、疑問を投げかける壮太。
 にっかり笑う、白い歯がまぶしかった。

「お料理ゲット〜にゃん丸の分? ないよ、自分で貰ってきたら?」
「まああれだよな、強く生きろ、うん」
「壮太ぁ〜!」

 しばらくして戻ってきたリリィだが、またしてもにゃん丸に対しては冷たい風が吹く。
 慰める壮太に、にゃん丸は泣きつくのだった。


「春と言ったら桜、桜と言ったらお花見でしょ? さ、みんなで楽しもう!」
「クリスとユーリが作ったお料理ですか……大丈夫でしょうか?」

 やってきたパートナー達から、料理を受け取る神和 綺人(かんなぎ・あやと)
 外見は綺人にそっくりな神和 瀬織(かんなぎ・せお)だが、早々に失礼なことを。

「綺人の方が、適任だと思うのですが……」
「そ、それにしても見事な桜だね、桜の精とかいるのかな?」
「綺人が中庭を選んだのは、実家の桜に似ていたからですか……確かに似ています、桜の精がいれば完璧です」

 なかなかに挑戦的な発言をする瀬織、雰囲気は険悪になるばかり。
 綺人は慌てて、話題をそらす。
 気付いたのか否か、瀬織も綺人の話にのってきた。

「実家の庭にも桜が1本だけあって、それには桜の精が宿っているんだ。
 桜重の着物を着た、房姫さんみたいな女性の姿なんだよ……元気かな?」

 不思議な顔をするパートナーや、周囲の葦原明倫館生へ、綺人は実家の桜について説明する。
 綺人には少なくとも、桜の精なる者が見えているのだ。

「ふふ……さ、みんなも食べよう、話を聞いてくれたお礼だよ!」

 想い出し笑いをしてから、綺人は包みを拡げ始める。
 近くにいた者達へ配るのは、『抹茶』、『きな粉』、『黒蜜』、『黒胡麻』の4種類の味の『ユーリ作のクッキー』。
『ほうじ茶』をついで、皆と乾杯するのだった。


「それにしても、桜の花って本当にきれいなんだね。
 今まで写真でしか見たことがなかったから少し、驚いちゃった。
 もしかするとここの桜は、おにいちゃんから見せてもらった写真よりすごいかも!」

 桜を見上げるクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の脳裏には、神田明神で撮影された写真が焼きついていた。
 初めて見る現実の桜に、心から感動している。

「でも、本当に今日は来てよかった……こうやって桜の花も見れたし、何よりおにいちゃんお手製のお弁当もあるから。
 あ、そこで桜を見ている君、一緒に食べよう。
 このお弁当、すごくおいしいよ」

 パートナー達が作った弁当を広げると、手を合わせていただきます。
 視線の端に見付けた葦原明倫館の生徒を誘うと、わいわい談笑するのだった。


「はい、お茶とお箸」
「桜茶か、風流だな」
「桜茶の塩分濃くない?」
「大丈夫だ」
「よかった」

 クロス・クロノス(くろす・くろのす)が手渡すのは、桜の入った抹茶だ。
 使ったのは市販の『塩漬け桜』で、自分用の抹茶にて塩の濃さを確認。
 しかし人によって味覚は異なるため、カイン・セフィト(かいん・せふぃと)にも訊ねてみたというわけだ。

「ねえ、桜見てるとアレ想い出さない?」
「あれって?」
「『桜の下には〜』ってやつ。」

 自宅にてつめていた重箱を拡げ、おにぎりを手に取るクロス。
 少し声をひそめると、カインの耳元でつぶやいた。

「梶井か、クロスいつの間に梶井読んだんだ?」
「一応【読書会】を主宰してる身だよ、時間をみてはいろいろ読んでるんだよ」
「そうか……だが、この場の雰囲気にはその話題は合わないと思うが……」
「それは自分でも思った、誰か不快になったら嫌だからやめる」
「そうした方がいいだろうな」

 しばし考えてカインは、クロスの意図を読み取る。
 だが話の先が、現在の雰囲気には相応しくないと思い、口止め。
 2人の間に、何だか神妙な空気が流れた。

「うん……それにしても、桜綺麗だよね。
 教導団のあるヒラニプラじゃ見れないね」
「そうだな。
 総奉行のハイナ氏の趣味だが、ある意味、葦原明倫館の特色のひとつと言えるだろうな」
「そうだね。ハァ、それにしても綺麗」

 明るい話題をと、クロスは桜自体へ注目する。
 応えるカインも、自身の見解を述べた。
 うっとりため息のクロスに、カインもつられて息を吐く。

「寒くなってきたから、コレを膝にかけておけ」
「ありがとう、それじゃあ借りるね」

 中庭という構造上、あまり太陽は入らない。
 少し体感温度が下がったような気がして、カインはクロスへとコートを渡す。
 素直にコートを受け取ったクロスは、膝をおおうのだった。


「同じ名前の花がこんなにも綺麗だなんて、私もなかなかやるもんですねっ!」

 咲き誇る桜の下、ぴょんぴょんととび跳ねるサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)
 桜を見られたことはもちろん、予想を越える桜の美しさに、嬉しくてにへら〜っと笑いっぱなし。

(サクラコの名前は遥か昔、本当に桜から取られていて。
 意味だけが年月によって消失したのかもしれないな……」

 サクラコのはしゃぐ様子に、白砂 司(しらすな・つかさ)も心が和む。
 今回の目的は、桜知らずなサクラコに、桜のある風景を見せること。
 何にも考えず、ただむすっと寝転がっているようにも見えるのだが、司はサクラコの名前について考えを巡らせていた。

「花見酒、でいいんですよね?
 せっかくですから、やっていきましょうよっ!」

 お小遣いをはたいて購入した『お団子』と『日本酒』を、サクラコは司へと差し入れる。
 サクラコの優しさと気遣いに、司はちょっと感動。

「東京の桜はこんなに優美なところに咲いているわけじゃないが……そのうち、ま、余裕ができたらな」

 ぜひとも故郷である東京の桜を見せてやりたいと、司はこれまで以上に強く思うのであった。


「今日はまた、一段と気合いが入ってるな」
「凄いな、コレを全部1人で作るなんて……自分は料理が苦手だから、ココまではできないな」
「ありがとう」

 神崎 優(かんざき・ゆう)神代 聖夜(かみしろ・せいや)は、眼前のお弁当に思わず感心する。
 褒められて嬉しくなった水無月 零(みなずき・れい)は、お礼を言いながら照れていた。

「でも……どうして桜は満開になるとすぐに散っちゃうんだろう? もっと咲いていればいいのに」
(それが桜なのだから仕方ないんじゃないか?)
「桜は人々の想いや願いを花に込めて咲くんだ。
 そして満開になった桜は、想いを込められた花弁を風に乗せて飛んでいく……その想いを届けるために……」

 誰にともなくつぶやく零に、聖夜は何となく思う。
 だが優の言葉は、2人をはっとさせるもので。

「だから、満開を迎えた桜はすぐに散るんじゃないのかな」

 零に向き直った優は、まじめな表情で自身の考えを告げた。

「それってとても素敵だね、私もそんな気がする」
(よかった……どうか、皆が幸せになれますように)

 にこっと笑い、零は優へと同意を返す。
 はらりはらりと散る桜を見上げ、3人はそれぞれの想いを馳せるのであった。


「隣に大好きな人がいて、天気もよくて桜も綺麗」

 切り取られた青空を眺めていた水神 樹(みなかみ・いつき)は、視線を佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)へと戻す。
 互いに包みを拡げた途端、ころころと転がる一口サイズなおまんじゅう。
 拾い上げようとして重なった手の温もりに、樹も弥十郎も顔を赤らめた。
 
「弥十郎さ……」
「花鳥風月というけれど、花にも負けない美しさもありますね……『樹』と名の美しさが」

 重ねた手をつかむと、まんじゅうを樹の手ごと口へと運ぶ弥十郎。
 耳元で、静かに囁いた。
 樹は恥ずかしさに、空いた方の手で袴の裾をつかんでいた。

(樹さんの桜色の唇に、お団子が消えていく……)
「何で笑っているの?」
「あまりにも美味しそうに食べるから……桜の精かと思っちゃうよ」

 気を取り直して、団子とまんじゅうを食べ始める2人。
 弥十郎は串に刺さった『みたらし団子』と『あん団子』を、樹は『まんじゅうの塩漬け桜添え』を持参していた。
 思ったことを口にしてしまい、今度は弥十郎が恥ずかしくて照れ照れ。
 だが料理人として、それ以上に恋人として、自作のお菓子を美味しそうに食べてもらえることはとても嬉しかった。

「樹さん……」
「弥十郎さん? 眠っているのですね」

 うとうとしてきた弥十郎は、樹の肩へと頭を預けるとそのまま寝入ってしまったよう。

「ふふ、可愛い寝顔……」

 起こさないよう静かに言って、和服のそでに手を入れる樹。
 シャッター音を消したデジカメでもって、弥十郎の寝顔をばっちり撮影した。
 弥十郎が貸してくれていたブランケットを拡げると、隣の膝にもかけてやって。
 2人きりの幸せをかみしめ、暖かい時間を堪能するのだった。