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リアクション
二階 ファッションのフロア
ティセラがお茶を味わっている同じ頃。
セイニィはその真上、二階の婦人服売り場を、うろうろと歩いていた。
目的はもちろん、服の購入である。
「ん……。これはいいな。安いし」
目についた一着のシャツを手に取ろうとした、その時。
全く同時に、同じシャツに手を伸ばした者がいた。
「あっ……」
同時にシャツを手に取ったのは、ハールカリッツァ・ビェルナツカ(はーるかりっつぁ・びぇるなつか)。
「あの……わたくしは……」
「こっちのほうが、一瞬早かった……よね」
セイニィにそう言われると、ハルカは「はい……」と答え、すぐに手を引っ込めてしまった。
「す、すみませんでした……」
「いや、好みが同じってことだから。センスは悪くないはずだと思うよ」
「このお洋服、動きやすそうで、お安くて、いいですよね」
「やっぱりそう思う? やっぱりあんたもセンスいいよ!」
ハールカリッツァとセイニィは、意気投合したようだ。
「ああ、うちのハルカが失礼いたしました」
広い売り場ではぐれてしまい、ハールカリッツァを探していた上杉 菊(うえすぎ・きく)が、セイニィに向かって丁寧に挨拶をした。
「このお洋服、とってもステキですね。いつも和服のハルカにも似合いますけど、あなたにも、とてもよく似合うと思いますわ」
「そ、そう? ありがと……」
褒められて、セイニィは少し恥ずかしそうだ。
「見たところ、あんたも和服をうまく着こなしてるみたいだけど、そういう服はここで買えるの?」
「ええ。実は、わたくしのパートナーたちが、ここで従業員をしておりまして」
その時。
セイニィの前に、ばっと人影が躍り出た。
「いらっしゃいませ」
「どのようなお洋服をお探しですか?」
この二人こそ、ハールカリッツァと菊のパートナー、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)とグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)。
ここ空京堂の婦人服コーナーで、夏物フェアの間の臨時バイトとして働いている。
双子のようにそっくりなローザマリアとグロリアーナは、声も完全に揃っている。
突然、二人から同時に声をかけられたセイニィは、びくっと立ち止まった。
「あ、いや……その……普通に着られる服があれば……」
おたおたと答えるセイニィ。
「それでは、コーディネートをわたくしどもにお任せいただけませんか?」
同じ顔をした従業員が、並んでにっこり微笑んでいる。
セイニィは、漠然とだが、嫌な予感を感じた。
「ええっと、できれば自分で……」
「こちらなんて、いかがでしょう」
セイニィに物言わせぬ素早さで、ローザマリアがゴシック系の黒いワンピースをあてがう。
「いや、こちらの方がお似合いかと」
すかさずグロリアーナが、和服コーナーから着物を持ってきた。
「いや……これはちょっと……」
セイニィは断ろうとするも、二人の従業員は聞いていない。
「着てみましょう」
「試着室はこちらです」
ずるずると試着室まで引きずられたセイニィは、黒ワンピ、着物、パンクロックなTシャツ、和柄シャツと、次々に着せ替えられたのである。
「ちょっと……。セイニィさんが困っていらっしゃるわ。ほどほどに!」
菊とハールカリッツァも、最初こそ止めていたものの、最終的にセイニィの着せ替え大会に混ざってしまった。
「まるで着せ替え人形じゃないか……」
仕方なく、黒ワンピと和柄シャツを買わされたセイニィは、双子従業員からようやく解放されて、汗を拭っていた。
「よろしければ、また一緒に買い物、しませんか?」
「機会があったら是非、ね」
すっかり打ち解けたハールカリッツァに挨拶をすると、セイニィは再び買い物に戻った。
ちょうどそこは、夏の新作ワンピースのコーナーだ。
「……こういうのも、悪くないな」
いくつかのワンピースを手にとって見るセイニィ。
「それ、きっと似合うと思うよ!」
そんなセイニィに声をかけたのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。
「セイニィ……だよね。よかったら一緒にお洋服を選ぶよ?」
「一人で買い物というのも味気ないし、時間があるならお願いするよ」
「よーっし。それじゃ、選んであげる!」
美羽は、しばらく「うーん」とうなりながら、セイニィのための服を探した。
「これなんてどうかな」
持ってきたのは、大きなリボンがついた、黄色いワンピース。
「それは……ちょっとかわいすぎだと思うけど」
「ふふふ。ホントは着たいくせに」
「そ、そんなこと……ないってば」
「それもかわいいけど、こっちはどう?」
横から、声をかける機会をうかがっていた朝野 未沙(あさの・みさ)が、ずいっとワンピースを差し出した。
「セイニィさんなら、これくらい大胆な服も似合うと思うよ」
未沙がすすめた服は、胸元がぐっと開いたセクシーワンピ。
「似合わないと……思う……」
セクシーワンピを着用した自分を想像したのだろうか。セイニィは耳まで真っ赤になっている。
「きゃあ、こっちもかわいいっ!」
美羽は大喜びだ。
「でしょ〜。あと、あっちのフリフリのはどう?」
「絶対に似合う! セイニィに着せたい!」
美羽と未沙は、赤くのぼせあがっているセイニィを横目に、二人で盛り上がってしまっている。
「じゃ、セイニィ」
ぎくり。セイニィは、さっきと同じ類の、嫌な予感がした。
「試着室に、行くよ!」
ずるずる。美羽と未沙に引きずられて、セイニィは再び試着室に押し込められた。
大きなリボンのワンピ、胸元強調セクシーワンピ、ふりふりレースのチュニックなどを続けざまに試着したセイニィ。
なんだかんだ文句を言いながらも、結局全部に袖を通すあたり、素直ではない。
「この服……着るのがちょっとムズカシイんだけど」
「じゃ、お手伝いするよ!」
未沙が一緒に試着室に入り、背中のチャックを上げるなどの手伝いを始めた。
「あー、いいな。私も入るー!」
それを見ていた美羽も、試着室に突撃!
「ちょ、ちょっと、狭いってば!」
「だーいじょうぶ。ちゃんと脱がせてあげるから」
「これも着て! これも!」
「うわあぁぁぁ」
……まあ、そんなこんなで数分後。
試着室から出てきたセイニィは、ぐったりげっそりしていた。
「何なんだ、まったく……」
そう言いながらも、買い物かごにはしっかりと、リボンワンピとふりふりチュニックが入っていた。
「たまにはふりふりも……悪くない」
そうセイニィがつぶやいた時。
「ふりふりイヤ! ふりふりはイヤー!」
まったく真逆のことを叫びながら、ビビ・タムル(びび・たむる)がどたどたと走ってきた。
「待ちなさい! あなたがその服では嫌だとおっしゃるから、こうして買いに来たのでしょう!」
そんなビビを追いかけるのはモニカ・レントン(もにか・れんとん)。
どうやら、洋服嫌いのビビに、どうにか着るものを持たせようと連れてきたものの、耐えきれずにビビが逃走を図ったようだ。
「イヤーーーー! 服イヤーーー!」
どどどど。前を見ずに走っていたビビは、まっすぐセイニィに突っ込んできた!
「おっと」
がしっっっ!
ビビは、見事セイニィに受け止められ、動きを止めた。
「……はあ、はあ。ありがとうございます。助かりましたわ」
モニカはセイニィに、ビビを捕まえてくれたお礼を言って頭を下げた。
「ふりふりが……ふりふりが来る……」
ビビはセイニィの腕の中で、号泣している。
「ふりふりは……悪くないぞ」
セイニィもモニカと一緒に、ビビをなだめることになった。
「ビビ! やっとおとなしくなったんだね」
ビビとモニカを追いかけて、水上 光(みなかみ・ひかる)が走ってきた。
「キミがビビを捕まえてくれたんだね。ありがとう……って、十二星華のセイニィ?」
光は、すぐにセイニィに気が付いた。
「今日は、十二星華は休業中だ」
「そうか。……ところで、いい服はあった?」
今はデパートの客同士。セイニィの「十二星華は休業中」という言葉から、光は気持ちを汲み取り、難しい話を飲み込んだ。
「ふりふりは、悪くないと思う」
セイニィは、今かごの中に入っているふりふりチュニックが、実はかなり気に入っている様子だ。
「ほらビビ。ふりふりはいいらしいよ」
まだ抑えられているビビに向かって光が言うが、ビビはぶんぶんと首を横に振るのだった。
「まあ、ふりふりでなくても、似合う服はあると思うけど」
「セイニィ。よかったら、ビビの服を選んであげてくれないかな?」
びくぅっと飛び上がるビビ。
「……まあ時間はあるし、かまわないよ」
ふりふりは着なくていい、とビビを説得し、なんとか服を着ることを了承させた。
そしてしばらくの間、セイニィと光、モニカの3人で、ビビの服を選んだ。
「……まあ、こんなところか」
最終的に、ホットパンツとチューブトップで、ビビも妥協したようだ。
「ありがとう、助かったよ。ホント、会えて良かった」
光が、セイニィにお礼を言った。
「いや、こっちも暇つぶしになったし」
あまり感謝されることに慣れていないのか。セイニィは少し居心地が悪そうだ。
だが、決して不機嫌ではない。
「できることなら、今度も友人として会いたいね」
「……そうだな」
そう言い残し、光たちは会計を済ませて去っていった。
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