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【GWSP】星の華たちのお買い物

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【GWSP】星の華たちのお買い物

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四階 季節のイベントフロア
「おっかいものぉぉ!」
 エメネアの買い物かごは、早くも三つめが一杯になった。
 エメネアが来ているのは、季節のイベントフロア。
 今は『夏物先取りスペシャルフェア』として、アウトドアグッズや虫除け各種、ビニールプールなど、夏向けの商品が数多く揃っていた。
 エメネアはそれらを、手当たり次第買い物かごに放り込んでいた。
 もちろん、用途なんて考えていない。

 同じように、大量の買い物をしている人物が、もう一人。
「うーっし! 久々に思いっきり買い物するかな!」
 既にたくさん買っているにもかかわらず、再び気合いを入れ直しているのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)
 ラルクは、夏物紳士服特設コーナーで、服やアクセを買い求めていた。
 いつもハードな服装を好んでいるイメージのラルクだが、クラッシュデニムやデザインTシャツだけでなく、甚平などもよく似合う。
 長身と、引き締まった身体つきも手伝って、ラルクが入る試着室の周りは、ちょっとしたファッションショーのような雰囲気になっていた。
「……砕音の為にもきっちり服を揃えないとな!」
 男たるもの、内面はもちろん、外見もきちんと磨かなければならない。ラルクは、そう心に誓っていた。

「んむぅ! あそこに、私を超えるお買い物上手さんの存在を感じるですぅ」
 周りの注目を集めながら、大量に、しかも上手に買い物をしているラルクに、エメネアが目を付けた。
 自分こそが買い物王。そのプライドを揺るがす存在が、現れたのである。
「おっ。十二星華のお嬢ちゃんじゃねーか」
 ラルクが、エメネアに片手をあげて挨拶した。
「なかなか見事なお買い物っぷりですねぇ」
 エメネアは、ライバル心を燃やしている。
「ああ。今のところ、こんなもんだ」
ラルクはにっと笑って、ここまでに買った品が入っている紙袋を見せつけた。
「な、なんですとぉ!」
 なっ、7袋もある……。
 エメネアは、まだ4袋分しか買えていなかった。
「こっ、これはうかうかしていられません……」
 エメネアはダッシュで、売り場へと突っ込んでいった。
「ん? ありゃ、どうしちまったんだろうな」
 ラルクは、エメネアの背中を見送って、首をかしげたのだった。

「次は何を買うんだ?」
 カートを押しながら日比谷 皐月(ひびや・さつき)が言った。
「まだまだぁ! 七日に着せたい服がいっぱいあるんだから!」
 そう言いながら如月 夜空(きさらぎ・よぞら)が七日にあてがっているスカートは、ギリッギリの短さだ。
「夜空。この服は一体どういうつもりですか?」
 そのスカートを無理矢理渡された雨宮 七日(あめみや・なのか)は、ため息混じりにそう言った。
「だーいじょうぶ! 似合うって。ねえ、皐月」
「……あー……うん、可愛い、ぞ?」
「この短いスカートがですか?」
 ぎろっと、七日は皐月を睨み付けた。
「さささ、試着室へ!」
 夜空は、そのスカートを七日に着せるつもり満々だ。
「さすがにこれは凄く、恥ずかしいんですけれど」
 やんわりと拒否。
「いやいやいや! これ、けっこう短く見えるけど、着てみると意外とそうでもない。食べ物でも、食わず嫌いはよくないって言うじゃん!」
 夜空はあきらめなかった。短いスカートを、ずいずいっと七日に押しつける。
「騙されたと思って、一度だけ着てみてよ。ね!」
「……一度だけですよ……」
 仕方なく七日は、押し切られるかたちで試着室へと入っていった。
「へへーん。皐月。感謝してよね」
「な、何をだよ!」
「今から始まるセクシータイムに」
「オイコラふざけんなお前」
 そうこう言っているうちに、試着室のドアが開いた。
「皐月……どうですか?」
 スカートは、隠すべきところをぎりぎり隠すくらいの長さしかない。
 真っ白いふとももが、まるごとあらわになっていた。
 ぶっちゃけ、短い。
 本当に、短い。
「あー、まあ、気に入ったなら……買ってもいいぞ……」
 本当は既に予算オーバーなのだが、男として、このスカートを見逃すわけにはいかなかった。
「皐月ぃ。こっちは?」
 いつの間に試着室に入っていたのか、夜空が着替えて現れた。
 ひらっひらレースのメイド服だ。
「却下」
 0.2秒で即答した皐月だった。
「……却下なのでしたら、このメイド服は私がお買い上げですぅ」
 きゅぴーん☆
 夜空が脱いだばかりのメイド服を、光のような早さで、エメネアがかっさらっていった……。
「何だったんだ、今のは……」
「……さあ?」

 どんっ。
「ああ。ごめんなさいですぅ」
 スタタタタ。メイド服をつかんで走っていたエメネアは、女子生徒にぶつかってしまい、ぺこりと頭を下げた謝った。
「大丈夫ですから、気にしないでください」
「急いでいるので、失礼しますですぅ。もしお怪我をなさってるようでしたら、後ほどご連絡下さい!」
 スタタタタタ。エメネアは走り去った。
「あれ? 今のってまさか十二星華のエメネア?」
 エメネアにぶつかられたのは芦原 郁乃(あはら・いくの)
 よくよく正体を見ようと思ったのだが、その人影は素早く、既に消え去っていた。
「まさかねぇ。有名人なんて、そうそう会えるもんじゃないよね」
 気を取り直して郁乃は、再び服探しを始めた。
 学校帰りの郁乃は、十束 千種(とくさ・ちぐさ)と一緒に、夏服を探しに来ていた。
 ふたりとも、非常に小柄である。
 なかなかちょうどいいサイズの服に巡り会わないため、こうして品数が多く出ているフェアを狙ったのだ。
「このワンピース、良さそう。試着してみようかな……」
 郁乃は、近くの店員に声をかけた。
「すみません、あの……」
「あら? 迷子かな。お母さんは一緒じゃないの?」
「……」
 郁乃は、蒼空学園の制服を着ている。少なくとも、保護者同伴でなければデパートに来られないような年齢に見られることはない……はずなのだが、あまりにも小柄で、時として子供に見られてしまうことがあった。
 制服を着ているのに。
「いやっ、私はそういう年齢じゃないですから……」
「おい、あいつ……」
「ガキだと思われてやんの!」
 たまたま近くを通りがかった、同じ蒼空学園の男子生徒が、必死に説明する郁乃を見て笑い転げていた。
「な、何なのよあんたらっ!」
 一発殴ってやる! そう思って郁乃は男子生徒に向かっていった!
「郁乃さん!」
 そんな郁乃を止めたのは、一緒に来ていた千種だった。
「郁乃さん、服見途中ですよ。そのワンピース、お似合いだと思うのですが、試着してはいかがですか?」
 千種が、必死にフォローしてくれている。
 そう感じ取った郁乃は、思わず笑ってしまった。
「あははは。千種、ありがとう」
 とりあえず機嫌を取り戻した郁乃は、千種が良いと言ってくれたワンピースを持って、レジに向かった。
 会計を待っている間、千種は一人、首をかしげていた。
「郁乃さん……。ただお洋服をすすめただけなのに、なぜ突然笑い出したのでしょう……」
 千種には、フォローのつもりは全くなかったのだった。
 噛み合うようで、噛み合わないような、でもどこか噛み合っている二人。
 良いコンビだった。