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【十二の星の華】想う者、想われる者

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【十二の星の華】想う者、想われる者
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第3章


 シャムシエル達は悠々と飛行を続けている。
 余裕からなのか、少しゆっくりのようだ。
「こんなにゆっくりで良いのか?」
「ええ〜? だって、ゆっくり行った方がなんか面白いことになりそうじゃないか」
 シャムシエルの返答にトライブは仮面の下で渋い顔をする。
「ところで……聞いてみたかったんだが、あんたはティセラを洗脳しているのか?」
 この質問にはマッシュ達も耳を傾けているようだ。
「せんのう? 仲良くなれるおまじないならしたけど?」
「……そうか。色々と胡散臭い所もあるが、あんたは興味深い。手を貸すには十分な理由さ。俺にとってはな」
 トライブはシャムシエルの答えに満足しているわけではなさそうだ。
「ふ〜ん……ま、こっちとしても手を貸してもらえると助かるよ」
 シャムシエルはそう答えると少しだけ後方を振り返って、また前を向いた。


 その後ろをそっと見つからないように幸とメタモーフィックがつけている。
(陣はまだですか? いつスピードを上げられて追い付けない状態になってもおかしくありませんね)
 幸は言葉にこそしなかったが、焦りが見えた。
 さすがにここで見つかれば、巻かれるか運が悪ければ返り討ちだ。
 そこに、メタモーフィックの携帯にメールが届く。
「ママ、ここから5時の方角」
 メタモーフィックが言うのを聞いて、幸はそちらに首を動かす。
 少し後ろの人物と視線がかわされる。
「フィック、準備は出来ていますか? 作戦遂行です」
「うん!」
 幸はメタモーフィックに悪戯っぽい笑顔を向けるとメタモーフィックも同じ表情で返した。


 いきなり、雄軒の側にいたバルトが六蓮ミサイルポッドを撃ちこんだ。
 殺気看破で急に近付いて来た者を狙ったのだ。
「!?」
 しかし、シャムシエル達の視界は真っ白い煙に包まれた。
「作戦開始やっ!」
 陣がシャムシエル達の死角をついて行動を開始したのだ。
 煙の中をつっきり、シャムシエルの手から玄武甲をかすめ取ろうとする。
「これはもう君達のじゃないよ!」
 しかし、シャムシエルの手に力が入っており、取れない――
「その手を放して下さい」
 真奈が陣の背後から機晶キャノンでシャムシエルのいる辺りを撃つ。
 攻撃はシャムシエルの頬とマッシュの脇腹をかすめた。
「これでも食らってください」
 さらに幸が煙に紛れてシャムシエル達に接近し、しびれ粉の入った袋をぶつける。
 袋はシャムシエルの小型飛空艇に当たるとすぐに破け、辺りにしびれ粉を撒き散らした。
 その一瞬の攻撃で手が少しだけゆるんだ。
 隙を見逃さず、陣は玄武甲を奪い取った。
 体がしびれてくるのを感じながら、シャノンが幸に向かって青い炎のファイアーストームを、トライブは陣の行き先に向かってファイアストームを放ち行く手を阻もうとする。
 陣は目がくらみ、小型飛空艇にもファイアストームが直撃し、垂直に落ちていく。
 小型飛空艇と体が離れる。
 陣を追おうとするシャムシエル達に向かって真奈が弾幕援護でシャムシエル達の目から隠す。
 それから真奈は急いで、陣の下へと回り込み陣だけを小型飛空艇の後部へと乗せる事が出来た。
 そのまま、真奈が操縦を担当し、背後に陣がいる形となった。 
 小型飛空艇はそのまま地面へと落下し、嫌な音を立てた。
「助かった」
「ご主人様を守れて良かったです」
 心底、安堵した表情を陣に見せる。
 陣は真奈の頭に手をぽんと置くと、顔を引き締める。
「さ、やることちゃっちゃとやらんとな」
「はい」
 真奈はまだ弾幕に囲まれているシャムシエル達の元に少しだけ近づくと、陣が恐ろしい幻覚をその身に与えた。
 弾幕の中からはうめき声のようなものが聞こえてくる。
 ファイアストームをなんとかかわすことの出来た幸達の元へと急ぐ。
 弾幕が晴れる寸前、幸達と陣達は互いに距離を置く。
「やってくれるじゃないか!」
 かなりの猛スピードでシャムシエルが陣達のもとへとやって来る。
 それを見て、真奈はキマクにある洋館とは逆方向へと走らせた。
「こいつはもう、俺らのもんや!」
 陣は玄武甲をこれみよがしに見せつける。
「陣にぃ、玄武甲をお願い!」
 メタモーフィックが叫ぶ。
「君さあ、前にも会ったよねぇ〜。今度こそ石化してあげるよ」
 シャムシエルと一緒に追ってきたマッシュが真奈に向かってペトリファイを放つ。
「右にきれっ!」
「はいっ!」
 それを陣が直前で真奈に指示を出して、なんとかかわす。
「そんなに嫌がらないでよ。石化したらもっと可愛くなれるんだから」
 マッシュの瞳には狂気と喜びが混じり合った色が見える。
「大事な真奈を石化なんてさせるかっ!」
 つい口をついた言葉だが、真奈は嬉しく想っている場合ではないのは理解しているのだが、心の中が温かくなるのを感じた。
 口走った当の本人は自分が言った言葉をあまり気にしていないようだ。
「ボクを前にして余裕だね」
「ぐあっ」
 陣の背中に熱い電撃が走ったような感覚があった。
 シャムシエルの還襲斬星刀(かんしゅうざんせいとう)がヒットしてしまったのだ。
「さあ、玄武甲をこっちに渡してもらおうか。そうしたら命は……取らないかもね」
「誰がお前なんかに!」
 それでも動きを止めることはない。
「それでは、私も攻撃に加わらせていただきます」
 今までシャムシエルの側にいた雄軒が真奈の小型飛空艇に奈落の鉄鎖を掛けると少し動きが鈍くなる。
 そこへ火術、雷術、氷術を間髪いれずに撃ちこんでいく。
「雄軒様の為に……その手のものを渡してもらいます」
 氷術で足元を固められた陣と真奈にミスティーアがトミーガンを撃つ。
 女性がいるからか、当てはしない。
 だが、牽制には十分だ。
 さらにスピードが落ちたところをバルトが近づき乱撃ソニックブレードを叩きこむ。
 なんとか回避は出来たが、バルトは続いて加速ブースターを起動させ、その勢いのままチェインスマイトを小型飛空艇に叩きこんだ。
 小型飛空艇は悲鳴を上げ、落ちて行こうとする。
 陣は必死に玄武甲を腕の中に入れ、決して離れないように、そして真奈と目を合わせた。
「返してもらう」
 落ちていく2人に近づいたトライブがダークネスウィップを伸ばし、玄武甲に巻きつかせた。
 トライブがダークネスウィップを引くと玄武甲が陣の手から抜け、トライブの元へと行ってしまった。
「これはあんたに渡しておく。今度からは楽しそうだからと警戒を緩めないことだ」
 シャムシエルはトライブから玄武甲を乱暴に奪うと面白くなさそうに鼻を鳴らした。
 シャムシエル達は奪い返した玄武甲を手に、この場を離れて行った。


 地面に小型飛空艇はなんとか着地することが出来た。
 シャムシエル達が見えなくなるのを確認してから陣は電話を掛けた。
「成功や」
 陣はぼろぼろになりながらも、にやりと笑った。
 真奈もどこか楽しそうだ。
「そうですか! そちらは戻ってくれそうですか?」
 幸から心配そうな声が聞こえてくる。
「う〜ん……小型飛空艇はもう動きそうにないし……満身創痍って感じやね」
「わかりました、すぐにそちらに向かいます。大人しくしていて下さい。あ、場所はフィックにデータを送って下さい」
「いや、でも……はよ、ホイップちゃんのところに――」
「ダメです。行きますから」
 幸の言葉に観念したのか、陣は返事をして、データを送ったのだった。

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 キマクにある洋館には、みんなが到着したようだ。