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【2020年七夕】Precious Life

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【2020年七夕】Precious Life

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●第八章 地上の星へ


 パーティーが終わり、佐々木と水神は、二人で笹の飾りつけに行くことにした。
 佐々木はパーティーには洋服で出席した。
 再びルシェールの祖母の元に行き、先ほど選んでもらった着物を着た。
 色は水色。
 彼女の着物と同じ色だ。
 模様は違えど、同じ色の着物を着て歩くことは少し照れくさかった。
 佐々木は手提げに入れた、水色の包みを盗み見て苦笑する。
 大きなホテルの真ん中。
 巨大なエントランスの噴水は天の川のようだ。
 池の部分には灯篭が仄かな光を放っている。
 今日の日のために、エントランスの照明は抑えられていた。
 淡色にたゆたう水面に落ちた笹の葉。空調の風に揺れる七夕飾りは夢の中のようだ。
 パラミタと地球。重なり合う二つの世界の接点で、惑星のように二人はめぐり合った。
 離れていても――想っている。
 穏やかで満ち足りた気持ちを感じながら、二人は大きな竹の前に来た。細い笹も飾ってある。
 紙を切って繋げた虹色の鎖が天から降ってくるように垂れていた。星のオーナメントも下がっている。
 とても綺麗だけれど、とても可愛らしい空間だと水神 樹(みなかみ・いつき)は思った。
 パーティーではハプニングがあったが、皆の気持ちも伝わり、上手くいっていなかったらしいルシェールとソルヴェーグの関係も改善された。詳しいことはわからないが、樹はホッと一息ついた。
 パートナー同士が上手くいかないというのは自分のことでなくても心が痛むもの。
 事情はわからなくても、やはり心配だった。
 それも上手くいったことだし、樹は安心して今を楽しむことができた。
「ここに短冊を飾りましょう」
 樹は言った。
「そうですねえ」
 佐々木はのんびりと答えた。
 なんとなく……満ち足りた笑顔だ。
 二人の時はいつも気持ちが温かくなるが、今日はちょっと違う。もっと、もっと――違う何か。
 樹は佐々木を見つめた。
「何ですか〜」
 佐々木は辺りが暗いのをいいことに、自分の中の温かく、少し恥ずかしいような気持ちを見せないように俯いてしまった。
 樹もそんな気持ちを感じ取って視線を逸らした。

 気になる。

 でも、相手は見ない。
 きっと、今は心の波長が同じだから、振り返ったら相手も自分を見ているはず。
 だから、見れない。

 心の中の思いを伝えたら、きっと涙が零れてしまう。
 言葉が、想いと、涙を呼んでしまう。
 幸せな直感が二人を満たしているから、二人は見ることさえできない。

 心の声が届く。

 たくさんの言葉と想いとが交じり合う。

 きっと、言わなくても通じてる。

 近い絆。シンパシー。

 11桁の魔法の数字もいらない。

「短冊……書きましょうか」
 樹は言った。
「そうですね」
 佐々木も言った。
 些細な会話が、至福。
 笑い合って、短冊を書き始めた。

 樹は『彼との幸せな時間が続きますように』と願い事を書いた。
 今のような気持ちが続いたら、天国さえもいらないかもしれない。
 地上に天国があるのなら、嬉しい。
 天にあって、地にあって。幸福な場所。
 樹は微笑んだ。
「お願い事はなんですか?」
 樹は聞いた。
 答えてくれなくても、平気。
 だって、今の二人は心も空間も近い場所にある。
 奇跡のような瞬間が今の自分にあるのが嬉しかった。

 水色の短冊に佐々木は願い事を書いていた。
「樹さんが、うんと言ってくれますように」
 それを短冊を見せて笑った。

『織姫と彦星の関係にそのうちなってみない?』

 樹は瞳から熱い雫が落ちていくのを感じた。
 何度も頷く。
 奇跡の瞬間は、今も、彼女に。


 月は満ち欠けを繰り返して君を不安にさせるから
 私はあなたの太陽になる。
 私たちは地上の星。
 たとえ小さくとも、いつか輝く。
 だから、ずっと私の宇宙(そら)でいて……