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【2020年七夕】Precious Life

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【2020年七夕】Precious Life

リアクション


●第九章 自由時間


 パーティー&夕食後。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)クロス・クロノス(くろす・くろのす)皆川 陽(みなかわ・よう)テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)泉 椿(いずみ・つばき)如月 正悟(きさらぎ・しょうご)ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)キリカ・キリルク(きりか・きりるく)上月 凛(こうづき・りん)ハールイン・ジュナ(はーるいん・じゅな)城 紅月(じょう・こうげつ)レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)、ルシェール・ユキト・リノイエ、ソルヴェーグ・ヤルル・ヴュイヤール。以上、生徒15名と教員1名、校長1名の合計17名はカラオケルームに行った。
 本格的な設備に興が乗って、美羽なんかは歌いまくっていた。
 アイドル志望だけあって、美羽は上手かった。
 主賓のルシェールはというと、素質は良いのだが、恥ずかしがって音を外していた。
「もー! また外したよぉ!」
「緊張しすぎだな」
 ヴァルは笑った。
「今、何時〜?」
「もう、10時だな」
 如月は答えた。
 存分に歌って、時間も10時過ぎと、よい時間。
 皆は枕を持ってきていて、この時を待っていた。
「もういいんじゃないか?」
 後ろを向いたまま、紅月は言った。
 何かゴソゴソと探している。
「じゃあ、やるか!」
「ちょっと、マイク貸してくれよ。あーあー、マイクのテスト中〜。みっなさーん! お待ちかねの枕投げ!」
「好きに投げてくれて構わないぞ」
 ヴァルは言った。
 如月も続けて言う。
「試合……開始ッ!」
「ちょっと、待てよ!」
「ダメだね!」
 そして、枕投げはいきなり始まった。

「ぉりゃあああああああああああああ!!!!!!!!」

 先行一番、電光石火の勢いで枕を投げたのは、紅月。
 フルスイングで投げた。

 こともあろうに、観世院校長にである。

 まーさーにっ、自殺行為☆

「当ったれ〜〜〜〜〜…」

 ズバァーーーーン!!!

 側頭部を掠っていっただけとはいえ、麗しの薔薇学校長の御髪を乱したのだ。おまけに、ちょっぴりだけど当たっていた。
「……いきなり私に…か」
 さすがに校長の怒りは沸点へと上昇しているようだ。
 若干、雰囲気の変わった校長のオーラに気が付いた。パートナーのレオンはヤバイと感じる。
「わ、【私の】紅月が危険ですッ! す、すみませぇぇぇぇーーーーーん!」
 無謀にも、レオンもパートナーを守るために校長に向かって枕を投げた。
 それが合図であるかのように、皆は枕を投げ始めた。
 レオンの投げた枕はサラディハールの頭へ。
「ごめんなさああああーーーーい!」
「やりましたねー!」
 落ちた枕を掴んでサラディハールは投げた。
 サラディハールの猛攻に、レオンはビビリながら逃げる。

 一方、紅月の方は――というと。
 逃げる際、紅月は校長に脚を引っかけられ、見事に転んでいた。
 相手は不安な自国の情勢の中を日本刀一本で渡り歩いた猛者。入学したての紅月が敵う相手ではない。
 それでも悔しさを隠し切れない紅月は、この学舎に誘ってくれた恩人を、こともあろうに睨み返した。
 倒れた紅月の背中を校長は膝で押さえ込んで動けないようにしている。そして、紅月のアクセサリを見ると、ふと優しげな笑みを浮かべた。
 首輪型のチョーカーの鎖に手を伸ばし、引っ張る。
 そして、耳元で囁いた。
「このアクセサリーが役に立ったね」
 耳に鎖の擦れる乾いた音が響く。
「美しく勝ちにくるなら、もう少し相手を見たほうが良いな」
 紅月は眉を寄せる。切れ長の瞳で観世院校長を睨んだままだ。
 そんな様子を見て、観世院校長は楽しげに言った。
 グッと押さえ込む膝に体重を乗せた。
「…っぁ」
「悔しそうだね」
「…っ…当然…だろ」
 紅月は苦しげに言った。
「…どい…て…重い…」
「お仕置きは終了だ」
 そう言って、観世院校長は紅月を抱き起こした。

「サラディハール先生、ごめんなさい!」
 陽は普段はできないことをしようと、レオンを追いかけるサラディハールの後頭部へ重い枕をフルスイングで投げた。
「あいたッ!」
 後ろからの攻撃に避けきれず、サラディハールは思いっきり転んだ。その時の衝撃で、サラディハールの眼鏡はどこかに飛んでいってしまった。
「こッ、この子はァァァァァ〜〜〜!」
 アボミネーションを発動させ、サラディハールは起き上がり、陽を見据えた。
 陽ははじめて先生の眼鏡なしの瞳を見た。魔力に満ちたような金と蒼の瞳。その怒りに燃える瞳に、陽は縮み上がる。
 テディは愛しいヨメを守ろうと必死で抵抗を試みる。
「サラ・リリっ! 陽くんいじめちゃ、ダメぇ!」
 陽を守ろうと、ルシェールまで枕を投げ、椿も凛も投げ始めた。手加減しつつ、クロスも投げる。
「手加減は難しいですね〜」
 さすがの教導団。細くても腕力はそれなりだ。
「枕投げって、面白いかもね」
 そんなことを言いつつ、最後にはソルヴェーグまで投げてきた。
「なんですか、あなたッ! さっきまで落ち込んでたくせにー!」
「なんのことかなぁ?」
「可愛くないですね! さっきまで、しおらしかったのに……ぶっ!」
 ソルヴェーグの投げた枕は、サラディハールの顔に当たった。
「そ……ソルヴェーグ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 サラ・リリはぶち切れてソルヴェーグを追いかけ始めた。
「許しませんからねぇーーー!」
「僕だけじゃないよ!」
「知りませんよッ!」
 二人はカラオケルームから飛び出し、逃走劇が始まった。
 ドアの外ではドタバタという音が聞こえている。


 そして、逃亡者が出たので枕投げはお開きにし、皆は部屋へと帰っていった。