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リアクション
第3章 孤独なる戦い人 3
コビアたち一行が通路を進むと、ようやくその先に扉らしきものが見えてきた。
第三の試練があるであろう扉に、コビアたちの中にも緊張が走る。一体、今度は何が何が待ち構えているのだろうか。
コビアが扉を開くと――その先は、断崖絶壁だった。
「な、なにこれ〜!?」
絶壁を見て、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が悲鳴のような声を上げる。
部屋はこれまでと違った、暗澹とした機械のドームだった。その巨大なドームの、一歩踏み間違えれば確実に奈落の底に落ちるであろう穴が広がっている。これが第三の試練にどう関係するというのか。
コビアたちがそんなことを考えていると、奈落の底から、何かが地響きのような音を立てて上がってきた。
まるで、それは舞台の演出のようであった。コビアたちの体全体を揺らしながら、けたたましく上昇してきたのは一本の柱だけで立つ巨大な平地。そして、その中央で悠然と佇むのは――
「機晶……姫?」
ただし、女性型でないのは間違いなかった。
腕を組み、まるで舞台の上で観客を迎える役者のように直立している。もちろん、その場合の観客はコビアたちということに他ならない。
「とりあえずこれは……行かないダメってことかな」
アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は冷や汗をにじませながら、平地へと飛び乗った。それに続くよう、コビアたちも平地に降り立つ。無事に全員が舞台に上がったとき、それを待っていたかのように目の前の機晶機械が動き出した。
組んでいた手が握るのは……シャムシールのように僅かに曲がった細みで短い剣。だが、一つではない。両手に握られ逆手で構えるその姿は、まさしく双剣のそれであった。
「…………来る!」
機晶機械の緩慢な動作に気を取られていると、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が叫んだ。
途端――機晶機人の双剣が、眼前に迫る!
「危ない!」
アリアは咄嗟にコビアを弾き飛ばした。同時に、アシャンテの両手が構える二丁の小銃が、機晶機人を捉える。放たれる弾丸が機晶機人を貫かんとするが、まるで幻影のごとく、機人の姿が後方へと下がった。
「ま、まさか……」
「……あれと戦えということでしょう」
コビアの予感に、アシャンテが憮然として言った。感慨もなさそうな口調だが、額に浮かぶ冷や汗は、僅かに動揺していることを物語っている。銃弾をまるでいともせず避けた機人の速さに、戸惑いを隠せないのかもしれなかった。
もちろん、それはアシャンテだけではない。試練を請け負うだけはあり、たった一体とはいえ、機人の戦闘能力ははるかに高みにあると知れた。
「コビア君、ここは私に任せてくれないかな?」
すると、アリアが前に進み出て言う。
「そ、そんなアリアさん……!」
「大丈夫。コビア君たちは、早く次の階に行って。ここで足止めされるわけには行かないもの。早く、女の子のためにも……」
アリアの決然とした言葉に、コビアは戸惑う。確かに、早く行かねばならぬのは確かだ。しかし、彼女一人に任せておくわけには……。
「……大丈夫です」
コビアの耳に、アシャンテの声がかかった。
「ここは私も残ります……」
「美羽も残るよー! これでも、ただ守られてるだけのスーパーアイドルじゃないんだからねっ」
二人がアリアのように前に出て、構えを取った。
歴戦の勇士を思わせるその姿は、まさに敵を阻まんとする盾となる。
そこに――
「はっはぁっ! こりゃまた面白そうな奴がいるなぁ!」
「へへっ、こいつぁ、なかなか楽しく踊れそうだねぇ」
豪快な笑い声とややべらんめぇな声が聞こえてきた。
コビアたちが視線を向けた扉にいたのは、自慢の筋肉を盛り上げた屈強な男――ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)、そして飄々とした東條 カガチ(とうじょう・かがち)だった。
更にはそれだけでなく、一つだけに留まらなかった扉から、別の冒険者然とした者たちが顔を出す。
その中には――コビアたちと共に歩んできた、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の探していた男もいた。
「あら……ツカサだわ」
左右に使い魔のカラス『フギン』と『ムニン』を携えながら、シオンはつまらなさそうに呟いた。心理の試練を越えた頃から、パートナーが逸れたと言ってついてきていた彼女であったが、肝心のパートナーが見つかったからといって、別段喜ぶようなところが見られないのはいかがなものか。
そんなシオンの様子を露知らず、彼女の相棒である月詠 司(つくよみ・つかさ)は興味深そうに機晶機人を見つめていた。恐らくは、確実に戦う気マンマンで。
「なんか、いつの間にか増えてきたね……。でも、これだけいれば大丈夫でしょう! さ、コビア君、早く行って!」
「う、うん……ありがとう!」
アリアに発破をかけられて、残されたコビアたちは駆け出した。平地から次の扉へと飛び移り、下層に続く階段へと向かう。
残されたアリアたちはコビアの背中を見送り、機晶機人と対峙した。
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