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第4章 壊れし操り人形 3

 本拠点から近い簡易拠点が潰されたと知って、蛮族たちはざわざわと騒ぎ立っていた。血の気の多い連中だ。やられたらやり返してやるといわんばかりに、部下たちは血気盛んになっていた。
「でも……おかしなものですね」
「……どういうことだ?」
 ぼそりと呟いたガートルード・ハーレックの声に、ボスが訝しく尋ねた。光る箒でパトロールに出かけていた彼女も、つい先ほど騒ぎを聞きつけて帰還したばかりだ。
「偵察中にも不思議だったのですが……どうも行動がバラバラになっている気がします。もしかしたら、私たちが敵と思っている存在とは、また別の者がいるのかもしれません」
「……ふん、どっちでもかまわねぇ。目的がなんだろうと、俺たちの縄張りに入ったからには潰してやるまでよ」
「失礼します、ボス」
 ボスが言い切ったとき、彼の部下が戸惑ったような様子でやって来た。
「なんでも、話があるとかいう奴がきてんですが……E級の四天王のようです」
「私は天使です。神の使いですよ。故に貴方達には私を崇め奉るという必要があるわけで……何ですか皐月。文句があるなら言って下さい」
 ボスからは見えない洞窟の外から、何やら強気で傲慢そうな声が聞こえてきた。その様子に怪訝そうな顔をしながらも、彼は顎をしゃくる。
「……通せ」
 部下がすっと引っ込むと、代わりにやって来たのは一組の男女だった。
 とても四天王とは信じがたい、痩身の若者である。特に目立つところも少ない黒髪に優しげな目つき。部下が戸惑いを隠せなかったのも無理はなかった。
 むしろ、一方の少女のほうが四天王と言うに相応しそうだ。銀髪に赤眼の守護天使だが、冷酷そうな目つきの悪さはいかにもパラ実生の素質を感じさせる。まして敵対心むき出しに蛮族を睨みつけていれば、なおさらだ。
「おまえが、ここのトップか?」
「そうだ。てめぇはE級四天王らしいな。こう言っちゃわりぃが……とてもそうは見えねぇ」
「そんなの、オレが一番よく分かってるよ」
 若者は表情をまるで変化させなかった。なるほど、あながち嘘でもなさそうだ。
「オレは日比谷 皐月(ひびや・さつき)。んで、こっちは……」
雨宮 七日(あめみや・なのか)です」
 丁寧な口調ながら、七日はボスを守るために取り囲む周囲の部下たちを観察していた。
「で、そいつが何の用だ?」
「ああ、まあ、まずは……一言で言うとこの縄張りを解体しないかって話だ」
「……な、こいつ、どのくちでっ!?」
 カッと血の昇ったボスの部下が、皐月へと襲いかかろうとした。それに反応して、七日が即座に鎌を引き抜く。と同時に、ハーレックと横に控えていたシルヴェスター・ウィッカーも七日へと拳銃を構えていた。
「やめろッ!!」
 地鳴りのようにボスが吠えると、ピタリとれぞれが氷像のように膠着した。
「まずは理由を聞こうじゃねぇか。どういう了見かよ」
「つまり、ここで争ってても無駄だってことだ。仮に今回の連中を退けたところで、これ以上強硬な態度を続けていれば、いつか本格的な討伐隊を組まれかねないしな」
「ハッ……そんなもんに俺たちがビビるわけねぇだろっ!」
 部下の一人が野次を飛ばしたが、ボスに睨みつけられると、そいつは飼い犬のように大人しくなった。
「…………」
 自然と、ボスの視線は美しい白い花の群れに向いていた。それを知ってか知らずか、皐月は言葉を継ぐ。
「……誰にだって居場所が有るし、命も、大切なものも、守りたいものもある。オレはそれを無碍にしたくないだけだ」
 黙ったまま、ボスは考え込むように花を見つめ続け、やがて口を開いた。
「……どうすればいい?」