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想い出の花摘み

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想い出の花摘み

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第2章 戦いの理由 3

 パラ実生蛮族の集う山岳の拠点では、とある研究者がクラウズの花を調査しているところであった。
「学者さんよ……。どんな様子だい?」
「あのー、何度も言ってるようにワタシは学者ってわけじゃないんだけど……」
 蛮族からの質問に、苦笑した佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が答えた。花を緻密に調査しているその様子は明らかに学者にしか見えないのだが、彼曰く薬学は趣味の一環らしい。
 彼の横で同じようにクラウズの植生系を調べている賈思キョウ著 『斉民要術』は、蛮族からの奇異のような尊敬のような微妙な視線に晒されながらも、真面目に調査に取り組んで集中している。
 彼女は枯れてしまっている端の花を丁寧に引っこ抜きながら弥十郎に言った。
「それにしても……一つの種から一つの花だけ、というのは、エネルギーの仕組みが気になるところだね」
「正直、花はそんなに巨大ってわけじゃないし、エネルギーの蓄えが少ないから一つしか生えない、とも考えられるんだけど……」
 二人はお互いに意見を交換し合いながら調査を纏めていく。すると、そこにがさがさと音を鳴らしてやって来たのは先ほどまで蛮族のボスと話をしていた和原 樹(なぎはら・いつき)たちだった。
「ああ、お帰りなさい」
「いやー、まいったよ。さっき渡した日本酒やらに毒が入ってないかって疑う人が出てきて……なんとかボスに治めてもらったけどね」
「まったく、樹がそんな卑怯な真似をするはずがない。あれ以上言うようなら我が叩き伏せていたところだった」
「はは……まあ、あの人たちも過敏になってるんでしょう」
 怒り心頭のフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)を、冷静なセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)がなだめた。
「あ、ところで佐々木さん……その花、写真撮ってもいいかな?」
「ええ、もちろん」
 樹は弥十郎が頷いたのを確認して、セーフェルの抱えていた荷物からデジカメを取り出した。クラウズの花を写真に収めると、それを見て嬉しそうに顔をほころばせる。
「ほんと、綺麗な花だよ」
「摘まないのか? お前の髪にも合うと思うのだが」
 フォルクスがそう言うと、樹はどこか哀しげに微笑んだ。
「俺たちは花を見に来ただけだから……。それに、ただでさえ数が減ってるんだ。一つくらいって思っても、そう思う人がたくさんいたら結構な数になるだろ? そうなるのは、ちょっと嫌だしね」
「……そうか」
 フォルクスは納得したように呟くと、続けて恐ろしいことを口にした。
「そうだな、髪に飾る花は他にもある。お前がそう言うなら、我が今この花を摘む道理はないな」
「……え、それって俺の髪に花飾るの自体は諦めてないってことか? なんでそんなことがしたいんだあんたは……」
 呆れるような顔になる樹を尻目に、フォルクスは樹が髪に花を飾っている姿を想像してニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべていた。悪寒がするとはこのことしかり。
「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るよ」
「うん、分かったよ。道中お気をつけて」
 樹たちは言い残すと、クラウズのある洞窟の中から去っていった。その途中で、セーフェルが過保護なように日差しは強いから日焼けすると、樹に帽子を渡していた姿はどこか微笑ましいものがあった。
 そんな樹たちが去るのを見届けた頃、蛮族のボスがやって来た。
「おう、調子はどうだ?」
「うーん、難しい……かな? ここで増やしていくのは、土も合わないし、厳しいよ」
「そうか……」
 ボスはどこか悲しげに目を伏せた。
 蛮族とは一言で言っても、その全てが悪ではない。むしろ、このボスは……。弥十郎がそんなことを思ったとき、蛮族の手下たちから連絡が入った。
「ボス! またです! また首を取られました!」
「またか……。野郎ども! 気を引き締めろ! 絶対に拠点まで辿り着かせるな!」
 蛮族たちの拠点に、不安と緊張が広がっていた。