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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村 2

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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村 2

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第3章 清き魂を黒く・・・

「陣さん・・・どこかな。村が闇世界化したら合流するはずなのに」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)は周囲を見回して陣を探す。
「道が沢山ありますから行き違いになってしまいそうですね」
 彼から離れないように傍に寄り、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)も陣たちを探す。
「暗くて探しづらいわねー」
 すれ違わないようにウェリスは注意深く辺りを見回している。
「出口辺りに行ってみようか?そこで待っているかもしれないし」
「そうしましょうか」
 クリスたちは陣たちがいるかもしれない村の出口の橋へ向かう。
 その頃、陣たちは綺人たちと合流しようと民家の倉庫をウロウロと探し歩いている。
「あれー、どこにいるんや?」
「使い魔で居場所を教えたらいいんじゃないかな」
「おーっその手があったか!早く言えって」
「まったくもう、それくらい気づいてよ。こんなところでコントしている場合じゃないんだからね」
 リーズは陣を見上げて深いため息をつく。
「―・・・少し静かにしたほうがいいな、鬼に見つかってしまう」
 護衛として同行している一輝は、2人のやりとりを見て思わず苦笑する。
「ごめんね、陣くんは口を開くといつもこんな感じだから」
「ちょ、リーズ。誤解を招くようなことを言うなっつーの」
 小ネタマシーンのように言う彼女に対して陣はムッとする。
「そんなに怒るなって。紙ドラゴン、綺人くんたちのところへ行って、俺たちの場所を教えてくれ」
 メモ用紙を使い魔の足に括りつけて飛ばす。
「あ、陣さんの紙ドラゴンだ・・・」
 パタパタと綺人の手の平へ下りる。
 メモ用紙を見ると倉庫が近くにある民家の辺りにいる、と書かれている。
「出口付近いるから来て・・・っと」
 そう書いたメモを、陣の使い魔の足に括りつけて飛ばす。
「ん?戻って来たようやね。お、メモがくっついてるな。うーん何々、出口付近いるから来て・・・」
「そこなら鬼に遭遇したら逃げやすいからね。はーい陣くん、さっさと歩いて」
 リーズはどすどすと背を押して陣を無理やり歩かせる。
「お、押すなって。そんなに押すと・・・ぉあっ!?」
 押された衝撃でズブリと陣の足が泥濘にはまってしまう。
「―・・・ありゃー」
「ありゃー・・・じゃないっつーの!」
 陣はリーズに向かってプンスカと怒鳴る。
「来ないね・・・」
 そんなことになっているとは知らず、綺人たちは何分も橋の近くで待っている。
「やっと見つけた、綺人くんーこっちこっち!」
 綺人たちに向かって陣がぶんぶんと手を振る。
「結構時間がかったみたいだけど、鬼に遭遇したの?」
「いや、ちょっと・・・」
「うん・・・。何があったのか、だいたい分かったよ」
 彼の泥濘まみれの靴を見下ろして、綺人は待たされた理由を把握する。
「言葉の意味を考えてみたんやけど。私は見上げる、真っ暗で何も見えず底がないって底がない場所で見上げてるんかな。底が無い場所・・・崖・・・・・・つまり崖から見上げてるってことか?」
「全部見て回ったらオメガさんの魂を敵が先に見つけちゃうかもしれないよ。もっとポイントを絞らないとね」
「じゃあリーズはどこだと思うんや?」
「突然燃え出した焼却炉って、もしかしたらオメガさんがいる場所の近くに燃える物があるってことじゃないかな?」
 リーズはメモ用紙にその言葉を書きながら推理する。
「この村の橋って木で出来てるから燃えるよね?そのことを指してるんだよきっと」
「真様からいただいた情報によると、棚と棚の細い隙間を行ったり来たりする人形がいたようですね。これは狭い道のことではなく、何かに置き換えるのかもしれません」
「何かって?」
 真奈の説明にリーズが首を傾げる。
「例えば・・・棚の一方を現世、もう一方を死後。その隙間はそれらの境界かと思います」
「うぅん分からないなぁ」
「つまり、現世と死後を行き来してることを示しているなら、その境界付近に居る・・・ですかられも落ちれば死んでしまう崖を指しているのでは無いでしょうか?」
「今の話しをまとめると、村には橋は2つあるから全部で4カ所やね」
「ボクが調べるね。まずはこの出口んとこの橋の辺りから見てみようかな。ダークビジョンで真っ暗なところも見えちゃうんだよね♪」
 ヴァルキリーの翼で飛べるリーズが、橋の下の崖の両端を調べる。
「何か見つかったかー?」
「ないよー!もう片側も特に何もないよ」
「そっか。んじゃ次行くか」
 陣たちはもう1つの橋のところへ向かう。



「あれぇ?こっちかなぁ、それともあっちからしら〜」
 鎌鼬に旅人を殺させようとする鍬次郎たちや、妖怪を改心させるために由宇たちが少女を追いかけている一方、アスカたちはわざと迷いながらエリと行動している。
「もうっ、さっきから見つからないじゃないのー!」
 オメガの魂を見つけられないエリは苛立ち紛れに民家を蹴りつける。
「12時までまだかなり時間があるしぃ・・・」
「今6時になったから、後6時間もあるわねぇ」
「疲れたわぁ、ちょっと休もうっと」
「(やれやれ。こっちのことはお構いなしか)」
 まるで自分の家のずかずかと民家に入り、一緒に行動している相手に気かず勝手に休むエリを見て、ルーツは我侭なやつだと肩をすくめる。
「ねぇー、疲れているなら少し眠ったらどう?」
「んー・・・今そんなに眠くないのよねぇ」
 アスカの顔を見ずにエリは爪に紫色のマニキュアを塗りながら言う。
「休んでるのも退屈なのよね。アスカも塗る?」
「私は遠慮しておくわ〜」
 趣味じゃない毒々しい色を勧められ、作り笑顔で断る。
「そぉ?1時間くらい乾かさないといけないのよねぇこれ。ふぅ〜」
 エリは爪に息を吹きつけて乾かそうとする。
「乾いたらすぐ魂を探しに行かないとねぇ。他のやつに先を越されちゃうかもしれないわよぉ?」
 少しでもエリを疲れさせようと急かす。
「まだ休みたいの!」
「で、でも!もたもたしていると、計画が失敗しちゃうかもしれないわよぉ!?」
「無闇に歩き回るよりもまず、私のドッペルゲンガーとコンタクトをとらないとねぇ。爪が乾いたら何か可愛い柄でも描こうかしら♪」
「(えぇっ、せっかく疲れさせたのに。これじゃあ意味がないじゃないの〜)」
 いつになったら民家から出るのかと、アスカは深いため息をついた。



「袁天君のやつ、まだ来ないのかしら!?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はパタパタと片足で地面を踏み鳴らし、泥濘の近くでずっと待ち伏せをしている。
「落ち着いてください美羽さん。そんなに苛立ってしまっては・・・」
「あっ、そうね。相手が来た時、冷静に狙いが定まらないかもしれないもんね」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の言葉に、地面を踏むのを止める。
「現れませんね・・・どこにいるんでしょうか」
 目を凝らしベアトリーチェは真っ暗な道を見る。
 その彼女たちを高台の上から鬼が見下ろし、頭部を撃ち抜こうと狙う。
 銃口を向けられていることにまったく気づかず、姿を現さないエリこと袁天君がやってくるのを待ち構えている。
「ウマソウダ・・・。マズハ、アノメガネカラダ!」
 鬼はじゅるりと唾を飲み込み、ターゲットに火縄銃の銃口を向ける。
「シンセンナニク、イタダイタッ」
 ズダァンッ。
 静まり返った村の中に銃声が鳴り響く。
「まったく背後がガラ空きだね」
 美羽を狙う銃弾をレオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)が雷術で撃ち落す。
「1つのことに気を取られていると鬼に殺されてしまうよ」
 どこから狙われたのか分からず、キョロキョロしている2人に注意する。
「ありがとうございます!」
 ベアトリーチェがぺこっと頭を下げて礼を言う。
「ジャマスルナ、コゾウーッ」
「銃は当たらなきゃ意味がないんだよね」
 光精の指輪から精霊を呼び出したレオナーズは相手に目晦ましをくわらす。
 彼の手を狙う銃弾が逸れ、虚しく砂利道へ落ちる。
「少しの間、そこに埋まっていてもらおうかな」
 火術で炎の槍を作り出し、少女を喰らおうと狙う鬼の足首に投げつける。
 ボォゥウッと燃え盛る炎がターゲットを貫き、バランスを失った相手は泥濘に落ちてしまう。
「当分出られないだろうけど。仲間を呼ばれてしまうかもしれないからここから離れたほうがいいよ」
「そうね分かったわ、ありがとう」
 美羽はベアトリーチェと一緒に、その場から離れていく。
「さてと・・・俺は橋の方に行ってみようかな。探索に集中しすぎて鬼の存在に気づかなさそうだからね」
 メガネをかけ直し、鬼を寄せないように指輪の灯りを消して橋へ向かう。



「うぅー・・・鎌鼬さんどこに行っちゃったんです・・・」
 鎌鼬を見失った由宇はメソメソと泣きながら必死に辺りを見回して探す。
「たしかにこっち方に飛んでいったわよね?」
 歌菜も一緒に妖怪の少女を探している。
「何かにつけられているわね・・・まさか鬼が近くにいるの!?」
 殺気看破で鬼の気配を感じ取った歌菜は、彼らが民家の中に潜んでいないか警戒する。
「さっきの演奏の音で寄ってきちゃったのかもな」
 アレンはルーンの剣を鞘から抜き、由宇を守るように彼女の傍へ寄る。
「まずいっ。由宇ちゃん、アレンさん飛んで!」
 空飛ぶ魔法で空を飛び、鬼たちが窓から投げつけてきたクワを避ける。
「あわわっ銃弾がーっ!」
 由宇は空中でもがくように手足をばたつかせる。
「私の手に捕まって」
 歌菜が由宇の手首を掴み、銃撃から逃れようとする。
「しつこいなーもう!」
 アルティマ・トゥーレの冷気を纏った剣風を放ち、火縄銃の弾丸を地面へ叩き落とす。
「早く妖怪の女の子を見つけないと、また鬼が襲ってくるかもしれないよ」
「でもこう暗いとどこにいるのか分からないです」
「また私たちを狙っている気配がするわ、気をつけて」
「前に何かいるよ!」
 アレンが指差す方を見ると、1匹の鬼が三連回転式火縄銃の銃口を3人に向けている。
 空を飛ぶ3人を見上げ、まず誰を撃ち落そうかニヤリと笑う。
「やばい避けきれないっ」
「皆、空から降りて。じゃないと術に巻き込んじゃうわよ」
 どこからともなく女の子の声音が聞こえ、アレンたちは慌てて砂利道へ降りる。
「破壊の冷気で砕け散るといいわ!」
 ギャザリングヘクスで魔力を増幅させた氷術の矢で銃弾を撃ち砕く。
「そこで少し大人しくしてなさい」
 撃たせまいと彼女は鬼の懐に飛び込み、エンシャントワンドを握り締め殴り飛ばす。
「コムスメノクセニ、ヨクモー!」
 泥濘にはまった相手がギャァギャァと喚き散らす。
「まったく・・・こんなところで死んでる場合じゃないのよ」
 声の主であるアーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)は3人を見てため息をつく。
「死んじゃったら朝まで出られないんだからね」
「そうよね・・・ありがとう」
「ありがとうです」
 歌菜と由宇はお説教されてしゅんとした顔をする。
「まさかあんなところにいるとは思わなくてね」
「甘いわっ。その油断で大怪我しちゃうかもしれないのよ」
「そ、そうだね」
 眉を吊り上げて説教をするアーミスにアレンが一瞬怯んでしまう。
「じゃあワタシは逸れちゃったレオナを探しに戻るから気をつけてね」
 アーミスは3人をその場に残してレオナーズを探しにいく。
「あーびっくりした。まさかお説教されると思わなかったよ」
「でも気をつけないと、どこで狙っている分からないです」
「えぇ、一瞬逃げるのが遅れただけで危ないからね。早く鎌鼬ちゃんを見つけて、悪いことをしないようにもう1度説得しなきゃ」
「そうですけどいったいどこに・・・。もしかしてもう、十天君のところに戻ってしまったんじゃ・・・・・・ん?あれは・・・まさか!」
「何?」
「見てください、ほらあそこ!」
 首を傾げる歌菜に由宇が真っ暗な空を指差す。
「何も見えないわよ?」
「よーく見てください、小さな女の子が見えるです。きっと鎌鼬さんですよ!」
「本当だ!追いかけようっ」
「あれ?他の生徒が追いかけてるみたいだけど?」
 アレンが鍬次郎たちの姿を見つける。
「獣人の白狐が返り血を浴びてるみただけど鬼の血かな・・・」
「―・・・旅人さんと同じ格好してるカガチ先輩たちがいる。どういうこと?まさか囮になっているの!?」
 妖怪の少女を追う彼らよりも前を走るカガチと葵を見つけ、歌菜は不思議そうに見つめる。
「むむっ、板に書かれていた襲撃者かもしれないです!嫌な予感がします、あの人たちよりも先に鎌鼬さんのところにいかないと!」
 鍬次郎たちよりも先に鎌鼬に追いつこうと、由宇たちは砂利道を駆ける。