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リアクション
第6章 友を支える手
「この村で“見上げる”様な場所と言ったら“高台”でしょうね。細い道の事を示しているのなら地図を見る限り、何本か細い道はあるわね。この村で簡単に燃やせそうな物といったら、民家や橋・・・それに林と言ったところかな?」
オメガがいる場所の情報を元に、十六夜 泡(いざよい・うたかた)は言葉の意味を考えみる。
「それじゃあ探しづらいですよ」
彼女のポケットの中にいるリィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)が、もっと的を絞るように言う。
「あ、でも考えてみたら、民家と橋は私達が何度も通っているのよね。気がつかない訳は無いし・・・そうなると“林”かしら?」
「焼却炉は集めて燃やすところだからきっとそうね」
「高台と林の近くの細い通路と言うと・・・地図上の左上の2ヶ所のどちらかになるわね?でも“見上げる”だから“高台が目的地”ではないはずよ。高台にいると考えてしまったら、“見下ろす”になってしまって意味が通らないわ」
その上ではなく下から見上げられるような場所だと推測する。
「そうなると、林に挟まれた方の細道付近ってこと?・・・あれ?そう言えば、林の中の湖があるのよね・・・暗い林の中にある湖、ドッペルゲンガー、目的はオメガを吸収すること・・・嫌な予感がする!!
急いでオメガの魂を見つけなければと、林の中を歩き湖を探す。
その頃、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)も言葉の意味を考えながら、橋を渡った先の民家の近くを歩いている。
「“私を見上げる”だったかな、見上げる。天井か空か・・・三上げるかもしれない、しはみあげる・・・?(今のところ、鬼はいないようですね)」
隠形の術で姿を隠し、ちらりと屋根や高台を見上げて警戒する。
匂いや足音を隠せない光学迷彩より、こっちの術だけのほうが見つかりづらいはずと砂利道を進む。
「それと“棚と棚の細い隙間を行ったり来たりする人形”ですけど高台に挟まれた道のことでしょうか。いや、た・と・な・・・の間に挟まれた文字を前と後ろから読む・・・のかな?りき・・・を残して、次は“真っ暗で何も見えず底がない”についてですね。待つ倉で、そ・こ・・・がない?いや、な・に・そ・こ・・・がなし?にもみえずそこが・・・。突然燃え出した焼却炉ってどんな場所を示しているんでしょう?と・つ・ぜ・ん・も・えを出す?しはみあげるりきみずそが・・・。林の中の湖の底ということでしょうか」
とりあえず言葉の意味を考えて思いついたその場所へ行ってみることにした。
一方、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)たちは3人より先に湖へ来ている。
「何かあったら光術で知らせる・・・その時はロープを引き上げてくれ・・・」
上着を脱ぐと胴体にロープを巻き、湖の中へと潜る。
彼の考えでは、私は見上げる言葉の私というのはオメガ自身のことだろうという推理だ。
真っ暗で何も見えない底なしは、この闇世界で真っ暗で何も見えないことか。
そしてオメガが見上げるという意味に適した場所はどこなのか。
底なしではないが湖、それも林の中にあるの所ぐらいだと考えた。
「棚と棚の隙間を行き来する人形ですか。もしオメガさんが通った道のことを示しているのなら細い道、あるいは林のことでしょうか?」
グレンが湖の中にいる間、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)も考えてみる。
彼よりも自分の方が適任だと思ったが、彼女は泳ぐことができない。
いやそれよりも、女の子の彼女は水着も着替えもないのに、水に濡れるのは恥ずかしいのだ。
「俺にはこの手の内容はさっぱり解んねぇ」
李 ナタは暇そうに地面に座る。
「あれ?誰かいるわ」
「おや・・・、同じようなことを考えている人がいたんですね」
湖のところではと思った泡とウィングが、ソニアの傍へ駆け寄る。
「何か見つかった?」
「いいえ、まだですよ」
「―・・・ふぅ」
息が続かなくなったグレンが湖から顔を出す。
「グレンさん、見つかりましたか?」
「いや・・・いないようだ」
「そうですか・・・」
「どうやら湖ではなさそうだな・・・」
「他の生徒たちはどこへ探しに行ったんでしょうね」
振り出しに戻ってしまい、ウィングはうーんと考え込む。
「どうしてこっちの方へ進んでいるんですか?」
「この村の入口の方に崖に向かってる道があったろ。あそこだ、多分オメガはあそこにいる」
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が言葉の意味を考え、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)に説明する。
「棚と棚の隙間を行き来してた人形・・・あれはは村を2分してる崖の事を指しているんだと思う。真っ暗で底が無いってのにも一致してるし、そこにオメガがいるならこっちを見上げているはずなんだ。急に燃えだして何も残っていないってのは、現実世界ではここに何かがあって闇世界だと無くなってるってことだと思うんだ」
「ん?すでに誰か、この辺りを調べたのか?」
ヴァーナーが残した登山用ザイルの跡を見つけ、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は首を傾げる。
「そうなのか?」
構わず唯斗は軽身功の体術で下りる。
「(オメガ、何処にいる?答えてくれ!必ず助けるから!)」
心の中で呼びかけながら必死に探す。
「(私が感情移入しすぎたせいで、民家の中で手がかりを見つけたらしいですけど。今は何も感じませんね・・・)」
紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は感情に何も違和感を感じられず、ふぅと息をつく。
「鬼共!唯斗の邪魔をするな!」
ディテクトエビルで気配を探知したエクスが、鬼に向かってサンダーブラストを放つ。
「まだ動けるのか!?」
「確実に動きを封じるならここへ落とすしかないよ」
通りがかったレオナーズが泥濘へ突き落とす。
「ふむ・・・考えが甘かったか。すまない、助かった」
「くっ、ここじゃないのか」
考えが外れてしまい、唯斗は砂利道へ戻って来た。
「―・・・その下を探していたのかな?」
「あぁ、だけど見つからなかったな」
「何人か生徒が寺子屋の近くにある橋を渡っていったのを見たけど?その先のことはよく分からないけどね」
「気になりますね。その方向にオメガさんがいるかもしれません、行ってみましょう」
遙遠たちは急ぎもう1つの橋がある方へ走る。
「はぁ・・・この辺りと言ってましたよね」
息を切らせながら、近くに生徒がいないか探す。
「民家の近くに誰かいますね、聞いてみましょう」
「生徒か?ここからじゃ、俺には見えないな」
ダークビジョンで暗闇の中でもはっきりと見える遙遠に、唯斗たちがついていく。
「魂を探しに来た生徒か?」
「えぇ、そうです」
カイの問いかけに遙遠が答える。
「(渚、他の生徒がどこへ行ったかそこから分かるか?)」
高台にいる彼女にカイが精神感応で聞く。
「(ベディがそっちの方に何人か向かっているのを見かけているわね。それで私もスナイパーライフルのスコープで見てみたんだけど、林の中へ向かっているみたい)」
「(ありがとう、そう伝えておく)」
渚に教えてもらい、遙遠の方へ顔を向ける。
「今、渚に聞いてみたが、林の中へ行ったそうだ」
「分かりました、ありがとうござます」
「うわーん・・・皆、どこへ行ったですかー・・・。あ、いました!独りぼっちで怖かったですーっ」
顔を俯かせてとぼとぼと歩くヴァーナーが、睡蓮の姿を見つけて抱きつく。
「独りだったんですか!?」
睡蓮は驚き、目を丸くする。
「はい、そうです・・・」
「よかったら一緒に行きませんか?」
「行くです!」
「では、オメガさんを探しに行ってきますね」
カラスの足に林にいるかもしれないと書いた紙を括りつけ、遙遠は陣のところへ飛ばす。
「見つかるといいな。頑張れよ」
林の中へ入っていく彼らにカイが手を振る。
「オメガー、どこにいるんですかー?」
陽太が林の中でオメガに呼びかける。
「返事がありませんね・・・」
「たぶんことの辺りだと思うんだけど。高台と崖がすぐ近くにある場所ってここだけだよね」
むぅっと北都が首を傾げる。
「ん・・・この匂いは・・・・・・。近いぞ北都」
昶は鼻をひくつかせて、傍にいる彼に知らせる。
「本当に!?」
「こっちだ」
走りだす昶の後を北都たちが追う。
「匂いが一番強いのはこの辺りだな」
「いるのかな・・・」
辺りを見回して姿が見えないオメガの魂を探す。
「出てきてオメガちゃん、迎えに来たわよー!」
今度はルカルカが呼びかけてみる。
「帰ろうよ、皆で一緒に」
「今、人の声が聞こえましたね?」
彼らの声を耳にした緋音がキョロキョロと周囲を見渡す。
「生徒かしら?こっちよー!」
「そこに集まっているんですね」
ルカルカの声が聞こえる方へ走る。
「オメガちゃん・・・この辺りにいるっぽいんだけど、全然姿が見えないのよ」
「闇世界化が進んだ影響で、姿を消して泣いているのかもしれませんね・・・」
色を失っていく林を見つめて、緋音は悲しそうに呟く。
「泣き声・・・?」
くすんくすんと少女の声音が林の中に響き、もしかしたらと緋音は崖の傍へ寄る。
ガササッ。
「待ってくれ、迎えに来たんだって!」
草を踏む足音が聞こえ、逃げようとする音を昶が追いかける。
「もう独りで苦しまないでよ」
北都の言葉にピタッと足音が止む。
「ねぇ、一緒に帰ろう?」
優しく話しかけながらルカルカはゆっくりと近づく。
「悲しいこと・・・沢山ありましたよね。でもオメガが消えたら俺たちはもっと悲しいんです」
陽太は足音が止まった傍に座り、片手を差し出す。
「まだ少しだけつらいことがあるかもしれません。でも、それに負けないくらいこれから私たちと楽しい思い出を作りましょう」
緋音もそっと手を差し出した。
「帰ろう、もう独りじゃないのよ」
戻るところはここ、とルカルカが手を差し出したその時、目の前にオメガの魂がふわりと現れる。
「ちょっとした散歩だ。目が覚めれば元の場所に帰っているはずだ」
淵は触れられない魂を抱きしめ、彼女の頭を撫でる。
「見つかったんだな、よかった・・・」
オメガの魂がいる場所にやっとたどりついた唯斗が安堵の息をつく。
「なんとか見つかったようやね」
遙遠に手紙で場所を教えてもらってたどりついた陣は、彷徨う魂を迎えに来た生徒に囲まれている少女を見て木に寄りかかる。
「もうだいじょうぶなんです、みんなしんぱいしてるですよ」
ヴァーナーはオメガをハグするように両腕で囲む。
「こんなにいっぱい迎えに来てくれる人がいるなんて、幸せ者ね魔女さん」
彼の近くでウェリスは嬉しそうに微笑む。
「は・・・早く、早くそこから離れてください!」
背筋がぞっとするような邪悪な気配を感じた睡蓮が、生徒たちに向かってオメガの魂を連れて離れるように言う。
どこからともなく現れた少女の手がオメガの腕を掴む。
「まさかオメガちゃんのドッペルゲンガー!?」
ルカルカが驚きのあまり目を丸くする。
袁天君が自分のドッペルゲンガーにコンタクトを取り、そっち側のオメガに話しを通させたのだ。
しかしすでに封神されていることを知らず、取引に応じようと魂を奪うとする。
村人が何人も死んだりして、闇世界化が進行したおかげで、自らが吸収しにくることが出来た。
「連れて行く気だぞ、ルカ!」
「いやよ、せっかく一緒に帰るところなのにっ。あんなに近くにいたんじゃ攻撃出来ないわ、ルカの手を掴んで!くっ・・・手がすりぬけちゃう・・・オメガちゃんー!」
エースの声に反応し、オメガの手を掴もうとするが、魂である彼女に触れられず焦る。
「何やっているの、早くーっ!」
「ここまで来たのに、連れて行かれるなんていやよーっ!」
急かすクマラによりいっそう焦り、泣き出しそうになる。
「連れて行かせないわっ」
駆けつけた泡が魔女の魂の腕を掴もうとする。
「言って、オメガ。ただ一言、私たちに言ってくれれば、あなたを助けられるわ」
「―・・・た・・・す・・・・・・。たすけ・・・て。助けて・・・」
彼女の声にオメガはぼろぼろと涙を流す。
「それでいいのよ」
素直な魔女の言葉に泡はニッと笑う。
「掴めた・・・魂なのに!?」
ポケットの中にいるリィムが驚き、思わず声を上げる。
「オメガちゃんはルカたちと帰るのよ、そっち側になんてやらないわ!」
もう片方の腕をルカルカと緋音が掴み引っ張る。
「触れられないはずなのに不思議ですね。友情が起こした奇跡・・・というべきでしょうか?」
ウィングがその光景を首を傾げて見る。
「そいうこともありなんじゃないか・・・。まぁ・・・ここは闇世界だしな、何が起こっても不思議ではない・・・」
グレンはそんな奇跡があっても不思議じゃないと呟く。
「あぁっ、魂が!」
彼女たちが魂を抱きかかえて地面を転んだ瞬間、その一部を奪われてしまいリィムが叫ぶ。
「心に闇が広がったおかげですわね・・・クスッ」
本物の魂の一部を吸収したドッペルゲンガーが笑う。
「卑怯よ、出てきなさい!」
怒りのあまりルカルカは、見えていた腕さえももう見えない相手に向かって怒鳴る。
「ここにいてはオメガさんの魂をまた奪いに来るかもしれません。出ましょう」
「そうね・・・悔しいけど」
ルカルカは遙遠に頷き、歯をギリッと噛み締めるとオメガを背負って林から駆け出る。
「まだ鬼がいるのか」
ノコギリを片手に襲いかかる鬼を、ユリウスが泥濘へ叩き落す。
「この人数じゃあ、見つかりやすいんだろうな」
一輝は盾で銃弾を防ぎながら走り生徒を守る。
「オメガちゃんをお願い」
ルカルカはオメガをグレンに預け、鬼をさざれ石の短刀で石化させる。
「やっと見つかったみたいだね。私たちも村から出るわよ」
「分かったわ透乃ちゃん」
高台から下りた芽美は、殺したりないが仕方ないと、物足りなさそうに頷く。
「(見つかったようだ、俺たちも出るぞ)」
オメガの魂を生徒たちが見つけたと、精神感応でカイが渚に知らせる。
「(分かったわ、ベディと一緒に行くから先に行って)」
渚はサーと村の外へ向かう。
「何か嫌な気配を感じます」
ディティクトエビルで邪悪な気配を察知した遙遠が周囲を警戒する。
「しつこいですねっ」
屋根の上にいる鬼をブリザードの猛吹雪で吹き飛ばす。
「ふぅ、まだ他にもいるんですか。―・・・これは、鬼じゃありません・・・!」
「やめてぇえっ!」
グレンの方へ振り返った睡蓮が叫んだ瞬間、ぬぅっとドッペルゲンガーの手が現れ、オメガの身体を掴む。
「離して、離してくださいっ」
魔女の魂を奪おうとする腕に飛びついた睡蓮が止めようとする。
絶望感を楽しむかのように相手はクスクスと笑い、ズズッと魂からその一部を剥がして吸収しようとする。
「あなたの好きになんてさせません!」
吸収されてたまるものかと、引き剥がされた魂をドンと突き飛ばす。
その魂は闇の中へ逃げるように消えていく。
ドッペルゲンガーは悔しそうに呻き、睡蓮の腕をぎゅっと掴んだ。
「きゃぁあ!?」
「奪えなかったからって他の者を連れて行こうとするなんて、とても正気とは思えませんね」
遙遠は睡蓮を助けようとその手を光条兵器で叩く。
「無茶をするな、連れて行かれるところだったじゃないか」
地面に落ちそうになる睡蓮の身体を唯斗がキャッチする。
「すみません、ありがとうございます・・・」
「また鬼が来たぜ!これでもくらえっ」
ナタクはしびれ粉を撒き、鬼の動きを封じる。
「もうすぐ出口だよ、急いで!」
北都たちは橋を渡り、これ以上長くいては村が完全に闇世界化してしまうと、呼吸するのを忘れそうなほど力いっぱい走り外へ駆け出た。
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