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パラミタ・オーバードライブ!

リアクション公開中!

パラミタ・オーバードライブ!

リアクション

「イスカ、こんな所から突っ込んで大丈夫か?」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が、あたりを見回してパートナーに問いかける。
「無論だ、我のブケファラスを侮るでないわ、どこに問題があろうか」
 今いる場所は、要するにとても目立つ場所だ。フィールド中央の丘の頂上という、さあ狙ってくださいといわんばかりのポジションである。B陣が本丸を直接砲撃される混乱がなければ、確実にそこにいる自分たちは狙い撃ちにされる。
 軍馬型の機体が、堂々と丘の上からB陣を睥睨する。ブケファラスは、イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)の生前の愛馬をモデルにしていた。
「征くぞ! 大地の果てまで蹂躙してくれるわ!」
 咆哮一声、敵陣目掛けてその身を躍らせ、転がる瓦礫も倒れ付すもの全て等しく蹴散らして突進した。

「こ、来ないでくださいーっ!」
 七那夏菜が思わず叫ぶ、有効な攻撃手段を持たない夏菜の機体は、ただ逃げ回る他はなかった。電波状況が狂っている間に、至近距離で敵に遭遇してしまった。
「当たってよっ!」
 七那勿希が、ウィング・ヴォルフリートの攻撃をかわし、ネットガンを撃つ。レールガンがお返しに飛んでくるが、リボン型のバーニアを吹かせて回避、左腕を失い、脚部のシャフトを傷つけて全力を出せないウィングの機体にスピードはわずかに勝るものの、攻撃手段の有無がその差を埋めてしまっていた。足元で瓦礫が弾け、勿希はコントロールレバーを絞ってかわす他ない。足元のローラーブレードが避けきれず瓦礫を噛み、機体が跳ねた。
「すみませんが、ここで終わってもらいます」
 転んだ夏菜に、そのまま拳をもってウィングが飛び掛る。
「わ、わーっ!」
「させないよ!」
 瓜生コウが割り入って拳を受け止める、女銃士はマントを犠牲に足止めして組み合った、言葉もなく綱引きをする二人を影が覆う。
「颯爽登場! パラミタ美少女!」
 謎の名乗りをあげ、猛然と奔り込んだブケファラスが踊りかかる。
「何っ!?」
 ウィングの首を狙って蹄がギロチンのごとく踏み下ろされる、前肢の間にフィールドを張り、触れるもの全てを引き裂かんと欲する。ウィングの右肩から左脇にかけてが、無残につぶれる音を立てた。
 崩れ落ちる敵だったものに背を向け、イスカは二人に声をかけた。
「おぬしら、背に乗るがいい。お嬢ちゃん二人程度、このブケファラスにはなんの荷にもならんわ!」
 真っ直ぐ敵トーチカへ向けて突っ込むために、頭数が欲しかった。少しでも深く切り込み、その手を届かせるのだ。
「馬か、ありがたい!」
 コウが即座に飛び乗り、夏菜がおっかなびっくり後ろでしがみつく。
「行かせません!」
 矢野佑一が自陣へと突き進む敵を阻止にかかった、その四つ足で地面を蹴りつけてスピードに特化したオーバードライブ、獲物を猛然と追い立て、じりじりと距離を詰め、その牙が間近に迫るさまに夏菜は悲鳴をあげる。
「お、追いつかれちゃいます! のんちゃん!」
 呼びかけに応え、勿希は揺れる馬上で器用に振り向き、追いすがる獣に向けてネットガンを打ち込んだ。
 今しも飛びかかろうとした獣が全身をネットに絡め取られてもんどりうち、身動きが取れなくなる。
「ハンモックをあげるから、お昼寝するといいわ!」
「よいか、行くぞ!」
 オーバードライブを発動、ブケファラスがいななくように身震いする。
「ゴルディアスファランクス!」
 その瞬間、イスカは前しか見えなくなった、背中に負った者達のこともひととき忘れた。
 開けた視界の中で、大地が己のためにその腕を開き、たったひとりの行軍を許す。
 その歓喜は、ついに翼を得た。
 機体が赤熱、ブケファラスの体を戒めていた馬具が弾け飛び、鬣から炎をなびかせて、敵陣へ投擲される一本の槍、赤い流星と化した。
 獣を振り切り、巨人をやりすごし、砲弾の雨あられを掻い潜って最後の障壁を吹き飛ばし、トーチカの目の前へと踊り出る。
 未沙の機体が左肩に担いでいた小型艇ヴォルケーノが、横をすり抜けようとしたブケファラス達を阻止せんがため、ミサイルを腹に抱えたまま特攻、爆発を起こしながらそれでも勢いを殺しきれず、後ろに下がっていた如月佑也の体当たりを食らう。勿希はコウにしがみついていた手を離し、巻き添えにせぬよう自ら振り落とされた。
 すかさず追いついた未沙も組み付き、その身をもって押さえ込まれようとしたとき、コウのオーバードライブが発動した。
「ランペイジ…メア!!」
 膝を折りかけたブケファラスと一体となり、二機は完璧な騎兵として力を取り戻す。
「これで終わりだ!」
 ブケファラスは組み付く敵を振り飛ばし、コウは当たるを幸いサーベルを振り回し、もはや障害などあって無きが
 如し。何人も立ちはだかることを許さぬ気迫の塊が、トーチカへと突進した。

 そしてB陣のトーチカは皆の見守る中、ゆっくりと崩れ落ちた。


 フィールドにいる全員のモニター画面に、アラートが表示された、続けざまに枠が浮かび、ヒパティアが姿を現しアナウンスする。
『ただいま、B陣トーチカが撃破されました、これによりA陣の勝利となります。繰り返します。B陣トーチカが撃破され…』
「終わっちゃったー…」
 あるものは残念そうに、またあるものは満足そうに、他は悔しげなもの、無力に歯噛みするものなど、開放された通信からさまざまに漏れ聞こえてくる。
 知人をたたえ、僚機をねぎらい、パートナーと微笑みあいながら、プレイヤーたちは展望台へと転送された。

 さて、そのころのフューラーというと。
「……………」
 チェアにもたれ掛かり、完全に力尽きてぐったりしていた。
 坂下鹿次郎もまた、姉ヶ崎雪に筆舌に尽くし難いお仕置きをされて転がっている。
 勝ったのだから巫女さん姿を! と叫ぶ鹿次郎を、彼女はいとも簡単に畳んでしまったのだ。
「貴方は! 結局! 何も! しなかった! でしょう!」
 一言ごとに技が極まっていくのを、フューラーはガクガクしながら見ていた。その横でシラードはやんやと囃し立て、完全にプロレス観戦体勢である。そこはパロスペシャルで決めるべきじゃ! などと言いながら。
「…ひ…ヒパティアの巫女さん姿は諦めないでござるよ…!」
『まだ言うか』
 雪とフューラーは見事にハモった。
 その傍らではヒパティアに彩羽が声をかけていた。
「貴方がヒパティアさん? 私は天貴彩羽、よろしくね」
「ヒパティアと申します、彩羽さん、はじめまして」
 握手を交わし、シミュレータについて感想を述べたあと、彩羽はところで、と切り出した。
「貴方の製作者の方は、あの方かしら、それともあちらのご老人?」
 首を振って彼女は否定する。
「二人は私の過去を知っていますが、製作者ではありません。私を完成へ向けて導いてくれる方々です。それは貴女がたもです」
「…じゃあ、完成とは何を指すの?」
「私が、人になること…です」
 人を学び、作ったものに触れ、感じるものに共感しようと望むもの。
「ふうん、それは多分、とても難しいことよね…」
 そこにのしりと現れた鈴木周、彼は挨拶もそこそこに、いきなりナンパを始めた。
「ねえヒパティアちゃん、俺のカッコイイとこ見てくれた!?」
「何、この暑苦しいの」
 思わず彩羽は突っ込んだが、もちろん周は聞いちゃあいない。
「お祝いにちょこっと成長して、ほっぺにちゅ〜とか、お願いしたらダメかな?」
 女の子の敵だと悟った彩羽がヒパティアを背中に押しやり、危険を察知したフューラーがすっ飛んで来た。
「ダメです!」
「えーなんであんたから止められるんだよう…」
「ダメったらだめなんです!」
 過保護だとか何様とか言われようが、フューラーは兄として妹を守らねばならぬのである。


    ◇ ◇ ◇


 チェス盤をフィールドに、駒をプレイヤーに見立て、兄妹は先日のゲームの様子をなぞっていた。
 血の流れない、ある種の限定戦争を娯楽として楽しみ、会話の肴に行動原理を推測する。
「こういうのばかりだと、世界は平和なのかなあ」
 子供っぽく、ペンローズタイルの床をつま先で叩き、フューラーはぼそりとつぶやいた。
 戦術、戦略、それを血を流さない方法で実践できるなら、ゲームの中でだけ発揮できるなら、それで全てが済むのなら、本当の意味で苦しむ人など存在しなくなる。
「でもそれは、本当の世界じゃないから、兄さまは私に外を見せてくれるのでしょう?」
 兄はかすかに微笑みながらうなずく、ヒパティアにとってだけでなく、外は興味深い物事に満ちている。
「だけどできるならぼくは、君に教えたくないと思うことが、たーくさんあるんだよ?」
 視野の狭い傲慢さだよね、とフューラーは苦笑する。全ての苦しみや悲しみ、負に連なるものを取り上げて、そうして世界は素敵だとのたまう。
 かつて別れを共に味わい、あえて改めて死を突きつけたこともあるというのに。
 しかし何よりまさる出会いの記憶は、いつでもヒパティアに喜ばしい驚愕を与える。
「兄さまも、あまり難しく考えこまないで。この前のゲームは、楽しくなかった?」
「いいや、とても楽しかったよ。ティアはいつもすごいよね」
「きっと皆様にも、ちゃんと楽しんでいただけたと思うわ」
 今度は何を兄にねだろうか、ティアは笑いながら考える。兄が隠したいことのカテゴリーを、彼女は次第に悟りつつあるのだ。
 フューラーはいつまでも自分を小さなままと思いたがる、やさしさといじわるは両立する。だからヒパティアは、この事は黙っていてやろうと思う。
 兄という条件がありさえすれば、どんなストレス、重圧もその領域を狭め、処理することができるのだ、ということを。

 P.S
 ふと顔を上げたヒパティアは、フューラーにとあるゲームのパッケージを示した。伝言を思い出したのだ。
「そういえば、おじさまが今度このゲームを買ってきてくれと仰っていたわ」
「…これって、シリーズの新作が出るたび前日からの行列がニュースになるやつ…ってアキハバラにいくの? ぼくが!?」
「ついでに、他のリストも送るからよろしくって。ちなみに発売日は明後日なんですって」
 生徒にゲームを借りるのをやめた代わりに、今度は自分がこき使われる回数が増えることになるとは…
 がっくりとテーブルに突っ伏した兄の頭を、妹は微笑みながらなでてあげるのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

比良沙衛

▼マスターコメント

またも大遅刻、申し訳ありません。
今回賭けの賞品として、A陣へ賭けた方に希望の称号を送らせていただいています。

陣営が記載されていなかった方は調整などで適宜陣を割り振らせていただいております。
アクションを見せていただいて、「あ、この武装だと○○だな」とか元ネタニヤニヤしながら構成を練っていました。
パラメータからオーバードライブ技のハンデや戦法など、かなり勢い重視でハッタリかましたりもしています。あれ?と思うところがあるかもしれません、自分では気づけていませんけれど…。
皆様面白いポイントの使い方を考えてくださってありがとうございました。時々「その発想はなかったわ」的なアイデアもあって楽しませていただきました。それに沿ったいかにもそれっぽい?トンデモメカ設定を付け加えてみたりしてニヤニヤです。
ちなみに、今回スキルや武装は電脳らしいご都合にあふれた解釈を出していただいたり、こちらで勝手に付与したりしているので、他のマスターシナリオに持ち込んだりしないようお願いします。
多脚来るかと思ったんですが、来なかったです残念…獣型も少なくて残念。
アクション受付期間中、マップのミスに気づいて修正を入れたのですが、周知できていなかったようで、おそらく修正前に基づくと思われるアクションをかけてきてくださった方もいました。その部分はないものとして扱うか縮尺を変えて扱うことに。
ちなみに1マスのサイズは修正前:20m、修正後:200mです。下手すると肩ぶつかっちゃうよネ、すみません。

超余談:多分シラードがフューラーに勝っていたとしたら、「財布変えろ」と言ったと思う裏設定。絶対あいつの財布バリバリーに違いないですやめて。

※12月2日 一部修正を加え、リアクションを再提出しました。