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リアクション
第9章 ワーム侵入
「なんだ!?」
突然の外壁の崩壊、巨大ワームの侵入に、だれもが目を瞠った。
マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)もその1人だ。だが次の瞬間、彼はだれよりも早く、弾けるようにワームに向かってバーストダッシュで走り出した。
外壁が破られたとはいえ、町と壁の間には5メートルほどの空間がある。日照の関係で、それ以上壁近くには家屋は建てられないのだ。だから侵入されたとはいえ、まだ時間に猶予はあるはずだと、マイトは考えていた。
(まったく、冗談じゃねーぜ。これ以上破壊されたりしたら、反乱軍と町の人との間はどうなるんだよ? 加勢した東西シャンバラ人の立場は? カナンに武術学校を作りたいって俺の野望はどうなる!?)
カナンに武術学校は絶対に必要だ。武道は心も体もまっすぐに鍛える。これからますます苛烈さをきわめていくに違いないこのカナンの地にあって、逆境に心折れることなく強く生きるため、正義の心を貫くため、今一番必要なのは武道なんだ!
「それをてめーらに壊されてたまるかってんだ、ちくしょうめ!!」
毒液を受けたナイトシールドを振り捨て、マイトはランスを手に、ワームの口から体内へと頭から突っ込んで行った。
「特攻は、死なばもろともってよく言うが、冗談じゃねえ!! 俺は死なねぇ!! 死ぬのはてめぇだけだ!」
ヒャッハー!
ワームの体内でチェインスマイトを発動させ、ずたずたに切り裂き暴れたあと、背中を貫通して飛び出す。
マイトにとって幸運だったのは、ワームはすでにかなり痛めつけられていたということだ。体の半分を焼かれ、兵士たちによって表皮を切り刻まれていたワームの皮膚に強度はなかった。
「正義は力だ! 見たか、子どもたち!!」
力尽きて地に沈んだワームの上に立ち、マイトは高々とこぶしを突き上げた。
ワームが侵入したのは、北の避難所のすぐそばだった。
内部に侵入したワームが2匹とも倒されたのを見て、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は作戦をあきらめ屋根の上に上げていた人々を下ろそうとしていた矢先のことだ。
「まさか壁が破られるとはな」
外のやつらは一体何をしていたのだ。
一瞬苛立ちが沸き起こる。
だがそのうちの1匹がこちらにまっすぐ進路をとるのを見て、考えが変わった。
「リリ?」
再び避難所の屋根へ戻ったリリに、パートナーのララ サーズデイ(らら・さーずでい)が、下から確認をとる。
「侵入されたものは仕方ない。もう大分弱っているようだが、あれを利用しよう」
「分かった」
左右の家屋を砕きつつ、ゆっくりと進んでくるワーム。
ララは通りの中央に立ち、エペを正面に立てて構えた。
相手がモンスターであれ、真っ向から向かってくる敵に対して、一定の敬意は必要だ。
ララはその体勢で十分引きつけたのち、轟雷閃を放った。白光はエペを伝い走り、ワームの体皮を一部砕く。だが大したダメージとはならなかったようで、ワームの進行は止まらなかった。
次々と吐き出される毒液を、ララは加速ブースターで回避する。
軽やかに宙を舞い、片手を着いて着地したララは、にこりと笑った。
「やあ、なかなかやるね」
「ララ。少しぐらいなら楽しむのもいいが、手筈を忘れるな!」
平屋根の上からリリが叫ぶ。
「ウィ、マドモアゼル」
ララはワームの毒液を避けつつ、避難所の前にじりじりと移動した。そして正面玄関の前で、ララは1枚のカードを取り出す。
リリから預かっていた【トート・タロット】の塔のカードだ。それを、ララはワームの口に投げ入れた。
「光臨せよ! 天上に咲く黄金の薔薇ッ!」
すっくと立ち上がり、詠唱するリリ。
リリの放ったサンダーブラストはカードに吸い込まれるように飛び、内側からモンスターを破壊した。
どう、と地響きをたててワームが倒れる。
ピクピクと痙攣するワームに向かい、リリはさっと水平に手を払った。
「さあ、石を落とせ」
従容としているがゆえに、冷酷に聞こえる命令。
しかし町の者は死にかけたモンスターにおじけづいて、石を投げることができなかった。
「モンスターと戦うのは反乱軍とか、これはネルガルに逆らったからとかは関係ない。この町はあなたたちのものだ。
自分の町は、自分の手で守るのだよ」
だが、なかなか人々はその手から石を放さない。左右の人を盗み見て、ぼそぼそと話している。
さらに強く言おうとリリが口を開いた、そのときだった。
「……ぅ、わあああああーーーーっ」
加夜の手を振り払った少年が避難所から走り出て、倒れたワームにナイフを突き立てた。何度も、何度も。がむしゃらに。
それを合図とするように、リリの指示で得物を持って建物の影に隠れていた男たちが次々と走り出て、ワームに群がった。
「これでいいのだ。成功体験により町は支援者を超えて反乱軍と一体になるのだ」
だが女たちは、ワームの体液と肉片にまみれていく男たちを、どこか沈痛なまなざしで見つめていた。
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