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虹の根元を見に行こう!

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虹の根元を見に行こう!

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★プロローグ



 幼い私は、小さなことにも怯える子でした。
 そんな時は決まって、お母様のベッドに潜り込み、眠るまで物語を聞かされました。
 ――虹の根元。
 それは、私が一番好きな、お母様の話でした。



 とある所にいた小さな女の子は、いつも泣いていました。
 わんわんわんわん泣き続ける女の子を見かねて、妖精が現れ、女の子に話しかけました。
 ――どうしてそんなに泣いているの?
 女の子は妖精に聞かれても、泣き続けるだけでした。
 ――悲しいことがあったの?
 女の子は首を振りました。
 ――じゃあ、どうして泣いてるの?
 女の子はそれでも泣き続けました。
 困った妖精はくるくる女の子の周りを飛び回りながら、思いついたようにこんなことを言いました。
 ――じゃあ、キミを夢の国に連れて行こう。ずっと笑っていられる、楽しい所だよ。
 そう言って妖精は、女の子の目から零れる涙を掬うと、空に向かって放ちました。
 きらきらと綺麗な涙の雫を、何度も何度も、雨のように降らせました。
 するとどうでしょう。
 虹が出来上がったのです。
 ――ほら、見てごらん。キミを夢の国に連れて行く虹ができたよ。
 虹はとても綺麗です。
 だけど女の子は泣き止みません。
 ――ほら、こっちを見て。虹の根元を見て。
 妖精は女の子の涙を拭きながら、指差しました。
 そこには、女の子の涙で小さな水溜りができていました。
 ――さあ、見てごらん。
 女の子は泣きながらも、虹の根元を見ました。
 水溜りには、楽しそうに遊ぶ女の子自身の姿が映し出されていました。
 ――ほら、キミはこんなに楽しそうに笑って遊んでいるんだよ。
 しばらく不思議そうにその水溜りを見ていた女の子は、泣き止み、そして笑っていました。
 女の子は知らなかったのです。
 女の子は知りたかったのです。
 自分が元気に走り回れることを。
 自分がにっこり笑えることを。
 ――さあ、ボクと一緒に遊ぼうよ。
 女の子は妖精と一緒に、走り回って、笑って、泣くのを止めて幸せに遊びました。



 アリスのアテナ・リネア(あてな・りねあ)が一斉に出した大号令とも呼べる召集により、キマク郊外に続々と仲間が集まり始めた。
 ある者はアテネの名を見て。
 ある者はアテネのパートナーである熾月 瑛菜(しづき・えいな)の名を見て。
 ある者はシャンバラ人のラナ・リゼット(らな・りぜっと)の名を見て。
 ある者は奇怪なアテネの依頼文を見て。
 ある者は敏感なアンテナで何かを察知して。
「凄い……ですね、これは……」
 思わず感動にも似た面持ちで小さく声を挙げ、ラナは目を丸くした。
 集まった人の多さを見て、改めて人の繋がりというものを感じ取っていた。
「えっへん! 凄いでしょ!」
 無い胸を張る一杯に張るアテネを見て、ラナは心底感心した。
「皆、アテネ・リネアのお知り合いの方々でしょうか?」
 友達を呼ぶ、と言ってたアテネからパトナー家のシルキス嬢は、片手で数えられるくらいを予想していたが、それは両手両足を往復するほどだった。
「ええっと、アテネのお友達もいるし、瑛菜おねーちゃんのお友達もいるし、ラナおねーちゃんのお友達もいる……のかな?」
 無い胸を張るために反った背を丸めながら、アテネは群集を見た。
「まあ、素敵。こんなにもお友達がいらっしゃるのですね。羨ましいです」
「えへへ♪」
 誇らしげに再び胸を張るアテネ。
 しかし、とラナは思った。
 それには、シルキスも気付いたようで、2人は見合って笑みを浮かべた。
 だが、笑みの本質は互いに違っていた。
「まるで冒険みたいです」
 シルキスは胸にそっと手を当てて、目を閉じながら言った。
「一度は私も、大冒険をする一味になってみたかったんです。少し、ドキドキしてきました」
(アテネは本当に、優しさに満ちた子ですね)
 ラナは少しばかり人の多さに、シルキスの気を損ねるような事態を頭の片隅に考え、苦笑いを向けたのだ。
 しかし、実際はどうだ。
 目の前のヴァイシャリー貴族一家の令嬢は、まるで子供のように微笑んでいるではないか。
「楽しみですね」
「ええ、本当に」
 だからラナはそうやって、笑い返すのだった。