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「……鍬次郎が、あのお姉ちゃんを誘拐するんだって」
「ああ、そうさ」
 ローグの斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が言うと、パートナーであり英霊の大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)が答えた。
「……仕事だ」
 ゆる族の東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)は、自分の獲物を磨きながら、そう呟いた。
「ヴァイシャリーの貴族シルキスの誘拐か……。貴族の身代金、中々良さそうだ……」
 スナイパーのハンス・ベルンハルト(はんす・べるんはると)は、既にスコープを覗きながら、ターゲットを見てそう言った。
「今回の仕事、生き延びた奴は報酬山分けだが……途中で逃げた奴は地獄まで追いかけて……斬る! だから、テメェ、死ぬ気で足止めしろや。教導団員だからって関係ねぇ」
 鍬次郎が、脅しをかけるが、ハンスには無用だった。
「こまけぇ事はいいんだよ! さあ行ってこい! 身代金は山分けな!」
「……壊しちゃダメなの?」
「ああ、ダメだ」
「……だって、壊さないと褒めてもらえない……」
「それでもダメだ。俺の言うことが聞けねぇのか、ハツネ」
「……うん、わかったの。でも……お姉ちゃんを人質にして……護衛の人達が余計な事したら……すぐに、壊して……いいの……?」
 異様なほどに口角をあげて笑ったハツネに鍬次郎は頷いた。
 しかし、新兵衛は思うのだ。
(自分は……お嬢を護るため……お嬢を害する者を……容赦なく射殺もしくは四肢を打ち抜く。……だが、お嬢にもそろそろ壊す以外の事を……見つけてほしい。……そうすれば、お嬢も……少しでも、変われるはず……)
 胸に秘めた新兵衛の思いだが、それは鍬次郎がいる限り叶わないかもしれない。
 鍬次郎もまた、新兵衛の時折見せる眼差しに嫌気が差す。
「テメェ……きちっと仕事をしろよ」
「もちろん、何人たりとも、お嬢の邪魔はさせない……」
「ねぇ……早く壊させて欲しいの……」
 睨みあう2人だが、ハツネのその言葉で視線を逸らす。
「よし、援護は任せな!」
 ハンスが言うと、3人は一斉に駆け出した。
「まずは……意識を逸らす」
 ハツネ達の後方、狙撃に適した見晴らしの良い場所から、安全な距離を取りカモフラージュで風景に溶け込んでいるハンスが、シャープシューターを使って狙いを定め、引き金を引いた。
 ハツネ達がやりやすいように、遠目からの狙撃で、明らかに護衛の動きが変わった。
「行けッ!」
 思わず力が入った。
 レッサーワイバーンで上空から地上の警戒に当たっていたフェルブレイドの紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、シルキス達に向けて発砲されたのを見た。
 そして、同時にシルキスに近づく空気の淀みも感じ取った。
「シルキス!? 裏を取られたか。なら……ッ!」
 地上の仲間に声を掛けるよりも早く、唯斗はワイバーンで急降下した。
「捕まえたぁ……」
 光学迷彩とブラックコートで気配を消したハツネが、背後から一気にシルキスを捕らえ、笑った。
「シルキス!?」
「ハツネ! 上だ、クソォ!」
「――ッ!?」
 鍬次郎の注意もあって、ハツネは急降下してきたワイバーンの攻撃を辛うじて避けた。
 シルキスはその弾みでハツネから離れ、アテネとラナに急いで救出された。
「エクス――ッ!」
「虹の根元。わらわも昔はよく気になったものだ。そんな夢を追う者達に、わらわも全力で力を貸そう。そして、邪魔するものは……」
 剣の花嫁、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は、力を集中させ、
「景気良く吹き飛んでいるが良いッ!」
 ハツネの援護に加わろうとした鍬次郎に向けてファイアストームを放った。
「睡蓮――ッ! 畳み掛けろッ!」
「同じアリスのアテナさんがいる前です。同族として仲間のために頑張らせていただきます!」
 アリスの紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、弓を絞って、ファイアストームを寸でで回避した鍬次郎に向けて放った。
 中距離から放たれた矢のスピードは、いくら手練れでも避けるのは難しかった。
 顔を歪め、忌々しく舌打ちしながら剣で弾いた。
「止めません!」
 睡蓮はすさまじい速度で矢を抜いては絞り、放った。
 もはや鍬次郎は受け止めるだけで、その場から後退も前進もできなかった。
「戦場で止まるか。それもよかろう」
 エクスが再び攻撃を仕掛けようとする気配に、さすがの鍬次郎も覚悟を決めた。
 しかし、そのエクスの足元の地面が瞬時に抉れ、止めの機を逸した。
 ハンスが遠目から援護射撃を加えたのだ。
 だが、それをじっと窺っていた魔鎧のプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)に、方向がバレてしまった。
「私はスナイパーの対応をしてきます。メドがついたので」
「頼む!」
 プラチナムはチューニングしたバイクに跨り、一気にその方向へ、戦場を突っ切るように走らせた。
 砲弾やスキルが飛び交う戦場を、バイク1つで軽やかに避けていく姿は、明らかにパラ実生の運転よりも上だということは明らかだった。
 そのプラチナムの一直線に向かってくる動きにハンスは焦った。
「炙り出します」
 プラチナムは野生の蹂躙でもって、場所に辺りをつけて魔獣を走り抜けさせた。
「クッ!? 気付かれたか!?」
 このまま範囲攻撃をされ続ければ、いずれ不自然な場所がわかってしまう。
 ハンスは援護を諦め、カモフラージュから光学迷彩に切り替え、物陰に隠れて息を潜めた。
「クソ……どうしようも出来ねえし……まっ、義理は果たしただろ」
 撤退の機を窺い始めるハンスだった。
「さて、お痛のお仕置きをしなくちゃな」
「お痛じゃない……。人は、壊す、ものなの……」
「違う。人は護るものさ。この手が届く限り何度でも、護らなくちゃいけない」
 唯斗は目の前のハツネを見据えて、そう言った。
 自分よりも強いということをハッキリと肌で感じ取ってしまったハツネは、その言葉に揺らいだ。
「ねぇ……守ると、褒めて……もらえるの? 偉い、の?」
「ああ、そうさ」
「お嬢……。壊す以外……褒めることも、あるんだ」
 光学迷彩でハツネの傍で身を潜め護ろうとしていた新兵衛は、ハツネの肩に手をやってそう言った。
「クソが、余計な事に気を回して!」
「それで、まだ俺達とやるのかい?」
 唯斗が自分の拳を叩いて交戦の意思を示すと、鍬次郎は苦々しい顔を見せたがすんなりと引き下がり、ハツネも新兵衛に連れられ後退した。