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★3章



 救出されたシルキスは、アテネとラナを中心とした護衛に守られながら、戦闘を見守った。
 パラ実生がスパイクバイクでヒットアンドアウェイの攻撃を繰り返し、それを各々が各個対応に当たった。

「はーい、こちら上空のセリエです。地上にもモヒカンさんの姿が見えましたー。シルキスさん達の前方です」
 セリエから電話で連絡を受け取った祥子は、殿から一気に先頭にチャリオットを走らせた。
「ヒャッハー! 可愛い子発見だぜ!」
 スパイクバイクの群れと、奇声にも似た声を聞いた。
「この私の目の前で! 判官の前で! 誘拐をしようなんて身の程知らずにもほどがある!!」
 限界速でパラ実生の集団へ突撃し、間に割って入った。
 そして、勢いそのままにレプリカ・ビックディッパーを振るい、スパイクバイクに攻撃を加えた。
「こ、このアマぁぁぁ!? オレのイットーの愛車に手ぇ出しやがって!」
 バイクを傷つけられ、怒り心頭のパラ実生の攻撃がチャリオットに及びそうになるが――、
「ヒャッハーーー! 汚物は消毒だあーー!!」
 上空から降ってわいた真似声の後に、レッサーワイバーンの火にパラ実生の頭から火柱が上がった。
「次は跳ね飛ばします!」
 チャリオットがUターンをして、再びパラ実生の間に突撃した。

「御方様――敵影見ゆ、です。御注意を」
「ありがとう、菊。あんたも注意してね!」
 ローザマリアに注意を促すと、菊は空中戦の合間を縫って高度を落とし、上空から対イコン用爆弾弓を放ち、敵が接近する前に出鼻を挫いた。
「コノ、ヤロー!? 降りてきやがれ!」
「ふ、罪無き人々を狙うが如き不義の輩にかける情けなど、持ち合わせてはおりませぬ故。迷わずナラカへ堕ちられませ」
 菊は再び、不義の輩目掛けて、爆撃を繰り返した。
 だが、数の多さ故、何人かはすり抜け、シルキス達に向かった。
「その企み、果たして上手くゆくかな?」
 グロリアーナが、もっとも護衛に力を注いだアテネの前に一歩出た。
「女だからって容赦しねぇぞ、ヒャッハー!」
「ふ……」
 接近してきた所を引き付け、抜刀術、疾風突きですかさず打ち込み、バイクから叩き落とした。
「相済まぬが、この者は妾にとっても大切な友なのでな――見世物なら入場料を支払って瑛菜と我等のライブを見に来るがよい!」
 叩き落したパラ実生がバイクを起こして再び乗る前に、則天去私で一掃すると、圧倒的な力を誇示するように吼えた。
「其方ら、斯様に年端も行かぬ娘に総掛りなどと恥ずかしいとは思わぬのか!?」
「うるせぇんだよ、ヒーハー!」
「アテネも戦う――ヨッ!?」
 アリスびーむで加勢しようとしたアテナの角を掴んでコキッと首を捻り、エリシュカは阻止した。(寝違えた様に首がちょっと変な方向に曲がっても気にせず)
「うゅ、あいつらのねらいは、アテナ、なの。だから、アテナはまえにでたらダメ、なの」
「ヒャッ……ハァ……アアッ!? か、身体がうごかねぇ……」
 アテネを阻止すると同時に、敵にしびれ粉を嗅がせたエリシュカは馬乗りになってアリスちょっぷで脳天を割る勢いで叩き込んだ。
「ごめんね。あの娘は心底、あなたが大好きだから。それに、あなたには大切な役目がある――虹の袂への案内人という役目がね」
 寝違えたように曲がった首をなんとか治して加勢しようと試みるアテネにローザマリアは言い聞かせ、行動予測を用いた。
 敵の動きを予測しつつ、スナイプとエイミングによる狙撃で護衛の仲間を援護した。
 バイクや敵の持つ得物を狙い撃つ事で、敵の戦意を殺ぎ、的確に1つの役割を担った。
「うう、戦いたいけど、アテネ、我慢するよ」
 その言葉に、ローザマリアとそのパートナー達は、笑顔で答えた。

「チッ!もうすぐでいいとこだっつーのに、ここで邪魔されちゃ意味がねぇ。まずはあいつらから不幸にしてやるか」
 レッサーワイバーンに乗りながら、ゲドーは氷術で地面を凍らせた。
 それにタイヤを取られ、横倒しになりながら木にぶつかり大破するのを見て、ゲドーはけらけらと笑った。
「だ〜ひゃっはっは! ツルツルっと滑ってやんの! だっせぇぇぇ! ハハ、このまま上からドンドンやってやんよ!」
 天と地の優位性は明らかだった。

 シュネーはスナイパーライフルを構えて、引き金を引いた。
 的確にスパイクバイクを打ち抜き、大破されると、吹き飛んだパラ実生が、クラウツの前に転がってきた。
 頭を擦りながら文句を言いつつ威嚇してやろうと思ったパラ実生が見上げた先には、黒い猫が目を光らせていた。
「ミーのスプレーショットを受けてみろニャアアアアアアアアアアアアア!」
 ヒィィと情けない声を挙げるパラ実生を、黒い猫が追いかけた。

 真人は火術と雷術を交互に撃ち、敵のスパイクバイク――足を止めようとしたが、暴走に近い乱暴な運転に上手く直撃させらずにいた。
 ならば、と氷術に切り替え地面を凍結させると、1台のスパイクバイクが見事に横転した。
「凄いです……」
 初めて戦いを見るのか、目を輝かせて言ったシルキスに真人は言った。
「勇気は他人から貰える物では無いと思います。自分で生み出すものが勇気ではないでしょうか? 結局は君自身の意志で決めなければならないですからね」
 護衛ばかりで声を掛ける機会を失っていた真人の、シルキスへの言葉だった。

 ――トントン。
 シルキスの肩が叩かれ、振り返ると、そこには冒険者リネン・エルフト(りねん・えるふと)と、そのパートナーである剣の花嫁、ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)の2人が立っていた。
「わ、誰!?」
 アテネは突然現れた2人に驚いて声をあげた。
「敵ですか!?」
 ラナは構えを取ったのが、リネンからは殺気も感じないし、何より本人は首を横に振って、どうしたのかと尋ねてきた。
「………………そう、状況はわかったわ」
「虹の根元……ですか。なら、夢を邪魔する方々には早々に退場してもらいましょうか?義を見てせざるは……と、ヘイリーさんではないですけれど。助太刀いたしますわ」
 そう言うと、ユーベルはリネンに光条兵器を手渡した。
「で、でも、見ず知らずの方にそこまで……」
 シルキスの言葉にリネンは小首を傾げ、
「大丈夫……あなたは、1人じゃないから。ここは任せて。……空から虹を見るとね、シャンバラの全部が、虹の根元にかかっているの。だから……ここも虹の根元、だから、大丈夫」
 そう言って敵へ向かって駆け出し、
「リネンは相変わらず口下手で……。でも大丈夫、自信をもって、あなたを思ってくれる人たちを、信じてあげてくださいな」
 ユーベルも後を追った。
 彼女らがここを通りかかったのは、義賊『シャーウッドの森空賊団』の活動の途中であり、まさしく偶然であった。
 しかし、騒がしさに気付きここまでくれば、助太刀をせざるを得ない。
「ヒャッハー! 金になる女をよこしなー!」
 シルキスに向かってスパイクバイクを走らせるパラ実生向けて、リネンは光条兵器を振るった。
 ――シュシュッ、ブゥンッ!
 素早い剣での三連撃で、スパイクバイクに傷をつけた。
「こ、この女……ッ!? 俺の単車のボディに傷付けやがって!」
「……?」
 リネンは再び小首を傾げた。
 バイクのボディに当てた攻撃は2回。
 そして最後の攻撃は、
「ぱれ? あがががが!?」
 前方の車輪を潰していたのに、パラ実生は気付かず、そのまま大木に激突した。