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【カナン再生記】ドラセナ砦の最初で最後の戦い

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【カナン再生記】ドラセナ砦の最初で最後の戦い

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11.友人が遊びに来るかもしれないのでな



「ほら、武器だけやない。鎧も脱ぐんや」
 大久保 泰輔は並ばせた兵士の武器を取り上げていく。
 少し前に、神官とウーダイオスが死亡したとの報告が入り、抵抗を続けていた敵兵もついに降伏したのだ。今は、あと処理の真っ最中である。
「あれからずっと戦い漬けで、随分と時間が経った気がしましたが、まだ夕方なんですよね」
 と、フランツ・シューベルトが言う。
「まさかこんな遠く離れた地で、妖怪を見れるとは思わなんだぞ」
「あれは妖怪ではなくて、アンデッドのモンスターですよ」
 讃岐院 顕仁とレイチェル・ロートランドがおしゃべりをしているのを見付けて、泰輔は二人にさぼるなと声をかけておく。まぁ、みんなもう自主的に武器を置いているし、そこまで厳密である必要もないのだがとりあえず、である。
「ウーダイオスも結局死んでしまいましたね。いくら心が強くても、それだけではダメだったんですね」
「どうやろなぁ?」
「はい?」
「ま、死んだって話なら、死んだことにしとくんが一番や。とにかく、こいつらとっとと縄つけて砦まで………ん?」
 気配を感じ取って泰輔が振り返ると、砂の中から手が出てきた。手の持ち主は、地力で砂から這い上がってくる。
 砂から這い上がってきてきたのは、武神 牙竜と重攻機 リュウライザーと瓜生 コウの三人だった。三人は、というより牙竜とコウの二人は出てくるなり、
「なんで、あそこで爆弾なんだよ! 倒しただろ、ちゃんと倒しただろ!」
「なんでって、勿体ないだろ。せっかく持ってきたんだし、使わないとな。それに、相手が生き物じゃないんなら、完全に破壊した方がいいに決まってる!」
「間違ってないけどな、タイミングってもんがあるんだよ。あと一歩で全員生き埋めだったんだぞ!」
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください」
 リュウライザーが二人をなだめようとしているが、二人の熱は中々冷めそうに無い。
「なんや………あれ」
「さぁ?」
 レイチェルが首を傾げる。
「どうします、声をかけます?」
「今関わると面倒そうや、そのうち冷めるやろ。こいつら持って帰るのが先や。ほな手ぇうしろに回して、ちょいきつめに縛るけど、堪忍なぁ」



 戦から一晩明けた。
 とにかく、長い長い一日だった。戦そのもののも決して楽なものではなかったが、その後の後始末―――そして、夜通し行われた宴会によって、今のドラセナ砦の光景は到底見れたものではない。仮に、今攻めれられたら、一時間と持たずに陥落するだろう。
 だが、終わったのだ。全てが片付いたというにはまだまだ遠いが、それでもとりあえず一つのピリオドは打てたのだ。こうして、一つ一つ積み上げていけば、いずれ全てを終わらせられる日も来るのだろう。
「すずなは、これからどうするの?」
 砦の広場の片隅で、モニカ・アインハルトに尋ねられ、すずなは少し考えてから、
「もう少し、ここにいようかなって。迷惑、かけっぱなしだったみたいですし、少しは恩返しをしとうかと」
「そっか、俺はどうしよっかなぁ」
 出雲 竜牙は空を仰ぎ見てみる。まだ夜が明け始めたばかりで、空はこの時間独特の不思議な色合いを見せている。
 ちなみに、これは余談なのだが、彼らのような未成年組みは比較的元気である。というのも、成人していた人は誰彼構わずアルコールの海に飲み込まれていったからだ。そのため、宴から逃げ回るという不思議な光景もちらほらとあった。
「そういえば、あの子は、確かサファイア、だっけ?」
「サフィでいいと思います。そう呼ばれるの、苦手だって言ってますから」
「そう」
「サフィは、隙間に砂が入ったのが気持ち悪いとかで、自分で自分のメンテナンスしてくるって言ってました。しばらくしたら、戻ってくると………」
 喋っていたすずなの言葉が途中で止まる。こちらに向かってくるサファイアと、アルツール・ライヘンベルガーの一行が目に入ったからだ。
「正岡君。俺が何を言いに来たか、わかるか?」
「………いえ、わかりません」
「そうか。なら尋ねるが、学校に連絡無しにした欠席の数はわかるか?」
「………すみません」
「ふむ、別に怒っているわけではない。色々と事情があったのも鑑みよう。彼女に既に君が言うであろう言い分は聞いている」
 うんうん、とサファイアは頷いている。どうやら、敵に回ったようだ。
「だが、事情を鑑みても、これ以上は君の進級に関わってくる。君がここに残りたいと思っている気持ちを悪いとは言わないが、学生の本分は勉学にある。これ以上、無断欠席などしたりはしないよな?」
 すずなに、頷く以外の選択肢はなかった。サファイアが敵に回っている以上、もうどうしようもない。
「よろしい」
「先生も、戻るんですか?」
 と、竜牙が尋ねた。それにアルツールではなく、司馬懿 仲達が答えた。
「もしかしたら、友人が遊びに来るかもしれないのでな。無駄かもしれんが、最低限出迎える準備をしておくのだよ」
「友人?」
 首を傾げる竜牙に、仲達は答えず。アルツールはすずなを引きずってその場を去っていくのだった。



「酷いわね………」
 砦から見下ろすと、あちこちに酒を抱えてくたばっている人の姿が見え、思わずフレデリカ・レヴィはそう零した。
「まぁ、一日ぐらいは大目に見てやってください」
 アイアルを含む、戦が終わっても事後処理で駆け回った面々はみな素面のままだ。もっとも、寝ずに仕事をしていたので、誰の目の下にも隈ができてしまってはいるが、それでも宴会によって倒れた人よりずっとマシである。
「ま、みんな辛い日々を過ごしてきたんだから仕方ないかもね。けど、ちょっと緩みすぎじゃないかな?」
 同じ光景を見て、ルカルカ・ルーはそう言いながらため息をついた。今すぐ攻めてくる可能性は、捕えた兵からの情報で低いとは見ているが、宴会で半分以上の兵が倒れている様は、決して褒められたものではない。
「とにかくこれで、本当に一息つけます。私なんかが頭を下げたとろこで、価値など無いでしょうが………本当にありがとうございました」
 アイアルが深々と頭を下げる。
「けど、本当に大変なのはこれからよ」
 頭をあげるのを待って、フレデリカがそう口にした。
「そうね。敵とにらみ合ってる時は、そのために色んなものを見ないでいられるけど、それがなくなった今からは、見てこなかったものを見ないといけなくるしね」
「そういうことだ。気持ちを汲みはするが、宴会で食料をだいぶ消費している。まだいくらか備蓄はあるとは言え、今は他所から食料を補充しなければならないだろう。まだ交易などと言う余裕が無い以上、こちらからの援助は継続する予定ではあるが、捉えた捕虜の事を考えれば、何かしらの方法で食料を得る方法を見つける必要がある」
 ダリル・ガイザックが電卓を叩きながら言う。問題は食料だけではない、敵が近くに居なければ自然と兵の気も緩んでいくだろうし、今後病気が発生した時に備えて医療品も用意しなければならない。今は修復した砦でみんな休んでいるが、抱えているのが兵士だけではなく民間人も居るため、彼らの事を考えれば住処の問題もそのうち発生するだろう。
 ある程度の死を受け入れながら砂漠を戦い彷徨っていた時と違い、地に足をつけるには揃えなければならないものは多い。死ぬために戦うのと、生きるために戦うのでは本質からして違うのだ。
 一時の抑止力は得たとしても、いつ来るかわからない敵に備えながら、なおかつ今後は目に映らない人の心という敵を抱え続けることになる。幸い、アイアルは後者においては有能ではあるだろう、だが気持ちで支えられるものは思いのほか少ないのも事実である。
「私達が作った資料と、今日までの訓練プランと今後の予定については、全部ここに置いていくよ。他に、今ある投石機なんかの組み立て図もあるから、整備したり新しく作ったりもできると思う………それじゃ、私はそろそろカルキノス達を迎えに行こうかな」
「………そうだな」
 宴会に喜び勇んで向かっていったカルキノスは、他の兵士と一緒に倒れているだろうか。もしかしたら、まだまだ満足していない顔をしているかもしれない。淵は、恐らく倒れているだろう。子供扱いされて、酒に手を出す前から少しムキになっていたし。
 二人が去っていくのを見送り、アイアルは小さく息を漏らした。
「私の判断が正しかったのか、未だに自分でもわからないのです。あの男を見逃して、本当によかったのか―――もし、あの男の事を全く知らない他人であったならば、なんて考えるのは自分でも馬鹿馬鹿しいとは思いますが」
「………そうね。それは私にはもっとわからないわ。けど、あそこでああしないと、味方同士で戦ってたかもしれなかった。それを防げた事には意味があったんじゃないかしら」
「そうだと、いいのですが………」

「随分と大人な対応だったな。もう気持ちの整理はついたのか?」
 外へ向かう廊下で、ダリルがルカルカの背中に声をかけた。
「半分。殺さないで済むなら、その方がいいもん。けど………」
「そうだな。だが、俺は少しだが、ありがたいと思った」
「どうして?」
「さてな。まぁ、この戦は彼らのものだ。彼らが決めた道に異を唱えていたら、誰のものかわからなくなる。無謀なものでもない限り、その道に沿うのが協力者かつ友人の立ち位置ではあるだろう」
「それは、理屈だよ」
「そうだな」



「やれやれ、ずさんな警備だ。一人二人と捕虜を逃して、まだ気付いてすらいないとは………どれ、この辺りでいいだろう」
 地下通路をある程度進んだところで、ギルは立ち止まり、マッシュ・ザ・ペトリファイアーに振り返った。
「ああ、別に礼などいらんぞ。本来なら、某らがお主に何らかの礼をせねばならん立場であるからな。もっとも、某には手持ちもないうえ、大方家のものはあの神官に取り上げられておる。この身一つ以外は、何も残っておらんのよ」
「別に、楽しそうだから手を貸しただけ。お金が欲しかったわけじゃないよ」
「むむ、そう言われると何かを渡さねばと思えてきてしまうが、あるといえばこの身を包むこの布のみか」
「い、いらないよ。そんなの、汚いし」
「このようなものだが、魔法避けとしてあるのだが………まぁ、確かに綺麗ではないか。キキキ」
「そんな事よりさ、あんたこれからどうするのさ。ウーダイオスも死んだし、神官も死んだし」
「さてなぁ、大儀も何もあの戦で吹き飛んでしまったし。ああ、それと恐らくではあるがウーダイオスは死んでおらんぞ」
「へ? だって、そう言ってたじゃん、砦のやつらはさ」
「なら、なぜルブルの死亡報告が来ないのだろうな。あ奴はあの男に依存しきっていたゆえ、もし本当に死んでいたならあの女はすぐさまあとを追うよ。その骸が無いとなれば、生きているのが道理というものよ」
「ふーん、やっぱりルブルってウーダイオスの事が好きだったのかな?」
「好きか、まぁ、そうなのだろうなぁ。あ奴の心は歪んでおるゆえ、わかりかねるところもあるが、そう思って差し支えないんではなかろうか。なんだ、ルブルが気に入ったか?」
「別に、ただなんとなくそう思っただけ」
「キキキ、まぁ、見た目通りに危険な女だ。極力触れぬが身の為よ。さて、あまりゆるりとしていて、追われてしまったら目も当てられぬ。道案内もここまででよかろう。では達者でな」
 ギルは暗闇の中に溶けるように消えていく。
「………そっか、あいつまだ生きてるのか」



「まさかあんたが来るとはな、てっきり嫌われてるもんだと思ったが」
「………別に、他意は無い。ただ、似てると思ってしまっただけだ」
「似てる? 誰にだ?」
「べ、別にそんな事はどうでもいい!」
 そうかい、とウーダイオスは鬼崎 朔(きざき・さく)に言って視線をルブルに向けた。
「随分と泥臭い戦いをしたみたいですね。他の怪我はともかく、足は暫く我慢しないとダメです。当て木はしてますが、病院に行ってギブスを作ってもらうのがいいでしょう」
 ルブルの手当てをしていたアテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)が、そう告げる。
「そうか、悪いな」
「朔がそうしろと言ったからです。礼を言うなら朔に。でも、あんまり近づかないで欲しいわね」
「しっかし、随分と危ない橋だったわね。正直、ちょっと冷や冷やしたわ」
 空から睨まれている最中、ウーダイオスを砂鯱に積んで戦場から逃走したのだ。彼らと最後まで睨みあいをしていた月読 ミチル(つきよみ・みちる)は、少し呆れ顔だ。
「こちらの情報操作に乗っていただいて、助かったでありますな」
 と、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が言う。彼女はウーダイオスが倒される少し前から、彼が死亡したという偽装情報を撒いていたのだ。もっとも既にウーダイオスが狙われていたあの時点では意味が無かった。天司御空が飛び出していってくれなかったら、指揮を取っていた人物が目を瞑ってくれなかったら、こうはなっていなかっただろう。
 ルブルを早い段階で回収できていたのも助かった。あの状況で二面展開などしていたら、あんな大胆な行動は取れない。ルブルを捕えていた、トライブ・ロックスターがあっさりとこちらに彼女を譲ってくれたおかげだ。まぁ、彼も捕虜を砦に届けるというこちらの言い分が嘘であるのは見抜いてみたいだが。
「これから、どうするつもりだ? もし、行くあてが無いのなら、エリシュオンの龍騎士団に紹介してもいいが」
「ありがたい話だが、その話には乗れないな」
「そう言うだろうと思っていたよ」
「悪いな、色々と面倒をかけさせちまったみたいだが、誰かの考えに従って動くのはもう飽き飽きしてんだわ。それに、シャンバラも地球も一度見ておきたい。その辺りをぐるりとまわってみて、それから次に何するかを考えるさ」
「そうか。だったら、これを持っていけ」
 朔が機晶姫の腕をウーダイオスに投げてよこす。
「なんだこりゃ、腕か?」
「白滝奏音から預かったものだ。隻腕は目立つから、とな。動かなくても、つけておくといい」
「なるほど、全く世話になりっぱなしだな」
 言いながら、ウーダイオスは自分の肩にあてがってみる。サイズ的には問題ないようだ。今ここでどうにかできるものでもないので、どこか落ち着ける場所で作業することにする。
「うぅ………ここ、は………?」
 ルブルが目を覚ます。彼女の面目のために補足すれば、スカサハが回収した時点で半分ぐらい意識を保っていたのだが、騒がれたりすると面倒なので麻酔でしっかりと意識を奪っておいたのであって、今までただ寝こけていたわけではない。
「さて、こいつも目を覚ました事だし、俺達はそろそろ行くかね。世話になったな、もし次会うことがあれば、そん時に礼はしよう」
「期待は、しないでおく」
「そうかい。それじゃ、またな」



 ドラセナ砦を巡り短い間に繰り広げた戦いは、神官二人とムシュマフ、ウーダイオスの死亡を持って終わりを迎えた。
 数で劣る解放軍が正規軍を退けるだけでは留まらず、部隊を壊滅させなおかつ将の半数以上を討ち取り、残った将も撤退できずに捕虜もしくは行方不明となった。
 解放軍の損害も決して少なくない。しかし、それでもこの結果は驚異的であり、掲げた圧倒的な勝利に十分に届きうる結果となった。
 ドラセナ砦の存在は無視できず、しかし手を出すには大きな決断を必要とする。数で劣る解放軍にとって、自ら勝ち得たこの状況は大きな一歩だ。
 その為、これが事実とは異なるという事を知っているのはほんの一握り。
 その誰もが、真実を口にすることはない。自ら望んだのなら当然のこと。望まなくとも、真実よりも偽りの結末に価値があるのなら、口にする理由は無い。
 もっとも、事実や偽り、たった一人の将の生き死になんてものは、気に留めるまでもない些細な事だろう。
 ドラセナ砦が勝利を得たという、変えようの無い事実があるのだから―――

担当マスターより

▼担当マスター

野田内 廻

▼マスターコメント

 お待たせしました、野田内廻です。
 というわけで、今回を持ってドラセナ砦を巡るお話はおしまいです。

 参加していただいた価値のある話となってくれたら幸いです。
 個人的には、色々と勉強にもなったし、何より楽しかったです。
 連続ものの大変さもよくわかりました。あと、自分って信用できないもんですね。
 ともあれ、こんな楽しい企画に関われた事に感謝を。
 今回だけでなく、一回目、二回目、それぞれ参加して頂いた皆様、ありがとうございました。

 といっても、まだまだカナンのお話は続きます。
 私の出番は(たぶん)ここまでですが、みなさんはカナンの物語の行く末を見守っていただけたらと思います。

 それでは、最後にもう一度、ありがとうございました。
 もしよろしければ、次のお話(内容未定・時期不明)にもご参加していただければ幸いです。

 ではでは