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リアクション
4.やっぱり、バレバレでしたか?
まだ捕らわれている人が居る事を知った正岡 すずな(まさおか・すずな)は、砦の地下から繋がっている敵の本拠地を目指して進んでいた。
頭の上からは、人の足音が重なり合って地響きのような音がしている。上ではもう戦闘が始まっているのだ。そのおかげなのか、幸いにも彼女はまだ彼女の足を妨害する相手には出会わずに済んでいた。
目星をつけた場所へは、もう半分を超えている。このまま誰にも出会わなければ、そう願う彼女の気持ちを知ってか知らずか、少し開けた場所に出ると動く物陰があった。
「人じゃない………カニ?」
ウーダイオスは、砂カニの巣を間借りしていると言ってた。そして、彼女の目の前に現れたのは、その砂カニのようだった。体は地下に適応するためか小さいが、目だけが高く飛び出し、二つのハサミは不釣合いに大きい。恐らく、砂から目だけを出して、ハサミで獲物を捕えているのだろう。
「これだけ狭い場所だったら、あのハサミも振り回せないはずです!」
少し開けているといっても、あの巨大なハサミのついた腕を振り回すにはここは狭い。甲殻類は殻こそ固いが、それは骨を兼ねているからだ。関節を狙って攻撃すれば、ちゃんとダメージを通すことができる。
間合いを計りながら近づこうとすると、砂カニもすずなを警戒し少し下がった。道を塞がれるのは避けたいと、さらに前へすずなが出ようとすると砂カニは泡を吹いてきた。シャボン玉のような大きな泡は、すずなの近くまで飛ぶとパチンと弾ける。
「痛っ………え?」
泡の飛沫触れたすずなの手に、まるで針を刺されたような痛みが走る。何がなんだかわからないまま、一度距離を取って自分の手を見ると、手の甲に小さくはあるが火傷を負った時のように皮膚が変色していた。
「そういえば、酸の泡を吐くとか………」
すずなが距離を取っても、砂カニは泡を吐き出し続けている。泡はみるみるうちに、くっついて広がっていき、通路を塞いでいってしまう。すずなに、酸の壁を突破できるような術も道具も無い。
「そんな………ここまで来て」
砂カニが居たという事は、この先が目的地なのは間違いないはずだ。だが、もう泡で道は塞がれ、砂カニの姿すら覆いつくしてしまっている。仮に回り道をしたとしても、この先が彼らの巣である以上、同じように防衛されてしまうだろう。
「要するに、あの泡が無くなればいいのよね?」
「え?」
「あんたの下手糞な射撃でも、あれだけ大きな的なら当てられるわ。ほれ、忘れもの」
どこからともなく現れたモニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)が、すずなにぽんと何かを投げる。受け取ると、それは彼女が整備するからと預かってもらっていたすずなの銃だ。砂地で無茶な使われ方をして、部品の交換の必要があったらしい。
「全く、一人で勝手に行くからだぞ。帰ったらおしおきだかんな? それはともかく、まずはあのカニを料理しちゃわないとな。この先で間違いないんだろ?」
出雲 竜牙(いずも・りょうが)が、にっと笑ってみせる。
「モニカさん、竜牙さん………どうして、ここに?」
「あんたねぇ、どれだけ自分が不審な動きしてたかわかってないの?」
「あんだけ聞き込みしてたら、嫌でも何しようとしてるかぐらい見抜けるよ。それで、案の定この有様ってわけ。一人で勝手やろうとする罰として囮をしてもらおうって思ってこっそりついてきてたけど、まさかカニに道を塞がれちゃうとはなぁ」
「ごめんなさい」
「別に責めてるわけじゃないよ。けど………やっぱり、一人で勝手にやろうってのはダメだな。わがままだって思っても、一度口にしてみればさ、聞いてくれるいい男が居るかもしれないだろ?」
「………いい男?」
モニカが首を傾げる。わざとなのか、素の反応なのかわからない。
「………ともかく、まずはあのカニだ!」
竜牙は二人に背中を向けて、砂カニの方を見る。モニカもすぐにマシンピストルを構え、すずなも銃をカニに向けた。銃弾なら被害なく泡を割ることができ、泡の壁さえ無ければ砂カニなどただのカニだ、食材だ。
「二発までなら、たぶん大丈夫よ。だから、そこまで必死に狙わなくてもいいわ。教えた通りにするだけ」
一体何が二発まで何かわからないが、モニカはすずなに銃の手ほどきをしているようだ。
「撃ちなさい」
すずなとモニカがカニに向かって引き金を引く。泡が面白いように割れていき、すぐに砂カニの姿が露になった。砂カニも急いで泡を生産しているようだが、間に合わない。十分に道が開けて、竜牙が突っ込もうとしたその横を別の影が追い越していく。
「え?」
その影は、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)だ。マクスウェルは、駆け込みながらブライトグラディウスで、砂カニを甲羅ごと一撃のもと切り伏せる。
「よし、道は開けた。この先で間違いないんだな?」
砂カニが崩れ落ちるのを待って、マクスウェルは振り返りそう尋ねてくる。あっけに取られていたすずは、コクコクと頷いた。
「これで拠点の奴らに気づかれたかもしれない。ここから先は急いでいくぞ」
それだけ言うと、マスクウェルは一人先に言ってしまった。
棒立ちしていた竜牙もすぐにはっとなる。
「と、とにかく俺達も急ごう。行くよ、モニカ、すずなちゃん!」
「結局、邪魔しに来たのはカニだけか」
「しかし、本当にまだこれだけの人が捕らわれたままだったとは驚きです」
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)と重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)の眼前には、綺麗に整列された石像が並んでいる。数にして、三十少しぐらいだろうか。
「ほんとに誰もいなんだな。あんなカニだけで守れるだなんて思ってないだろうに………」
瓜生 コウ(うりゅう・こう)は注意深くあたりを探索する。不意打ちなどを警戒してのことだが、人の気配すら感じられない。安全なのはいい事だが、これはこれで不気味だ。
「しかし、本当にすずなの読みは当ってたな」
「人質が残ってるのもそうですが、場所もほぼ特定していました。彼女も無事ここまでたどり着いてくれればいいんですが」
「大丈夫だろ、危険なのはあのカニぐらいだ。泡を吐かれる前にやっちまえば難しくないしな………ほら、向こうも到着したみたいだぞ」
奥からやってきたのは、すずな達だった。向こうはこちらに一瞬警戒したようだが、すぐに誰かわかるとその警戒を解いた。
「武神さん、リュウライザーさんも、瓜生さんも………やっぱり、バレバレでしたか?」
「そりゃ」「まぁ」「あれだけあからさまでしたら」
がっくりとすずなはうな垂れる。本人はこれでもこそこそしているつもりだったのだ。
「本当は一緒に来たかったんだけどな。いきなりいなくなるし、心配したんだぞ。心配したのはオレだけじゃ無かったみたいだけどな」
うりうりとすずなの頭を撫でるコウ。
「それにしても、ずさんな警備だったな。ここも彼らも、もう価値は無いという事なのか?」
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いぃ、むぅ、なぁ………ふむ、これだけか。しかし、こやつらは一人で兵十人と同じだと思えという話。これだけ釣れれば十分、元はとれたかな」
「誰だ!」
マクスウェルが声のした方を見るも、誰の姿も見当たらない。
「ここよ、ここ」
「おまえは………この間、うちの兵士にちょっかい出したって奴か」
声は上からしていた。見上げると、天井にまるでコウモリのように逆さまに立つ男が一人。先日、こちらの動きを牽制したという小男だ。ギルと言う名前らしい。黒い包帯を全身に巻きつけたような格好をしており、薄暗い地下ではそれが保護色のようになっている。
「某を知っているか。まぁ、このような格好の人は珍しいゆえ、記憶にも残りやすかろう。ああ、よいよい、牙を向かなくても某は喧嘩は強くないのだ。某は、な」
ギルの言葉が終わるのを待っていかのように、奥から雄叫びのようなものが聞こえてきた。雄叫びが通り過ぎると、今度は重い足音がこちらに向かってくる。
「おお、なんという事だ。お主ら、ノックもせずに無理やり入ってきたのだろう。番犬が怒り狂っておるではないか。これでは某までかみ殺されてしまう。おお、怖い怖い………某はそこの民を守らねばならんのだが、某では番犬には到底及ばぬ。ああ、口惜しい、涙を呑んで某はここを立ち去るとしよう。おお、くわばらくわばら」
ふっと、闇に紛れるようにしてギルは姿を消した。気配も消えている。本人の言う通り、逃げ出したのか、はたまたどこかに潜んでこちらを伺っているのか。しかし、それを確かめる余裕はなく、足音の主はもう目に見えるところまで近づいていた。
「あいつは………あの時の奴だ!」
「あ、おい、何勝手に前に出ようとしてんだよ」
コウが牙竜の肩を掴んで静止させる。
「悪い、放してくれ。あいつは、あいつは………!」
「なんだよ、アレがどうかしたのか?」
現れたのは、先日の砦を奪うための戦いで現れた全身鎧の大男だ。その姿は、牙竜がその戦いの時に見たものと全く同じものだった。唯一、武器が斧ではなく槌になっている。石像を壊してやるという思惑が透けて見える、嫌な武器だ。
この大男は、砦で大暴れしたものとは別の個体だ。あちらは、みんなの手によって完全に破壊されている。もちろん、それぐらい牙竜にもわかっているが、しかし、この状況は因縁めいたものを感じさせる。
「あいつは俺が倒す。みんなは、ここの人達を頼む! リュウライザー、ちょっと早いがアレを頼む」
「あ、おい、ちょっと待てっての!」
「了解しました」
リュウライザーの六連ミサイルポッドが火を噴き、天井を崩す。道を塞いで、すずなと民達を、あの大男から分断するのだ。当然、瓦礫が向こうに行かないように、最新の注意を払っている。事故もなく、牙竜とリュウライザー、そしてコウの三人とすずな達は崩れた天井によって分断された。
「………なんでこっちに居るんだよ」
「あんたを止めようとしたんだよ。どんな理由かはもう聞かないけど、そうやって勝手に一人で突っ走るなっての。今更遅いけどさ」
「悪い、けど―――」
「はいはい、わかったての。けど、こっち側にされちまったんだからオレも参加させろよ? いざって時はプランBの準備はできてるからな」
「不思議な感覚ね、石化から解除されるのって………それはそうと、すずなちょっとこっちに来なさい」
石化から解除されたサファイアは、ちょいちょい手で招きすずなを呼ぶ。彼女が、すずなの仲間なのだそうだ。かなり目つきのキツイ、機晶姫だ。
おずおず、といった様子ですずなが近づいていくと、かなり痛そうなチョップをすずなの脳天に打ち込むと、憮然とした表情で、
「とりあえず、これでチャラにしてあげる。次からは、もう少し回りを見て行動するように、いいわね? ………皆さん、こんな子に付き合ってくれてありがとう。何もできないけど、御礼を言わせてもらいます。それで、今の状況を確認したいんだけど、ここはどこ?」
すずなが簡潔にこの状況を説明している間にも、大量に持ち込んだ石化解除薬で石像にされた人たちの解除が進んでいく。説明が終わる頃には、みんな元の姿に戻っていた。
「私が居ない間に、随分と話が進んでるみたいね。自信なくすなぁ、この私が人質にされてたなんて………でも、落ち込むのはあとね、ここも安全じゃないみたいだし」
と、サファイアが瓦礫で埋まった先に視線を向ける。瓦礫によって塞がれてるが、戦闘の音がこちらにも届いている。
「けど、この人数を護衛するのは厳しいわね」
ここに居る非戦闘員は三十名ほど、サファイアをいれても戦えるのは竜牙、モニカ、マクスウェル、すずなの五人。地下通路は横穴もあるため、頭とお尻だけ守ればいいわけではなく、五人を分散させる事になるだろう。果たしてそれで、敵に奇襲されてちゃんと対応しきれるだろうか。
「やっとおいついたぁ」
「人質の確保はもう終わってるみたいだね」
「みなさんが無事で、安心しました」
そこへ、、真口 悠希(まぐち・ゆき)と天海 護(あまみ・まもる)と天海 北斗(あまみ・ほくと)の三人が現れる。すずなの独断先行を察知し、後追いで組まれた救出チームだ。
「もし、怪我や体調不良の人が居たらオレに言ってくれ。少しだけど、食べ物と飲み物も用意してきたから、欲しかったらあげるぞ」
「キミ達は?」
「僕らは、キミ達を助けに来たんだ。ここまで入ってきたのは僕らだけだけど、ここに来るまでの途中に通路を確保するために人を置いてきてる」
「問題がなければ、急いで脱出しましょう。安全が約束できるわけではありませんから」
一人で突っ走ったすずなと違い、大慌てだったとはいえ護達はある程度の準備を整えてくれていたようだ。敵地に潜入するなんて大それた事を、準備もなしに突っ込む方がありえないのだが、そのことに対する説教をサファイアはぐっと飲み込んだ。
「ありがとう、正直助かったわ」
「それじゃ、こんな湿っぽい場所からさっさと脱出だ!」
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