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【怪盗VS探偵】昼に瞬く2つの月

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【怪盗VS探偵】昼に瞬く2つの月

リアクション


薔薇の艶めき


ー優雅なお茶のひとときをー



 怪盗が予告した日の前日。
 タシガンのカフェでは、きょろきょろと誰かの姿を探すにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)の姿があった。
 その手には『百合園の南と申します、ファンなんです。お話してくれませんか?』という内容の手紙が握られてる。
 カフェのオープンテラスにいる人物がにゃんくま仮面に気づき、手を振ったのを見て、にゃんくま仮面はその人物に近づく。
「あんたがこの手紙の送り主にゃ?」
「はい。来て下さり有難うございます。さ、どうぞ丁度いい熱さのアールグレイを準備しておきましたから」
 ファンだという15歳くらいの女の子は金髪ロングウェーブに百合園の制服を着ていた。
「気を使ってくれて嬉しいにゃ。で、そちらは誰かにゃ?」
 ファンの女の子、南の横に立っている短パン型の薔薇学制服を着ている男の子を指差して言う。
「こちらは弟の南青太と申します」
 弟は恥ずかしそうにもじもじしながら、ぺこりと頭を下げた。
 挨拶がすむと、にゃんくま仮面は用意された紅茶に口をつけた。
「さて、本題なのですが……世間では変熊様が、にゃんくま様の主人という認識で。私はとても嘆かわしく思っています。弟と一緒に変熊様のマスクを奪い取り、本物の主人が誰かを世間に知らしめてくださいませんか?」
「にゃん……だと……?」
「変熊様はマスクは特殊らしく、ご自身の格を上げてらっしゃるそうです。にゃんくま様が着けると、主人の認識が入れ替わる訳です」
「そんな機能が付いてるなんて一言も師匠から聞いた事がないにゃ」
「そりゃ勿論、トップシークレットですから」
 女の子は口に人差し指をあて、しーっというポーズをしてみせた。
「そりゃ……確かに、本当なら秘密にしなければならない内容にゃ」
「ええ、そうです。そして、これは本当の事なのです」
「本当に師匠の主人に向いてると思うのかにゃ?」
「はい! もちろんです! とても素敵だと思います、変熊様のマスクをつけたにゃんくま様は。私も見てみたいです」
「そうかにゃ」
 女の子に持ち上げられて、満更でもなさそうにするにゃんくま仮面。
「それと……これは小耳に挟んだ話しなのですが……薔薇学へ怪盗が行くのは嘘で。清泉様が変熊様のお体を狙うために流した、嘘らしいんです。本物の怪盗はイルミンスールに行く予定みたいなので、沢山のお友達に教えてあげてください」
「にゃに!? 師匠の!? って、別にそれは喜びそうだから、そのまま放置でも問題ないにゃ。まあ、今日の話しは有意義だったにゃ。ちょっと師匠の仮面の件は考えてみるにゃ」
「ええ! 是非! それでは、ごきげんよう」
 南姉弟に見送られ、にゃんくま仮面は寮へと帰って行ったのだった。


「……本当に……これしかなかったの?」
 泣きそうになりながら、弟……紫水 青太(しすい・せいた)はカツラを取った桐生 円(きりゅう・まどか)に聞いた。
「ごめん、それしかなかったんだ」
「そう……うぅ……」
「当日はちゃんとフォローしてあげるから、頑張って」
「う、うん……」
 円は自分の思惑とは少しずれてしまったが、非常に楽しそうにしていた。


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 空京にある探偵事務所の中では、何やら百日紅 火焔(さるすべり・かえん)に熱く語る金住 健勝(かなずみ・けんしょう)の姿があった。
「思うに、火焔殿はリアクションが足りないのでは? 例えばパープルバタフライはどんな状況でも脱ぐとか。それに比べ火焔殿は、橙歌殿にツッコまれてもさほど大きなリアクションを取らない。だから影が薄くなってしまうのであります!」
「なんと……!」
 2人の様子をバカバカしそうに橙歌は眺めている。
「では、影が薄くならないには……もっとオーバーアクションをすればいいと!?」
「そうであります! まあ、いきなり自分を変えるのも難しいので……今日はいい物を用意してきたであります」
 そう言うと、健勝はごそごそと鞄の中を漁り、何かきらきらした物を取りだした。
「これなら目立つでありますよ!」
 健勝の手にしていたものとは……スパンコールがついていてキラキラした派手なスーツだった。
 微妙に火焔の着ている服と似せている。
「これを着て薔薇の学舎に行くであります!」
「しかし……これは少し派手すぎるような……」
「何を言ってるでありますか! 要はやった者勝ちであります! 考える前にまず行動、これであります!」
「なるほど……そうですね! ありがとう! ですが……健勝くんも目立ちたいのでは?」
「そうでありますが……これは火焔殿の為に用意したもの……影の薄い人達代表で目立ってきて欲しいであります!」
「ありがとう! その友情に感謝します!」
 2人はしっかりと握手を交わした。
(本当は止められるからなんでありますが……まあ、良いであります)
 そんな思いがあるとは火焔は露知らず、目を輝かせている。
「火焔様……お客様……ですの」
 橙歌に案内され入ってきたのは、秋月 葵(あきづき・あおい)だ。
「話は聞かせてもらったよ! (影の薄い)探偵さんの助手をしてあげるよ……け、決して面白そうだからとかじゃないんだからね」
「良いんですか!?」
「うん! だって、やっぱり助手は必要でしょ?」
「助かります!」
「あ、そうそう、コレ……遅くなっちゃったけど義理チョコ!」
「おおおおおおお! 初めて橙歌くん以外から頂きました……!!」
「そんなに喜んでもらえてよかった」
 こうして、火焔はきらっきらの衣装を身に纏い、葵を助手に薔薇学へと向かう事が決定したのだった。