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リアクション
シャンバラ大荒野。砂塵が風に巻き上げられて、朝焼けの空を濁った飴色に染めている。
パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)とレオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)は、呼びかけに答えて集まってきた仲間たちを前に、西を示した。
そこには、小さな点のように見えるひとつの村があった。
「あれが、その村か?」
金の髪をたてがみのようになびかせて、腕組みをしたヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が問いかけた。
「……そうよ。今も、蛮族が立てこもって……村の資源を食い荒らしている」
いつも冷静なパッフェルの表情にも緊張が浮かんでいる。
「作戦を説明するぜ」
レオンが村を中心に周囲を描いた地図を広げた。
「波羅蜜多実業高等学校の生徒と目される蛮族たちは現在、人質を取って村の中に立てこもっている。そこでまずはやつらを村から引き離す」
「陽動ってやつだね! それならあたし、大得意だよ!」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が勢いよく両手を広げて、飛び上がらんばかりの勢いで宣言する。
「引き離した後は、どうするんですかぁ?」
間延びした口調ながらも、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)の問いは冴えている。レオンはひとつ頷いた。
「村にいる蛮族の数が減ったところで、第二分隊ば潜入。捕らえられている人質を解放するんだ」
「それなら、私も陽動しますぅ。村人さんたちを助けるための助けになりたいんですぅ」
ルーシェリアの宣言に、パッフェルが目を細めた。笑みをこらえている、とでも言うように。
「連中の数、50人はくだらないな。キツくなりそうだ」
レオンの呟きに合わせるように、冷たい風が吹き抜ける。
「蛮族どもを倒した後のことは、考えているのか?」
沈みかけた空気を察したヴァルが、ことさら大きな声を上げた。
「……何か、考えがあるの?」
パッフェルが問い返すと、ヴァルはにやりと笑い、
「まあ、任せておけ!」
自信満々に、威勢良く歩き出した……パッフェルが示した村とは、別の方向に。
「あ、おい、ちょっと!」
あまりの勢いにぽかんと口を開けていたレオンが、数秒かけてヴァルの戦線離脱に気づき、引き留めようとする。
「……何か、考えがあるんでしょう。追う必要は無いわ。……それより」
パッフェルは去っていったヴァルから、共に作戦会議に臨んでいる仲間たちに目を向ける。
「……どうして、助けてくれる気になったの?」
小さな声の、しかし大きな意味を持った問いかけ。
しばしの間を空けて、最初に応えたのは、笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)だ。
「彼らは、あの村を襲って、村人を……それも、小さな女の子にまで手をかけたんでしょ?」
紅鵡は別の場所で休んでいる、少女……その霊魂を思い、わずかに目を伏せた。
「子供を手に駆けるなんて、許せない。これ以上、そんな奴らのせいで被害が拡大するなんて、見過ごせるわけないよ!」
「ああ、それがあの子のためにもなるだろう」
紅鵡の叫びに続け、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が進み出る。
「子供を殺して、平然としていられる奴らを許すわけにはいかない。それに、その女の子をせめて弔ってやらないと……」
「ネモ・アンテ・モルテム・ベアトゥス」
七刀 切(しちとう・きり)が不意に声を上げた。
「『誰しも死の前に幸福を得ることはできない』って意味だ。死ぬってのは、軽いことじゃない。それを、理解してもいない連中が自分のためだけに罪もない人たちを殺すのは許せない」
切は、普段はゆるんだ目元をきっと鋭くしていた。
「難しいこと、考えてる人が多いなあ」
と、その後ろで声を漏らしは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)。
「ねえ、死体を操るやつが居るんでしょ? それって、かなり強いネクロマンサーなんじゃない? そういうやつとなら、けっこう戦い甲斐がありそうじゃない。私は、それだけ」
透乃はどこか好戦的に両手の拳を打ち合わせ、好戦的な笑みを浮かべていた。ついでに、
「私は、村の人を助けるとかに興味はないから。私がそのリーダーと戦ってる間に、みんなで頑張って」
と、付け加えた。
「そういう言い方って……」
「やめとけ。邪魔する気はないって言ってるんだ、せいぜい、救出の役に立ってもらおう」
紅鵡が言いかけるのを、マクスウェルが制する。
「そういうこと」
透乃がにっと笑った。
「ボクは、パッフェルのためだよ」
静かに控えていた桐生 円(きりゅう・まどか)が進み出た。
「パッフェルが女の子のためにネックレスを取り返したいって言うなら、ボクはその願いを叶えてあげたい。……約束は、守ってあげなきゃ、ね」
円は子供っぽい外見に似合わない、儚げな笑みをパッフェルに向ける。
「……そうね。みんな、ありがとう」
平静を装い、パッフェルが答えた。それぞれ、戦いに望むだけの理由があるのだ。それが分かっただけでも、重たい心境が少し、和らいだ気がした。
「……よし。みんな、行こう!」
前方を示すレオン。その姿を見て、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は思わず眉をひそめた。
(熱くなってるみたいね……。サバゲー仲間のために来ては見たけど、この状況じゃ熱くなるのも無理はない、か)
心の中で呟いてから、レオンの横に並ぶ。
「熱くなりすぎると何も感じなくなるわ。戦場ではそれが死に繋がる」
「オレが熱くなってるってのか?」
レオンがきっとセレンフィリティをにらみつける。
「ほら」
が、セレンフィリティは冷静に返した。
「あ……」
「自分を冷やして感覚を研ぎ澄ませなさい。それが生き残る早道よ」
そう告げて、レオンの横を通り過ぎていく。
「……分かった。すまない」
士官候補生は自分が場の空気に飲み込まれていたことに気づき、女兵士の背に向け、言った。
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