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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

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「そんなお遊び感覚でパラ実にちょっかいかけちゃだめ!」
 言いながら要の前に立ち塞がったのはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)のコンビである。
「いい? パラ実ってね、とても恐ろしいところなのよ! 前にここで教導団の人たちが軍事訓練を行ってたことがあってね、フィスはその時に本気で殺されそうになったのよ!」
 早口でまくし立てるシルフィスティの頭にかつての光景が浮かんでくる。
 教導団が「護衛訓練」と称してシャンバラ大荒野を通り抜けようとしたことがあり、その時に教導団は「襲撃者としての参加、歓迎します」と言って回っていたらしく、リカインたちはそれに乗って教導団員に襲撃をかけたことがあった。その際にシルフィスティは、教導団のその行為に怒りを覚えたとあるパラ実生に射殺されそうになったのである。
 当時の状況としては「教導団がパラ実を訓練の道具として利用した」とも取れ、ただでさえ軍隊といった手合いが気に入らないパラ実生としては非常にたまったものではない。シルフィスティはいわば、その「とばっちり」を食ったに過ぎないのだ。それにしてはその報復は苛烈もいいところだったが……。
「結局教導団のやり方に問題があったらしいんだけど、それだけにパラ実っていうのはお遊び気分で関わっちゃいけないのよ!」
「はぁ……」
 気の抜けたような返事を返す要。
 ところでこの場にいる全員が正確に把握していない事実があった。それは「要は実はパラ実生」ということである。制服でないその外見からはわかりにくい上に、本人にもパラ実生としての自覚が無いため――パラミタにやって来て最初に下宿先に選んだのがキマクだったため、その内に自分がパラ実生であると認識するのだろうが――現状では「とりあえず契約者」と見られていたのである。
 要は教導団――現シャンバラ国軍の軍人ではないため、まず立場という点ではパラ実生に憎まれることは無い。その上、以前とは状況が違う。あくまでもパラ実視点だが、前回は「断りも無く、勝手に軍事訓練を行った上に、自分たちを道具か何かと認識した」ものであり、彼らの怒りを買うのはほぼ明白だった。だが今回の場合は「荒野に陣取る自分たちにケンカを売りに来た」ということが、大声で公言されているのである。ある意味では、それはパラ実生に対する「宣言」だった。
 だからこそ、今この時間になっても650人の不良たちからの襲撃が無いのだ。「要の方から行く」ということがわかっているため、連中はあえて「迎えうつ」という形を取っており、まして怒りのボルテージもそれほど上がっているわけではなかった。もちろん要がそういった事情を理解しているわけではないが。
「うん……、確かにパラ実はいわゆる不良のイメージが強いだろうけど、実際にはそう……西部劇とかマフィア映画を地で行くような人も多いのよ」
「ほほう」
 怒りに打ち震えるシルフィスティを適当になだめながら、今度はリカインが諭すように要の前に出る。
「だからね、もちろん私もお遊び気分でちょっかい出すべきじゃないとは思うのよ」
「う〜ん……、ちょっかい出すんじゃなくて、遊びに行くだけなんだけどなぁ」
「いや、だから、それがちょっかいって言うんだけど……」
 二言三言だけの会話だったが、これだけでリカインは要という人物のキャラクターが理解できた。こいつはアホの子だ、間違いない。
「まったく、しょうがないわね……」
 とりあえず正面で立ち塞がっているから動かないのだとしても、このまま会話を続けていてはいつしか要に素通りされて、不良どもの所へ行かれるのは明白である。それどころか、リカインたちの話を要が理解しているとも思えなかった。
「どうしてもここを通りたい?」
 怪力の籠手をはめた両手で、リカインはブルーラインシールドを構える。シルフィスティもそれに合わせてレーザーガトリングを準備する。
「そりゃあ、通らなきゃ不良さんたちに会えないよね」
 相手が戦闘態勢に入ったのがわかると、先ほど光条兵器を取り上げられた要が両の拳を握り締める。
「だからと言っておいそれと通すわけにも行かないのよね。ひとえにあなたのためだからかな」
 だから、ここを通りたければまず自分たちを倒してからにしろ。リカインとシルフィスティの目はそう語っていた。
「要さん」
 それに触発された要が飛び出すよりも早く、和輝が彼女の隣に現れる。
「さっきの修行の続き、彼女たちに手伝ってもらいましょうか」
「へ? どういう意味?」
「彼女たちは見た目からして契約者です。それもかなりの手練。それなら要さんも光条兵器で応戦しても大丈夫でしょう」
「え、あの人たちってそんなに強いの?」
「……多分」
「そっか〜、それならいいよね! アレックス!」
「ま、ああいう手合いなら大丈夫だろうな」
 言いながらアレックスはまた自らの体から巨大剣を取り出す。要は呼び出された剣の柄を握り締め、アレックスの体から一気に引き抜き、構える。和輝もまた出しっぱなしにしていた「数多叶尽世」を構え、リカインとシルフィスティと対峙する。
「いいですか、要さん。重要なのは『何を斬り、何を斬らないようにするか』ということです。光条兵器を使うなら、そこを正確にイメージしてください」
 要の返答を待たずに、和輝は飛び出した。片手を柄に、もう片方を刀身部分にそえ、「数多叶尽世」を横向きにして突撃する。フェイタルリーパーならではの防御術「ブレイドガード」だ。
「ああもう、やっぱりこうなっちゃうのかぁ……」
 突っ込んでくる和輝に向かって、シルフィスティがレーザーガトリングを撃ちまくる。弾丸をカーブさせ、和輝の左右から襲いかからせるが、弾丸のほとんどは剣に弾かれ、いくらかは当たらず素通りしていく。
 もちろんそれで怯むようなリカインとシルフィスティではない。2人はあくまでも要に思いとどまってほしいだけであり、全力で叩きのめす意思など無い。だからこそリカインは武器という武器を持たずに盾だけで戦おうとする。
「私は歌姫だし、フィス姉さんほど強くはないけどそれでも甘くみないで欲しいわね」
「本物のパラ実はこんなものじゃすまないわよ。まだ間に合うんだから、考え直した方が身のためよ!」
 リカインが前に出て和輝と相対する。まずはやって来る者を抑えるのが先だ。そこで後ろからシルフィスティに弾幕援護をやってもらえばいい。
 だがその目論見は少々外れた。突撃してきた和輝が、眼前のリカインを無視して奥へと行ってしまったのである。もちろん彼女は止めようとしたのだが、その動き自体を受け流されたために、和輝の突破を許してしまう結果となった。
「潜り抜けてきたわね。でも、こっちにはまだ攻撃手段があるのよ!」
 言いながらシルフィスティはガトリングの代わりに金剛杵を取り出し、そこから光の刃を生み出して応戦する。
「フィス姉さんの方に1人行っちゃった、ってことはこっちには……?」
 今の男は要と共に動いていたはず。ではその要は今どこにいるのだろうか。
 答えは、目の前だった。
 和輝が走り出すその少し後で要もまた走り出していた。両手には刃渡り3メートル以上ある超巨大剣。それを引きずるような形で提げながら、要は和輝の真後ろを走っていたのである。
 和輝が奥の1人に攻撃を仕掛けるということは、自分のターゲットは手前の盾を構えた女性。要は刀身を90度ずらし、刃ではなく、刀で言うところの鎬の部分――殴打できる部分をリカインに向け、走る勢いを乗せて振りぬいた。
「そぉれスマーッシュ!」
「どわっ!?」
 要から何かしらの攻撃があることは予想していた。戦闘経験も圧倒的にリカインの方が上だった。近づいてきたところを盾による疾風突きを叩き込んでお星様にしてやるつもりだったのだが、和輝が突破したその隙をつかれて光条兵器の剣による「殴打」を受けてしまった。
 とっさに盾を構えたおかげで明確なダメージは発生しなかったが、その代わりに長さ3メートルによる遠心力のパワーを受け、盾ごとぶっ飛ばされる。
 飛ばされた先にいたのは、和輝と戦っていたシルフィスティだった。
「え、ちょ、リカ!? んぎゃ!」
 この結果を要は狙っていたわけではなかったし、和輝の忠告もどちらかといえばあまり聞いていなかった。彼女の頭にあったのは「とりあえずケンカするなら斬るのはまずいだろう」という程度の認識であり、「とりあえずぶっ飛ばす」というアバウトもいいところの行動案だけだった。
 光条兵器の特性の1つに「攻撃する対象を選べる」というものがある。具体的には、例えば剣型の武器ならば「斬るものと斬らないものを個別にセレクトして攻撃できる」のだ。その選択は「人は斬らない」という風な漠然としたもの、対象が多すぎるものは不可能だが「特定の人物は斬らない、あるいはそれだけ斬る」という「細かい指定」であれば可能である。
 要はそこで「リカインが持っている盾のみを攻撃する」と指定した。盾は彼女の手に握られているため、盾をぶっ飛ばせば、それを持っているリカインも自然とぶっ飛ばせるというわけだ。ここで剣なのに斬らずに殴打するというのは、本来ならばできない、あるいは非常に難しいことなのだが、この場における「コメディの権化」たる要にはできてしまうのだ。
 そのような大雑把なのか細かいのかよくわからない理屈の元、リカインとシルフィスティは仲良くその場で倒されてしまった。
「はい私の勝ち〜。というわけで通らせてもらうね」
 再びアレックスに剣を返し、要は意気揚々とその場から立ち去ろうとする。もちろんその場にいた全員がそれぞれの思惑の元に要についていく。
「へ〜、要ちゃんって大剣使いなんだー」
 道すがらアレックスと話し込むのは氷雨である。
「やっぱりアレックスさんも大剣使いだったりするの?」
「いや、実はそうでもねえんだわこれが」
「ふぇ? じゃなんで光条兵器があんなでっかい剣なの?」
「……なんでだったかな」
 要が操る光条兵器が巨大剣ということは、アレックスも同じ物を操ると考えるのが自然であるが、アレックス自身は別に大剣使いというわけではない。所持していた光条兵器がたまたまそれだったというだけなのだ。
 アレックスは要のように「モノが大きければその分威力も増すに違いない」といったパワー主義者ではなく、むしろ「大きすぎて細かい作業ができない」と使いたがらない方である。そのため光条兵器を持つことはあっても、それを使いこなす技量は全く無かった。それどころか彼は粗暴な口ぶりの割に、実は平和主義者・事なかれ主義者であり、表立って戦闘すること自体稀なのだ。
「ふーん、そうなんだー」
「そうなんだよな実は」
「……ところでさ、実はボクも一時期大剣を使ってたことがあったんだよー」
「ほう、その体でか」
「でも今は使い慣れた武器に戻ったけどね」
 氷雨が使い慣れている武器は銃である。氷雨はヘクススリンガーなのだ。
「あ、でも、喧嘩するならやっぱり素手の方がいいのかな?」
「ん、まあ、相手を殺すつもりなら銃だろうが、単なるケンカで終わらせるつもりなら素手の方がいいだろうな」
 ちょうど、要も素手で戦うことに決めたらしいしな。氷雨を相手にアレックスは苦笑する。

 さてそのような会話を交わしていると、横合いからバイクの駆動音が聞こえてきた。パラ実特有のスパイクバイクのものではなく、どちらかといえば荒野を走るのには適さないオンロード用のバイクのように聞こえる。
「ん? 誰か来るの?」
 要たちが音のする方に目を向けると、砂埃を撒き散らしながら1台の軍用バイクがやって来るのが見えた。
 そのバイクは要たちの存在に気がつくと、少しずつスピードを落とし、やがて要の近くで停止した。
「こんにちは、要……ちゃん?」
 バイクに乗ったまま要に話しかけるその人物は七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だった。名前を呼ぶのに躊躇したのは、近くに立つこの人間が男なのか女なのかわかりにくかったからである。
「はい、要ちゃんです、こんにちは」
「あたしは七瀬歩。よろしくね」
 この荒野という空気に似つかわしくない少女は、周囲の雰囲気をよそに要と暢気な会話を交わす。
「ケンカごっこかぁ。偉い人と1対1ならともかく、部下を傷つけちゃうと友情結ぶのは難しそうな気がするけどなぁ」
 ゆるゆると歩は言うが、別に要は本日のターゲットである「硬派番長」と友情を結ぶためにここにいるのではない。あくまでも「ケンカして遊びたいだけ」である。
 だがそんな要の心の内はともかくとして、歩は続けて言う。
「もし本当に仲良くしたいっていうなら、ちゃんとお話ししなきゃダメだと思うよ。それに自分以外の人が巻き込まれたらきっと許せなくなると思うし」
「う〜ん、別に仲良くしたいからケンカしに行くわけじゃないんだけど……」
 とはいえ、その忠告の内容は正しい。全力でケンカすることによって生まれる友情というのもあるにはあるのだろうが、やはり基本的な友情の築き方とは「対話」にこそある。もちろん拳を使ったものではない。
「あ、そういえばここでのんびりしてられないんだった」
「ん? 何か用事でもあるの?」
「うん、ちょっと硬派番長さんに会いにいくの。じゃ〜ね〜」
 言いながら歩はバイクのエンジンをかけ、その場から走り去っていってしまった。
「行っちゃった……」
 残された形となった要たちは、その歩の姿を呆然と見送るしかできなかった。
 だがここで要がふと気づく。今、歩は誰に会いに行くと言ったのか。
「硬派番長さんって……、もしかして探してる不良さんのこと?」
 そう、歩は「硬派番長」に会いに行くと言ったのだ。
 つまり今バイクで走っていった方向に行けば、自然と目的の人物に会えるということだ!
「おいおい、あのお嬢さん、天然で俺たちを先導してるぜ。つーか、本当にそんな不良がいて、しかもパラ実の番長だと……? 『硬派な不良がいる』って噂は本当だったってのかよ……」
「よ〜し、あのバイク目指してしゅっぱ〜つ!」
 勢いよく拳を振り上げたかと思うと、次の瞬間には要は全力疾走していた。いくらパワー主義者とはいえ軍用のバイクに追いつけるような速さを出すことはできないが、それでもその場にいる全員を置いてきぼりにするには十分な速さだった。
「って、おい要! 俺たちを置いて勝手に動くな、こら!」
 もちろんその状況に甘んじるわけではなく、その場にいた全員は要を追って失踪する破目になった……。