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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

リアクション

     ◆

 ツァンダ郊外にある、それは大きな公園の敷地内、公園の中央に位置する犬の銅像『ポチ公』の前に、彼や彼女、彼等、彼女等の姿があった。
 随分とやる気に満ち溢れた青年が一人、周囲からの視線をものともせずに満面の笑顔を浮かべている。
「いやぁ!まさかこんなに人が集まるとはねぇ!いや、こりゃあ参ったよ!」
 この集団が成り立つきっかけにして、これから彼等が巻き込まれる物語の首謀者であるウォウルは、何とも愉快そうに、しかし誰にともなくそう言った。
「ねぇ……ねぇ、ちょっと真人!」
「なんです?」
 不運にも彼のすぐ近くにいたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は、すぐそばで奇怪な動きを見せるウォウルを訝しげに見ながら、隣で周囲をうかがっていた御凪 真人(みなぎ・まこと)を呼ぶ。
決してウォウルには聞こえない様、声を絞りながら。
「確かに“面白そう”とは言ったわよ? 言ったけど、何であんなキモい先輩がいるって前もって言っておかないのよ!」
「いや、あんな感じでも一応は上級生ですし、先輩です。 何かしら学ぶべきところはあるかもしれない、と思いましてね」
 はやり当人には聞こえない程度の声で返事を返す真人。二人が改めてウォウルに目をやると、今度は少し含みのある笑顔で二人を見つめているウォウル。
「ぎゃ! 目が合っちゃったじゃん!」
「聞こえてた……んですかね……?」
「――恐らくは、聞こえてますよ」
 二人が小声でリアクションを取っていると、今度は横から声が割り込んできた為に、慌てて身を引く。 そこにはウォウルのパートナーであるラナロックが、何とも眠そうに立っていた。 誰がどう見ても気怠そうなそれは、決して彼女のニュートラルではない。
「あ……あなたは?」
 恐る恐る真人が尋ねる。自分の肩の高さまでもない、小さな小さな隣の彼女に。
「あぁ、私?彼のパートナーのラナロックですわ。ラナロック・ランドロック。以後お見知りおきを」
 作り物とすぐにわかる笑顔を語尾の時だけ浮かべ、真人とセルファに向けて言った。
「ラナ。随分遅かったねぇ」
「私、朝が苦手なのをご存知でしょう?ウォウルさん」
 流れ作業とも取れる会話を交わした二人を、集まっていた一同がただただ黙って見つめていた。が、その静寂もほんの一瞬のもので、辺りは再び耳打ち、内緒話が飛び交う。
「えっと……僕があの人を見たことないって事は……」
「間違いなく先輩、って事になりますよね」
「わたくし、あの方を見ててっきり“わたくしより少しお姉さん”くらいかと思いましたよ」
「とてもではないが、大学生には見えないな」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)神和 瀬織(かんなぎ・せお)ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)たちもやはり、小さな声でそう囁き合っている。すると隣から、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が四人に近付いてきて、綺人たちに近付いてきて話しかけた。
「遠目で見ると、確かに見えないですよね。彼女。ただすごく大人びている人の様です
よ? 僕もそれほど面識があるわけではないんですけど」
 言い終った彼は、四人ともどもラナロックの方へ視線を向ける。すると彼女の横には、エオリアパートナーであるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の姿があった。彼は一輪の花を手に、ラナへ笑顔を向けている。
「おはよう、ランドロックさん。ご機嫌は如何だい?」
「ええ、おはようございます。エースさん。“非常に最悪”ですわ」
「そ……そうかい」
 笑顔とは正反対の言葉を聞いたエースは、思わず苦笑を浮かべてそう返した。
「結構怖い人だ、って事は、わかったね」
 綺人が苦笑しながらそうまとめると、様子を見ていた四人も苦笑を浮かべ、ただただ頷いただけだ。
 彼等から少し離れたところにいる清泉 北都(いずみ・ほくと)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)朱宮 満夜(あけみや・まよ)ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は、専ら噂話の事を話し合っている。話題として、特に誰かに聞かれるとまずい話ではないので、普通に会話をしていた。
「結局、あの噂話って本当なんですかねぇ」
 北都は両腕を組み、考え込むようにそう切り出した。
「噂は噂。もしあったらラッキーってくらいじゃないでしょうかね」
 北都の言葉に対し、満夜は笑顔で言いながら隣にいるミハエルへと向いた。
「……何にせよ、己の修行と思えばそれでいいと思うのだが?」
「真面目、ですねぇ」
 ミハエルの言葉に関心し、相槌を打った北都の横から、少しいたずらっぽくリオンが呟く。
「北都も、少し彼の姿勢を見習ってみては?」
笑顔を浮かべている辺り、恐らく本気ではないのだろう。
「えぇ……僕は――いいやぁ」
 北都もリオンの言葉の意図を知っているからこそ、特に何を思うでもなくそう言葉を返した。
「本当に仲が良いですよね、北都君たち」
「ええ」
「まぁねぇ」
 満夜の言葉に対し、リオンと北都は順に答える。
 彼らがそうこうしていると、遠くの方から声が聞こえた。
「おーい! みんなぁ!」
 それぞれ、話を中断して声の聞こえる方向へと顔を向ける。声の主は、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。美羽の横には、彼女のパートナーであるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の姿もあった。ベアトリーチェが話している相手は朝野 未沙(あさの・みさ)。互いに笑顔で話していたが、美羽の言葉で一同一同に気付き、二人も遅れて手を振った。
「みなさん、お待たせいたしました。って美羽さん、元気なのはわかりますけど、そんなに飛び跳ねていたら、スカート捲れちゃいますよ?気を付けないと」
 一同の近くまでやってきた三人、ベアトリーチェはそんな事を美羽に言いながら苦笑している。
「そうだよ、美羽ちゃん。気をつけないとね? 特に……あの先輩の前だったらなおの事」
 ベアトリーチェの言葉に続いて美羽へと忠告をする未沙はしかし、“得に……”の後を強調しながら、やや睨むような目つきでウォウルに目をやった。
「おやおや、困ったねぇ……可愛い後輩ちゃんに随分嫌われちゃってるみたいだ。僕、何か君にしたかい?」
 おどけながら彼が未沙へと尋ねるが、彼女は『ぷいっ』とばかりに頬を膨らませて顔を背けた。
美羽とベアトリーチェは不思議そうな顔をしながら未沙とウォウルを交互に見るが、「まぁいいや」、「ですね」と言うと、改めて一同に挨拶する。
「皆、お待たせさんだね!遅れてごめんね、ベアちゃんが寝坊しちゃってさっ」
「え、違っ!美羽さんが寝坊したんですよね!?」
「まぁまぁ、細かい事は気にしないっ!おかげでミーさんともお話ししながら来れたんだしさ」
「そのさ、ミーさんって、やめようよ……」
「いいじゃないですか、『ミーさん』。可愛らしい響きで。私、好きですよ?」
 一同は美羽とベアトリーチェ、未沙のやり取りを笑顔で見ていた。
「相変わらず元気だよね、美羽ちゃんは」
 綺人がそういうと、一同頷く。と、そこで、一区切りを置くかのように、今来た未沙が何かに気付いた。