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リアクション
こうして、忍者達を撃退してしまうと、一同は古寺の一室に十兵衛を寝かせた。毒が全身に回って意識を失った十兵衛の体からルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)がレティ・インジェクターで解毒をする。
「十兵衛殿は、まだ、めざめませんか?」
尋ねる竜胆に向かってルーシェリアは首を振った。
「まだですぅ。よっぽど強い毒にやられたですぅ」
「そうですか……」
竜胆はがっくりと肩を落とした。
それから竜胆は、庭に出て一人で木刀を振り始めた。
「ご修行ですか?」
蒼がやって来る。
「ええ。強くなりたくて」
竜胆は素振りを続けながら答えた。
「熱心なのはいいですけれど、こんなところで一人でいるのは危険ですよ。また、いつ敵が襲ってくるかもしれませんし……」
「分かっています。しかし、十兵衛殿の事を思うと落ちつかなくて。あの人があんな風になってしまったのは私のせいだし。それに、蒼さんの事も危険な目にあわせてしまいました」
「私なら、気にしてません。何度でも身代わりになりますよ」
「そうですね。できればもう一度変装した方がいいかもしれない」
エメがクッキーとマドレーヌを持ってやってきて言う。
その後ろには水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)と天津 麻羅(あまつ・まら)がいた。
どうやら、お菓子の匂いにつられてやって来たようだ。
「ちょうどみんなで月を見ながらクッキーとマドレーヌを食べようと思って焼いたんです。竜胆さんもいかがですか?」
焼きたてのいい匂いがする。竜胆は思わずつばを飲み込んだ。竜胆がうなずくと、一同は庭石を囲んで砂の上に腰掛けた。天空に美しい月が輝いている。
「やはり、もう一度変装をした方が安全ですよ」
エメが紅茶をつぎながら言った。
「大賛成♪」
緋雨が右手を上げて言う。
「私、ワンピースとか色々と可愛い服を用意したから着てみて♪」
しかし、竜胆は首を振った。
「いいえ。もう変装はいたしません。二度と、皆様をあんな危険な目に合わせたくありませんから」
「僕なら大丈夫ですってば」
蒼は笑う。しかし、その笑顔の陰にどれだけの覚悟が秘められている事か……。そして、それが分かるからこそ、竜胆は頑として首を振った。
「いいえ。私も一人の男として、男らしく生きる事を決めたからには、強くあらねばならないと思うのです」
「男らしくかあ……」
緋雨がきわめて残念そうな顔をした。そして、しばらく考えた後言った。
「私ね、竜胆さんに直接会って聞きたい事があったの」
「なんでしょう?」
「……竜胆さんは今まで女として生きてきた自分の人生を全て否定して、男として生きて行きたいの?」
「ええ。私は男らしくなりたい。自分が男だと知らされてから、ずっと男になりたい……というよりも『なるべきだ』と思ってきました」
「でも、外見とか振る舞いとかが男っぽくても、それが男性とは限らないわ! そういう外見、振る舞いが出来る女性も世の中にはいるんだもの。」
「え?」
「そう、いくら外側だけ男性のように見えても、中身が伴わなければ意味がないわ。もし竜胆さんが本当に男なら、外側なんて気にしなくても今の可愛い外見でも十分だと思うわ」
「……確かに、一理ありますが……」
「でしょ? だ〜か〜ら〜ね? 今折角物凄く可愛いんだからね、それを全部否定したらダメよ?」
そして、緋雨は竜胆の髪をいじり始めた。
「わー、綺麗な髪ね、こう長いと服装に合わせて色々と弄りたくなるわ〜♪ ポニーテールとかツインテールとか、ハーフアップにしたりツーサイドアップ、黒髪だからおさげもいいわね。あとは三つ編みにしたり編み込んだり、シニヨンもいいわ〜♪ うう…切り揃えて姫カットにしたいわ…でも勝手に切っちゃダメよね。」
「は……はあ……」
竜胆はされるがままになっている。
「うん? 大丈夫大丈夫、芯に強い男なら可愛くったって、女なら惚れちゃうんだから♪ そう、竜胆さんが可愛いだけじゃなく頼り甲斐があるんなら、お姉さん惚れちゃうんだから(あは)」
「緋雨め…もっともらしい事ゆうたと思えば、結局は可愛い娘を弄りたかっただけなんじゃな」
緋雨パートナーの麻羅があきれ顔で言う。
「ち……違うわよ」
緋雨は思い切り否定した。
「ごまかさなくともよい。じゃが緋雨のゆうことにも一理ある」
そして、麻羅は竜胆に向き直って言った。
「今までの人生、女として振舞ってきたんじゃから、一朝一夕では無理じゃろう。男としての振る舞いを求めるのなら、今までの歳月以上を掛けねばな。ただそれで男としての振る舞いを覚えたとしても、真に男かと問えば、そうとは限らん。真に心が強いものが男らしく、それは意識せずとも自然と滲み出てくるものじゃ。竜胆、おぬしにその本質が備わっていれば、そのようななりでもおぬしは男じゃとゆえる。後は心構えの問題じゃ…あえて聞こう、おぬしは何故男になりたい? この問いに答えれるなら自ずと見えてくるじゃろう」
「なぜ男に?」
竜胆は考えてみた。生まれつき男だから……男なら男らしく生きるのが普通だから……?
違う。
竜胆は首を振った。
どうしてかは分からないが、それらの理由が違うという事だけは分かる。そんな竜胆を見てエメが笑った。
「男らしさ……と仰いますが。先ほどお出ししたお菓子、私が作ったのですがお菓子作りなど女みたいだと思われますか? でも、菓子職人や料理人は男性が多かったりしますよ。竜胆様も今の自分では女っぽく思うのかもしれませんが、急な付け焼刃では返って不自然になります。心配なさらずともそのままで大丈夫ですよ」
「そうでしょうか?」
「ええ。それよりも跡目を継いだ場合、葦原藩親衛隊隊長として有事の折には兵を動かすとか、貴方はどうなさりたいのかよく考えてくださいね」
その時、ルーシェリアの声がした。
「十兵衛さんがお目覚めざめになられたですぅ」
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