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とりかえばや男の娘

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とりかえばや男の娘

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 里見村を出てから7日。ようやく、山道を終え目の前に葦原の城下町が見えてくる。明日には目的地に着けるだろうというその夜、一行はとある荒れ寺で眠る事にした。
 門の手前では、十兵衛が油断無く辺りを見張っている。その横顔には一部の隙もない。
 ……巌みたいなお人……。
 竜胆は十兵衛を見ながら思った。
 ……どうして、あんなに頑に主家の事だけ思って生きられるのでしょう?
 その気持ちだけは、いまだに竜胆には理解できない。
 その十兵衛の側には、テンサ・トランブル(てんさ・とらんぶる)が座っていて何か十兵衛に話しているようだ。しかし、テンサはぼそぼそと話すので、竜胆の元まではその内容は聞こえない……。
「僕が敵で……仮にここに奇襲をかけるとしたら……あの辺りが効果的……なんじゃないかと思う……僕なら、あそこから攻める……んじゃないかな?」
 テンサはトラッパーの知識を生かし、十兵衛に色々提案をしていた。
「なるほど。わしが道元だとしてもそこから狙うだろうな。しかし、敵は我々の予想を超えているかもしれない……」
「……超えている……ですか?」
「何しろ相手は邪鬼だ。既に、我らの中に忍び入っていても不思議ではない」
 十兵衛の言葉を聞くと、テンサはやみくもに立ち上がった。そして、ウロウロとあちこちを見たり触ったりしている。そして、なにやら一人でニヤニヤする。
 何をしているのかと竜胆が不審に思って見ていると、づかづかと竜胆に近寄って来て、いきなり股間を叩いた。

「……!!!!!!」
 竜胆が声にならない声を上げる。
 そこへ、千石 皐月(せんごく・さつき)がやって来て、ニコニコしながらテンサの頭をしばいた。
「……いてえ」
 テンサが涙目で振り返る。
「何をなさってるんでございますか?」
「いや……竜胆が本当に男か確認を……」
「だったら、他にもっとマシな確認の仕方がございますでしょう。万一女性だったらどうするおつもりだったのですか? セクハラでございますわよ。セクハラ」
「あぁ! そこまでは考えてなかった」
 どうやら、テンサに悪気はないようだ。

 その時、寺の門が開いてルカルカが駆け込んで来た。
「ルカルカさん?」
 皆の注目する中、ルカルカが言った。
「気をつけて! 鬼が来るよ!」

 その言葉で一同に緊張が走る。
 しかし、警戒する間もなくどこからか声が聞こえてきた。

「もう、遅いわ」
 
 それは、伽藍の上から響いて来た。見上げると、瓦の上に怪しい青年が立っている。ルカルカの見た黒髪の男だ。リカイン達が叫ぶ。
「あいつ、あの時の……!」
 そう、それは大蛇を操っていた男でもあった。
 男は笑いながら手をあげると、何者かに向かって合図をした。

 ヒュ!
 闇の中から何かが襲いかかって来た。
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)はその気配を察知し、とっさにスマッシュアンカーで刀を受ける。
 キーン!
 音がして、火花が散った。
 構えたアンカー越しに見ると、妖気を漂わせたマホロバ人が刀を持って立っている。
「すごい妖気ですわ」
 スマッシュアンカーを抱えたままセシルがつぶやくと、再びそのマホロバ人は刀を構えて襲いかかって来た!

 キーン!

 再び激しく火花が散り、再びセシルはスマッシュアンカーで刀を受けた。男は刀を構え直すと、再び刃をふるって襲ってくる。

 キーン! キーン! キーン!

 激しい攻防が繰り返される。
 そこに、両手に刀を構えた幸田 恋(こうだ・れん)が入って来た。彼女は、左手の剣で敵の攻撃を受け流し、右手の刀で敵の胴を払った。マホロバ人の腹からどす黒い血があふれてくる。さらに、その腕を恋が一閃! 敵の二の腕からも血があふれ、その痛みについに男は刀を取り落とした。
 その、のど元に刃を突きつけ
「ここまでですか?」
 と、恋は言う。
「手応えがなさすぎです」 
 すると、マホロバ人は歯を剥き出して唸りはじめた。そして、その額からは角が突き出し、腕が、その胸がみるみるふくれあがって行く。
「な……こいつ……」
 唖然として見ているセシルと恋の前で、マホロバ人は見る見るうちに鬼へと姿を変えた。
「行け! 我が愛しいしもべたち……」
 伽藍の上で黒髪の男が叫ぶ。
「そんな……鬼になるなんて……」
 青ざめる竜胆。
 しかし、
「ふふ……」
 なぜか、セシルが不敵な笑みを浮かべた。
「うふ……うふふふふふ……鬼に覚醒するのはあなた方だけじゃないですわ」
「何?」
 いぶかしげに見る男の前で、セシルはスキル『鬼神力』を展開。体がムクムクと大きくなって行く。同じく恋も『鬼神力』で鬼に……
 そして、セシルは真っ正面から鬼に立ち向かって行った。拳を振り上げ、鬼の腹にパンチを入れる。しかし、鬼にはさしたるダメージにもならず、セシルに向かって拳を向けて来た。それより一瞬早く恋が鬼の足に蹴りを入れる。
 隙を疲れて鬼が転倒。
「今です! セシル! 私を持ち上げて下さい!」
「恋さん! OKですわ!」
 うなずくと、セシルは恋をスマッシュアンカーの上に乗せて、ものすごい力で空高く打ち上げた。恋はアンカーの上で跳躍。空高く飛び上がると、二本の刀を両腕に構えたまま落下。面打ちで、鬼の腹を突く。それと、ほぼ同時にセシルはアンカーを振り回し、鬼のみぞおちへ向かって全力で叩き付けた。
「くわああああああ」
 恐ろしい断末魔とともに、鬼が絶命する。

「竜胆! ここは危ないわ! 逃げましょう」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が竜胆の手を引いて逃げて行く。その後をセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が追いかけて行った。そして、三人は本堂の裏に隠れた。
「ここまで、来れば安心よ」
 そう言って、セレンフィリティは竜胆を振り返った。
「ね」
 しかし、なぜか竜胆は赤くなっている。なぜなら、セレンフィリティの格好があまりにも刺激的だったからだ。
 そんな竜胆の反応を見て、セレンフィリティはほくそえんだ。
「ふふっ、綺麗なおねーさんのナイスバディを見て赤面するなんて、竜胆もしっかりと男じゃない☆」
「みっともないからやめさない!」
 パートナーのセレアナが耳打ちする。
「なによ! その格好じゃ全然説得力ないわよ」
 セレアナもセレンに負けず劣らずかなり刺激的な格好をしているのだ。
「な……」
 鋭い突っ込みに、セレアナの顔が真っ赤になる。
「でも、私は初心な子をからかったりしないから」
「だーめ、その格好してる時点で失格! ねえ、竜胆ちゃん」
「ははは……お二人とも、とても素敵すぎて困ります……」
 竜胆は困ったように笑った。

「あーあ、竜胆さん。せっかく可憐だったのに……今のあの格好。もったいないわ」
 ヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)が男性用国軍軍服姿の竜胆を見てつぶやく。
「あとで、是非お着替えさせなきゃ」
「ヴィー、竜胆は男らしくなりたいと思ってるんだから、あまり容姿をいじっちゃダメだよ」
 縁側の上で白菊 珂慧(しらぎく・かけい)が答えた。
 この二人、別にここに隠れていたわけではない。単に集団行動が苦手なだけ……なこともあるが、あまり固まりすぎるのもどうかと思って、あえて人のいない本堂裏を警戒しているのである。
「まあ、あの二人が竜胆を連れて逃げてくるぐらいだから、ここは無事、だよね……」
 珂慧がそうつぶやいた時……

『どこへ逃げても無駄』

 どこからか声がした。

「誰だよ?」
 珂慧はダークビジョンで暗闇に目を凝らした。誰の姿も見えない。しかし……

『ふっふっふ。おるわ、おるわ、一人、二人、三人、四人……』

「誰だよって!」
 さらに、スキル超感覚を展開。珂慧の頭に猫耳が生えてきて的の気配を察知。
「本堂の中だ!」
 珂慧の言葉にヴィーはうなずくと、あらかじめ皆に約束しておいた通り、手持ちの打ち上げ花火を上げた。皆に危険を知らせるためだ。

 花火が上がると同時に本堂を破壊し鬼が現れる。

 ドォオオオオオ……ン!

 鬼はセレンと竜胆の方を見ると、その足元の地面を拳で叩き付けた。恐ろしい地響きとともに地面が割ける。


「この鬼め……!」
 珂慧は曙光銃エルドリッジを構えて光の弾丸をぶっ放した!

 ダダダダダダダ……

 光の弾丸が当たり、鬼の体のあちこちから血が噴き出してくる。

「グァアアアアア……」

 鬼は猛り狂って珂慧に襲いかかって来た。大きな腕を振り回し、珂慧を捉えて握りつぶそうとする。珂慧は超感覚を働かせながら、歴戦の立ち回りと銃舞で鬼の手を華麗にかわして行く。

「今のうちに、竜胆さんをこちらへ」
 鬼が珂慧に気をとられている隙をついてヴィアスが言う。セレンはうなずき、竜胆をヴィアスにまかせた。ヴィアスは竜胆を連れ、縁の下へと潜り込む。
 それを見届けて、セレンとセレアナは立ち上がった。そして互いに女王の加護で守りを固め、さらにセレアナのディフェンスシフトで味方全員の防御力を上げる。
 それが終わると、セレアナが鬼の目の前に出てちょこまかと動き始めた。珂慧を捉えようとしていた鬼は、新たな獲物も捕らえようと腕を振り回す。鬼が二人に夢中になっている間。セレンは鬼の背後に回り鬼の身体に[破壊工作]を用いて爆弾を仕掛け、少し離れたところからそれを爆発させた。

 ドーン!

 と、音がして、鬼のスネの辺りが燃えだす。
 怒り狂った鬼が後ろを振り向いた。
 セレンはちょこまかちょこまか動き回リながら、レーザー銃で鬼を狙う。その間、レーザーの出力を絞って、相手に痛みを感じさせる程度の細かい攻撃をヒット・アンド・アウェイで実施。レーザーのエネルギーチャージが必要になると、セレアナが前に出て鬼の目の前を動き回る。
 まるで、蚊かハエの様にうざい奴らだ……と、鬼は思ったのかどうか分からないが、益々理性を失って、むちゃくちゃにセレン達を追いかけ回した。
 そのうちに、さすがの鬼も疲労の色が見えてくる。そこを狙ってセレンが[クロスファイア]を展開。十字砲火が鬼に襲いかかる。鬼は炎に包まれ悲鳴を上げた。さらに、セレアナがランスを手に【チェインスマイト】で続けざまに鬼を攻撃。【ランスバレスト】でランスを鬼の体に貫通させる。そして、セレンの【とどめの一撃】!
狙いすました必殺の射撃を、何度も連続で浴びせかけた。
 そして、ついに鬼は、真っ赤に燃えながらその場に倒れてしまう。