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リアクション
第11章 発動
「わははははは! 南が解放されたときはドキッとしたが、結局力尽きたようだ。やはり今回は俺の勝ちだ!! やっほー!!」
国頭武尊(くにがみ・たける)は、最大のライバルが倒れたせいか、上機嫌になっていった。
「展示」されていた強化人間たちの封印が解け、黒の十人衆に襲いかかっている会場内は混乱のるつぼだったが、国頭はパニックに陥ることもなく、確固とした足取りで、自分の目的に向かっていった。
混乱の中で、国頭を警戒する者はいなくなっている。
いまがチャンスなのだ!!
設楽カノンのパンツをゲットする。
その野望のためだけに、国頭はここにきたのだ。
しかし。
そんな国頭の前に、立ちはだかる人影があった。
「うん? 黒の十人衆か? 確かストーカーとか?」
黒の十人衆の一人、ストーカー・ジェラルドの登場に、国頭は戦慄せざるをえなかった。
「俺に何の用だ? もし俺の目的の邪魔をするなら、情け容赦なくお前を倒す!!」
国頭は、戦闘態勢に入った。
「ふ。これが、パラミタパンツ四天王の一人、【パンツ力の狂戦士】か」
ストーカーは、国頭をしげしげと眺めてから、ほくそ笑んだ。
「な、何がおかしい!!」
国頭は激昂した。
「そう怒るな。【パンツ愛の電動者】も、お前も、そして俺も、きたるべきときに、パンツァー神の命のもと、共闘することになるのだからな」
ストーカーの言葉に、国頭は驚愕した。
「な、何だって!? ではお前は?」
「いかにも。黒の十人衆の一人であると同時に、パラミタパンツ四天王の一人、【パンツ狩りの追跡者】とは俺のことだ」
ストーカーは、ニヤッと笑ってみせた。
「ま、まさかお前が!! 残り一人の四天王は、誰なんだ?」
「それは俺も知らない。いずれ、ときがくれば明らかになるだろう。もしかしたら、いまだ空席の可能性もある、な」
ストーカーは、自分に言い聞かせるようにいって、うなずいた。
「なるほど。で、今日は、俺に、挨拶をしたいだけなのか? それとも?」
国頭は、拳を構えた。
「もちろん、俺も、寺院の戦士としての目的とは別に、カノンのパンツを奪いたいと思っている。そして、そのもうひとつの目的において、お前は邪魔なんだ!!」
ストーカーは、サイコキネシスを国頭に放った。
「やはりそうか。だが、戦闘能力の高い低いは関係ない。大切なのは、スピードだ! パンツは、早い者勝ちなのだ! 競争といこうか!!」
国頭は、ストーカーのサイコキネシスを振りきるかのように、猛烈なダッシュで駆け出し始めた。
「速い! アクセルギアを使っているのか? 生命を削るとは、覚悟は十分というわけか。面白い!!」
ストーカーもまた、国頭を追って、駆け始めた。
サイコキネシスを利用しているせいか、こちらも速い。
国頭とストーカー。
2人の変態は、ひとつの的を目指して、乱闘の繰り広げられる会場内をひた走った。
「はあはあ。南がリタイアしたと思ったら、より強力なライバルが現れるとは! ひと筋縄ではいかない相手とみた。いままでのやり方ではダメだ。どうすればいい? 俺の中の眠れるパンツ力よ、いまこそ、覚醒せよ!!」
高速移動する国頭の目がギラギラと光り、全身がオーラの光に包まれる。
「目標、発見。設楽カノン!!」
行く手に、ナタを持ったカノンの姿を確かに発見した国頭が、胸が躍る想いだった。
「いくぞ! 新必殺技!! スーパー・パンツ・アターック!!」
絶叫し、光の塊となって突進する国頭。
その姿が、ミラージュによって、いくつにもわかれて、多数の分身をかたちづくる。
本体と分身は複雑微妙な動きをみせながら、それぞれが真空波を放った。
「はあっ!!」
目標のスカートがまくれあがり、露になった聖なるパンツに、国頭の放つ真空波が襲いかかる。
パンツの紐が、真空波によって切断され、生地が浮き上がった。
「ヒャッハー!! こっちに来い!!」
国頭は、サイコキネシスでパンツを引き寄せ、見事にゲットした。
全ては、一瞬の出来事だった。
「はあはあ。体力をすり減らしたぜ!!」
アクセルギアの効果が切れ、もとに戻った時間の流れの中で、国頭は疲労と、充実感とにうち震えていた。
「カノン! このとおり、パンツはゲットしたぜ。悪く思うなよ!!」
国頭は、目の前の女子生徒に呼びかける。
「ひゃはあっ! ここはどこ、なのだ? そして、何なのだ、お前はー!!」
その女子生徒は、国頭の姿をみて、目を丸くしていた。
「えっ、何? どういうこと?」
国頭は、カノンではない全くの別人が目の前にいることに気づき、死ぬほどびっくりした。
「きゃ、きゃああ!! キミ、あろうことか、黎明華のおパンツを盗みおったなー!!」
屋良黎明華(やら・れめか)は、国頭が手にしているパンツをみて、自分のスカートをおさえ、屈辱に顔を真っ赤にして、怒鳴りつけた。
「あっ、そうか。ストーカーの奴が、一瞬の判断で、会場内の別の場所にいたこの子を、サイコキネシスを使って俺の眼前に移動させ、わりこませてきたんだ!! まんまと妨害されちまったぜ!! すると、カノンは!!」
国頭は、屋良の向こう、少し離れたところに、カノンがいることを確認した。
「カノーン!!」
駆けようとする国頭の体力は、既に尽きかけていた。
その国頭の肩を、屋良がつかんだ。
「ひゃはあっ! キミ、逃げようとしたって、そうはさせないのだー! 黎明華のおパンツを見たキミには、相応の罰が相応しいのだーー!!」
ばしっ、ばしっ!!
屋良の往復ビンタが、国頭を襲った。
「ぐ、ぐわあ!! 痛い!! つ、強いぞ、この子は!! しかも本気で怒っている!!」
国頭は、鼻血を吹いてうめいた。
「この程度ですむと思うな!! 黎明華は、KAORIともお話して、超能力のスキルをかなりアップさせたのだー!! そして、この怒り!! 覚醒するしかないのだー!!」
屋良の目がギラギラと光り、全身がオーラの光に包まれた。
「はあああ!! 急所、発見なのだー!!」
屋良は、国頭の股間の急所を、正確に察知した。
その瞬間、屋良の右足が、真っ白に光り輝いた。
「えっ、まさか?」
国頭の顔が青くなった。
「必殺、ひゃっはあーガール・シューティング!! なのだー!!」
屋良の超高速の蹴りが、国頭の急所に炸裂した。
「お、おわああああああ!! き、君のパンツ、でも、素晴らしかった、よ……」
気も狂わんばかりの激痛に呻き、国頭は、泡を吹いて倒れた。
「黎明華を怒らせた奴は、みなこうなるのだー!! ひゃはあー!!」
屋良は、勝利の雄叫びをあげた。
「ハッハッハ! 技は素晴らしかったが、もっとよく注意すべきだったな。まあ、今回は俺の勝ちだな!!」
ストーカー・ジェラルドは、倒れた国頭には目もくれず、カノンに向かってまっしぐらに突き進んだ。
「あれ? あなたは? 黒の十人衆、ですよね? やらしくて、許せなかった奴ですね!!」
カノンは、ストーカーの接近に気づくと、ナタを構えて、斬りつけにかかった。
スパッ!!
カノンのナタが、ストーカーの額を割り、血をしぶかせる。
「肉を斬らせてー、骨を断つ!!」
ストーカーは、血まみれの状態で、カノンの下半身に抱きついた。
「何をするつもりですか? や、ヤメロ! コロス!!」
カノンが怒りを爆発させる前に、ストーカーはやってのけた。
「うおお、国頭、お前のいうとおりだ!! パンツは、スピードだああ!!」
ストーカーは、見事に、カノンのパンツを奪いとっていた!!!
そして。
その瞬間、死の天使は、会場に舞い降りたのである。
発 動 篇
「イ、イヤアアアアアアア!!」
ボボボーン!!
カノンが、ストーカーが手にしている自分のパンツをみて、大絶叫したとき、すさまじい大爆発が、カノンの足もとから巻きおこった。
「な、何だ、この力は!? う、うわあああああ!!」
爆発のすさまじい衝撃をモロにくらったストーカーは、自分が手にしたパンツがボロボロに焼け落ち、自分自身も炎に包まれるのを感じた。
爆発がしずまったとき、そこには、目をギラギラさせた異様な外観のカノンと、黒焦げになって倒れているストーカーの姿があった。
「あ、ああああ!! は、半端じゃねえ!! 強すぎる!! 撤退だ!!」
ストーカーは、激痛に顔を歪ませながら、最後の力を振り絞って、宙に浮かび、ランディ・ハーケンの身体が天井に開けた穴から外に退出していった。
(※カノンの覚醒技:アルティメットイヤボーン)
黒の十人衆の9人目はカノンに倒されてしまった! これで残るは1人! さあいよいよラスト!!
「……ユルセン。貴様ラ、ゼンイン、殺シテヤル!!」
残されたカノンは、声がしわがれたものに変わっていて、全く別人のようだった。
「な、何ですか、あれは!? まさか、これが設楽カノンの別人格であるという、死楽ガノン!? な、何てまがまがしいオーラなんでしょう。この私でさえ、震えがきそうです!! いや、きてます!!」
黒の十人衆のリーダーである鉄仮面は、自分の足がガクガクと震え出すのを、どうすることもできなかった。
「ストーカーの奴!! 黒の十人衆の任務を優先していれば、このような恐ろしいものを出現させずにすんだものを!!」
鉄仮面は、撤退していったストーカーを恨む気持ちでいっぱいになっていた。
「ミンナ、エロイ!! ダカラ、人類ハ、子孫ヲツクリ、今日マデ栄エテキタ!! ツマリ、コトゴトク、ミンナ、エロイ、ノダ!! エロイ!! ダカラ、許セナイ!! コロス、コロスコロス!!」
カノン、いや、ガノンは、ゆっくりと、足を踏みしめながら、鉄仮面に近づいていく。
「こ、殺すというんですか? この私を? く!! これほどまでの力……無理です!! ぐう!!」
鉄仮面は、ガノンの恐るべき力量を知覚した結果、心が折れてしまった。
「屈辱的ですが、ここは撤退します。苦しい言い訳かもしれませんが、私たちの標的はガノンではありません! あくまでも設楽カノン! この次、また、カノンであるあなたを殺しにきます!! では、さらば!!」
鉄仮面は、サイコキネシスを使って宙に浮くと、ストーカーと同じく、イベント会場の天井に開いている穴から外へ退出していった。
「おい、待て、これ、どうにかしてから行けよ!!」
西城陽(さいじょう・よう)は、ガノンを指さしながら、鉄仮面が抜けていった穴に向かって絶叫したが、もちろん聞こえることはなかった。
黒の十人衆の10人目は何と逃げてしまった! だが、本当の闘いはそれからだった!!
(く……また発動してしまったか。考えられうる最悪の事態のひとつだ。だが、僕には、もう力が……この、残された力は、僕自身がやったことの責任をとるために使わなければらない!!)
強化人間・海人は、死楽ガノンの登場を感知したものの、もはや、自分ではどうすることもできないと感じていた。
先ほど、会場に「展示」されていた強化人間たちの封印をいっせいに解除した海人には、いままた、残された力でやらなければならないことがあった。
(みんな、黒の十人衆は撤退した。ありがとう。そして、この後は勝手だ、といわれても、僕は、みんなを再び封印しなければならない!!)
海人は、会場内を闊歩する「機密」の強化人間たちに精神感応で呼びかけると、最後の力を発動させた。
(う、うわああああ!!)
一時的に解放された「機密」の者たちは、再び、海人の力で檻やカプセルに戻され、元の監禁された状態に戻っていく。
封印解除と、再封印。
どちらも、海人の身をすり減らす作業だった。
(おのれ、海人。覚えていろ。一度解放しておいて、また封印する、その、我らを愚弄した所業には断固として抗議する!! 我らは、これから、お前を敵視することになるだろう)
再封印された強化人間たちは、みな、精神感応で海人に次々に抗議した。
(抗議は覚悟のうえだ。今回の封印解除は、全て僕に責任がある)
海人は、重い口調でいった。
おそらく、コリマ校長は、こうした展開も念頭に置いて、今回の「展示」企画を決めたのだろう。
会場内の混乱を鎮めるための最後の手段として封印解除せざるをえなくなった海人は、ためこんでいた自分自身の力を使いきってしまい、消耗させられてしまった。
そしてさらに、結果として、学院内において海人を憎む存在をつくりだしてしまった。
消耗し、また、封印解除に責任を感じている海人は、自身がまた校長に監禁されることを受け入れるだろう。
これら全ての結果を、コリマ校長が見越していた可能性は、十分にあった。
(みんな……ごめん……僕は、もう……)
全ての力を使い果たした海人は、薄れゆく意識の中で、残された生徒たちの健闘を祈るほかなかったのである。
「あれ? また目がみえなくなっちゃったよ」
横島沙羅(よこしま・さら)は、ナタを持つ手を止めて、自分の顔を撫でてみた。
目のところに、再び、拘束具がつけられている。
海人が、横島の拘束も元に戻したのだった。
「うーん。まっ、みえない状態が続くと、それはそれで超能力のスキルがアップするみたいだし、これはこれでいいかな。気配で、全部わかるしね。ふふふ。沙羅は別に、海人を恨まないよ」
そういって、横島は、西城の手を探して、闇の中に手を伸ばした。
「シネ、シネ! 殲滅ダ!! 人類全テ全滅ダァ!! シャアアアアア!!」
絶叫しながら、死楽ガノンは会場内を疾走し始めた。
生徒たちは、ガノンの姿をみて、みな絶叫して、逃げ惑う。
「くっ、大変なことになったな。でも、俺は逃げない。KAORIは、最後まで俺が守るんだ!!」
月夜見望(つきよみ・のぞむ)は、KAORIの企画コーナーで、KAORIの端末をかばうように立って、叫んでいた。
(逃げて! 逃げて!)
ディスプレイに、KAORIからの定型文のメッセージが表示されていたが、月夜見は全く気にした素振りをみせない。
そこに。
「すみません。端末を使ってもいいでしょうか?」
緊迫した表情のオリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)が現れ、月夜見を真剣なまなざしでみつめた。
「あっ、いいぜ。でも、何をするんだ?」
月夜見はうなずいて、問うた。
「KAORIさんなら、わかるはずなんです! KAORIさんの力がないと、この事態は解決できません!!」
オリガは、端末を急いで操作し、KAORIの中に蓄積された膨大なデータから、あらたなウイルス駆除のワクチンを急ぎ作成するよう指示する。
「そうか。俺はメンテ専門で、オペレーターは、あくまでオリガだもんな」
月夜見は、オリガを信じてみようという気持ちになった。
「う、うわー!!」
ガノンの攻撃を浴びた生徒たちは、圧倒的な力の前になすすべもなく、吹き飛ばされ、踏みにじられ、炎上させられていた。
「まずい。こっちに近づいていますね。このままでは海人さんが!!」
月詠司(つくよみ・つかさ)は、気を失った海人の車椅子の周囲にはりついていたが、最悪の敵の襲来を前に、武者震いが止まらなかった。
「日頃からいろんな人たちにひどい目にあわされている私ですが、あんなものに襲われるのだけは御免です。ここは何とか、先手を打ちたいですね」
月詠は、パートナーの2人を意味ありげな目でみつめながらいう。
「ツカサさん、いろんな人たちって、誰のことですか?」
メルクーリオ・エクリプセ・チェイサ(めるくーりお・えくりぷせちぇいさ)は、月詠をまっすぐみつめていう。
「い、いえ、別に、あなたたちのことではありませんよ」
月詠は、慌てて否定しました。
「嫌ですね。そういう意味で聞いたんじゃないですよ」
そういって苦笑するメルクーリオの口調が、急に変わる。
「ハッ!! 私たち以外の誰のことだってんだよ!! 文句があるならはっきりいいな!!」
メルクーリオの中の別人格である、周囲から「Sメル」と呼ばれる存在が表に出てきたのだ。
「ひ、ひええ」
月詠は、リアルにおびえた。
「おい、パートナーにびびってる場合じゃないだろ。もっとヤバい存在がきてるんだろうが。早く手を打たないと、やばいぞ」
パラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)が、イライラして月詠を突き飛ばした。
「あ、ああーすみません!!」
よろめいて謝る月詠。
「もう、だから、謝ってる場合じゃないですよ。早くガノンの対策を考えないと!」
メルクーリオ(Sメルではない)は、口をとがらせていった。
「そ、そうですね。うーん!! あっ」
月詠は、死楽ガノンが自分を目指して突進してくるのに気づいて、絶句した。
「ウガアアアアアア!! オトコハ全員、オオカミナンジャー!! 去勢シナキャ、犯罪ヲ起コスンダヨ、ウラー!!」
ガノンは、ナタで月詠の下半身を狙っていた。
「え、ええっ!? な、何を! まさか!」
月詠の顔が蒼くなる。
絶対絶命のピンチだ。
どうする、ツカサ?
「あ、あおおおお、させません、それだけはー!!」
月詠の目がギラギラと光り、全身が真っ白なオーラに包まれる。
「覚醒しました!! 必殺、時間差スペシャル!!」
月詠のおびえきった感情が明瞭なイメージを描き、イメージが具現化する。
結果。
月詠は、一定時間自分を中心として一定範囲以内の生命体の体感時間をとめることに成功したのである!!
もちろん、月詠自身は自由に動けるのだー!!
「み、みんな止まっている! よし、日頃の復讐を……って、違うって! ガノンさんをどうにかしなきゃ。えい!!」
月詠は、死楽ガノンの身体を持ち上げると、えっちらおっちらしながら、自分たちから少し離れた場所に持っていった。
「そろそろ、技の効果が切れますね」
ガノンを、自分に対して背を向けさせた態勢で配置させると、月詠は、急いで海人の側に戻った。
ピーッ
時間差スペシャルの効果が切れた。
「オラァ! 出会う奴全てを叩き斬ってヤルウ!!」
ガノンは、月詠が目の前からいなくなったことに気づかず、そのまま突進して、どこかに行ってしまった。
「ああ、よかった。回避できました。はあ」
安堵の息をついて、月詠は、バタッと倒れた。
「おい? 大丈夫か?」
パラケルススは、心配になって月詠を介抱する。
覚醒技の使用により、体力を著しく消耗したようだった。
「ああ、まったく、このチキンが!! 時間をとめられたなら、ガノンを遠ざけるんじゃなくて、もっとガノン自身を封印できるような処置をとるべきだろうが!! 自分の危機だけ回避できればそれでいいってのかよ!! ああー!!」
メルクーリオの中のSメルが、もう我慢できないといった調子で荒れ狂っていた。
「カノンさん、何て姿に! かくなるうえは、この私が!!」
走る葬儀屋と化したカノン(ガノン)の前に、覚悟を決めた天貴彩羽(あまむち・あやは)が立ち塞がった。
「ウラアアアアドケェ、ぶっ殺されたいか、人類ィィィィ!!」
ガノンは絶叫し、ナタを天貴に向かって投げつける。
しゅるるるるる
天貴は、ものすごい勢いで飛んできたそのナタをガシッとつかむと、ガノンに向かって投げ返していた!!
「オ? 生意気に反撃しやがったか、ワリャー!!」
投げ返されたナタを再びつかんで、ガノンが吠える。
「これが、これが強化人間の運命が行き着く先なの? 私の姉も、いつか、こんな風に……イヤ! そんなの絶対イヤだわ!! コリマ校長は、強化人間を保護・育成して、正しい方向に導きたいといっていた。それも一理あるかもしれない。海人は校長には下心があると嫌っているけど。ああ、もう! 悩んでる場合じゃない!!」
天貴は胸のうちにこみあげる想いを首をうちふってしまいこむと、迫りくるガノンに正面から向き合った。
「来るなら、来なさい。相手になってやるわ!! 強化人間が暴走したなら、私が止めればいいのよ!! 無力でも!! 無力でも!! 人は!!」
しまいこんだはずの想いがまたあふれだし、天貴の中を満たす。
天貴の目がギラギラと光り、全身が真っ白なオーラに包まれた。
「覚醒、必殺、ニュートライズ!!」
「ウガァァァ!!」
飛びかかってきたガノンに向かって、天貴は跳躍した。
「カタクリズム!!」
自分の動きを封じようとするガノンのサイコキネシスを、天貴は吹き飛ばした。
「サンダークラップ!!」
天貴の放つ電撃が、ガノンを麻痺させ、動きを鈍らせた。
「ヒプノシス!!」
天貴はテレパシーでガノンの精神に直接ヒプノシスを叩き込み、強力な睡眠作用を誘発させた。
天貴の必殺技「ニュートライズ」とは、このように、いくつかの技を組み合わせて、ひとそろいの連続攻撃(コンボ)から成り立っているのである!!
「ガ、ガ、ガガガ?」
ガノンの動きが止まった。
着地し、直立したままよろめき、ついでゆっくりと倒れるガノン。
「やったかしら?」
天貴は、倒れたガノンに近づき、その顔を覗きこもうとする。
それが、油断だった。
「ウガアアアアアア!!!!」
天貴の接近に興奮したガノンが、天貴にサイコキネシスを使用し、その身体を思いきり床に叩きつけていた。
「あっ、痛い! つっ、身体が!!」
激痛がはしり、天貴は、尻もちをついたまま動けなくなってしまう。
「ガアア」
だが、ガノンはまだ身体が麻痺している様子だった。
「天貴さん、大丈夫ですか!」
オリガ・カラーシュニコフは、動けなくなった天貴の側に駆け寄った。
「オリガさん! やって!! いまなら、ガノンさんはまだ麻痺しているわ! 何かを仕掛けられるなら、いまが……チャンス……なの……」
そういって、天貴は気を失った。
「わかりましたわ。KAORIさんが急ピッチでつくってくれたこの特製ワクチンで!!」
オリガは、KAORIがウイルス駆除のためのデータだけではなく、超能力に関するあらゆるデータを分析し、特にガノンの暴走を鎮めることに効果があるとしてつくりだした、とっておきのワクチンが入ったUSBメモリを取り出した。
ある意味、完成した瞬間に学院の機密中の機密ともいえる存在になったそのワクチンを、オリガはもちろん、校長にも誰にも許可をとらずに、緊急使用するつもりだった。
「オリガ、でも、どうやって? それは、電子プログラムのはずでは? そんなんで、カノン、いや、ガノンを止められるのか?」
傷ついた身体にムチうって必死で走り、ガノンを追い駆けてきた平等院鳳凰堂レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)がいった。
レオの身体は、ガノンにめった刺しにされたのか、血まみれの状態だった。
それでも、レオは、ガノンを追ってきたのである。
愛ゆえに!
「レオさん、わたくしも、このイベントで何かに覚醒したような気がしますわ。ガノンさんは、私たち生徒の力で止めてみせます! KAORIさんのサポートがあれば、必ずできます!!」
オリガは、うずくまっているガノンに近づいた。
「ウ、ウガアアア!!」
オリガの接近に気づいたガノンは、吠えて、牙を剥いた。
オリガは、臆することなく、ガノンの前に仁王立ちになって、目を閉じた。
「KAORIさん、力を貸して! みんなを助けたい!!」
オリガの全身が、真っ白なオーラに覆われる。
オリガが目を開けると、ギラギラという光がほとばしった。
「はあああああああああああああああああああああああああああ!!」
オリガの学生服がひときわまばゆく光ったかと思うと、粒子になって砕け散り、一瞬だけ、オリガは全裸になった。
「あ、ああ!! こ、この眺め、やばい!!」
レオは、オリガの身体に思わずみとれてしまう。
しゅううううう
オリガの学生服だった粒子が再びオリガの身体にまとわりついたかと思うと、次の瞬間、オリガは、ナース服姿に変わっていた!!
「ああ、ナ、ナースだ!! うおーーー!!」
レオは、大興奮。
「仮想と現実をいまひとつに!! ナースプリンセスKAORIGA誕生!! うっふん、ですわ!!」
手にした巨大注射器を振りかざし、ポーズを決めて、レオに片目をつむってみせるオリガ。
「か、かわいい! って、色気ふりまいてどうすんだよ」
レオは、唖然とした。
「オ、オマエハ!? ナースダト、フザケルナ!! 治療ハイラン、オトコヲ去勢スレバソレデ十分ダ!!」
注射器の針を自分に向けたオリガに、ガノンは叫んだ。
「いえ、治療は必要ですわ。変態男にだけではありません。女王様入りすぎたお姉さんにも、必要なんですわ!!」
オリガは、サイコキネシスでガノンを立たせると、背後を向かせて、お尻を突き出させ、そこに……。
注射器の先端を接続させた!!
「ちょっと痛いけど、我慢して下さいね!!」
オリガ、いや、KAORIGAは、ワクチンプログラムの入ったUSBメモリを、注射器のUSBコネクタにセットした。
とぷん
注射器の中が、ピンク色の液体で満たされる。
「悪を殺して人を殺さず!! ナースプリンセスは、電子プログラムを薬物に変換し、相手の精神に直接作用させますわ!! レッツ、注入!」
ちゅううううううにゅううううう
KAORIGAは、巨大注射器のピストンを押して、ガノンの体内にピンク色の液体(にみえる何か)を注入する。
「ググググググググ! あ、あはああ!!」
ガノンは、喘いだ。
「この想い、奥の奥まで!!」
KAORIGAは、かわいらしく絶叫した。
「あ、ああ、すごい、これが、超能力の華! 仮想と現実、つまり夢と現実の結合!! ぐはー」
レオは、目の前の光景のものすごさに、鼻血を吹いて感動していた。
「お注射、完了! ですわ」
空になった注射器をガノンの身体から外して、ニッコリ微笑むKAORIGA。
勝利を確信するVサインが、虚空に突き出される。
「は、はああ……」
ついにガノンは倒れ、意識を失った。
しゅううううううう
同時に、KAORIGAのナーフ服と注射器も光に包まれ、粒子レベルに分解されていく。
オリガの身体が、再び全裸になる。
「これでもとの学生服姿に戻りますわ。あら?」
オリガは、戸惑った。
いつまで経っても、学生服が生成されない。
「も、もしかして、このまま!? きゃ、きゃああ!」
オリガは赤面して、その場から駆け出してしまう。
ナースプリンセスKAORIGAへの変身がとけた後は、もとの服装には戻れず、全裸になってしまう。
それが、オリガの覚醒技の弱点だった。
「は、恥ずかしい、恥ずかしいですわ!!」
全裸のまま、イベント会場を駆け抜けていくオリガ。
美しいプロポーションが、嫌でも男子の視線を集めてしまう。
「おっ、お前も全裸か! ジグ、仲間が増えたぜ」
同じく、全裸で会場内をパートナーと走っていたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が、オリガに気づいて、声をあげた。
『「い、いやあああ、ナガン、オリガさんの身体、美しすぎて、みんなに比較されるし本当に恥ずかしいですわ!! きゃああああ」』
ジグ ジャグ(じく・じゃぐ)は、オリガのプロポーションに嫉妬し、コンプレックスがさらに羞恥心をあおるために、気も狂わんばかりになって、全裸でどこまでも走り続ける。
「よし、3人で全裸マラソンしようぜ!! 警備員に捕まって、監禁されるまでな!!」
ナガンは気合をあげて、2人の全裸の美女を従えて、コリマに挑戦せん勢いで公然わいせつマラソンを続けるのだった。
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